MMW来日インタビュー

メデスキー・マーティン・アンド・ウッドツアーの必需品はキッチン

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MMW来日インタビュー

メデスキー・マーティン・アンド・ウッド(以下MMW)の音楽は、どのジャンルにも属さないことで知られている。それでも1991年のデビュー以来、フュージョンジャズミュージックシーンの代表的存在としてその地位を確立してきた。彼らはこの20年近くで多くのアルバムを発売し、活動の中心であるライブも意欲的に行った。インプロビゼーション(即興音楽)のマスターと称えられているショーは想像力にあふれており、気軽に楽しめる。彼ら自身が音楽そのものとなり、観客と一体になっていく。

2010年4月10日(土)と11日(日)の2日間、MMWはオーガニック・グルーヴのイベントに参加した。あらゆるジャンルの音楽ファンが足を運び、MMWの演奏に引き込まれた。ライブ終了後に、ジョン・メデスキー(キーボード)、ビリー・マーティン(パーカッション)、そしてクリス・ウッド(ベース)に話を聞いた。

ライブはどうでしたか?

クリス:楽しかったよ。
ジョン:面白かったよ。
ビリー:良かったよ。

『オーガニック・グルーヴ』で演奏する楽しさはどこにあるのでしょうか。

ビリー:『オーガニック・グルーヴ』のイベントで演奏するのはとても楽しいんだよ。なぜか主催者の小松原太一が……いや、観客が、僕たちを理解してくれている気がするんだ。だから、僕らは観客から色々なアイデアを得ることができる。
ジョン:太一は、ライブの雰囲気を独創的かつ概念的に作り上げている。僕たちにもそれが手に取るように分かるから、ショーへの意気込みが増すんだ。彼の物事の考え方は、僕たちが目指す音楽の形に似ている気がする。彼は、ショーを単なるクラブでのショーに終わらせずに、何か意味のある“モノ”にする工夫をしてくれるんだ。

MMWが今大切にしているインプロビゼーションのスタイルを、『オーガニックグルーヴ』というイベントがサポートしてくれているということですね。

ビリー:インプロビゼーションはまさにその瞬間を大事にする音楽。その場の雰囲気がその時にしかできない音楽を創り出す。閃きは欠かせない要素だと思うよ。だから僕らがその場を楽しめば楽しむほど、いい音楽ができると信じている。
クリス:僕は太一を美術館の館長のように捉えているんだ。館長自身がアーティストであり、何を観客に提供するかを一緒に考えてくれる。ただ単に僕らを部屋に押し込み、ステージに送り出すだけではないんだよね。
ジョン:売り上げ重視!ではないっていうこと(笑)。
クリス:商業的な主催者とは違って、太一はアーティストの希望を出来るだけ叶えてくれるし、一緒にライブを経験しようとしてくれる。
ジョン:色んな好みも似ているしね。好きな食べ物や、趣味の神社周りとか……。
ビリー:彼とは色々な意味でうまが合うんだよね。

多くの移動とツアーをされていますが、どこにでも持っていく特別なものはありますか?

クリス:持ち運びができるキッチンだね!
ジョン:僕のブランケットは絶対。
ビリー:僕のテディベアも絶対!(笑)なんてね。クリスの言う通り、キッチンはいつも持ち運びしている。それから、お茶は忘れない。
クリス:ここ20年くらい、日本からせん茶を取り寄せしているんだ。

誰が料理するんですか?

ジョン:3人ともするよ。
ビリー:一番上手なのはジョンだ。
クリス:確かにジョンは料理の才能がある。
ジョン:そんなことないよ。皆で料理するじゃないか。
クリス:自分たちで料理することは、ツアーの一部なんだよ。
ビリー:だけど何よりも大事なのは楽器かな。ジョンにはその辺の楽器店では買えないキーボードのコレクションがある。ほとんどが生産終了しているお宝。クリスには思い入れの強いベースがあるし、僕には打楽器がある。これらの楽器は9割方、僕らに同行しているよ。僕自身が必ず持参するのは、やっぱり何かしらの打楽器かな。スーツケースいっぱいに、面白い音を奏でるものを持っていくんだ。そういう意味では楽器は他のものとは比べられないほど大切だよ。

独自のレーベル、『Indirecto』をお持ちですが、このレーベルを始めたことでMMWの音楽が変わった部分はありますか?

ビリー:僕らは独立心を持つことを大切にしているんだ。初めは他のレーベルと契約をしていたけど、その環境下でも独立心は大事にしたいと思ってきた。 実は僕たちが初めてリリースした曲はどこのレーベルからでもなく、自分たちのレーベルで出したんだ。だからその原点に戻ったんだよ。
ジョン:まぁ、途中でも自分たちのレーベルで出したことがあったかもな?
ビリー:『Indirecto』は昔からあったと言えばあったんだ。他のレーベルに所属することなく、独自のレーベルだけで活動を行う最大の利点は、何か閃いた時に「いいアイデアが浮かんだ。どう思う?」っていちいちレーベルのお偉いさんにお伺いを立てなくて済むところ。それで生まれたのが『Radiolarians』シリーズだよ。
クリス:もしどこかのレーベルに所属していたら、きっと実現しなかったと思うよ。
ビリー:金にはならないからね!(笑)
ジョン:ビジネスの観点から見れば、レーベルが主張する考え方は最もなんだ。利益を生まなければ意味がない。でも、それは僕らの考え方には反する。
クリス:僕らのやり方では利益は生まれない。でもその代わりに、曲の権利を自分たちに残すことができる。
ジョン:僕らは金と時間さえあれば、年に10曲、もしくは月に1曲を作るという目標を持っている。新曲発売までの時間配分を大事にするレコード会社の考えでは、ありえないことだよ。だから今は自分たちの望む形で自由に曲を発表できる。嬉しいことだよ!
クリス:結果どうなったかと言うと、ここ2年の間に多くの曲を出すことができた。
ビリー:1年強の間にアルバムを3枚、リミックスアルバムを1枚、長編映画を1本。それに加えて、子供用のアルバム『Let’s Go Everywhere』、Jazz Oneレーベルから出たアルバムにライブCD。
クリス:本当に怒とうの日々だったよ。
ビリー:電話応対や各方面の担当者やレコード会社との商談に追われて、体力の限界は確実に来た。でもそれがもっと曲作りを楽しくさせた。
ジョン:それが色々な意味で“自分たちの音楽”を作ることにつながっていった。そのやり方こそが僕たちらしさ。最初から持っていた考え方だよ。周りから見たら、小生意気な独立レーベルかもしれない。まぁ、大きなレーベルに所属していた時も、楽しくはやれていたんだけどね……。
クリス:でも僕らは自分たちの音楽を型にはめたくない。ジャズではないと思っていたからジャズクラブでの演奏は控えてきた。でも僕らは自分たちの音楽の売り方を知っていた。だからどのようにやるかはいつでも自分たちで決めてきた。そこで「ツアーに出て多くの人に自分たちの音楽を届けよう」という考え方に行き着いた。
ビリー:今の音楽業界ではそれが当たり前のマーケティング手法になっているよね!古典的なアイデアだったんだけど(笑)。
クリス:ただ、その他に何ができるかも考えなければならないよ。

『Radiolarians』の話に戻りますが、3つのアルバムと1つのリミックスアルバムという構成になったきっかけは?

クリス:最初は3人で集まって、数日間で集中的に曲を作る作業から始めたんだ。もちろん完全に作ってしまうんじゃなくて、大枠だけを作ってそのままツアーに望む。観客の前でその曲を演奏し、その時にアレンジされた曲が完成版となる。ツアーから帰ったらスタジオに入って、完成したその曲をレコーディング。そんな曲が集まって1つのアルバムができた。
ビリー:全てはジョンの“季節感のある曲を作りたい”というアイデアから始まった。僕らは季節に合った曲作りを念頭に作曲を始めた。そしてその流れで始まったのが『Viva la Evolution』ツアー、ひいては『Radiolarians』なんだ。 初めは単に季節感にあった曲を作り、その曲をツアーで演奏。その後にレコーディングをしてそれを繰り返すという感覚だったけどね。
クリス:1つのアルバム制作に1ヶ月はかかったね。ツアーを終えてレコーディングをして……。
ジョン:僕らの曲作りはジャズの曲作りに似ているんだ。全ての曲はアドリブを入れられるようにしていて、演奏の夜の閃きに導かれて完成する。観客の前で曲が完成するわけだから、レコーディングは簡単なものだよ。あっという間に「できた!」と言える。ライブレコーディングのようにね。1、2日スタジオに入るから実際はライブレコーディングではないけど、本当にライブみたいに感じる。

ツアーはアメリカの一部地域(北東部、南東部、太平洋岸北西部)とカナダで行われましたね。これらの場所はアルバムに影響しましたか?

クリス:そのあたりは僕たちが作ったフィルムで感じ取れるかもしれないね。ツアーやレコーディングの様子をまとめたドキュメンタリーなんだけど、曲作りの過程が見られるから。
クリス:間違いなく、セコイヤには影響されたよ。

(インタビュー 2010年4月11日)

タイトル:エヴォリューション・イン・レヴォリューション
アーティスト:メデスキー・マーティン・アンド・ウッド
Contrarede/2800円

テキスト JNGC
翻訳 古知杏子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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