“言葉”のない“国境”を越えた舞台

タイと日本のフィジカルシアターが共同制作したステージ

“言葉”のない“国境”を越えた舞台

B-floor

池袋にある東京芸術劇場は、ミュージカルと小劇場シーンの間を往来するような若手の演劇集団や、身体表現に重点をおいたパフォーマンスを紹介することに熱心だ。特に、若手アーティストを発掘するための『芸劇eyes』では、ストレートプレイも紹介されるが、新しい潮流であるフィジカルシアターを取り上げて行こうという姿勢がみられる。8月には、6月の『芸劇eyes』で紹介され、話題となった日本のフィジカルシアター『快快[faifai]』が、タイで活躍するカンパニーと国際共同制作した作品が上演される。

フィジカルシアターの魅力は、なんといっても“言葉”がいらないことだ。言葉を用いれば伝えられることも多くなるが、逆に想像力に制約がかけられてしまい、“国境”という壁をつくってしまうこともある。文化的背景が異なる演劇集団のコラボレーションはよくあるが、言葉の制約から自由となった、フィジカルシアターの舞台における国際共同制作の場が設けられたことは、大きな意味のあることだ。その成果は、2010年8月13日(金)から15日(日)にかけて、東京芸術劇場で披露される。東京芸術劇場プロデュース・日タイ共同制作の『Spicy, Sour, and Sweet(スパイシーサワーアンドスウィート)』の公演だ。

タイの劇団『B-Floor』と、日本の劇団『快快[faifai]』がコラボレーション。この企画は、東京芸術劇場の芸術監督である野田秀樹の発案によるものだ。野田秀樹が関わる演劇作品は、もともと舞台を縦横無尽に走り回り、激しく、早いスピードで体を動かす特徴があった。そのような野田秀樹の舞台は、もしかすると常にフィジカルアーツだったのかもしれない。日本ではまだまだ耳なじみのうすいフィジカルシアターの紹介に熱心に取り組む野田秀樹。その野田がタイと日本で注目した劇団を、同じ舞台で観ることができる、しかも共同制作というのだから、これは見逃せない。

そもそも、野田がタイ・バンコクを訪れた際に、コンテンポラリー・ダンス、マイム、仮面劇、器械体操、武道などを組み合わせた『B-Floor』の舞台を観て、日本のフィジカルシアターとして注目される『快快[faifai]』とコラボレーションをしてみてはどうだろうと思いついたことが、今回の上演のきっかけとなった。どちらの劇団も、国外でのパフォーマンスも行っており、国際的な関心度も高い。

国際共同制作のプロセスも興味深い。日本とタイのカンパニーメンバーが、互いの国に対して抱いているイメージから、共通したキーワードを探る。そのキーワードをもとに、B-Floorのメンバーが6月に来日し、一週間のワークショップをへて各カンパニーが互いの国に対して持つイメージから、共通のキーワードを探る。そしてそれらをもとに、6月に『B-Floor』メンバーが来日、日本の『快快[faifai]』と約1週間のワークショップを行った上で作品の骨格が作られた。さらに、今回の公演前2週間が稽古にあてられ、小作品がつくられる、というシステムになっている。

映像や音楽など様々なメディアを活用してストーリーを作り上げてゆき、即興的な身体表現を追及してきた『B-Floor』の手法は、『快快[faifai]』との共通点も多い。だが、文化が異なり、言語が異なれば、当然“身体の言語”も異なってくる。タイ人特有のしなやかな身体と表現が、「Trash&Freshな日本の表現者」と評される日本の若者たちの“からだ”とどのように響きあうのか、あるいは衝突を見せてくれるのだろうか。

どちらも即興性を重視するカンパニーだけあって、最終的な形は、実際に彼らが舞台に飛び出してくるまではわからない。ぎりぎりまで稽古が行われ、共同制作の作業が続けられている。公演タイトルの『Spicy, Sour, and Sweet』を裏切らないエキサイティングなフィジカルシアターとなるに違いない。

快快[faifai] 撮影:加藤和也

日程:2010年8月13日(金)から15日(日)
場所:東京芸術劇場 小ホール1(地図などの詳細はこちら
料金:チケット前売り3500円、当日3800円
電話:03-5985-1707(東京芸術劇場チケットサービス)
ウェブ:www.e-get.jp/tgg-ts/pt

テキスト 七尾藍佳
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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