2011年08月22日 (月) 掲載
-- それじゃあ、バーで誰かに話しかけられても、話し返すんですか?
ティム・ロビンス:人との触れ合いを拒む事はしません。私は有名な事が特別な事だとは考えていないんです。自分を守る為にボディガードが必要だとも思いませんし…それって嫌な生き方じゃないですか。だから有名になった頃から、こういう“自分らしさ”は崩してません。たまに窮屈に感じる事はあるけど、ほとんどの場合は普通に生きてます。
-- それじゃ、身元を隠す為に変装したりはしないんですね。
ティム・ロビンス:しませんよ!有名人が変装するという事が私には解せない。そういう人ってもっと自分を目立たせたくて、結局、他人と距離を開いちゃうんですよ。お互いの無名時代から知り合いの友人がいるのですが、彼女は今、結構な有名人。久しぶりに映画のアワードショーで再会したんですが、たくさんのでしゃばりな人間が彼女の周りに群がっていたんです。「一体どうしちゃったんだ」と思いましたね。それで、彼女に聞いたんです。「最近地下鉄に乗ったのっていつ?」って。そしたら「地下鉄なんかに乗れないわ!」という答えだったので「いや、乗れないわけないだろう!」って言ってやった。
有名であるという概念って、自分の頭の中の産物でしかないんですよ。自分が有名人だからって人をはべらかして街中を歩いていると、もちろん人々の注目を浴びるに決まってる。でもいくら有名でも一人で歩いていると、何人かに気付かれる事はあっても、注目を浴びることはないから、トラブルもない。どんなスーパースターでも、現実はそんな物です。超有名人の友達に、マンハッタンを一人で歩かせてみたんで、実証済みです(笑)。
-- 他人の空似だと思う人が多いんじゃないですか?
ティム・ロビンス:いや、結構「あなたの作品好きです!」とか声はかけられるんですよ。でも彼らはそれを言いたいだけなんです。別に私に噛み付いたり、危害を加えようとはしていない。ただ、自分なりに有名人に話しかけたいだけ。たまにクレイジーな輩もいるけど、それは興奮してそうなっちゃってるだけなんですよ。悪い事ではないです。
-- 先ほどパンクに影響されたと言われましたが、アルバムにはあまりパンクの要素は入っていませんね。パンクはどういうものを聴かれてたんですか?
ティム・ロビンス:最初の方はザ・ポーグス、ザ・クラッシュ、セックス・ピストルズ等の“テッパン”ものを聴いていました。1977年がすごい衝撃的な年だったことは今でも覚えています。トーキング・ヘッズの1stアルバムが出て、エルビス・コステロの1stアルバムが出て、ルー・リードがStreet Hassleを出した。セックスピストルズ、ラモーンズ等はあの年に大ブレイクしました。エルビス・コステロとトーキング・ヘッズはパンクではないけど、音楽に新しい旋風を巻き起こしてくれた。それまではビージーズなどの酷いディスコ音楽が主流だったけど、そんな音楽シーンに変革をもたらした重要な年だった。
ビージーズの曲でも好きなものはいくつかあるけど…。でも私が好きなのは、まだ音楽性が高い楽曲だったんですよ。ほとんどは、本当に酷かった。だからあの変革は必要だったんです。浮ついてない、メッセージ性のある音楽を取り戻さなければいけない時代だったんです。
それで1977年にパンクが好きになりました。その後ずっと聴き続けて、LAに出てきた79年頃には、X、フィアー、ブラック・フラッグ等のLAのバンドがブレイクしはじめました。こういう音楽を聴き続けてたのは、音楽が重要な物だという認識があったから。音楽って軽薄なものではないんですよ。だから今まで自分の音楽は発表せずに、温めていたんです。
1992年には「音楽を出さないか」とたくさんのオファーをもらいました。その年「ボブ★ロバーツ」という映画を監督し、主演もしました。作中で歌うシーンがあって、その歌も弟と二人で書きました。あと、1992年はカンヌの主演男優賞やゴールデングローブ賞を頂いた年でもあり、世界はまさに思うがまま!といった時期だったんですよ。だから本当にたくさんのオファーをもらった。「アルバムを出しませんか?」ってね。だけど、その時音楽を通じて本当に伝えたいメッセージがなかったし、カバーアルバムなんかは出したくないから、首を縦には振らなかったんです。子供の頃、学校から帰ると父が音楽を作曲しているのをよく見ました。没頭して譜面に8分音符や4分音符や16分音符を譜面に書き込んでいる姿をね。だから、音楽作りのプロセスという物に対する敬意というものが私の中では大きいんです。もし音楽を作りたいんだったら、音楽が自分の中で大切な物じゃないといけない。自分が音楽を通して伝えたい事がないといけない。軽い気持ちで取り組むべき物じゃないです。音楽はカラオケじゃないんだから。
-- 2010年秋にアルバムを発表されてから、ツアー活動をされていますが、またスタジオでレコーディングをする計画はありますか?それとも今まで通り俳優業をメインにしていくんですか?
ティム・ロビンス:秋に映画を作るんですが、レコーディングもしたいですね。ツアーでアルバム未収録の新しい歌も試しに歌ってるんです。だんだん自信もついてきて、アルバム収録曲もだんだんカドがとれてきたかな。
-- 次回作も今作と同じような系統にするんですか?それとも音楽家ティム・ロビンスにとって全く新しい可能性に挑戦しよう、などといった思いはありますか?
ティム・ロビンス:新しい事に挑戦したいという思いはもちろんありますけど、突然、ミニマル音楽とかインドネシアン音楽などに軌道変更する事はないと思いますよ。そういう音楽も好きですけどね。まぁ次回作では何が起こるかわかりません。
-- このアルバムを作ろうと決心した時、俳優から歌手になろうとして失敗した先人達の事が脳裏をよぎりませんでしたか?
ティム・ロビンス:いいえ、でも1992年にたくさんのオファーがあった時はよぎりました。他の人が俳優から歌手への転向するやり方を見て、彼らのやり方はすごく音楽に失礼だと思っていました。
-- 俳優と音楽活動の両方のわらじをはくのに成功した人はいると思います?
ティム・ロビンス:ズーイー・デシャネルのバンド、She and Himのアルバムは良いですね。あとトム・ウェイツの演技も私は好きです。演技と音楽のクロスオーバーを上手く出来る人はいるんです。俳優であるから音楽をするべきではないとは、私は微塵とも思いません。ただ音楽に対してどう接するか。なぜ音楽をするかというのが大切なんです。
私はずっと他人に評価されて生きてきたから、他人を評価するような事は自分ではしたくないんです。もし何かに対して情熱を持っていて、それをやってて楽しいのであれば、やればいいじゃないか。人間は幼い頃から色々な人に「これをやっちゃだめ」「あれをやっちゃだめ」って言われ続けて生きている。
この前ふと思い出したんだけど、ある時、7歳か8歳の頃、ニューヨークの街角で悪ふざけをしていた思い出があるんです。そんな時、周りの子供たちには「面白いぞ、もっとやれやれ」っていうタイプと、「お前がやってる事なんて面白くないんだよ」と頭の固いタイプがいた。普通とは少し違う事をやってみようとしている子を見下して貶す子供が必ずいた。それはどの世界でも変わりません。普通とは違う事をやっている人を見下して貶す人間はどんな社会にもいます。若い頃コメディー俳優をしていた時にもそういう人はいたし、監督・脚本業を始めた時も「映画はやらせてあげてもいいけど、演劇はやるなよ」と難色を示す人がいた。結局こういう事を言う人っていうのは、自分からは何もしない人種。そんな人の話は聞く価値もない。「本業を辞めるんじゃないよ」とか言ってくる奴らもいるけど、なめんじゃねーぞって思いますね(笑)。本業でしか生きられないのはお前の方だと。私は自由に、正直に生きているんです。
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