オープンリールアンサンブル × 川上 俊インタビュー

音とデザインの“間”が融合した“透明のアルバム”の制作秘話

オープンリールアンサンブル × 川上 俊インタビュー

旧式の磁気録音再生機・オープンリールデッキを楽器として駆使し、弦楽器やコンピュータと融合させることで音楽を奏でるオープンリールアンサンブル(Open Reel Ensemble)。声や音を録音しオープンリールテープを人力で回転させたり、機械自体をデジタルで操作させるなど、視覚や感覚までをも刺激するライブパフォーマンスは世界で喝采を集める。独創的な音世界を追求する彼らが結成3年を経て、遂にファーストアルバムをリリース。9月8日には渋谷WWWでの、リリースツアーファイナルが控えている。アルバムのデザインを手がけたのは、書家の宮村弦とのグラフィックアートが記憶に新しい、アートディレクター・デザイナーの川上俊。互いの感覚や意識が初対面で合致したという、ジャンルを越えたクリエイションに迫った。

―オープンリールアンサンブルと川上さんの出会いのきっかけを教えてください。

川上:以前、アートワークを担当した『BOYCOTT RHYTHM MACHINE VERSUS LIVE』というイベントに彼らが出演していたんですが。その時は会わずじまいで。僕は、和田くんが1人で活動をしていた頃から知っていました。最初は、文化メディア芸術祭のエキシビジョンだったかな。 今回、「オープンリールアンサンブルのジャケットなんですけど…知ってますか?」という電話がかかってきて、「知ってるにきまってるじゃないですか。やりますよ!」と応えました。

和田:僕らの中でデザインを誰にお願いするかって話をしていて、デザインの方向性や要素で大事な物は?って考えた時に、“間”とか“緊張感”ってキーワードが出てきました。デザイナーの方々の名前がいろいろあがりましたが、ウェブや作品を見た中で、ひときわ緊張感を感じたのが川上さんでした。

川上:最初に緊張感とか間とか言う人、いないんで。「来たなー!」と思いましたね(笑)。

―初めてのアルバム制作だったわけですが。川上さんに実際に会う前に、メンバーの中でどのようなアイデアが出ていたのでしょうか。

和田:ジャケットのデザインを考える上で、最初からテクスチャーみたいな話は出ていましたね。凄くシンプルなんだけど、そこに素材感であったり物質感みたいなものを投影させるようなデザインだったり…。

川上:オープンリールってテープなので。オープンリールアンサンブルは、“無音”を“音”としてきちんと認識して楽曲を作っているんですよね。例えばテープを回している時って、あの“サーッ”ていう音が鳴ってしまうじゃないですか。それが、和田くんの言うテクスチャーなのかな、と。僕自身デザインをする時に、紙の質感や触り心地を気にしてデザインをすることが多くて。その部分が感覚として近いかなと思いながらデザインしました。

和田:僕らがオープンリールを使っているのも、一つの固有の質感を求めているというのがあって。“こんにちは”という声をそのまま空気で聞くのと、テープに録音して聞くのとでは質感が変わって。デジタルに記録されたものとアナログに記録されたものでも記録媒体によって質感は変わるんですよね。

川上:まさにそれが、デザインでいうトレーシングペーパーなのか画用紙なのか、っていう紙を選んでいる感覚に等しいので。

―初顔合わせにして、相性ばっちりですね。

川上:和田くんに音の説明をしてもらった時に、“間を意識して音楽を作っている”というのが印象に残ったんです。“音”と“音の無いタイミング”を大事にしているんですよ、って和田くんがすごく熱く語っていたのを覚えてて。余白と間は僕もデザインをする上で大事にしているので。好きなようにやって大丈夫だなと思いました。

吉田:それで初会議にして、川上さんからデザインに関するまさかの速攻パス返しがきて。ほとんどデザインの方針が固まってしまったんです。

川上:話を聞いてその場の直感で浮かんだアイデアが良かったりするんですよね。彼らが僕の『WOW Visual Design』という本のデザインが好きだと聞いた時に、文字を抜き出す感じにしよう、と。紙ジャケは予算の問題もあってできないからプラスチックケースで、って話で。サンプルを見ていたら透明なものを作りたいなってちょっと思いついたんです。ケースの中身を全部外して、これでよくない?と最初に言ったのでほぼ決まりました。

和田:僕はもう、超エキサイティングな瞬間でした! 僕らのアイデアを聞いて持ち帰って時間をかけてキャッチボールをするのかと思いきや。川上さんは一通り話を聞いて 「じゃあさぁ〜、CDジャケットの中に紙が入ってると、それだけで世界が狭まるじゃないですか。要らないですよ〜。ポイッ!」みたいな感じで、 歌詞カードや裏面ジャケットの紙を剥がしていくわけですよ。 で、残ったのはプラッチックの透明なケースとCD盤。 「オープンリールだし。CD盤も逆の方が良くない?」とかって盤を裏返して。 僕は「キター!」って思いましたね(笑)。 僕は超笑顔なんですけど。そんな川上さんの姿を見て、レコード会社の人達がサーッとひいていくのを感じました(笑)。

川上:和田くんは、楽曲に熱い想いがあると聞いていて、元々は蛇腹仕様の大規模なデザインを考えていたみたいなんですよ。だけど、パンフレットに情熱は入りきらないから、ライナーノーツはウェブに載せようと提案して。透明でもいけるでしょう、と(笑)。聴く人に“オープンリールアンサンブルの透明のアルバム”という記憶の残り方をして欲しかったんです。実際、ルックスもオープンリールテープの印象に似てるしね(笑)。

吉田:(笑)プラスチックアルバムの完成です。 “ケースがあってのジャケット”というのが面白いですよね。例えばiTunesストアでこのジャケットの写真をどうやってウェブで掲載するかっていったら、ケースごとなんですよ(笑)。ケースも含めてジャケットプロダクト。メディア“そのもの”がデザイン。CDが全盛期を経て、今、違う意味を持ったかのような。オープンリールも一時代を経て、今、録音機としてではなく楽器として僕らの中で価値を持っているっていうオープンリールアンサンブルコンセプトにも共通するんですよね。

川上によるデザインで完成したオープンリールアンサンブルの“透明のアルバム”



―気になる内容ですが。初アルバムに寄せる思いをお聞かせください。

和田:僕らってパフォーマンスやライブありきだと思うんですよ。オープンリールが並んでいるというビジュアルやその空間が面白いというのもあるので。“オープンリールアンサンブルのCD=オープンリールそのものの特徴が伝わるかどうか心配”って思うじゃないですか。だから今回は挑戦でした。音でオープンリールを楽しむということを意識して。ライブをとっぱらって、磁気録音機・オープンリールの歴史から分岐した後の空想世界を描きました。つまりパラレルワールドです。

吉田:アルバムに収録されている曲の中で、日本初のテープレコーダーを開発したソニーの創業者・井深大さんの肉声を使用したものがあるんですけど。過去に録音された声をもう一度引っぱってきて、現実の世界で僕たちが別の物語を作り上げた、っていうことなんです。時代や歴史軸を越えて誰かの肉声が2011年に違う意味付けをされたっていうことです。

和田:このアルバムを聴くとオープンリールアンサンブルは、昔を踏まえて前にパラレル的にアドバンスしてるバンドなんだっていうのが、分かると思います。(笑)

CD購入者限定のウェブで展開されている本アルバムのライナーノーツは必見。全てメンバーの手描きという画面に溢れんばかりのイラストレーション。オープンリールの歴史や未来に魅せられた彼らのアーティストとしての想いが、情熱を真空パックにしたかのように表現されている。



・ライブ『Open Reel Ensemble 1st Album Release Tour Final! "Set the Brand New Tapes!"
日時:2012年9月8日
会場:渋谷 WWW

オープンリールアンサンブル公式サイト
川上 俊 公式サイト

インタビュー 水上万里子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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