食と観光の風評被害

『世界目線で考える』特別編 パート1

食と観光の風評被害

柴田玲、松嶋啓介、佐浦弘一、高島宏平、進藤昭洋、小澤弘視

松嶋啓介をホストに迎え、毎回、多彩なゲストとのトークライブをを行っている『世界目線で考える』シリーズ。今回は、特別編として『風評被害 vs 食と安全・安心』をテーマに、食や観光に携わる4名のゲストを招き、パネルディスカッション形式でそれぞれの業界の風評被害の現状と対応策について話を聞いた。

開催日:2011年5月12日
ホスト:松嶋啓介 司会:柴田玲
ゲストパネラー:佐浦弘一(株式会社佐浦 社長)、高島宏平(オイシックス株式会社 代表取締役社長)、進藤昭洋(観光庁 観光地域振興部 観光資源課 専門官)、小澤弘視(有限会社万両 エグゼクティブディレクター)

海外の同志と言える日本人の方たちも苦しい状況になってくる

柴田:松嶋さん、近況をちょっとお聞かせいただきますか?

松嶋:ここ2日ほどは、鎌倉と千葉の方に行って、生産者の方にお会いし、現状をヒアリングしていました。先週は1週間ニースにいて、少しゆっくりしながら、自分のお店はフランス料理と和食の店があるので、知人の店も含めたフランスの和食屋さんの状況を調べたり、その前の週はシンガポールにいたので、シンガポールにおける日本の飲食業への影響をいろんな人から聞いたりしています。それらを通じて、いい加減に対応策を打たないと、このままでは、海外の同志と言える日本人の方たちも苦しい状況になってくるなと実感しています。

柴田:松嶋さんは、お客さんとも接していますし、生産者の方とも接している。もちろん流通業や同業のレストラン、シェフの方、さらには、フランスでは観光にも深く関わられています。ですから、本日のトークライブのテーマに至るのは、ごく自然な流れだと思うのですが、特にこの特別編を開催したいと思われた理由は何でしょうか?

松嶋:正直、第3回目はやめようという話が、タイムアウトからも出ていました。準備期間も短いし、こういった状況の中でのトークライブはやめて、少し時間を置いてからまたやりましょうという話しがありました。しかし、こんな時だからこそ、やらなかったら何も手を打てないじゃないの?ということで、少し皆さんに無理を言ってやることになった次第です。今、起きていることを皆さんで把握して、次に何をしなきゃいけなのか。次だけじゃなくて、その次の次まで考えた上で、皆さんで連携して、日本の安全性・安心というものが、現状、あるかどうか分からないところも正直あるとは思いますが、安全・安心と宣言された後には、すぐに攻めていけるような準備をしておく必要はあると思っています。今日は、そのあたりを話していけたらと。

柴田:そうですね。それぞれ少しずつお立場の違うパネラーの皆さんにご参加頂いていますので、とにかく今起きている現在進行形のお話をたくさん伺えればなと思います。

風評被害の現状と対策を話し合っていくにあたって

柴田:それではまず、佐浦さん。現在のお仕事について少し伺えますか。

佐浦:私の会社は宮城県の塩釜という港町で、浦霞というお酒を造っています。地震と津波の浸水もありましたので、被災地で比較的軽かった、他の地域と比べるとましの方ですけれども、震災の影響で復旧作業中です。

柴田:本日は、いろいろな思いがおありだと思いますが、特に今日、これだけは伝えて帰りたいと思われるポイントがあれば、是非、教えて頂けますか?

佐浦:国内は日本酒に関してはまだ大丈夫ですけれども、海外の各国での輸入規制については危惧しています。そこはやはり、現在も厳しいものがありますし、すぐには(規制については)緩くはならないだろうなと、気がかりなところがあります。

柴田:では次に、高島さんのお仕事について少しご紹介いただけますでしょうか?

高島:私どもは、インターネット上でのスーパーマーケットですが、オーガニックを中心に無農薬の野菜とかお肉、お魚、お酒もありますし、スイーツ品などを販売しているということで、あまり農協さんとか卸さんとかを通じずに直接生産者の方から仕入れて、直接お客様にお届けするということをやっています。当社の場合、岩手宮城の農作物はあまりなくて、福島県が多かったんですね。水産品では、島牧気仙沼という直接のお取引先さんが被災をされました。

柴田:今日は、特にどんな思いで来て頂いたんでしょうか?

高島:今朝も仙台の生産者の人たちと情報交換していたのですが、やはり、2ヶ月経ってフェーズが大分、違ってきているかなと思います。これまでは、救済と復旧ということで、人命を救助し、救助された人々の生活をなんとかし、壊れた道路を立て直し、住むところを応急的に作るという最初の2ヶ月だったと思うのですが、今、現地でみなさんが、仰っているのは復興ということです。家は無事だったとか、そういう人たちも含めて仕事がないというのが最大の課題になっていて、東京に拠点をもつ私たちがやることも救済とか復旧の支援から復興の支援へということで、彼らが事業として、今までレベル、さらには今まで以上に、活躍して頂けるよう、私たちができることはなんだろうかということと、風評被害の問題をどういうふうにクリアしていけばいいかということを皆さんと一緒に考えていきたいと思います。

柴田:では進藤さん。進藤さんのお仕事についてのご紹介いただけますか?

進藤:観光庁の観光地域振興課というところに所属しておりまして、私は主に国内観光を担当しております。観光資源課というところに所属していますが、併せて、スポーツ観光課というチームのメンバーとしても仕事をしております。スポーツの方は、特にマラソンを担当しています。マラソンによる国内振興を図るということが現在の業務の一つとなっています。

柴田:本日、特に、思いを持ってらっしゃるポイントというのはございますか?

進藤:政府としては、戦略として観光が位置づけられておりますので、これからの日本を元気にするのは観光だという強い気持ちで職員一同、頑張っております。

柴田:そして小澤さん。

小澤:カオサンゲストハウスという外国人向けの宿泊施設をやっております。今、浅草を中心に東京で5店舗、京都と福岡と別府にございまして全部で9店舗あります。ベッド数が600~700くらいあります。外国人のお客様にしかベッドをお売りしていなかったので、風評被害という点についてはうちに限らず、インバウンド業界全般的にほぼ壊滅的な状況です。今回のメインテーマの食とは関係ないですけど、宿泊業をやっている中でいろいろ得られる直接的な海外の風評の状況ですとか、比較的把握できていますのでそのあたりを今日は、お話しできればと思っています。

柴田:リアルなお客様の動きについて是非よろしくお願いいたします。

松嶋啓介、佐浦弘一


「今は日本食を食べに行くのは控えたい」と。

柴田:では松嶋さん。ここからは松嶋さんにリードをお任せしたいと思いますが、今日のテーマは大きく3つ設けさせて頂きました。大きなテーマとしては、風評被害VS食の安心安全ということなのですが、まず1つ目は風評被害の実態について、それぞれのお立場で体感していらっしゃるものを明らかにして頂き、2つ目に、その風評被害への会社の取り組み、どんなことをすでに着手されているかについてお伺いし、そして3つ目には今後の展望、どんな風に見通しをたてて計画をたててらっしゃるのか、どんな思いでいらっしゃるのかというお話を伺えたらと思います。

松嶋:まずはあれですね。消費者視点ということですね。私は、原宿のレストランアイとフランスはニースのレストラン、KeisukeMatsushimaの2店舗を運営していると思われているんですが、実はもう1店舗、レストランセゾンという和食のお店をニースに構えています。直接被害があったのは実はそちらの和食屋さんです。フランス料理に関しては、東京のお店は、震災後、やはりどこの飲食業界も大変で、未だに厳しい状況のお店がたくさんあると思います。東京から人がいなくなる現象がおこりましたので、レストランは、震災から3~4日間くらいは、お客さんの入らない状態が続いて、1週間後くらいから少しずつ、このままじゃ景気がマズいということもあってか、皆さんの意識も変わり始めて、徐々に戻り、今は、ほぼ以前と変わらない状態になっています。ニースのお店では、フランス料理は、正直一切被害はなく、今まで通り営業していますが、和食屋は、やはり日本の食材を使っているということで、売上が一気にどんと落ちまして、お客さんの声を聞いても「今は日本食を食べに行くのは控えたい と。魚とか肉に関しては、地元の食材を和に変えるというコンセプトで始めた店ですので、お客様にはうちの食材は全部地元の食材を使って、日本人の感性で作っている和食ですよと最初からずっとうたってきていますが、それでも、醤油は日本から入ってきているでしょ?とか、味噌は日本からでしょ?とか、和食屋に行くのは控えたいと思うようで、この2か月は、元気のない状態がずっと続いています。それでもうちの店は、ニースの食材を利用していると最初からうたっていたおかげで、まだ、店に足を運んで頂けていますが、他の和食屋さんの話では、売上げが急落し、このままの状態が続くとお店の継続ができるかどうか心配だという方が本当に多いです。1ヶ月、2ヶ月と時間が経つに連れて、経営者の顔色は、少し悪くなってきているなという印象です。

柴田:ちょっと複雑ですが、風評被害と実際の被害、この二通りの被害があると思うのですが、どういうところで風評被害だと感じられることが多いですか?

松嶋:ニースのお店に関しては、やはり醤油であったりとか。日本酒に関しても、何の影響もない(震災)以前のものだと言っても、説明が足りないのか、お客様の中にできあがったイメージを打ち崩せないのかなと思います。かつて、口蹄疫の問題が羊で出た時には、日本の飲食業として、一気にそういうのを締め出した経験を自分もしていますし、テレビや報道によって作られたイメージを打ち崩すっていうのは簡単なことじゃないですね。と同時に、かつて起きた、イギリスでの狂牛病の問題を今、皆さんがどれだけ気にしているかというと、実際には、ほとんどの方が気にされていない状況もありますから、時間とともにそういった風評被害は、解消されていくのかなって、少し耐えなきゃいけない時期なのかなと思います。しかし、真実の情報を一刻も早く出していけば、いいんじゃないのかなって。それは、店をやりながら感じることですね。

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テキスト タイムアウト東京編集部
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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