音と光の信頼関係:「太陽」ではなく「月」になろうと…

宇川直宏(DOMMUNE/京都造形芸術大学教授)が語る風営法問題

音と光の信頼関係:「太陽」ではなく「月」になろうと…


まずは、照度による規制へとシフトした今回の有識者会議による報告書の内容について、フロアの明るさが10ルクス以上という規制にはどのような問題があるか、という質問に対しての宇川直宏(DOMMUNE/京都造形芸術大学教授)の答えである。



ダンスフロアと「明るさ」

「風営法見直しの報告書が公表され「ダンス」の文言が削除されることとなりました。これは喜ばしい進展でありますが、同時にクラブなどは10ルクスをひとつの基準とした店内照度で規制することを提言されました。つまり「ダンス」ではなく「照度(明るさ)」という新たな規制ができたこととなります。
この改正案を聞いて、僕はとても複雑な心境になりました。なぜなら僕は長らく、クラブ環境に於ける「明るさ」を、現場で担当してきたからです。
僕は、1988年からVJ(ビジュアルジョッキー/クラブに於ける映像表現)を開始し、フロアに於けるオーディオ&ビジュアル黎明期から、先駆的に「明るさ」を使って視覚表現を行って来た立場だからです。
ダンスフロアというのはステージに立つ演者に向かって、観客が熱い眼差しを送るといった、所謂コンサートホール的な、予定調和で単方向なコミュニケーション空間ではありません。
フロアの司祭であるDJがリアルタイムに現場の空気を作っていく、更に厳密に言うと、空気を作る立場として、ダンスをしているオーディエンスの側も、DJと同様に表現者でもあるわけです。
現場の空気は魚影の群れのように、フロアに存在しているすべての人間が作っていくもので、その双方向の関係の上では、送り手と受け手の境界がボーダレスになっていく。そんなエネルギー循環を打ち出した、ドキュメンタルな現場がダンスフロアなのです。
なので、観客1人1人のパフォーマンスは、一夜のアートフォームに於いて、大変重要な要素なのです。


僕はその空間に自己表現としての「明るさ」を持ち込んだ訳です。当初は様々な批判を受けました。「音楽に没入する為にクラブに来たのに眩し過ぎる」「ダンスする表情が皆に観られるので恥ずかしい」「音楽に映像は必要ない」…。どれも正論だと、思いました。
そこで僕は、考えました。同じ「明るさ」を制御する立場であっても、フロアに於ける「太陽」ではなく、「月」になろうと…。

ダンスという身体的な対話

これらダンスフロアにおける、人間同士の魂と身体の高揚がなぜ日が昇るまで継続されるのかといえば、その正体は、音楽の力によって生まれる連帯意識と言えるでしょう。音楽の力を通じて、フロアにいるすべての人々が、ダンスという身体表現によって対話を繰り返している。ダンスは、原始宗教儀式にも見られる言語を超えた礼拝であって、それ以前に、本来、音楽自体が霊との交信を目的とし、神の前で演奏する儀式でした。ここには魂の浄化作用があります。
その身体的な対話は、太古の時代から、深い夜に行われてきました。そう、先述したVJに対しての批判の根源は、どおやら人間の本能に基ずいているようです。

コンサートホールの会場は、何故照明が落とされているのでしょうか?
ディナーショーのテーブルは、何故キャンドル灯りしか点されていないのでしょうか?
また、盆踊りは何故、暮夜に行われるのでしょうか?
そして、ナイトクラブのフロアは何故ライトダウンされて来たのでしょうか?
そう、音楽に集中し、没入するには「明るさ」ではなくて「暗さ」が必要なのです。

そこで僕は考えました。敢えて2度言います(笑)! フロアに「明るさ」を持ち込むならば、「太陽」ではなく、「月」になろうと…。
つまり「明るさ」を絞って、「月明かり」を作ろうと… そこに"もちをついているウサギ"を映し出そうと…!!!!!!!!!!!!!!!!!!!

そのような音と光の蜜月を経て、現在、VJはナイトクラブに定着し、テクノロジーの進化によってダンスフロアを踏み越えて、プロジェクションマッピングや、3Dホログラム他、エンターテインメントには欠かせない存在となりました!!!!!!!!!!!!!!!!!
これらビデオプロジェクションの実験は、音楽の力に支えられながら、ナイトクラブの現場で行われて来たといっても過言ではありません。
あれから26年… 音と光は、ナイトクラブの中で互いの表現を打ち消さぬよう尊重し合いながら、謙虚な姿勢で共存共栄してきたのです!!!!!!!!!!!!

音楽に没入するには、そして、ダンスフロアにおける身体的な対話には「太陽」は邪魔なのです!!!!!!!!!
人間は本能的に「月明かり」を求めているのです!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
10ルクス以上の「照度」は、フロアに於いては、日光に値する照度です!!!!!!!!!!!
これでは、クラブカルチャーは成立しません!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!
互いに支え合いながら、信頼関係を築き、長らく平和に共存してきたフロアにおける音と光のリレーションシップを、お願いですから、法律で踏みにじらないで頂きたいです。よろしくお願いいたします!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


※掲載されている情報は公開当時のものです。

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