Portraits by David Bailey, © Time Out
2014年05月16日 (金) 掲載
午前10時、ロンドン北部のリハーサルスタジオにて、デーモン・アルバーンは必死に頑張っている。スタジアムを沸き立たせるフロントマンで、同世代の誇りでもある彼が、廊下に立たされたいたずらっ子のようにぎこちなくたたずみ、私が近づくと、訳の分からないことをしゃべる人形のようだった。唯一シャキッとしている部分はおしゃれなスーツと血走った目を覆うサングラス。「今日は沢山迷惑をかけることになりそうだよ」と早々に予想した。二日酔いで衰弱しているロックスターを目にすることは珍しくない。しかしなによりも驚かされたのが、彼の正直さ。英国カルチャーの象徴として、20年間守られてきたアルバーンが、ようやく自由に話し始めるのだ。
彼はいつもこうではなかった。20年前にリリースされたブラーの名曲『パークライフ』により、ビッグスターとなったアルバーン。しかし彼の生意気で、ガリ勉だけどやんちゃな人柄や、ブリットポップ期に勃発したブラー対オアシスのバトルにより、90年代終わり頃には多くの人が彼に背を向けた。それ以来、もっと謙虚で真面目なミュージシャンとして、ゴリラズで成功を収め、世界に通じるアーティストとなり、彼の卓越したソングライティングが、ジャンル問わず発揮されることを証明した。2012年ロンドンオリンピックの閉会記念コンサート『ベスト・オブ・ ブリティッシュ』のヘッドライナーを務めたブラーが、ハイドパークに集まった超満員の観客を沸かせた瞬間、まるで国民的英雄というステータスが、このフロントマンに与えられたかのようだった。それにも関わらず、今日の彼は今にも泣き出しそうな弱気なヒーロー。二日酔いで涙もろくなっているのだろうか。「ああ、そのとおりだよ」と卵のシミがついたシャツを着た彼はこちらを見て答えた。「酔うと少し感情的になるかもしれないね」
46歳になった彼がリリースした初のソロアルバム『エブリデイ・ロボッツ』。ロンドンの東北部、レイトンストーンで過ごした子ども時代から、浮気心を持つ苦悩まで、すべてをさらけ出している。そのアルバムについて聞くのに、ベストの状態ではなさそうだったが、彼は快くさまざまな質問に答えてくれた。それは長年沈黙を守り続けたことによる反動かもしれない。もしくは昨晩の酒宴の余波かもしれない。いずれにしろ、国民的英雄がパンツ姿で家の中をウロウロ歩きまわっていることを知れば、誰もが元気になるだろう。
初となるソロアルバムを、このタイミングでリリースしたきっかけは何ですか?
アルバーン:正直いうと、ロンドンのXLレコーディングスのプロデューサー兼オーナー、リチャード・ラッセルに頼まれたからだよ。メラコリックで内省的なアルバムになることは最初から決まっていた。どちらかというと、とても自己中心的なプロジェクトさ!
あなたは自己中心的ですか? これだけ人々が愛されていたら、それも無理はないですね。
アルバーン:複雑なんだよね、実に複雑。わざとしている訳じゃなくて、ちゃんとした必然性があって行動しているつもり。魅力的であることを自覚している人は少ないと思う。自覚している人もいれば、していない人もいる。このことはアルバムの中でも触れているんだ。
『エブリデイ・ロボッツ』は、インターネットの拡散的な影響力からインスパイアされているようですが、あなたはSNSを活用していないと聞きました。正確にはどこからにアイデアを集めたのですか?
アルバーン:娘がスナップチャット(Snapchat)している時、送信するメッセージごとに、それに合った表情も送っていたんだ。これって異常じゃない? べつにネット社会を怖がっているわけじゃないんだ。むしろとても興味ある。ただ、誰かと直接会って話す方が好きなんだ。
10代の娘さんとの生活はどうですか?
アルバーン:家では別人だよ。まず僕の立ち位置が違う。いい意味であまり信用されていないだ。パンツ姿で歩きまわっているのを見て、娘はとても嫌がっているよ。どこにでもいる普通のパパさ。
今日は二日酔いのパパですね。
アルバーン:学校が休みに入ると、どうしても僕までホリデー気分になっちゃうんだ。
ほかにどんなことで娘さんを困らせたことがありますか?
アルバーン:彼女をもっともイラつかせてしまうのが、テレビを見ながらあご髭を引き抜こうとする仕草。本当にイライラするみたいなんだ。あと鼻水が出てても鼻をかまない。口を開けたまま食べるし、みんなと同じように悪い癖がたくさんあるんだ。変な声を出したり、キャラクターのモノマネもする。うちの子供たちはみんなそれを見て育ってきたよ。普段あまり人に見せない一面だね。今もしそのモノマネを披露したら、上の子たちは激怒すると思うよ。
世界で最も多民族であるロンドンに住んでいますが、デーヴィッド・キャメロンが「多文化主義は失敗に終わった」と発言した時、どう感じましたか?
アルバーン:ロンドンの歴史が絶え間なく変化している。果てしなく広がるタペストリーなんだ。でも、もともとは労働党の主張だから、彼がそういうのも仕方がない。僕はその発言、馬鹿げている思うけどね。でも正直言って、彼が何を言おうとあまり関心がない。
過去にヘロインを常用していたこともアルバムで触れていますが、今そのことを公にしようと思ったきっかけは何ですか?
アルバーン:どうしても言いたかったんだ。僕にとっては本当に深い闇で、15年前の人生に多大な影響を与えた。でも今となっては昔話さ。
デリケートな質問ですみません。
アルバーン:僕はデリケートな人間じゃないから大丈夫さ。ただ曖昧な表現をすることによって、僕の発言が間違った風に解釈されたり、誇張されても困るんだ。だからこういう場合、2つの選択肢しかない。多くを語らず、守りに入り、扱いにくい嫌なやつという昔のイメージに戻るか、何も話さないかのどちらかだね。とてもフラストレーションが溜まるよ…君なら分かってくれるかな?
人々によっては、理解するのが難しいかもしれません。ヘロインを使用すること自体が大きな過ちに感じるでしょう。
アルバーン:でも僕は完全に間違いだったとは思っていないよ。僕にとっては成長に不可欠な要素だったんだ。ヘロインを求めて、街中を探しまわってた訳ではない。 家に帰宅した時、机の上に用意されていたんだ。そういう状況で、僕はどうすることもできなかった。でも一度試すとすぐに気分がよくなり、とてもクリエイティブになれたんだ。
ほかに打ち明けても大丈夫な秘密はありますか?
アルバーン:実は今、操り人形に夢中なんだ。ジャカルタにいた時、僕そっくりな人形を作ってもらって、それを今回のアルバムに収録されている曲『ホロウ・ポンズ』のミュージックビデオに使用する予定だった。この曲は僕の成長を年代別に歌った曲。だから、本当は僕に似た人形が10体と、なぜかバラク・オバマの人形が1体ある。いつかそれらを使って、子供たちのために人形劇をやるかもしれないね。『パンチとジュディー』とか手影絵とか、とにかく人形が好きなんだ。もし髪が全部抜け落ちたら、人形劇場を始めるっていつも言っているよ。
髪が抜けることを気にしていますか?
アルバーン:いや、実際はあまり気にしてない。若くて自意識過剰だったころは気にしてたけどね。今はむしろそれが待ち遠しいよ。そうなったらこんなインタビュー、すぐに辞めてやる!
感情的になっていますか?
アルバーン:僕の半生ほとんど感情的だったよ。でもありがたいことに、それを回避できる仕事が僕にはある。
原文へ(Time Out London)
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