ダンスフロアに「太陽」は邪魔なのです。

宇川直宏(DOMMUNE/京都造形芸術大学教授)/斎藤貴弘(弁護士)に訊く

ダンスフロアに「太陽」は邪魔なのです。


秋の臨時国会で決まる、新風営法


「風俗」とは、ある時代や社会、生活上の習わしやしきたりを指す広範囲な言葉だ。つまり、時とともに変化していくものであり、それを取り締まる風営法(風俗営業等の規制及び業務の適正化等に関する法律)は、1948年に風俗営業取締法として制定されてから現在までに30回以上の改正を経ている。

「本気で怒っちゃ損する/ドアとか閉めとけきゃバレないさ」とは、ミュージシャンで評論家の近田春夫が1986年に歌った『Hoo!Ei!Ho!』の一節だが、80年代にクラブカルチャーが誕生した日本では、長らくこうしたグレーな営業が常套化してきた。
しかし、そうしてなんとなくやりすごしてきた状況が、2010年の大阪アメリカ村での一斉摘発以降、変化し始めた。そして、それまで目を背けてきた問題と正面から向き合うことになったナイトクラブ事業者やDJ、アーティストたちは、改正へ向けて社会運動やロビーイングを開始した。

運動によって初めて事業者同士の連携がうまれ、クラブカルチャーは「大人」への階段を上り始めた。そして、今秋の臨時国会では客にダンスをさせる営業の規制緩和のために、法改正が行われる。現在、その改正案の内容をめぐる議論が行われているという状況だ。

改正案を左右する、警察庁の有識者会議による報告書

2014年9月10日、客にダンスをさせる営業の規制緩和を検討してきた警察庁の有識者会議が、警察庁が秋の臨時国会へ提出する改正法案に関する『ダンスをさせる営業の規制 の在り方等に関する報告書』をまとめた。

照度と営業時間による規制

今回の報告書では、風営法から「ダンス」の文言が削除される見通しが明らかになった。また、客に飲食をさせないダンス教室やダンスホールについては「売春事件が発生するなどの問題は生じていない」とし、風営法の規制の対象から除外した。
飲食をさせるナイトクラブについては、店内の照度が10ルクス以上で、24時までの営業であれば、通常の飲食店として扱い、24時以降に営業する場合は新設の『深夜遊興飲食店営業』として許可制をとり、オールナイト営業を認める。
問題は店内の照度が10ルクス以下の場合だ。10ルクスとは「映画館の休憩中の明るさ」と同程度の明るさであり、現状、ほとんどのナイトクラブはそれ以下の照度で営業している。
10ルクスを下回った場合は、風俗営業の1類型である『低照度飲食店営業』に分類する。これは喫茶店や漫画喫茶、小規模なバーなどを想定して設置された規定で、「喫茶店、バーその他設備を設けて客に飲食をさせる営業で、客席における照度を10ルクス以下として営むもの」を指す。
内容は、これまでの3号営業への規制と同じく許可制で、繁華街などに限り最長で25時までしか営業できず、大半の店舗がこれまでと同様、風俗営業としての規制を受ける可能性が高い。

「実態」と「価値」

風営法にまつわる問題は様々な事柄を浮き彫りにした。「クラブ=いかがわしい」という印象を世間に抱かせるがままにしてきたことへの自戒の念は、ナイトクラブ関係の事業者やアーティストたちの連携を生み、議員や弁護士らの協力が実現した。
ほとんどのナイトクラブがグレーゾーンで営業を続けている現状が生み出す社会的、経済的、文化的な悪循環は、事業者/アーティスト側と国側の双方が認めているところであり、実態に即した法改正を実現させるべく幾度も話し合いの場が設けられた。
今回の報告書は、ナイトクラブが持つ価値を喪失させる可能性を孕む内容である。では、改正はどのように進められるべきなのか。
いま一度焦点を定めるべく、クラブカルチャーの「実態」と「価値」について、2014年度文化庁メディア芸術祭審査委員も務める宇川直宏と、風営法問題に詳しい弁護士 斎藤貴弘、それぞれに話を訊いた。

宇川直宏(DOMMUNE/京都造形芸術大学教授)

ナイトクラブとは、メディア・アート/パフォーマンス・アートの築地のような空間です


宇川直宏は、1980年代後半からDTP第一世代のグラフィックデザイナーとしてアンダーグラウンドシーンに登場し、ライター、ディレクター、DJ、現代美術家として日本のクラブカルチャー、ひいてはサブカルチャーの黎明期の中心にいた人物であり、また、日本のダンスフロアにビジュアルによる演出を初めて持ち込んだ張本人でもある。風営法問題に関しては、自身が運営するライブストリーミングチャンネル/スタジオのDOMMUNEにおいて「TALKING about 風営法」と題したプログラムを展開してきた。改正案に関する議論が大詰めの段階に入った今、宇川へ「10ルクスの照度規制」と「クラブ/クラブカルチャーが社会で果たす機能と目指すべき環境」について質問を投げかけたところ、以下のような答えが帰ってきた。


斎藤貴弘(弁護士)

面積要件や地域制限によって大規模な売上が維持できる店舗しか営業できなくなることは、一番重要な根っこに相当する部分を刈り取ってしまう


弁護士の斎藤貴弘は、この問題に当初から深く関わり、ダンス文化推進議員連盟や業界団体、事業者らと協力し合いながら、ダンス文化と経済、双方の発展のための正しく有意義な風営法改正を目指してきた。今回の有識者会議による報告書の内容に対しても見直しの必要性を訴えている。
では、具体的になにがどう変わればいいのか。「クラブ営業を低照度飲食店に区分することの弊害」及び 「深夜遊興飲食店営業における面積要件」に関して、同報告書の問題点を訊いた。



テキスト 三木邦洋
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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