Photo by Jason Frank Rothenberg
2012年08月02日 (木) 掲載
インディーミュージックシーンという大きなフィールドにいきなり飛び込んでいくバンドも入れば、様子を見ながら活動を続けるバンドもいる。イェール大学を中退した、デイヴ・ロングストレス率いるダーティー・プロジェクターズはアルバム5枚をリリースし、ようやくそこにたどり着いた。R&Bのリズムがまばゆいばかりに散りばめられ、西アフリカのギターサウンドや複雑なボーカルが絡んでくる2009年リリースのアルバム『ビッテ・オルカ(Bitte Orca)』が、彼らが今までリリースした中でも最も注目を集めた一枚だろう。それは、ブラック・フラッグのアルバム『Damaged』に基づいて作られた『Rise Above』、グリッチ・オーケストラ的で、ドン・ヘンリーや石油、過去のメキシコについて歌った『The Getty Address』などの、バンドにとって冒険とも言えるアルバムをリリースした後のことだった。
アルバムを引っさげてのツアーと、ビヨークと共にクジラをテーマにしたEPのレコーディングを終えたのち、デイヴ・ロングストレスはアップステート・ニューヨークにある家にこもり、曲を書き出した。そこで書き溜めた曲は先日リリースされたばかりのアルバム『Swing Lo Magellan』に収録されることとなった。完成した40あまりのデモトラックの中から選りすぐり、完成したアルバムは、今までの一風変わったサウンドは健在ながらも、過去の作品と比べ、理解しやすいものとなった。「古い言い方をすれば中身、つまりぱっと見の華々しさよりも歌詞とかメロディーが重要なんだ」とデイヴは語る。
デイヴ・ロングストレスに話を聞いたのは、世界を股にかけた過酷なスケジュールのアルバムプロモーションが終わろうとしていた5月だった。彼がインタビューが終わるまでサングラスを外さなかったのも理解出来る。もしかするとそれが素の彼なのかもしれない。インタビュアー泣かせだという評判は覆ったが、デヴィッド・フォスター・ウォレス著『Infinite Jest』の中の、外界から断絶され、もがき苦しむ主人公の少年がインタビューの最中に見え隠れしていたように思えた。
― これまでインタビューは何本くらい受けられているのですか?
デイヴ・ロングストレス:今日はみんな、僕が力尽きて、途方に暮れているかのような扱いをするよ。
― こうやって部屋に一日中座ってインタビューを受け続けるのはよく考えるとかなり奇妙な体験でしょうね。
デイヴ:うん、すごく非現実的。6日前位から始まったんだけど、ロンドンで2日、ベルリンとパリで1日ずつ、移動日を挟んで、昨日からここ。1日8~9時間、それぞれのインタビューが30分。だから…1日で16、掛ける5…5掛ける16…5…50…、ん、ちょっと待てよ(笑)。自分の考えを明確にするっていう意味ではいいことなんだけど、やり続けてると、ある時点から頭が機能しなくなるんだよね。
― 最初に何を言おうとしていたかが分からなくなることもあります?
デイヴ:言葉は慎重に選ぶように心がけてる。まるで、台詞を唱えるようだよ。でも、常に言葉を換えて、新しい表現で自分の考えを伝えるようとは思ってる。そうはいいつつ、初めに頭に浮かんだことが一番リアルで簡潔なんだとは思うけどさ。「僕は一体何が言いたいんだ?」って思うまで、頭の中でMad Libs(アメリカで有名な言葉を駆使して遊ぶゲーム)をやってるようなもんなんだ。このインタビューではそれはやらないようにするよ。
― 自身の発言が実際に誤った編集をされることなく、そのまま活字になっていても、どのようにしてその発言に辿り着いたか覚えがないといった経験は?
デイヴ:あるある(笑)。実際、間違って出ちゃったのもあるし…相当数のインタビューをこなすことによって、慣れるのを願うのみだよ。それで、自分の出す雰囲気とか意図が初めて活きて来ると思う。
― 『Swing Lo Magellan』では明るい曲調と歌詞の間に、ある種の緊張感が存在するのが聴いて取れます。『About to Die』がいい例ですね。歌詞の上で前作よりもダークなものになると意識はされましたか?
デイヴ:今回は、意識しすぎることなく、直感的な曲の作り方ができた。頭の中が作曲モードだったから、できた曲が価値のある曲なのか、駄目な曲なのかとか、いちいち考えることはしなかった。自分の中にあるアイデアを取り出して、それが終わったら、次のアイデアに進むっていう感じで。そんな感じだったから、あまり深く考え込まずに済んで最高だったよ。以前よりもダークな感情や考えが集まったものになったなって思ったね。どういう意図で、明るい曲調って君が言ったか分かる気がする。結局は書き手の土台にある気質になんだよね。哲学的な傾向と言うか…でもそう、いい緊張感だね。僕はそういうふうには見なかったけど。そのままにしておいただけ。
― 先日フェスでフレーミング・リップスを観たのですが、締めの曲はやはり『Do You Realize?』でした。ダークな歌詞ながらも、気分が高揚するという意味に於いては同じようなことですよね。
デイヴ:うん、誰しもいつか死ぬと言うのは事実だからね。死を悲しいものとして受け入れるのではなく、楽しく生き生きしたものとして受け入れた方がいいんじゃないかと思う。
― 今回のアルバムを作るにあたって、かなりの曲数を書いたようですが、以前にもそのような手法を取られていたのですか?
デイヴ:いや、常に以前とは違うやり方で作りたいと思ってる。『Rise Above』、『Getty Address』、『Mount Wittenberg Orca』はそれ自体で一つの世界を表現してるから、話を完結させ、曲を完成させればそれで目標は達成されてたんだ。今回のアルバムは制限がなかったから、想像を無限に広げられた。それ以上いい環境は望めないだろ。今まで関わってきた音楽的な出来事の中で一番楽しかった。そういう場にいられる事自体がワクワクしたよ。今回のアルバム向けに曲を書くことによって、作り手としてだけじゃなく、人として色々な経験をしたと思う。充実した期間だったよ。
― アルバム用に曲を選ぶ際、どの曲を入れたらよいかメンバーにも聞かれるのですか?
デイヴ:うん、必ず。選曲に関してはメンバー全員にかなり頼ってる。例えば、「この曲とこの曲を並べたらいいよね」とか。あとは実際にプレイしたときに聴こえがいい曲。そうすると曲が自然とまとまりだして、一つになっていく。だからっていって、必ずしもそれが全てベストソングっていう訳じゃないんだけど。全曲いいと思うし、アルバムに入ってなくてもすごく出来のいい曲もある。そういう曲をライブでやるのが楽しみだし、いつかリリースもしたいな。
― 『Bitte Orca』に比べると、今作は全体的に緩やかな感じに仕上がっているように思えますが、そう思われますか?
デイヴ:思う。僕にとって小さな瞬間の集大成なんだ。どういう風に曲を書いて、レコーディングしたかが反映されてる。今回の場合はかなりカジュアルで、絶え間のない感じ。最近の音楽って本当にきれいに処理されてると思う、すごくデジタルで非の打ち所がない。今みたいにテクノロジーがまだあまり一般的じゃなかった頃、何かを完璧に成し遂げることは驚きに値するものだったんじゃないかな。でも、(アンディ)ウォーホルやパンクなどの熟練さを必要としないスタイルもあるし、プロ・ツールスみたいなソフトが出てきたお陰でアイデアを形にするのがものすごく容易くなった。それを少しぼかすのもおもしろいね。ただ、分からなくなるくらいにぼかすんじゃないよ…そうだな、「ぼかす」って表現がよくないかもしれないけど。アイデアを曖昧したい訳じゃなくて、その瞬間瞬間の力を借りて、アイデアを際立たせたいんだ。今まで本当にこうやってきた。完璧じゃないけど、これが僕らのやり方なんだ。
― ヴォーカル収録中のスタジオでの会話のやりとりが突然入ってくる『Unto Caesar』、いいですね。
デイヴ:そうだね、このアルバムは全体を通してこんな感じ。スネアのビートを散りばめたり、ボーカルが粗かったり。ボーカルのテイクは、収録時にきちんと歌うこと自体が初めてだったものが、殆どで、『Impregnable Question』に関しては、収録時に完全にはじめて歌ったんだ。
― その曲をライブで演奏する予定は?それともアルバム向けの曲なのでしょうか?
デイヴ:そうだな、すごくパーソナルな曲なんだ…。僕が信頼を置く人たちがみんなアルバムに入れた方がいいって言ってくれたから入れたんだ。ライブでやるとは思うけど…クレイジーだろうね。
― 2011年のSpin誌でのインタビューで、『Maybe That Was It』はザ・ストロークスの『This Is It』への返答だとおっしゃっていましたが…。
デイヴ:分かって欲しいのは、目的は華やかなコンセプトではなくて、純粋に曲を作って、そこに思いを込めるってこと。だから、曲について語る必要はないと思う。Spinのインタビューはジョークで構成されたようなもので、誰も真に受けるなんて思ってなかったよ。
― 皆、真に受けてたと思いますよ。
デイヴ:うん、そうだろうね。だから曲は説明して、語るものではなくて、聞き手が再生して聴くものだってことを大半のインタビューで言ってきてる。簡単に嚙み砕くことはできないんだ。
― 全く想像すらしていなかった曲の解釈をされたことはありますか?
デイヴ:あるよ。でも曲って法に則って作られてる訳じゃないから、解釈は自由にしてもらっていいと思う。法律も自由に解釈できるけど、どれが正しいかを決定する法廷というものが存在する。曲は違う、曲を作る権利が与えられる。だからこそ、曲についてのジョークを飛ばす権利もあると思うんだよ。(少し間を置いて)まぁ、実際そんなことを言うこと自体バカげてるかもしれないな。
― 『The Gun Has No Trigger』は複雑な構成の曲で、オールドスクールなソウルのグルーヴから予想外のメロディー展開をみせますね。元々メロディーがあったのでしょうか、それとも後から手を加えたのでしょうか?
デイヴ:そうそう、それで永遠に微調整をし続けるんだろ…?まさか。微調整し倒されたものは、そういう音にしか聴こえない。昔はやってたけど、今はもうしないな。最初に出たアイデアが一番いいもんだよ。そのアイデアにたどり着くまで少し時間がかかるし、それを完結させるのにはそれなりの集中力を要するけど。いつも完璧な表現を出来る訳じゃないし、なかなかたどり着けないし、ぎこちなく聴こえることもある。でもこの曲のメロディーは即書けた。歌詞をつけるのにはかなり苦戦したけど。このメロディーが何を訴えかけてて、何についてだかがなかなか思い浮かばなかったんだ。
― では曲作りは大体その順序で?
デイヴ:そうだね、大抵の場合はこんな感じ。決まり事は設けてないけど、フレッシュでオープンに保つ為に遊ぶようにはしてるけど。このやり方じゃなかったら、大体ビートから始めるか、その辺を歩いてるときに思い浮かんだメロディーに合うコードを探すって感じかな。歌詞から始めることは滅多にない。
― アップステート・ニューヨークにある家でレコーディングされた際、長期にわたったツアー後の息抜きの必要性は感じましたか?
デイヴ:まさしく。ニューヨーク(市)はリラックス出来る場所じゃないね。友達と遊んだり、街の刺激を受けるには持ってこいだけど、自分と向き合って時間をかけて曲作りするには不向きだね。ネットに上がってる音楽って、どうやって作ったんだろう?とか、どこで作ったんだろう?が重要なんだろうけど、そんなのおもしろくない。レコーディングした家はいい感じで、長いツアーの後だったからよかったけど、(このアルバム自体は)「アップステート・ニューヨークのロマンス」とは結びつかないね。
― そのように結びつけられたくはない、と?
デイヴ:いや、人がどう解釈しようと構わないし、僕にとってはそれは関係のないこと。
― ライブではあなたに合わせてオーディエンスは歌ったりしますか?
デイヴ:いつもだよ。
― どのような感じになるのでしょう?
デイヴ:うーん、サッカーのアンセムみたいにはならないけど、みんな音楽を体現してくれて、すごいよ。想像出来ないだろ、音程上げたり下げたりさ。
― 踊ったりも?
デイヴ:そうだね、曲によってだけど。あとは僕らがいい仕事をしてるかどうかにもよるけどね。でも、うん、みんな踊るね。最高だよ。
・ダーティー・プロジェクターズは、2012年10月9日(火)、渋谷 O-EASTでライブを行う予定。
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