インタビュー:村松崇継

次代の映画音楽家が挑むスタジオジブリ最新作『思い出のマーニー』

インタビュー:村松崇継

昨年発表された、宮崎駿監督の長編作品引退宣言はスタジオジブリのファンのみならず、多くの人々にとっても驚きを与えるものだったはずだ。そしてこの夏、米林宏昌監督の長編2作品目となるスタジオジブリの最新作『思い出のマーニー』が公開された。米林宏昌監督を筆頭に、いわば若い世代のクリエイター達が多く関わったこの作品で音楽を担当したのが、米林監督と同世代である30代中盤の映画音楽家、村松崇継だ。北海道の美しい湿地帯を舞台に、ヒロイン・杏奈の揺れ動く心情に共鳴するように奏でられる繊細な音世界は、どのようにして生まれたのだろうか。

村松さんにとって、この『思い出のマーニー』がアニメーション映画としては初めての音楽担当であり、スタジオジブリ作品への初参加となります。今回、音楽を担当されるようになったきっかけは何かあったのでしょうか?

村松崇継(以下、村松):2年位前に、今作のプロデューサーである西村さんから突然SNSで友達申請を頂いて。『お仕事をお願いしたいので一度お会いしましょう』というメッセージを頂き、待ち合わせの東小金井駅の改札に米林監督と西村プロデューサーがいらっしゃって。そこから、『今回の映画の音楽を村松さんに』というお話をいただきました。

なるほど。では、そんな形での出会いを経て、今回音楽の担当に決定された時の率直なお気持ちはいかがでしたか?

村松:僕は中学校の頃、色んな映画が好きで。その頃に映画音楽家になろうと思ったんですけど『となりのトトロ』を始め、スタジオジブリの作品も見ていく中で久石譲さんにすごく憧れがあって。大学も同じ大学に通っていました。その頃から日本の中で目指す人というのは久石さんだったので、今回ジブリ作品の音楽を担当するということは本当に夢が叶ったというか、そんな感慨がありますね。

これまで多くの映画やドラマ等の音楽を手掛けられてきた村松さんですが、実写映画とアニメーションとでは制作において何か違いを感じられましたか?

村松:実写だと、だいたい撮っている画が出来た状態でこちらに頂けるのですが、今回は画とともに進行していきました。

では実際にジブリのスタジオにも通われての作業、という感じだったのでしょうか?

村松:そうですね、スタジオには結構通って。2週間に1回は通っていました。(東小金井にある)スタジオジブリの会社内って、とても不思議な空間で。まるで誰かのお宅に訪れているような感じがして、会社っぽくないんです。アットホームで、みんなが家族みたいな感じでしたね。そんな中、スタッフの方々はこちらのインスピレーションが湧くような素晴らしい作業をされていて…。それを見るのもまた楽しくてという感じでした。

米林監督とは、映画内の音楽についてどのようなディスカッションをされたのでしょうか?

村松:まず杏奈やマーニーの性格、彼女達はいつもこういう事を考えているなどといった人物像が見えるメモを頂きまして。そこから杏奈の曲やマーニーの曲を作っていきました。徐々に絵が出来ていく中で劇中でのタイム合わせなど、ワンシーンごと細かくディスカッションをしていきましたね。

『思い出のマーニー』全国東宝系公開中 (C)2014 GNDHDDTK


村松さんから見て、監督の音楽に対するこだわりを感じたところはありましたか?

村松:劇中の前半は杏奈が心を閉ざしている状態なので、その感じを音楽で表現する必要があって。音楽自体も、あまり語ってはいけないというか。普通、映画音楽ってシーンをどれだけ盛り上げるかという作業が多いのですが、監督は『とにかく盛り上げなくていい、杏奈の心情にただただ淡々と寄り添ってほしい』と。この映画は、杏奈の心の変化と音楽がすごくリンクしているんです。杏奈がだんだん元気が出てくるとともに、音楽も楽器の編成が増えて表情豊かになっていく。まさに、杏奈の心と共に音楽も動いていくということを監督から伝えられました。

監督も村松さんも、杏奈の気持ちを音楽で表現する事に対して特に気を配られたのですね。

村松:そうですね。監督は、ものすごく感性が敏感かつ繊細な方で。ちょっとした音の変化や、アフレコの位置とか、すごくこまめに演出していきます。それを理屈でなく、感性で感じられる方なんです。まず最初に『村松さんの感性で作ってみてください』っていう発注の仕方があって。自分もどちらかというと感性で生きている人間なのですごく似ている部分があり、楽しい作業でした。

2週間に1度アトリエに通われるなど、今までのご自身の音楽作りにはあまりない経験もされた今回の音楽制作でしたが、この作品を通じ何か得たと感じることはありましたか?

村松:『思い出のマーニー』の制作は、ワンシーンの画に1ヶ月ぐらいかかるんですよ。何回も何回も書き直して。みんな、夢を追っているんですよね。僕も今まで何作も映画音楽をやってきて、だんだん変な要領の良さを身につけていた自分がいた中、これだけ時間をかけてチャレンジし、良いものを追求していく人達とこの1年間一緒にやってきて、とことん良いものを追求する大切さに気づかされました。勉強になりました。

今作は、村松さんを始めプロデューサーの西村さんや米林監督といった、幼少時にジブリ映画を見て育った世代が多く制作に関わった作品であり、昨年の宮崎駿監督の長編引退宣言を経て初めて発表されるスタジオジブリ作品でもあります。この作品に対しての思いは。

『思い出のマーニー』全国東宝系公開中 (C)2014 GNDHDDTK


村松:西村さんともよくお話するんですが、勿論、高畑監督や宮崎監督は偉大だし、そこで作り上げられた作品で今もファンがたくさん着いてきていると思うんです。けれども、新たな風もジブリは取り入れていかなくてはいけないと西村さんもおっしゃっていて。ジブリの作品性の伝統は染み付いている。だけど新たな風を入れて、新たな監督、スタッフと進化していかなければいけない。時代の変化とともに、子ども達もどんどん変化しているので、そこに対応したジブリ作品を作っていくことが必要なのではないか。その為には村松さんの力が必要なんだっていう話をして頂いて。『風立ちぬ』、『かぐや姫の物語』と、久石さんの音楽が続いた後だったので、実はものすごくプレッシャーもあったんですが、そういう話を聞いて今の時代の子ども達に響くような、新たな風をジブリに入れていけたらという気持ちもあって今回参加させて頂きました。

村松崇継が『思い出のマーニー』楽曲などを披露するイベント情報

By aokinoko
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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