映画『ブリングリング』レビュー

ソフィア・コッポラが描く、究極の青春映画

映画『ブリングリング』レビュー

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『ブリングリング』タイムアウトレビュー

それにしてもずいぶん腕の悪い強盗たちだ。セキュリティカメラには映り、フェンスを乗り越える姿もかなり無様。ドアにぶつかっては大声をあげるし、もう少し静かに侵入できないのだろうか。これではどんな番犬だって目を覚ましてしまう。だが驚く事に彼らは、家中から両手いっぱいに鞄や油絵をあつめてまんまと脱出成功するのだ。パンクロックデュオ、スレイベルズのクラウン・オン・ザ・グラウンドのエレキギターがかき鳴らされる中、アフターパーティが幕開けする。

『ブリングリング』は一見浅いが、刹那的な快楽を描いた、魅力あふれるソフィア・コッポラの最新作だ。パリス・ヒルトンやミーガン・フォックスら一連のセレブたちのハリウッド邸宅を狙ったティーン強盗団の事件を題材にしており、2010年のヴァニティフェア誌に寄稿されたナンシー・ホー・セールスによる記事「ルブタンを履いた容疑者たち」を原作にコッポラが脚本を書き起こした。とはいえ、コッポラは実在したティーン強盗団たちを擁護するわけでもなく、かといって単純なモンスター、はたまたおばかで退屈しただけのありふれた上流中階級の子供たちとしても描いていない。これはともすれば挑発的な視点といえるだろう。前作『マリー・アントワネット』や『サムウェア』で裕福な家庭に生まれた子供たちの描写に定評がある(同時に批判の対象ともなった)コッポラならではの視点だ。新作ではさらに、セレブたちの羨望ライフスタイルを深く掘り下げており、スクリーン上での大騒ぎの中にコッポラの成熟が見えてとれる。

物語はこう展開する。同性愛であることをカミングアウトできず友達もいないマーク(イズラエル・ブルサール)は、カリフォルニア州カラバサスにある更生学校施設、インディアンヒルズ高校に転入する。やがて、ファッション狂でゴシップ好きのレベッカ(ケイティ・チャン)と仲良くなり、彼女を喜ばせるためにグーグルアースを使ってハリウッドセレブたちの邸宅探しをはじめる。最初の興奮と成功(もちろん分厚い現金の束にも)に味をしめた彼らは、フェイスブックに侵入の模様をアップし、モデル志望のニッキー(エマ・ワトソン)やサム(タイッサ・ファーミガ)らとまたたく間に窃盗団を結成する。

物語が進むにつれ、観客、とくに私の年齢層の観客たちは、いつか訪れる終盤を不安な気持ちで待つだろう。だが、ブリングリングは、永遠に落ちつづける破壊的なフリーフォールのようで、最後に待ち受ける結末ですらどこか遠い世界でおきている絵空事のよう。コッポラは登場人物たちをすべて同等に扱い、あえて主人公を作らなかった。にもかかわらず、役者たちは台詞を交わすごとに生き生きと輝き出す。これは彼女の最も純粋な監督作品だと呼べるだろう。ブリンガーたちは1000万円のポルシェにも怖じ気づくことはない。レベッカはポルシェの鍵を無邪気に見せびらかし「出がけに持ってきちゃった」とはしゃぐ。あたかも侵入先が彼女自身の家だと信じているかのように。

もちろん教訓は存在する。『40歳からの家族ケーカク』のレスリー・マン演じる母親は、子供たちの素行を知りもせず、耳障りで甲高声で騒ぐだけの新時代のママで、他の親たちも同様に頼りない。パリス・ヒルトンはドアマットの下に鍵を隠すという知識も得られる。だがもっと大事なことはこの作品が、撮影監督ハリス・サヴィデスによる最後の作品になったということだ。ハリスの最後のカメラワークは盗まれた高級品たちを美しく映し出した。クリケットと夜空を旋回するヘリコプターのシーンは観賞後も観客の脳裏に焼き付くだろう。若き強盗たちが切望したのは、ゴシップニュース、TMZの世界。その世界が偽物だったと気づくとき、すでに夢は現実に変わってしまっているのだ。

原文へ(Time Out New York)


『ブリングリング』 (原題:The Bling Ring)

監督・脚本:ソフィア・コッポラ
出演:エマ・ワトソン、ケイティ・チャン、クレア・ジュリアン、イズラエル・ブルサール、タイッサ・ファーミガ、レスリー・マン 他
R15+
ウェブ:http://blingring.jp/
第26回 東京国際映画祭で上映
2013年12月14日(土)渋谷シネクイント ほか 全国順次ロードショー


テキスト ジョシュア・ロスコフ
翻訳 佐藤環
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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