清方の間『寒河江・慈恩寺 陣屋の雛人形』
2010年02月01日 (月) 掲載
山形の名家で江戸時代から受け継がれてきた雛人形を集めた『百段雛まつり』が、目黒雅叙園の東京都指定有形文化財『百段階段』にて始まった。日本全国の雛文化の中でも、贅を尽くしたものが多いとされる山形。その中から門外不出の雛人形を、普段は限定予約でしか見学できない百段階段で見るという夢のような組み合わせに、開催前から話題を集めていた。会場入口となっている螺鈿細工のエレベーターへと吸い込まれて行く人の姿は、絶えることなく続いていた。
展示は、百段階段の最初の数段を上がってすぐの『十畝の間』から始まる。元は信仰や女児の人形遊びのための道具であったとされる、雛人形の歴史と種類を紹介するこの部屋では、ずらりと並ぶ人形を見て驚くに違いない。非常に貴重な雛人形と雛道具はガラスケースなどに入っておらず、しかも近距離で見ることができるのだ。畳の間で靴を脱ぐせいもあってか、リラックスした気分で観賞できる。多くの客が、人形たちの豊かな表情に見入って微笑んだり、珍しい姿形をじっくり見ようとして、人形の前で多くの時間を過ごしていた。
『十畝の間』で基礎知識を得た後は、いよいよ本番だ。今回の展示は、百段階段にある7部屋に異なるテーマが設けられていることが特徴だ。ひとつの部屋に入り、ふと天井を見上げると、部屋と雛人形の雰囲気が完璧に調和していることに気づく。例えば、酒田市の旧家、加藤家の古今雛が展示されている『漁樵の間』。女雛が40センチ、男雛は43センチと日本最高峰の大きさを誇る雛人形が、全部で11体展示されている。百段階段の7部屋の中でも一番豪華な、精巧な木彫りに鮮やかな塗りと純金箔で仕上げられた部屋が、どちらも影役になることなく輝いているのだ。さらに、寒河江の料亭『慈恩寺 陣屋』の雛段飾りが展示された『清方の間』も素晴らしい。2間続きの奥の部屋に雛人形が飾られ、手前の部屋は客が座って見るためのスペースになっている。鏑木清方の儚い美人画の冬の場面と、およそ30体の雛人形とたくさんの雛道具からなる段飾りの朱色のコントラストに、息を飲まずにはいられない。
こうしたパーフェクトマッチの実現は、展覧会の企画者が何度も山形に足を運び、出品者と会うことで実現した。非常に壊れやすいものを長距離輸送するうえ、家族の一員と同様に大切に受け継がれてきた雛人形を、気候が大幅に違う東京で展示することに不安がなかった出品者はいないだろう。だがそうした出品者の理解のおかげで、展覧会を通して私たちは考えることができる。近年では桃の節句に雛人形を飾る家庭が減少している。問題は、住まいの狭さや風習の変化ではない。代々にわたって雛文化を大切にしてきた彼らの姿勢に思いを巡らせてみれば、日本の雛文化と、自宅で何年もしまわれたままになっている雛飾りについて、改めて考えずにはいられなくなるはずだ。
会場:目黒雅叙園 東京都指定有形文化財『百段階段』
会期:1月29日(金)から3月3日(水)
時間:10時から18時まで(最終入館17時30分)
※夜の特別鑑賞ツアー有(17時45分から20時まで、解説員によるガイドと食事付き、限定・事前予約制)
料金:当日券1500円 前売券1200円 未就学児無料
電話:03-5434-3140(目黒雅叙園 営業部)
ウェブ:megurogajoen.co.jp/event/hinamaturi/
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