インタビュー:ジェイムス・ブレイク

英国のホットなプロデューサーが、自身を取り巻く熱狂と批判を語る

インタビュー:ジェイムス・ブレイク

名のある音楽ブログを愛読していれば、“音”を聴いた事がなくともジェームス・ブレイクの名前を聞いた事はあるだろう。彼は、自宅のスタジオから躍り出た注目のプロデューサー兼ソングライター。イギリスのアトラス・レコード、米国のユニバーサル・リパブリックといった大手レーベルと次々に契約を結んだ。彼独自のサンプリングスタイルやアブストラクトなポップソングへの評価は様々あり、意見の一致を見ることは困難だ。1月にポーティスヘッドのドラマー、ジェフ・バローがツイッターにこんな質問を投げかけた。「この10年は、ダブステップとパブで歌うような歌手の融合した時期として歴史に残ってしまうのだろうか?」。その後、おなじみのポピュラー音楽評論家、クリストファー・R・ウエインガーテンがツイッターで「探し物:ジェイムス・ブレイクの魂。現金は無理だが、謝礼として名誉ポイントはあげる」とつぶやいた。だが、影響力のあるインディーズ音楽サイト、ピッチフォークは、ブレイクのデビューアルバムに9.0の高評価を与え、今年の“ブレイク熱”を支持した。

ブレイク本人はといえば、こうした攻撃を楽しみながらかわしているようだ。「様々な人がそれぞれの批評を口にしているけれど、それだけの人の耳に曲が届いたのは歓迎すべきことだよ」と彼はロンドンからの電話インタビューで答えた。「ポーティスヘッドの力はとても大きいから、(バローが)僕の曲を聞いてくれたのはとても嬉しい。僕の曲が彼の潜在意識に深く入り込んだので、激高してインターネットに書き込んだんだろうね」。

ブレイクは、ロンドン出身の22才。冷静沈着でクールさを持ち、彼をカテゴライズしようと躍起になる疑い深い人たちを混乱させているということが、問題をさらに複雑にしている。「ダブステップについてのコメントだけど、話す事は特にないと思う」とブレイクは言う。「僕の音楽が収まるカテゴリーは、明らかに存在するとは思う。DJをする時は、ダブステップをかける。ダブステップとハウスを、かな。でもエレクトロやハードコア、メタルはやらない」。さらに、音楽という絶え間ない流れのひとつひとつに名前をつけるのは意味がないとも考えているようだ。「プロデューサーたちは、リリースの半年前には曲を作っている。音楽は常に進化しているんだ」と彼は続けた。

ブレイクはロンドン大学のなかでもクリエイティブ系に強い、ゴールドスミスでポミュラー音楽を学んだ。だが、彼はそれよりもずっと前に、音楽を学んでいた。父親のジェイムス・リザーランドが、ミュージシャンだったのだ。ブレイクの曲『The Willhelm Scream』は、父親の曲『From Where to Turn』からメロディーと歌詞を使用して完成させたものだ。正式なクラシックの教育こそあるものの、ブレイクの音作りへのアプローチは技術面ではなく、感情面からされている。「音楽理論や、楽譜はあまり重要じゃないんだ。大切にしているのは、純粋な感情だ。僕のアプローチは、感情を注意深く観察すること。明らかに、本能的なものなんだ」と彼は言う。

ブレイクのデビュー自体、多様さを持った出来事だった。様々な流れが束に括られつつも、ひとつの突出したスタイルにはならない。彼の音楽は、『Klavierwerke EP』や『CMYK EP』 といった作品に見られるような制作テクニックを発揮するのもあれば、ファイストをカバーした『Limit to Your Love』に見られるような、ブレイクのファルセット・ヴォーカルとピアノを中心にした、よりベーシックなアレンジに留まるものもある。

作品の控えめな雰囲気とは裏腹に、広く力強い歌とスタイルを備え、どちらかといえば実験的なポピュラー音楽としてのレンズを通して見られるべきだろう。バローたちが主張するような、ダブステップやR&Bといった既存のモノサシを通じての見方とは違う。彼の作品へのわずかなニュアンスや音をめぐる様々な解釈についてブレイクは「皮肉なことだと思う。でも他に比べて、この作品は地味に聞こえるのかも知れない」と語る。「部屋の中の静かで暗い場所のような… 隙き間で、この曲たちは創られたんだ」と、付け加えた。この作品には高揚する瞬間もあるという。「曲を通じて、攻撃性を表しているんだ。他の人が想像する攻撃性とはかけ離れたものであると思うけどね」。


そんなジェイムス・ブレイクのジャパンツアーが、10月12日(水)に恵比寿・LIQUIDROOMで行われる。チケット予約は6月18日(土)にスタート。ジャパンツアーの詳しい情報はこちら


テキスト タイムアウトメルボルン編集部
翻訳 佐藤環
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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