インタビュー:ライアン・マッギンレー

「誰かの生活の何気ない一場面を眺めているような、そんな一瞬を求めてる」

インタビュー:ライアン・マッギンレー

© Ryan McGinley Courtesy of the artist and Team Gallery, New York

写真家、ライアン・マッギンレー。特に写真に興味がないという人も、彼の名前は聞いたことがあるという人は多いのではないだろうか。スケーター少年だったその人は、周りの友人たちとの日々をありのままに写真で記録し、カメラを手に夜な夜なパーティへと繰り出していた。ニューヨークのストリートカルチャーが色濃く写し出された彼のドキュメンタリー作品は、史上最年少でホイットニー美術館での個展を実現し、スターダムへと導いていく。

それから9年が経った今秋、東京でマッギンレーの個展が2つ同時に行われることとなった。近年は、圧倒的な世界観を放つステージング写真の数々を発表。広告やファッションのコミッションワークを同時に手掛けながら、映像作品においてもその才能をいかんなく発揮している。まさに時代の寵児とも呼べるアーティストだが、インタビューに現れた本人は過密なスケジュールからの疲れも見せず、とても気さくに、すべての質問に対して丁寧に答えてくれた。彼のアシスタントがテーブルに置いたCanon 5Dをしきりに気にしていたので、インタビュー終了後に気になって聞いてみると、四六時中どこへ行くにも動画で記録をしているそうだ。「まとめて作品にするつもりだから、そのうちどこかで目にすると思うよ」。作品のスタイルが変化せよ、そのアーティストの根底にある揺るぎないものを垣間みた気がした。


© Ryan McGinley
(セルフポートレイト)


—これまでに日本に来られたことはありますか?

ライアン: ああ、一度ね。親友の一人が tinyvicesというウェブサイトをやっていて、2006年に、彼が東京でエキシビションを開いたときに、僕の作品も一緒に展示したんだ。

—真夏の東京はいかがですか?

ライアン: 本当に暑いね、まるでニューヨークみたいだよ。東京はその大きさに圧倒される。建物ひとつ見ても面白いし、若者たちのファッションスタイルもみんなそれぞれ個性的だよね。原宿周辺を歩くのも、本屋をはしごしてアートブックを見るのも好きだよ。

—ニューヨークの自宅を出て今この瞬間までに、シャッターを切りたいと思った場面はありましたか?

ライアン: もちろん。飛行機からのぞく空をビデオで撮影したし、ホテルの部屋の窓から見える赤い点滅ライトもカメラに収めた。原宿に行った時は、ワイルドにドレスアップした人たちも撮ったりしたね。とにかくiPhoneでいろんな場所を撮り続けていて、その写真をみんなにメールで送っているんだ。観光客の記念写真みたいなものだよ。

—動物と一緒に、またはヌードでも、希望すればあなたにポートレイトを撮影してもらえるユニークな撮影会が明後日(2012年9月1日)行われますね。こういったイベントを過去に行ったことはあるんですか?

ライアン: はじめてだよ、すごく楽しみにしてる。こういうイベントって、すごく日本的だよね。1日に300人もの人がスタジオにやって来て、お金を払って、撮影される。これまで誰からもそんなこと頼まれたことはなかった。アメリカやヨーロッパでも、もっとこういったイベントが増えればいいのにって思う。だってすごく面白いじゃない? 誰もが当事者になるチャンスあるんだ。アメリカだと、面白いことをするっていう考えの前に、物事を必要以上に慎重に受け取ってしまう傾向があるからね。

—今回の撮影会ではiPhoneを使用されるそうですね。

ライアン: 僕が写真を撮る時に、今最も多く使っているものがiPhoneだからね。毎日iPhoneを使って写真を撮って、日々のすべてを記録してるんだ。写真を言語、コミュニケーションの手段として使っていると言える。友達にメールする時は、テキストの代わりにいつも写真を送るんだよ。

—ちなみにインスタグラムを使ったことはありますか?

ライアン: インスタグラムは使わない。僕の仕事は写真を作ることであって、インスタグラムを使うとまるで仕事をしているような気分になるんだ。変わったものだったり、面白い風景なんかを探すために一日使ってしまうだろう? 僕には多すぎる仕事量だね。でも、インスタグラムで人が投稿した写真を見るのは大好きだよ。

—あなたにとって日本で初めての個展が開催されますが、どういった経緯でこの展覧会が実現したのでしょうか?

ライアン: トミオ(小山登美夫ギャラリーのオーナー)が僕の作品に興味を持ってくれて、個展をやらないかって提案してくれたんだ。村上隆に奈良美智、デヴィット・リンチやダミアン・ハーストなど、これまで彼は、世界中の素晴らしいアーティストたちと仕事をしてきた。すごい才人だと思う。彼のギャラリーでエキシビションを開くことができて光栄だよ。

『Reach Out, I'm Right Here』展では、アメリカ大陸を車で旅した際に撮影された作品が展示されますが、なぜロード・トリップの中で作品撮りするスタイルを続けているのですか?

ライアン: ロード・トリップとカテゴライズしてしまうのは簡単だけど、僕はそれよりもっと、ただ旅する、前へ突き進むと言う方が近いかな。バンドがアルバム製作のためにバンでツアーに出るだろ? それと同じさ。彼らは旅が終わるとステージで曲を演奏するけど、僕はエキシビションや本を出版して、旅を通して生まれた作品をシェアするんだ。

—たとえば、写真集『You and I』に登場する、裸で大自然の中を駆け回るモデルたちは、躍動的で自由に満ち溢れ、とても解放的な表情をしていますよね。あなた自身も作品を作ることによって、写真の中のモデルたちのように心が解放されるというような覚えはあるのでしょうか?

ライアン: もちろん、僕もモデルと同じように自由を感じたいと思ってる。そこから多くのエナジーを吸収したいし、好奇心旺盛でありたい。美しい色、動き……彼らがそこで感じていることを同じように感じ取りたいと思う。そうだね、実際、僕も彼らと同じ感情を抱いていると思うよ。だって、その作品を作っているのは僕自身なんだから。撮影場所まで出向いて、瞬く花火、野原に咲く黄色い花、美しい夕焼けを目にすること自体が僕の仕事を構成している。そしてその経験を世の中とシェアすることができる、なぜなら僕にはカメラがあるから。それで僕の作品に対して、人々が何かを感じ取って、楽しみを見出してくれるとしたらそれで満足さ。だって、それが本来僕らの仕事のあるべき姿だろ? 黄金の人生さ!

『Animals』では、人間と動物を被写体にシリーズを構成されていますね。なぜ裸の人間と動物だったのでしょうか? きっかけを教えてください。

ライアン: ヌードはいつだって僕の作品の一部だけど、身体を小道具として使ってみたいと考えていた。同時に、動物のポートレイトを撮ろうと思った時、ほかにも要素が必要だなと考えて、身体をフィールドに見立てて景色にしようと思ったんだ。尻、胸、ペニス……動物にとって、人間の身体がジャングルジムになるんだよ。あと、それまでカラーでスタジオ撮影をしたことがなかったからやってみたかった。僕の作品はどちらかというと、詩的で繊細、ロマンティックな要素が強かったんだけど、動物の写真はユーモアをもたらしてくれたね。

—スタジオに動物を集めるのではなく、あなた自身がモデルと簡易スタジオとともに動物のいる場所へと渡り歩いたそうですが、なぜそうすることにしたのですか?

ライアン: 単純に旅することが好きだし、アニマルトレーナーってクレイジーな人ばかりなんだよ! だからそんな人たちに出会えるのも楽しくてね。アメリカの州を渡り歩きながら、動物園、レスキューセンターにペットショップ、だいたい1日に15頭の動物を撮影するんだ。もしスタジオに動物を集めるようなことをすれば、そんなおかしな人間と動物が暮らしている様子を目にするチャンスはないだろ? 写真を作ることは、僕にとって面白くなくてはならない。君が見ている作品は、完璧に編集されて磨かれた最終的なプロダクトなんだよ。でも、僕にとって一番大切なことは、家族だったり一緒に作品を作り上げる周囲の人々なんだ。

—モデルの身体にある傷は、撮影中にできたものですよね?

ライアン: 小さなラークン、豚、きつねによるものだったり、撮影を続ける間についた引っ掻き傷さ。傷はコンピューターで色を濃くして、実際よりも目立つようにしてるんだ。だから実際には、大事になるような傷ではないよ。写真に写る傷を見ると、何か危険なことが起こったんじゃないかと想像するだろう? それがいいんだよ。

—モデルのほとんどは素人だそうですね。

ライアン: 僕が必要としてるのは、ベストなポジションやアングルの収まり方を知っているモデルではなくて、ありのままの姿でカメラの前にいられる人。たとえば、ベッドで眠っているボーイフレンドや、部屋で椅子に腰掛けている母親を眺めるだけで幸せな気分になるだろう? 彼らはカメラがあることなんて意識しないよ。誰かの生活の何気ない一場面を眺めているような、そんな一瞬を求めているんだ。

—若い男女モデルに起用していますが、子どもや老人を撮影することにあまり興味はないですか?

ライアン: 若い人を写真に撮る方に興味があるとは言えるだろうね。彼らはより繊細で、冒険心も持っている。子どもは大好きだよ。いつか子どもを題材にしたムービーを作りたいとも思っているんだ。そうだね、僕の作品の被写体は子どものようであって欲しいと思う。歳をとると、写真に自分がどう写るかなんてことばかり考えてしまうだろう。ミステリアスな自分を作り出そうとしたり、どういう姿であるべきかって頭で考えて演技してしまう。僕ですらやってしまうよ。子どもはカメラの前で写真にどう写るかなんて考えたりしないから、完璧な自然体だよね。それがまさに僕が求めているものさ。

—ひとつの被写体に対して何度シャッターを押しますか?

ライアン: 1000回ぐらいかな。さまざまな角度から、1人の人物のいろいろな表情を引き出していくことはテクニックの一部分と言える。その後、1000枚のイメージの中からベストな1枚を引き出すことが、さらに大きなテクニックとなって、アートフォームを築いていくんだよ。

—2003年のホイットニー美術館での個展までは、すべてドキュメンタリー写真でシリーズを構成していましたね。あれから10年近くが経ちますが、再びドキュメンタリー作品を撮ろうと思うことはありませんか?

ライアン: うーん、ないね。自分はドキュメンタリーというより、ディレクターだと思ってる。だからもし、ドキュメンタリー映像を作るのであるなら可能性はあるけど、写真でドキュメンタリーをやろうとはもう思わないよ。

—最近は映像作品も多く発表されていますね。あなたにとって写真と映像の違いとは何でしょうか? ライアン: 全然違うよね。アプローチの仕方が違う。たとえば、すべてが悪い方向に向かって最悪な状況の中でも、写真だったらいい作品を作れる。写真はより、ありのままを受け入れていくものだと思う。でも映像はひとつの間違えもあってはならない。ショットひとつひとつにおいて、自分が何を引き起こしていきたいのか正確に把握する必要がある。写真と映像ではそれぞれ違う脳ミソのパートを使わなきゃならないね。でも、僕にとって映像はすごく挑戦的だけど面白い。きっと写真も同じように挑戦ではあるんだけど、もう長いことやってるからね。写真がどうやって活きていくかっていうのはわかるから。

—たとえば、最近発表されたシガーロスの『Varuo』のPVですが、あの作品はどのように構成されたのでしょうか? バンドとアイデアを出し合ったのですか?

ライアン: あれは僕のアイデアだよ。バンドのリードシンガーと仲が良いんだけど、あるとき彼が電話をくれてね。「ミュージックヴィデオを作りたいんだけどお金がなくて、予算はほんの少ししか出せない。やってくれるか?」って聞かれて、いいよ、やるよって。そこからは試行錯誤の連続。

—ニューヨークの街中で行われた撮影はどうやって実現したのでしょうか?

ライアン: 友達みんなに電話して、屋上を使わせてくれって頼んだんだ。屋上から屋上へと移動し撮影していった。アシスタントの1人にウイッグとTシャツを着て街中をスキップしてもらってね。今や彼女はスーパースターだよ(笑)



—何人ぐらいの人があなたのプロジェクトに携わっているのでしょうか?

ライアン: どうだろう? 5人ぐらいのときもあれば15人いるときもあるし。プロジェクトによって変わってくるよ。

—チーム体制で制作を行われていますが、チームでの作品作りについてどう感じますか?

ライアン: 作品を作るにはたくさんの助けが必要だからね。僕がやりたいことを理解してくれる人たちが周りにいるっていうのはいいことだよ。僕はテクニカルな面であまりカメラに強くないから、そこをサポートしてくれる人がいたり、イメージに合った美しいロケーションを探してきてくれる人もいる。アートやロック好きのモデルを見つけてきてくれるキャスティング担当の子もいるよ。最終イメージを作り上げるために、それぞれ知恵を出し合って協力するんだ。時間とさまざまな冒険を共有するうちに、彼らを家族のような存在に思うようになった。

—相当数の写真集をコレクションしているそうですが、今何冊ぐらいお持ちなのでしょうか?

ライアン: 数えたことはないからわからないけど、1万冊ぐらいはあるんじゃないかな。数って言うよりも、ライブラリーがあることがいいんだよ。まるで人生のすべてが詰まっているみたいでさ。写真集に飽きることはないだろ? 5年間手にしなかった本を改めて眺めてみると、全く新しいものがそこにある。5年前とは違った視点で写真を捉えるようになっているんだ。自分の好きなアーティストたちの本が並んでいて、見れば幸せな気分にさせてくれるしアイデアも湧いてくる。だからライブラリーに囲まれている時は、ああ、自分の家にいるんだなって実感することができるんだ。

—あなたの家が火事にあったとして、本棚から5冊だけ持って逃げることができます。どのタイトルを選びますか?

ライアン: 5冊か……いい質問だね。そうだね、Tina Barney『Theater of Manners』、Richard Billingham『Ray’s Laugh』、Robert Mapplethorpe『Black Book』、Araki(荒木経惟)『Tokyo Lucky Hole』、あともう一冊、タイトルを忘れてしまったけどWill Mcbrideの作品だね。

—やはり写真集という形態は、写真を続ける上である種のポイントとなってくるのでしょうか?

ライアン: ああ、最も重要なことのひとつだよ。出版された本は、ファンとコミュニケーションしていると言えるんじゃないかな。僕がアーティストたちの本を見ることを大事に思っているようにね。本は、アーティストが作り出した作品を所有することを可能にするんだ。彼らが何に直面して、そこから生まれた作品のどこに自分が惹かれるのか、じっくりと考察することができる。ヴィンテージワインのように時が経てば経つほどに味が出てくるし、本は永遠に手元において置くことができるからね。

—次に撮りたいと思っている被写体、新たに取り組んでいるプロジェクトがあれば教えていただけますか。

ライアン: 新しいプロジェクトはないよ。でも、今度は秋と冬に撮影をする予定なんだ。葉が黄色やオレンジに染まる紅葉の頃、あと雪の中での撮影にも挑戦するつもりさ。寒さの中でヌードの撮影なんてこれまで経験したことはないからね。今はそのために、時間を掛けて準備しているところなんだ。

—あなたの作り出す作品の世界は、あなたにとって一体何なのでしょうか? 夢や、理想郷に通ずる何かがそこにはあるのでしょうか?

ライアン: そうだね、夢のようなものなのかもしれない。あとは究極の美。一日の中で自然が最も美しい瞬間、明るい黄色い花が咲き乱れている上に、空がピンクに染まっている。そこに立つ、モデルたちのすごく自然体な表情を一緒にフレームに収めるんだ。とてもベーシックな美しさと言えるだろう? ちょっと薄汚れているところはあるけど、それがさらに完璧な美を生み出す。僕は物語を作っているんだと思う。でも、僕の思い描いている世界と、君の思い描いている世界はまったく違うんだよ。エキシビションを訪れた人が、作品を見てそれぞれの物語を感じてくれたらいい。写真の中で一体何が起こっているのかってね。映画を見ている時のようにさ、自分自身を目の前の作品に投影させて思いを巡らせてみてほしい。

© Ryan McGinley Courtesy of the artist and Team Gallery, New York
Jessica & Anne Marie 2012


『Reach Out, I'm Right Here』
会期:2012年9月1日(土)~29日(土)
会場: 小山登美夫ギャラリー

© Ryan McGinley Courtesy of the artist and Team Gallery, New York
Turkin (Prism Violet) 2012


『Animals』
会期:2012年10月1日(月)まで
会場:8/ ART GALLERY/ Tomio Koyama Gallery

写真をゆっくり読む雑誌『IMA』創刊記念イベント
McGinley’s Zoo
日時:2012年9月1日(土)11時00分~17時00分(受付は16:30まで)
会場:アマナグループ海岸スタジオ
参加型写真イベント。新作『ANIMALS』シリーズと同様のカラフルなバックペーパーの前で行うスタジオ撮影に、モデルとして参加することが可能。撮影するのは、ライアン・マッギンレー本人。
※詳細は下記ウェブサイトを参照(現在事前申し込みは定員に達したため締め切り、当日券は未定だが受け付ける場合は同サイト内で告知)
http://www.goliga.com/ryan/

インタビュー ねこへん
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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