インタビュー:KATUSI FROM EL SKUNK DI YAWDIE & EXTRAVAGANZA

岩手から全国へと届けられるリズムのメッセージ

インタビュー:KATUSI FROM EL SKUNK DI YAWDIE & EXTRAVAGANZA

(C) ARABAKI PROJECT

2人組というミニマムな編成によって、ダンスホール・レゲエとスパニッシュのムードも漂う躍動的なサウンドを作り上げる岩手の2人組、EL SKUNK DI YAWDIE。show441(ヴォーカル&ギター)と共にその一員を務めるKATUSI(カホン&ドラム)が多くの仲間たちと共に一枚のアルバムを作り上げた。LIKKLE MAI、ジャーゲジョージ(RUB-A-DUB MARKET)、EKD、櫻井響、青谷明日香らが参加したそのアルバム『Rhythm Messenger』には、被災地に対するKATUSIの思いが詰まっている。


― 生まれも岩手なんですか?

KATUSI:はい、そうです。岩手の花巻です。

― 音楽活動を始めたのはおいくつのころから?

KATUSI:中学校2年生のときにドラムを始めたのが最初です。そのころはX JAPANのYOSHIKIが大好きで、ギターやボーカルに興味を持つ前にドラムに目がいっちゃったんです。自宅の周りは畑ばっかりなので、ドラムを買ってもらう前は部屋からスティックを投げる練習ばかりしてましたよ(笑)。その後、洋楽と邦楽のカバー・バンドをやってました。高校生になってからハードロックからグランジへ趣味が変わっていったんですけど、ハタチぐらいのころにブラック・ミュージックと出会ってから広がっていったんです。高校を卒業してから東京の音楽の専門学校に行ったんですけど、同期のヤツでファンキーなドラムを叩いてるヤツがいて、そいつから影響を受けたり、友達からルーツとか初期のブラック・アイド・ピーズみたいな生音のヒップホップを教えてもらったり。

― 東京にはどれぐらいいたんですか。

KATUSI:25までいたので、6年ぐらいですね。

― カホンを叩き出したのは?
註:カホン/ペルーを発祥とする箱形の打楽器。

KATUSI:ちょうど25ぐらい、岩手に戻ってからです。岩手だとドラムセットだと演奏できない場所も多かったんですよ。カホンは持ち運びも楽そうだし、ちょっと買ってみようと。完全独学で始めて、最初はドラムのパターンをカホンに置き換える形でやってました。

― EL SKUNK DI YAWDIEが始まったのは?

KATUSI:2006年には始めてたと思います。カホンを始めてしばらく経ったころで。相方のショウさん(show441)とは十代のころからお互いの存在は知ってたんですけど、20台半ばで初めて会って、ギターとカホンでセッションしてみたら面白かったんですね。それでEL SKUNKを始めることになった。もともとあった曲をジプシー・スウィングっぽくアレンジしてみたり、そうやって曲を増やしていったんです。

― ショウさんとは“こういう音楽をやろう”という話はしてない?

KATUSI:うん、してないですね。サブライムだったりBLANKEY JET CITYだったり、共通する音楽があったんで。ショウさんはジャンゴ・ラインハルトが好きで、僕はビッグバンド・スウィングが好きで、ショウさんはマイルス・デイヴィスが好きで、僕はウェス・モンゴメリーが好きで……というぐらいの違いなんですよね。イメージを話し合ってからジャムを始めるんです。それから曲ができていく。

― 面白いですね、趣味が近いというか。

KATUSI:そうですね。2人だからこそどんどんアイデアを出していける。ここで違うメンバーが入ってくると意見がまとまらなくなる瞬間も出てくると思うんですけど、弦楽器と打楽器ひとつずつなんで、結構メチャクチャなこともできるんです。

― レコード会社スタッフ:彼に音楽的影響を与えたのは、同じ岩手出身の(藤井)悟さんの存在も大きいんですよ。彼はもともとラテンとか第三世界の音楽には触れてなかったんですけど、悟さんがそういうものを教えてくれたみたいで。
註:藤井悟/80年代半ばから東京のアンダーグラウンド・クラブ・シーンを牽引し続けているDJ。現在はDJクルー、CARIBBEAN DANDYの一員としても活動中。

KATUSI:そうですね。悟さんは盛岡の隣町の出身なんですけど、盛岡でイベントをやってる方がいて、その方が悟さんと僕らを引き合わせてくれたんです。それで東京にも連れていってくれたし、その縁でファースト・アルバムをリリースすることにもなって。本当に感謝してます。

― そういったラテンとか第三世界の音楽のどこに魅力を感じるんですか?

KATUSI:なんでしょうね……EL SKUNKでライヴを始めたころ、お客さんに〈マヌ・チャオとか好きなんですか?〉って聞かれたことがあったんですけど、そのときはマヌの音をほとんど聴いたことがなくて。でも、キチンとマヌ・チャオを聴いてみたら「こういう融合の仕方もあるんだ!」って驚いたんですね。その後にクラッシュを聴くと「ジョー・ストラマーがいろんな音は好きだったんだな」と腑に落ちるところもありましたね。

― で、今回のアルバム『Rhythm Messenger』についてお聞きしたいんですが、このアルバムには震災以降の状況がすごく反映されてますよね。そもそも震災の当日はどちらにいらっしゃったんですか?

KATUSI:僕、普段は古着屋の倉庫で働いてるんですけど、実店舗がリニュアル・オープンするというので僕も立ち会ってたんですよ。そんななかで地震がきて……すぐに停電になってしまったので情報も何も分からなくて。幸い直接的な被害はなかったんですけど、ガソリンがなくて生活できなかったり、そういう不便はありましたね。

― 震災直後から被災地支援の活動もされてますよね。

KATUSI:そうですね。職場に倉庫があるんで、他の地方の人たちが送ってくれた物資を一度僕のところに送ってもらおうと。そこで溜めておいて、順次被災地に直接届けていくということをしてます。僕が行ってるのは宮古とか釜石、大船渡とか(岩手)県内が多いですね。……それぞれできることをやっていくしかないと思うんです。宮城は都心部から海までがすごく近いんですけど、岩手は峠を越えないといけないんで結構遠い。だから、震災直後は岩手の都心から救援に行こうとしても、みんな行けなかったんです。ガソリンが満足に入れられないから、行ったはいいけど帰ってこれなくなるんじゃないかっていう不安もあって。今は被災された方々も仮設住宅に入られているんで、前よりも(生活は)安定してると思いますけど、仕事や今後の住居なんかはまったく解決してないですよね。震災前にローンを組んで家を買っていたとしても若ければもう一度買おうという気になるかもしれませんけど、定年間近の方だと厳しい。あと、田舎の場合は個人事業主の方が多いんで、全国チェーンのお店なんかに比べると資本がないですよね。だから、震災後に復活したお店は全国チェーンとか大手のところばかりで。

― そういうなかでKATUSIさんの意識も変わりました?

KATUSI:震災以降になって同級生の友人たちが急にライヴを観にきてくれるようになったんですけど、みんなのなかで“地元意識”みたいなものが芽生えてきた気がするんですよ。震災で家族を亡くした友達もいますし、僕のなかでもそういう“地元意識”は高まってますね。被災地支援にしても長い目で一緒にやっていければ……とは思ってますね。同じ地元の人間として。

― 今回の『Rhythm Messenger』なんですが、このアルバム・タイトルはどこから?

KATUSI:横浜に『Rhythm』っていう洋服屋さんがあるんですけど、そのお店は震災直後からいろんな物資を送ってくれたんです。それで、カホンの“Rhythm”とお店の『Rhythm』を重ね合わせてこのタイトルにしました。物資を届けるように音楽を届けられたらいいなと思って。

― そもそも今回のアルバムがEL SKUNK DI YAWDIEではなく、KATUSI FROM EL SKUNK DI YAWDIE & EXTRAVAGANZAでの作品になったのはどういった理由からなんですか。

KATUSI:僕のカホンはArcoっていう石巻の工房が作ってるもので、Arcoにはすごくお世話になってるんですよ。震災後しばらく経ってから新しいカホンを作っていただいたんですけど、それを使って何か恩返しをしたいと思って、それで今回はEL SKUNKじゃなく全曲カホンを使ってセッション的に作ろうと。Arcoの店舗もやはり津波の被害を受けましたし。

― 曲はどうやって作っていったんですか。

KATUSI:まず「ジャーゲジョージさんとEKDのパチャンガがあったら格好いいだろうな」とイメージを膨らませていくんですよ。インストの場合も同じで、そうやって人選と曲のイメージを作りながら、あとはセッションで固めていった感じです。

― セッションの楽しげな雰囲気があってイイですよね。

KATUSI:青谷明日香ちゃんの曲以外は全部セッションで作ったものですね。“シチュー”は震災以降に青谷明日香ちゃんが作った曲で、彼女がすでに自分の作品として発表してるんですけど、これはリズムのアレンジを変えて作ってみました。MAIさんの“Likkle Struggle”も今回違うアレンジでやらせていただいて。

― MAIさんのご出身も岩手ですよね。

KATUSI:そうです、MAIさんは宮古ですよね。MAIさんはご自身でLOVE BOAT募金を立ち上げて被災地支援をされてますよね。震災後、岩手のイヴェントでご一緒させていただいたこともあって、「お互いに頑張っていきましょう」という話をしました。今回のアルバムにはいろんな意味が込められていて、LIKKLE MAIさんだけじゃなく青谷明日香ちゃん、KOHDAIくん(B:RIDGE style)など東北出身の人も参加してくれてますし、僕がいま関わってるミュージシャンやアーティストを各地の人たちに紹介したいという思いもあって。東京の人たちは「KATSUSHIくんが関わってる今の音楽シーンが分かるね」って言ってくれるんですけど、地方の人たちのなかにはこういうシーンを知らない人も多いんで、このアルバムで知ってほしいと思ってるんです。
註:LOVE BOAT募金/宮古市の漁民たちに小型ボート(通称サッパ船)を送るための募金。


KATUSI from EL SKUNK DI YAWDIE & EXTRAVAGANZA「TRAILER1」

KATUSI from EL SKUNK DI YAWDIE & EXTRAVAGANZA「TRAILER2」


インタビュー 大石始
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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