風営法改正、新たな争点とは

斎藤貴弘(弁護士)に訊く

風営法改正、新たな争点とは


東京オリンピックパラリンピック2020の開催が決定したことで、日本再生の重要な柱であるビジットジャパンやクールジャパンによる成長戦略の議論に拍車がかかり、関連する風営法改正についても様々な業界から広く注目が集まるようになっている。
実際に今回の警察庁の有識者会議による報告書通りの改正が行われた場合、どういった状況を招いてしまうのか。具体的に、現在話し合われるべき問題点とは何なのか。最前線で風営法問題に取り組んできた斎藤貴弘弁護士に話を訊いた。

報告書によると、ナイトクラブがこれまで通りの照度と営業時間で営業を続けると低照度飲食店に区分されることになりますが、これによる弊害はどういったものでしょうか。

齋藤:照度が10ルクス以下の店舗は低照度飲食店とされ、風俗営業としての規制を引き続き受けることになります。風俗営業として、午前1時以降の深夜営業は禁止され、厳格な出店地域規制を受けることが予想されます。

当たり前ですが、深夜営業なしでナイトクラブ営業は成り立ちません。低照度飲食店として区分けされたとしても営業時間を短縮することはできず、多くの店舗が法的にグレーな状態での深夜営業を強いられることになります。
そうなれば、この間、事業者が懸命に進めてきた健全な業界作りに向けた業界団体作りや、警察や地域との連携体制の構築も困難になります。むしろ業界の健全化を損なわせてしまいます。

そもそも低照度飲食店は、カップル喫茶等に代表される店内でいかがわしい行為が行われる業態を想定していると言われています。今回、ナイトクラブ営業が低照度飲食店に区分けされることでの、暗くていかがわしいことをする営業という社会的なマイナスイメージも大きいと思います。

また照度はクラブだけでの問題ではありません。映画館や劇場、ライブハウスやコンサートホールも含め、照明は演出表現にとってかけない要素です。客室が明るければスクリーンやステージは映えません。ナイトクラブは音と映像が相まって会場の雰囲気を作ります。プロジェクションマッピングに代表されるような映像表現の進化は著しいものがあります。
10ルクスという照度規制を設けることによって多くの映像表現が損なわれます。照度を落とさなければ成り立ちえない産業を法的にグレーな状態に置くこと、そのような産業への優良資本参入を困難にし、才能ある作家やアーティストを遠ざけてしまいます。

もちろん、店内に死角ができ、それによって何等かの事件や犯罪行為を発生させてしまうことは避ける必要はありますが、照度の計測場所等の計測方法、実体に適合した照度数値、防犯カメラ等の有効活用、スタッフの巡回等、演出表現を損なわないで店内の安全を守るすべはいくらでも存在します。照度がほとんどなく半個室で、かつ接待まがいの営業がなされがちなVIPルームといった場所のみについて照度規制を設ける方法もあると思います。
ここは10ルクス以下を一律に風俗営業として規制化に置くのではなく、業界と警察が連携して知恵を出し合うべき領域だと思います。

では次に、照度ではなく面積要件に関してお訊きします。現行法では、小規模のナイトクラブ、いわゆる小バコは面積要件上でも規制対象となっていますが

齋藤:警察庁による法改正案では、10ルクス超の店舗は新しく創設される「深夜遊興飲食店」として、緩和された条件で深夜営業が認められることになります。ただ、営業条件はまだ不確定事項が多くあり、特に客室面積要件や地域要件の範囲が極めて重要な検討事項になります。

現行風営法は、客室面積として66㎡を最低条件としています。また地域規制として商業地域等の用途地域による制限、学校等の保護対象施設からの距離制限を設けています。
このように、ある程度の規模感をもって繁華街に出店するためには、事業者に相当な資本力が求められます。大規模な動員で安定的に大きな売上を維持しなければ出店は困難であると思われます。

しかしながら、他方でナイトクラブは商業的成功とは別に、実験性に富んだ音楽表現や映像表現の場でもあります。大規模なエンターテインメント提供施設とはまた違う、文化的な実験性にその本質があります。商業的な成功とは離れた価値観でクリエイティブなアイデアや取組みを皆で共有していこうとする寛容性にその本質があります。
そして、そのような文化的な実験性や寛容性こそが街に奥行きや深みを与え、都市を魅力的なものにすることができます。チェーン居酒屋やカラオケボックスも便利で必要ですが、それだけでは街のアイデンティティは形成されません。オリンピック/パラリンピックに向けて街の再開発が進められていますが、街づくりにおいてダイヴァーシティ(多様性)がキーワードとされているのはそのような観点からです。

面積要件や地域制限によって大規模な売上が維持できる店舗しか営業できなくなることは、一番重要な根っこに相当する部分を刈り取ってしまうことを意味します。
現在、国策として進められているクールジャパンを含めクリエイティブ産業の育成政策を空虚なものにしてしまうことは明らかです。その意味で、多様性を維持でき、魅力ある街づくりを実現するためには過度な面積要件や地域制限は避けられなければなりません。

もちろん、騒音や周辺のゴミ問題などの近隣問題への手当は必須です。ただ、そのために、一律に面積要件、地域制限によって入口規制をするのは上記のとおり多くの価値あるものを犠牲にしてしまいます。
そうではなく、これら問題を起こし、かつ改善できない事業者にペナルティを課すなど事後規制を徹底することで、健全な事業者を伸ばし、問題ある事業者を正し、正せない事業者を撤退させるという業界の健全化に向けた良いサイクルが生まれると思います。



※掲載されている情報は公開当時のものです。

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