インタビュー:IA PROJECT

ボーカロイド・ソフト開発からアーティスト支援までを行う注目プロジェクト

インタビュー:IA PROJECT

渋谷慶一郎+東浩紀やJOJO広重率いる非常階段が初音ミクを使用した作品をリリースし、ルイ・ヴィトンが初音ミクの衣装をデザインするなど、ここにきてボーカロイドマーケットが音楽業界において無視できない一つのムーブメントとして急速に台頭してきている。そんな中、昨年1月に発売されたボカロソフト『IA -ARIA ON THE PLANETES-』は、クリエイターの創作活動に重点を置き、音楽ソフトとしての高い機能性を重視し、発売半年にて動画投稿サイトの総再生数が1000万再生を超え、多くのクリエイターに支持されている。このソフトを開発したプロジェクトチーム、IA PROJECTは単なるボーカロイドソフトの開発チームではなく、アーティストのマネージメントからプロデュースワークまで、あらゆる創作活動の支援を目的としたプロジェクトなのだ。このIA PROJECTの開発プロデューサーである1st PLACE株式会社代表取締役、村山久美子氏に、プロジェクトの全貌や『IA -ARIA ON THE PLANETES-』について、そして1月30日に発売となる人気コンピ第2弾『IA/02 -COLOR-』についてインタビューした。

―『IA PROJECT』を始めたきっかけを教えて下さい。

村山:VOCALOID(TM)3 Library『IA-ARIA ON THE PLANETES-』を企画する段階で、ボーカロイドに後発で参入する者として、ただ単にマーケットに乗っかるのではなく、マーケットに貢献できる明確なミッションを持って挑みたいと思いました。それらを達成する為に、1人のクリエイティブや頭脳を軸にプロジェクトを進めるのではなく、多方面のプロフェッショナルを集めて全方位でミッションを達成していくチームを作りたく『IA PROJECT』を結成しました。各ポジションにプロを配置した上で、全員がどのポジションにもサポートで入れるようなチームワークの形成を目標にしています。私達が手がけている作品やプロジェクトのほとんどが複数メンバーによって、1人何役というチーム体制で取り組んでいます。

―『IA』にはどのような意味が込められていますか?

村山:IAには様々な意味が込められています。もちろんIAの声の元となる『Lia』の名前からから受け継いだ「IA」、IT用語の知的エージェントの「IA」、そしてLibraryの副題の「PLANETES」というギリシャ語や「ARIA」(アリア=独唱曲という意味や存在意義だったり、イタリア語で空気=AIRという意味等)にも意味やヒントが込められています。

―『IA -ARIA ON THE PLANETES-』のコンセプト、また制作するにあたって注意した点について教えて下さい。

村山:まず第一義として「クリエイターありき」という理念のもとに開発しました。IAは「クリエイターの独創性が試されるボーカロイドであること」「創作活動の幅や引き出しを広げたり、刺激となれる存在であること」「新しいコミュニケーションやアウトプットの機会を生む媒体でありハブであること」というコンセプトが軸にあります。ライブラリの開発では、音楽制作プロダクションが作るボーカロイドという意味での自負もあり、ボーカルソフトとしてのクオリティにはとことん拘りました。「このキャラ=この声」といったキャラや声の個性を打ち出すのではなく、声を提供してくれた『Lia』同様、多種多様な歌声や歌唱アプローチが出来るボーカロイドというコンセプトがベースにあり、具体的には、VOCALOIDの各パラメーター等の調整テクニック次第で、作る人のセンスが活きるオリジナルのIAが作れる引き出しの多さが武器となるような開発に注力しました。一方で、デフォルトの段階でもノイズが少なく滑らかなボーカルが作れるのもIAの特徴で、初心者の方でもトライしやすいボーカロイドになっています。

また、ユーザビリティ面での完成度を上げる為に、実際に複数のボーカロイドクリエイターの方々に製品のβ版を使って曲を作ってもらい、その内容をフィードバックし製品に反映しました。製品の最終ブラッシュアップとしてかなり効果的でした。開発のエンジニアをはじめ、最後は皆の拘りが激化しすぎて発売が3か月も遅れてしまいました(笑)。私自身、自分達が納得できない中途半端なモノだったら作らないほうが良いと思ってしまうタイプでして、おのずと周りに集まってくるメンバーも同じようなモチベーションの人が集まってくるので、ブレーキ役がいないんですよね。それは時として危機的な状況にもなるのですが(笑)、そのリスクを負ってでも「良質なモノづくり」の環境を守れているということに価値を感じていますし、それはとても幸せなことだと思っています。

パッケージの施策として初回限定盤では、プロによる調整後のIAのvsqx(ボーカルファイル)や、クリエイターによるテクニック公開的なガイドブックを同梱しています。また、IAのボーカロイドとしてのバリエーションを知っていただけるよう、β版で制作した楽曲をコンピレーションCD特典として収録しました。CDには多種多様なヴァーチャルボーカリスト『IA』が収録されています。

―日本でのVOCALOIDの発売から約10年程が経つのですが、開発プロデューサーである村山さんから見た最新のボーカロイド開発の傾向について教えて下さい。

村山:勉強不足かも知れませんが、他社様の開発コンセプトはあまり把握していません。ただ、どちらかというと傾向というよりはそれぞれの個性、例えば、キャラクター推しやマーケットイン的な開発、または得意ジャンルに特化した製品等、各社様がそれぞれ独自のカラー、独自の開発コンセプトでボーカロイドを開発していることも、このマーケットの面白さの一つのように感じています。一つあるとするなら、パッケージングについての傾向として、V3発売当初はキャラクターグッズが特典として同梱されているパッケージが目立っていましたが、弊社の『IA-ARIA ON THE PLANETES-』発売以降、音楽CDやガイドブック等、音楽ユーザー向けの特典が増えたような印象があります。勝手な思い込みかも知れませんが、もし私達の製品が何かの模範となれたとするなら、それはとても光栄なことですね。

―IA発売後のクリエイターやボカロPからの反応はどうでしたか?

村山:おかげさまで、とても良い評価やご意見をユーザーの皆さんや同業の方々から頂きました。私達は新規参入で、かつ後発でしたので、最初はどんな洗礼を受けるのか?とドキドキしながら発売を迎えましたが、ネガティブな評価は驚く程少なかったです。当時、ボーカロイドのマーケット自体が、キャラクターやキャラクターにマッチした歌声が主流の印象が強かった中、私達の製品は音楽ソフトとしての機能性やクオリティを重視した開発を目指し、それを全面に打ち出したPRを行ったこともあり、製品に込めたコンセプトがわりとダイレクトにユーザーに伝わったと感じています。また、発売と同時にIA PROJECTとしてのクリエイターの創作活動支援というミッションを掲げていたこともあり、その結果、IAは音楽ソフトとしてIAに興味を持って下さるDTMユーザーと、新人クリエイターやボーカロイドを初めて使うビギナーの2つの柱で、ライブラリとしての完成度の高さや、使いやすさという面で評価を頂きました。



―ネット上にアップされているIA作品の中で、特にお気に入りの作品があれば教えて下さい。

村山:お気に入りの曲は沢山有りますが、やはりじん(自然の敵P)や、石風呂等、IA PROJECT所属アーティストの作品が上位に来てしまうので、宣伝っぽくなってしまいますが、彼らの曲は全般的にお気に入りです。特にじんの『ヘッドフォンアクター』は、前述のIA開発のβ版で作ってもらった記念すべき曲で、初めてデモを聴いた時の衝撃を含めて、自分の中ではメモリアルソングとなっています。あとは『IA/01』やβ版で参加して下さった、におPさんの作風や、ねこぼーろさん等の作品が好きです。ボカロマーケット全体の主流でもあるのですが、IAはロック曲が多いので、個人的にはIAの声の透明感が活きる曲がもっと増えて欲しいという願いもあり、バラードやアコースティックサウンドとIAの声がフィットしている曲に惹かれる傾向があります。そういう意味では、1月30日に発売する『IA/02』で楽曲コンペティションを行なったのですが、コンペ参加曲の中から採用させて頂いた、dezzy(一億年P)さんの『銀河鉄道365』、nodokaさんの『残る夏に花束を』という曲は、どちらもお気に入りです。

―1月30日に発売となるコンピ第2弾『IA/02 -COLOR-』は、新進気鋭のボカロアーティストを中心に、インタビュー内にも出てきたヒットクリエイターのじんのほか、クラムボンのミトやスネオヘアー、風味堂、真部脩一などの豪華アーティストも参加してますね。今回、アーティストを選ぶにあたってどのような点を考慮しましたか?

村山:今作『IA/02-COLOR-』では、ボーカロイドという枠を越えて、様々なマーケットで活躍するクリエイターとボカロクリエイターの作品交流や競演というコンセプトがありました。

楽曲制作からパッケージ化、販売までセルフ・プロデュースによって完結し、かつユーザーの反応、評価をダイレクトに受け作品意欲に転換していく等、先人達が作り上げて下さったプラットフォームやマーケットも成熟してきて、今は、安全な場所で志向が見える相手に音楽を発信しているような安心感というか、あくまで個人主観ですけど、刺激や緊張感が少し薄れているように感じていました。あとは、とにかくボカロコンピの数が多い。そんな供給過多な状況下、『IA PROJECT』のミッションとして、ボカロクリエイターやボカロユーザーと、違うシーンにいるクリエイターとがIAを通じて横一線に並ぶことで生まれる新しい「なにか」を作品に詰め込みたいと思いました。

慣れ親しんだ場所に対岸からプロがやってくることで、新しい刺激やモチベーションが生まれるのではと。同様にJ-POPを中心に活躍されているクリエイターの皆さんに、ボーカロイド『IA』という新しい音楽ソースを自由にクリエイトしてもらいたかった。ですから人選は「多種多様な音楽マーケット」、「幅広い世代」、「様々なキャリア」というバリエーションを意識して、オファーをさせて頂きました。また、「交流」という意味では、ボカロを触ったことがない方のボーカルトラックをボカロクリエイターの方が制作するといった、間接的なコラボの機会も作れました。結果、参加頂いたアーティスト1人1人が、IAというソースを楽しみながら、それぞれの色に染めていく『COLOR』という副題どおりの素晴らしい作品を提供して下さいました。自信作です。

―楽曲コンペティションから選ばれた曲も収録されています。コンペティションについて、どのような選考基準で楽曲を選びましたか?

村山:単純に視聴して、「心に響いた曲」という選考基準で選出しました。作品を聴く段階ではプロフィールは一切見ませんでした。結果、nodokaさんの『送る夏に花束を』、dezzyさんの『銀河鉄道365』という2名の楽曲をセレクトさせて頂きました。この他にも今回コンペに参加頂いた楽曲の中には、収録したいと思う素晴らしい楽曲が沢山ありましたので、タイミングやコンセプトがあえば、是非次の機会にあらためてラブコールをお送りしたいと思っています。

―最後にIA PROJECTの今後の活動について教えてください。

村山:IAのボーカロイドライブラリ発売、そしてIA PROJECT発足から1年が経ち、私達が掲げた「クリエイターの創作支援」の活動として、新世代クリエイターの活躍の機会創出や、制作面、ビジネス面においてのバックアップ、クリエイターの地位向上等に取り組んできて、小さな1歩ではありますが前進できたという実感があります。

2年目を迎え、その中で出会った所属アーティスト、じん、石風呂という2人の才能に満ち溢れたアーティストを引き続き全力でサポートしていくことが、2013年の最重要ミッションです。じんが展開する『カゲロウプロジェクト』は、音楽原作という新しいスタイルにより、2012年は音楽、小説、コミックのメディアミックスプロジェクトに取り組み、小説は2巻合計で70万冊のヒット、音楽ではゴールドディスク大賞の『ベストニュー5アーティスト』に選ばれる等、一大ムーブメントの形成に携わることが出来ました。そして2013年『カゲロウプロジェクト』は、アニメ化に向けて更に刺激的な展開に突入していく予定です。また、昨年10月にファーストアルバム『ティーンエイジ・ネクラポップ』を発売した第2弾アーティストである石風呂のブレイクイヤーとなるよう、ライブを中心に色々と仕掛けていきます。

もう一つの柱は、IAを通じたクリエイターの創作支援活動です。2012年は、音楽活動以外で、『IA×LEXUS TEAM SARD』(SUPER GT500 でのチームスポンサード活動)や、『IA×RSC』(ヒップホップ・ダンス・スクール支援コラボ)、『IA×日本工学院』(専門学校への教材、教育プログラムの提供)等に取り組んで参りました。2013年は『IA/02』を皮切りに、より幅広いアーティストとの取り組みや、音楽以外の芸術家やシーンとのコラボも積極的に行っていきたいと考えています。

その決意表明をすべく、IA PROJECT1周年を記念して、1月27日には所属アーティストのじん、石風呂をはじめ、IAの声を提供しているLiaやゲストアーティストを招いて、レコーディングスタジオからトーク&ライブ『IA PROJECT 1st ANNIVERSARY PARTY』のニコ生放送を開催し、ライブや2013年IA PROJECTの様々な発表を行う予定です。




IA PROJECT 1周年記念特設サイト

『IA/02-COLOR-』特設サイト

IA PROJECT channel ニコニコチャンネル

インタビュー 池田義文
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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じんさんだけじゃなくて石風呂さんまで1st placeお抱えなのか・・・ショック。コンポラやめてソロとか言いださなきゃいいけど・・・twitter見てるとなんかソロの方行きそうな気が・・・。

投稿者 名無し 2013年02月01日 00:12

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