インタビュー:ディアオ・イーナン

2014年ベルリン国際映画祭金熊賞を受賞した異形のサスペンス映画『薄氷の殺人』

©2014 Jiangsu Omnijoi Movie Co., Ltd. / Boneyard Entertainment China (BEC) Ltd. (Hong Kong). All rights reserved.
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高い評価を受けた『薄氷の殺人』の監督ディアオ・イーナンが、香港での作品公開に先立ち、製作にあたってのインスピレーションや裏話、作品が描く闇、中国における映画市場などについてタイムアウト香港に語ってくれた。

2月に行われた『2014年ベルリン国際映画祭』で、最新作『薄氷の殺人』が金熊賞を受賞するまで、45歳のディアオ・イーナンは映画業界においてほぼ無名の存在だった。それ以前の監督作、2003年の『制服』と2007年の『夜行列車』は、各国の映画祭で好評を得ていたものの、メインストリームには登場していなかったからだ。 皮肉屋の刑事、ファムファタール的な女、そして陰惨な殺人が描かれるフィルムノワール的なこの映画は、中国国内で公開されて称賛を浴び、資金援助を獲得して世界的な公開に漕ぎつけた。 信じがたいかもしれないが、資金を提供したのはラッパーの50セントとNBAのスター、カーメロ・アンソニーなのである。

今回の作品で、中国での生活の不条理を描きたかったということですが、映画は切断された遺体の一部を捉えたショットから始まります。どのようにこのストーリーのインスピレーションを得たのかお話し頂けますか?
ディアオ:ここ最近、完璧なフィクションを書くということはほぼ不可能だと考えていて。誰しも心の奥に眠っている、自分自身の人生における経験や自分が聞いた話などを、作品に反映させるものだと思います。実際に、クリエイティブなことをしている人たちは、現実に起こっている物事の影響を少なからず受けていると思います。そうは言っても、中国では毎日あまりにも多くの不条理な出来事が起こっていて、日常的にこれらのニュースを見聞きすることによって、切断された遺体が何でもないことのように考えられるのではないかと思いました。

監督のデビュー作、『制服』にもフィルムノワールの要素が多少含まれていますが、なぜ今作には10年間もの時を費やしたのでしょうか?
ディアオ:フィルムノワールは大好きな要素です。人間の中にある闇の部分やファムファタールといった考えに大変興味があり、まず脚本をまとめること自体に8年もかかってしまいました。

なぜ映画の舞台を小さな町にしたのですか?
ディアオ:アジアの都市というのは、変化が多すぎます。今作に出てくる時代遅れの町のような場所でこそ、未解決のまま何年も忘れ去られている殺人事件というものが起こり得ると考えることができるし、この映画に適していると思ったからです。

この作品の撮影手法で面白いと思ったのは、スリラーでありながら、カメラが俳優の演技に寄らずにワイドショットで捉えたシーンがあるところです。理論上、それによって「緊張感」を演出することになると思うのですが。それに、見事な長回しのシーンもありましたね。
ディアオ:今作のスタイルは『マルタの鷹』、『第三の男』、『黒い罠』といった、大好きな映画に大きく影響を受けています。今回、望むようなショットを撮影するために、三脚を使うことが多かったです。そして、そのシーンをどのような雰囲気にしなくてはいけないということにはとらわれず、直感に従って撮ることを自分自身に言い聞かせていました。あと、各登場人物のスチール写真を撮ったのは良かったと思います。


監督の作品はどれも、登場人物たちを本当に信用していいのかを、観客が自らに問いかけることを求めているように思います。 


ディアオ:そうですね。私の映画はすべて、信頼の欠如を描いていて、他人の領域に踏み込んで何かを暴こうとするのです。例えば『薄氷の殺人』では、警察が小さな町で殺人事件の捜査をします。登場人物たちは、毎回、真実を見つけたと思いながらそれが真実ではなかったことに気づくのです。これによって映画に感情が加わると思うのです。

この映画の中国語のタイトルは、訳すと『昼間の花火』といった意味で、英語のタイトル『黒炭と薄氷』とはずいぶん違いますが…。
ディアオ:どちらのタイトルも相反するものを表しています。石炭は黒く、氷は白です。石炭と氷はどちらも犯罪現場の一部を成すものですが、対照を表すものでもあり、このタイトルは単にかっこいいからつけたというものではありません。 一方で、『昼間の花火』も矛盾を表しています。

今作は、栄えある金熊賞を受賞した中国本土の映画として4作目となりました。過去に受賞した3作品は、いずれも中国での興行成績が一向に振るいませんでしたが、あなたの映画は成功しています。なぜだと思いますか?
ディアオ:本土の観客が成長しているのだと思います。 映画館はそれでもヒット作しか上映したがりませんが、芸術映画の需要は高まっています。とは言っても、私の映画は極めて商業的な芸術映画、あるいは芸術を気取った商業映画だと思っています。

原文はこちら

『薄氷の殺人』
2015年 1月 10日(土)より、新宿武蔵野館、ヒューマントラストシネマ有楽町ほか全国順次公開
監督・脚本:ディアオ・イーナン
製作:ヴィヴィアン・チュイ、ワン・チュアン
出演:リャオ・ファン、グイ・ルンメイ、ワン・シュエビン、ワン・ジンチュン、ユー・アイレイ
配給:ブロードメディア・スタジオ
©2014 Jiangsu Omnijoi Movie Co., Ltd. / Boneyard Entertainment China (BEC) Ltd. (Hong Kong). All rights reserved.

『薄氷の殺人』公式サイトはこちら

Interview by Darren Jung
Translated by 平塚 真里
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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