提供:松竹株式会社
2010年06月10日 (木) 掲載
渋谷・コクーン歌舞伎の十一弾目にあたる『佐倉義民傳』が、渋谷のBunkamura シアターコクーンで上演中だ。初日前日の6月2日(水)にはメディアを入れた通し稽古(ゲネプロ)が行われたが、ステージ上に設置された“泥のプール”で泥まみれになりながら、農民たちが重い年貢と領主の悪政にもがき苦しんでいたその時、鳩山前総理が辞意を表明した。封建社会の中でもがき苦しむ民衆の“怨念”と、政権交代を果たしたものの、志半ばで倒れた鳩山前政権という組み合わせには、何かしらの因縁を感じざるをえない。
さて、この『佐倉義民傳』という物語の始まりは、17世紀半ばの日本の政治・経済情勢にある。舞台は、現在の千葉県佐倉。366年前に実際に起きた歴史的事件を元に作られた『東山桜荘子』が1851年、江戸中村座で初演。当時の庶民たちから喝采をあびた。
佐倉の農民たちは、米を作ってもその全てを年貢としてお上に差し出さねばならず、ヒエやアワなどの雑穀を水で薄めた粥しか食べられない状態だった。貧しさのあまり、娘を身売りさせるものや、一家心中が後を絶たなかった。この窮状を「何とかしなければ」と立ち上がったのが、中村勘三郎演じる名主の木内宗吾だ。名主とは、村の代表者であると同時に、年貢の取り立てなど、領主の末端行政をつかさどる立場の者。要するに“お上”と“民衆”の板ばさみのポジションとなる。木内宗吾は、村民の窮状を領主に訴えたものの、出世ばかりに気がいっている領主は、「ちょうど昇進したところで何かとカネがかかる」と言って取り合わない。万策尽きた木内宗吾は、将軍家綱に直訴する。江戸の封建制度において将軍に直接訴え出ることは「不敬極まりない」ということで磔刑に処せられる天下の大罪。今回の『佐倉義民傳』、直訴した後の宗吾の運命は、これまで上演されてきたもの、また史実とも異なるところがあるが、個人によって解釈が分かれるので立ち入らないでおこう。だが、史実としては、木内宗吾は家族もろとも磔刑に処せられている。
毎回、斬新な演出で歌舞伎という伝統芸能の枠を打ち破り、観客を驚かせてくれるコクーン歌舞伎だが、今回も歌舞伎に対して私たちが抱いている既成概念をくつがえしてくれる。演出家の串田和美が「百姓の生活を表現するため」にこだわったという、大量の泥の上で演じられているため、平場席には“泥よけ”のビニールシートが用意されている。また、シンガーソングライターがギターを奏で、ライブで歌うストーリーテリングの中心にあるのは“ラップ”だ。和太鼓は和のリズムではなく、ヒップ・ホップのビートを刻み、歌舞伎役者たちと、うち数名が初舞台だという百姓役の若者たちが、「走れ!Sougo!ひたはShire!思いShire!」と韻を踏み(ライム)、ラップを披露する。
そのような舞台が「歌舞伎なのかどうか?」という声が上がるかもしれないが、“宗吾の妻”と“領主”という正反対の二役を一人で演じ切る中村扇雀は、「既成のものをつき崩してこそ、歌舞伎本来の姿に近いのではないか」と言う。「僕らに言わせるとこれが歌舞伎なんです。これぞ“かぶいている”という舞台です。他の人がやらないようなことをやり、突飛なことをやる人たちが、“かぶく”人たちの集団だから。賛否両論出ると思う。大嫌いな人も出るかもしれないし、逆に何度も観たいという人も出ることでしょう。いとうせいこうさんのラップに沖縄の基地問題が出てきたりと、非常に政治的なメッセージ性があるように思われるかもしれません。あくまで娯楽なので、特に問題提起をしたい、ということではないけれど、でも400年前に歌舞伎ができたころは、幕府に対してたまっていた民衆の鬱積を題材に演目を作っていたわけですから、実は僕らが今やっているものは、むしろ“歌舞伎の原点”に立ち返っている可能性があるんです。演じていて一番感じるのは、“民衆の声は常に死なない、生きつづける”ということ。封建社会を演じる、というよりは、封建社会の中でたくましく生きた民衆の生命力の証を伝えている、という気持ちです」
反復されるライムと太鼓のビートに乗って、366年前の百姓たちが劇場の殻を破り、渋谷のストリートへと飛び出してゆく。
日程:2010年6月27日(日)まで
場所:シアターコクーン(地図など詳細はこちら)
演出・美術:串田和美
出演:中村勘三郎、中村扇雀、中村橋之助、坂東 彌十郎、中村七之助、片岡亀蔵、笹野高史
料金(税込):1等平場席 1万3500円、1等椅子席 1万3500円、2等席 9000円、3等席 5000円、立見A 3500円、立見B 2500円(立見A完売後販売)
当日券は各回開演の60分前よりシアターコクーン当日券売り場にて発売。
前売券はBunkamuraチケットセンターほかにて販売中。
公演日前日まで予約可能。
Bunkamuraチケットセンター 03-3477-9999(10時00分から17時30分)
チケットホン松竹 0570-000-489(10時00分から18時00分)
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