映画『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』レビュー

86分間の出来事をリアルタイムで描く、ワンシチュエーションサスペンス

(C) 2013 LOCKE DISTRIBUTIONS, LLC ALL RIGHTS RESERVED
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『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』タイムアウトレビュー

イギリスの脚本家スティーヴン・ナイトは、ロンドンを舞台にした映画『堕天使のパスポート』、『イースタン・プロミス』の脚本を通して、常に鋭い視点を持って現実生活を描き出してきた。しかし時に、少々大袈裟なプロットを描く傾向がある。2013年の初監督作『ハミングバード』では、ジェイソン・ステイサムがロンドンのソーホーを舞台にした騒動に巻き込まれるホームレスの自警員を演じているが、ケン・ローチ監督に通じる部分はほぼ見られなかった。

監督2作目となる『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』では、スティーヴン・ナイト監督がこれ以上ない程に緊迫感が漂う物語を描き上げた。全編を通してスクリーンに登場する唯一のキャラクターは、アイヴァン・ロック(トム・ハーディ)のみ。彼はウェールズ出身の建築現場監督で、仕事と家庭生活の壊れやすい断片を修繕しようとしながら、車を走らせていた。

主人公の家庭、仕事はどちらも破滅寸前である。予期しなかった深刻な事件が起こり、その夜に予定していた妻と2人の子どもとの約束を取り止めなければならなくなったあげく、翌日早朝に控える218台の大型トラックで生コンクリートを搬入する重要な現場作業にも立ち会えないことになる。

アイヴァンは暗闇の中で愛車の『BMW M6』を走らせながら、まるで企業の危機に直面しても動揺することなく職務を遂行する電話交換手のように、携帯電話のハンズフリー機能を利用して無数の会話をこなしていく。電話が鳴らない時には、後部座席に座る亡き父親の幻影に向かって独白を繰り返す。平凡な中流階級の中年が送っていた人生の土台が、突然、不安定に揺らぐ様が描かれている。

スティーヴン・ナイトは監督として、この密室を重視することで、アイヴァンの表情に肉迫すると同時に、車の窓ガラスや光沢のある車体側面に反射する車のヘッドライトや街灯の光までを活用している。トム・ハーディの演技が素晴らしい。妙に安らぐような完璧なウェールズ人のアクセントで会話し、常に物事を明確にしようとする冷静沈着さを装いながらも、人格は崩壊していく様を好演している。結果として「追い詰められる状況を描いた物語が、緊迫感と苦悩という世界共通の大きなテーマが持つ力に対して、いかに反響できるか」を証明するマスタークラスのような作品が生まれた。

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『オン・ザ・ハイウェイ その夜、86分』

2015年6月27日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国順次公開
監督・脚本:スティーヴン・ナイト
製作総指揮:ジョー・ライト
出演:トム・ハーディ(『マッドマックス 怒りのデス・ロード』)、ルース・ウィルソン、オリヴィア・コールマンほか
配給:アルバトロス・フィルム
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原文 デイヴ・カルホン
翻訳 小山瑠美
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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