食と観光の風評被害

食と観光の風評被害

高島宏平、進藤昭洋、小澤弘視

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安全だと言っているのも読んで知っている。でも、それを信用できない。

松嶋:ホテル業界は、風評被害によって、ほんとに首の皮一枚でつながっているという状況だと思いますし、大きなホテルだったら企業の宴会の自粛があったりと、すごく大変な時期を迎えていると思いますがいかがですか?

小澤:最初に申し上げておきますと、うちはゲストハウス、簡単に言うとユースホステルみたいなところです。お客様は20代の方がほとんどで宿泊単価は2,000円~3,000円くらい。いわゆるバッグパッカー、リュックサック背負ってくる人たちを中心に販売をしているんですが、海外からのお客様でバックパッカーで日本に来られる方って日本のコアなファンの方なんですね。この方達が来るか来ないかというのは宿泊だけではなくて日本全体に対するイメージが、今どうなっているっていうのをある程度正確に反映していると思っています。その前提がある中で具体的に今どうなっているのかということ言いますと、稼働率的には4月が一番底だったのですが、7割~8割ほど落ちています。これはうちみたいにインバウンド専門でやっているところは売り上げがそのまま落ちていると言う状態です。単価の上がったところでホテルでもビジネスでやってらっしゃるところでも、インバウンドに関しては7割~8割は減っていて、ほとんど壊滅状態なところに来ています。4月の団体に関してはほぼ全滅です。団体で日本に来た、東京に来たという方を全く聞きません。僕が知っている範囲では、ほぼ壊滅というところまで実際問題、地震の直後は落ち込んでいます。

風評被害については、僕は直接現場でキャンセルの対応を受けていまして、いくつかの段階に分かれていたと思っています。まず、第一段階は、地震直後から三日目くらいだったでしょうか。これは、ほぼパニックの方々です。彼らが、見ているのはほとんどテレビ報道なんですが、自分の国でひどい状況がニュースで流れたからと、そこからすぐキャンセルの電話が入ってきました。三日間くらいは不眠不休でキャンセル処理みたいなことがずっと続きました。具体的にどういうことが起こっていたかというと、僕らはキャンセルの電話からでも海外での状況がどうかというのは掴めますので、話を聞いていると、ほとんど日本が壊滅しているからもうダメだという話であったり、実際、後から来られた方に聞いたのですが、インドネシアのテレビで福島のニュース中にチェルノブイリの映像がそのままインサートされてそれが福島だということが流されていたりしたようです。こういうことが割と普通にあったようで、中国の新聞でもありました。さらにこのパニックの原因は、もう一つあります。三日目くらいまでの海外の報道の情報のソースが、ほとんどパニック状態であった震災時に東京にいたその国の人達だったということです。あの時期、実際に日本に来て取材している方なんて誰もいません。僕らのところにも取材依頼がだいぶん来たんですが、イギリスのメディアからもオファーがあって、とにかく宿泊しているイギリス人を電話口に出してくれということでした。震災一日目なんてほとんど帰宅困難な方で、東京がぐちゃぐちゃでしたから、その状況を見た旅行者から、もうこんなにひどい状況だということが伝わります。それがそのままその国のメディアに流れて伝わっていく。同じ時期に、成田空港が一時閉鎖になるって話があって、これはフランスですが、その日までに空港か大使館にくれば逃がしますが、そこから先は保証できませんっていう大使館からの通達が宿にあったんです。泣きながら帰っていくフランス人の女の子とかを実際目の当たりにしました。こういうことがまた、海外の報道のニュースソースになっていきます。このようにパニック的な報道がテレビを中心に一斉に流れたのが第一段階です。この第一段階による意識付けは、未だに、解消されたという印象がありません。この時の印象に留まっている層は、まだいると思います。ただ一時的な、パニック的な報道によるものなので、楽観的にみれば、放っておけば忘れられていくように思います。昨日もアメリカに居る人と話をしたんですが、ほとんど震災について報道されていないと言ってました。もう忘れているか、あるいは、あの最初期の印象がそのまま残っているのかどちらかだと思います。

第一段階のあと、一週間くらい経過してから、状況が変わってきました。テレビとか新聞とかをぱっとみてパニックに陥った層ではなくて、ブログとかですね、日本の情報をインターネットで調べてとか、SNSで調べてとか、比較的、自分でちゃんと情報を調べる人たちによる風評被害というのがでてきました。この人達の傾向は、完全に’疑心暗鬼’というものです。情報を自分で調べたけれどもどうしても信用できない。こういう人たちからのキャンセルがパニックの次にきました。この層に関しては、まだ拡大している可能性があります。瞬間的なパニック報道ではないので、よく調べていますし、安全だと言っているのも読んで知っている。でも、それを信用できない。風評被害って拡大しているところと収束しているところと両方あるように思います。

僕たちみたいに、インバウンド専門で扱っているところでは、国籍で傾向がかなり見えてきています。最初のパニックで煽られている人の中で、忘れてしまうとか、あまり気にしないっていうのが、アメリカ、イギリス、オーストラリアです。これらの人たちは忘れるのが早い。僕らは、海外の旅行サイトで販売しているんですが、カスタマーズレーティングが出るんですね。これら3地域は、カスタマーズレーティングが高いところでもあります。比べて戻りが遅いのは、アジアです。アジア地域では、カスタマーズレーティングがアメリカ、イギリス、オーストラリアと比べて1割ほど落ちるんですね。細かいことをよく気にする傾向があります。もうひとつ、サイトへのアクセス状況をみると、アメリカ、イギリス、オーストラリアは、SNSとかブログとかそういうところからのリンクが、ほとんどないんです。逆に、アジアの人は、SNSとかブログとかBBSとかものすごく口コミを見ている。それらをみて、慎重に選んでいる。そして、このよく調べている人たちの戻りが圧倒的に遅いです。

その後、第三波っていうのがありました。停電です。停電の場合、実害が実際あったところとなかったところがあって、箱根とか日光とかは、電気が止まっちゃいましたから、食事時に停電とか、お食事が出せないとかですね、食にも繋がりますが、実害が出ました。でも、東京なんかは大丈夫でした。しかし、日本に電気が足りなくて、こんなに大変な状況なんだから、自分たちが(旅行に)行ったら迷惑になるだろうっていう方が、かなりいました。こういうことが、もう一度、夏に繰り返されることになると、また新たな風評被害が広がる可能性があると思っています。

進藤昭洋、小澤弘視


※ パート2に続く

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テキスト タイムアウト東京編集部
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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