2010年09月17日 (金) 掲載
1990年代からオーガニックな肌触りのエレクトロニックミュージックを作り続けてきたプロデューサー/DJ、Calm。OrganLanguage、K.F、Japanese Synchro Systemなどの別プロジェクトでも作品制作を行い、海外からも高い評価を得ている彼の音楽世界の奥には、ハウスやテクノなどのダンスミュージック、ジャズやソウル、ヒップホップ、レゲエ/ダブなど、ありとあらゆる音楽が横たわっている。熱狂的なミュージックラヴァーであり、DJとしても勢力的な活動を展開する彼の新作『Calm』について、約1時間に亘ってたっぷりと語ってもらった。
先日行われたメタモルフォーゼに出演されてましたが、渋谷のPlugでCalmさんが主催しているパーティー、bound for everywhereが終わってから寝ないで会場入りしたそうですね。
Calm:そうですね。行けるかなと思ったんですけど、意外と辛かった(笑)。車内で寝ようと思ってたんですけど、ワクワクして寝られなくて。
そういうハードスケジュールの時もあるんですか?
Calm:たまにはありますね。地方を回るTonesというDJツアーでは機材も持ち込んでるんで、準備と片付けの時間もかかるんです。そのツアーは結構大変ですね。最近のDJだとデータだけ持っていく人もいると思うんですけど、僕の場合は基本レコードなんで、3、4箱ぐらい必要になってくるし。
今回の新作『Calm』はCalm名義での作品となりましたが、その他のプロジェクトに対して、Calm名義はどのような位置づけなんですか?
Calm:自分の出発点でありメインプロジェクトですね。大きな幹がCalmで、ひとつひとつの大きな枝がOrganLanguageでありK.Fであり。他の名義はその時にやりたいことに特化してるんで、K.Fではダンスミュージックをやったりしてますけど、Calm名義のほうがもっとナチュラル。ただ、今までのアルバムは自分なりに広い層に向けたものを作ろうとしたんですけど、今回は一切の縛りなし、原点に立ち返るつもりで作りました。一晩のDJで僕がかける曲のいろんなエッセンスを集約するとこういうアルバムになるんじゃないかと。
だからこそ、アルバムタイトルもシンプルに『Calm』と。
Calm:今回は一番素のものを出そうと思って。それと、今まではレーベルのディレクターがいろいろやってくれたんですけど、今回は全部ひとりでやってみようと思ったんですね。それは音作りに関しても言えることで、今まではゲストミュージシャンに演奏してもらったりもしてたんですけど、今回はCalmという名前で一番初めに作品を作った時と同様、完全にひとりで作ったんです。そういう総合的な部分で自分そのものだろうと思って、だったらタイトルも『Calm』と一言で表したほうがいいと思ったんです。
なんでひとりでやろうと?
Calm:もう13年ぐらい音楽をやってるんですけど、把握しきれてないところがいっぱいあるんですよ。例えば流通やお金の面とか。そういうところを勉強してみたいと思ったし、それを学ぶことで次のステップに繋がればと思って。
全体のカラーとしてはどういうものをイメージしてたんですか?
Calm:もともとは夏前に出したかったんですよ。ただ、カラッとした夏じゃなくて、“夏だけど涼しい”感じというか。でも、いろいろ(制作が)遅れた結果、アルバムのカラーも少し変わってきて。あとね、自分はバアちゃん子だったんですけど、その祖母が7月に亡くなったんです。それと、ツアーに出てる時にセバくん(NUJABES)の訃報を聞いて、彼への追悼の思いを込めた曲を作りたいと思って……そういうなかでアルバムの形が少しずつ変わっていった。人間には必ず終わりがあることを2人の死によってものすごく実感させられた。そういう部分が明るい曲にも入ってるかもしれないし、ディープな曲には色濃く反映されてると思います。
かといって、アルバムのトーンは重いものではないですよね。すごく希望に溢れていて、包み込むような優しさがあります。
Calm:僕はその時の気持ちに嘘のないように音楽を作りたいと思ってるんです。死とか人生について哲学的に考えてるわけじゃないんですよ。ちょっとだけ触れただけであって、その気持ちを哲学的に分析して音楽で表現してるわけじゃない。ただ、そういう気持ちは嘘のないよう表現したいと思ってて。あと、自分の役割として、こういう音楽への入門編というか、間口を広げるようなことができればと思ってます。
こういう音楽とは?
Calm:日本だとオリコンチャートがあって、J-Popとかロックが入ってきてますけど、それ以外にもいい音楽はたくさんある。そういうヒットチャートには入ってこないようないい音楽の入り口になれればって。そのなかにはドロドロしたものもあるだろうし、ノイズ的なものもあるかもしれない。でも、そういうものにはいきなり辿り着けないと思うんですよ。僕の音楽を通じて、いつかフリージャズとかノイズまで辿り着く人がいれば。そういうことは常に考えてますね。
このアルバムにも、TVからは流れてこないようなさまざまな音楽のエッセンスが横たわってますよね。
Calm:そうですね。普通の人が町に住んでるとすれば、少し外に出るとディズニーランドみたいなものがあって、そこにはさまざまなアトラクションがある。やっぱりね、いきなりそういうものすごいアトラクションには乗れないですよ(笑)。僕はそういうアトラクションへの入り口になれれば嬉しいんです。
ジャケットも素敵ですね。
Calm:今回も、いつもやってもらってるFJDの藤田二郎さんにお願いしました。今回はどうしてもトレーシングペーパーを使いたかったんですよ。下の絵が透けるような感じでね。それで海の絵を描いてもらおうと藤田さんに話をしたら、“(音から)宇宙も見えますね”と言ってきてくれて。今回は極力シンプルで、伝わる人には伝わるものにしたかったんですよ。そのために何回も色校を出してもらったし、紙質にもこだわりました。
実際に手に取ってみると、トレーシングペーパーとインナーのツルツルした紙の手触りが違ってて、結構おもしろい仕上がりですよね。
Calm:そうですね。ジャケットが良ければ、CDRにコピーして済まそうとする人も減ると思うんですよ。それと、音楽ってやっぱり文化なんで、パーティーにしてもアルバムにしても音のクオリティーにはこだわってます。今回、ウチのウェブサイト限定でハイビッドマスター版のDVD-Rを販売するんですよ。通常のCDは16bitの44.1khzというフォーマットで書き込まれてるんですけど、マスタリングする際は24bit48khzで作った音源を24bit88.2khzで取り込んでるんですね。DVD-Rはその音源を収録してます。
マスタリング・スタジオ・クオリティーの音質をそのまま自宅で楽しめるわけですね。
Calm:そうです。家に帰って制作した音源を聴いていると“スタジオで聴いたのとはやっぱり違うな”と思うこともあって、なるべくマスターに近いものを届けられればと思ってて。アナログは衰退の一歩ですけど、完全になくなることはないと思うんですよ。自分もアナログは大好きですし、CDやMP3だと満足できないんです。小さい音でMP3を聴いてもBGM以下にしかならないと思うし、そういう人たちにいい音でいい音楽を聴く楽しみを改めて伝えられれば、今の状況も変わってくると思うんですよ。
今後の予定を教えてください。
Calm:サックスの加藤(雄一郎)くんとやってるfield.echoっていうプロジェクトでも作品を作りたいと思ってるんですけど、とりあえず次に作るものは決まってて、今回のアルバムに入ってる曲のロングバージョンを含むノンビートのものに取りかかってます。それはもう少しマニアックなものなので、1000枚限定とかで作ろうかと。ほぼノンビートのアルバムは初の試みなんですよ。
DJ/音源制作とさらに忙しくなりそうですね。
Calm:そうですね。人の死に触れたことで、自分の人生に限りがあることも再認識したし、今後はさらに全力で作っていきたいと思ってます。とにかく、出す。そのうち、何かの拍子で名盤ができるかもしれないし(笑)。音楽制作を始めた頃のワクワク感がまだまだあるし、やりたいアイデアもたくさんあるんですよ。
『Calm』Calm
2835円(税込み)
amazon.co.jpで購入
※10月と12月には一部収録曲がアナログ版でもリリース。ハイビッドマスター版のDVD-Rは10月末リリース予定。
東京ワンマンライブ
日程:2010年10月30日(土)
場所:渋谷Plug
出演:Calm - Moonage Electric Quartet (Music) × Air Lab (Sound) × Overheads (Lighting)
時間:18時00分オープン /19時00分から22時00分まで
料金:3000円 完全限定200枚(当日別途1ドリンク)
チケット購入方法ほか詳しい情報は、Music Conceptionスケジュールページ (www.music-conception.com/calm/schedule/) へ。
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