松嶋×白石康次郎 サムライ対談 後編

日仏一つ星シェフ松嶋啓介が、日本の観光を世界目線で考えるシリーズ第2弾

松嶋×白石康次郎 サムライ対談 後編

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2.最低限のコミュニケーションの能力、資質とは

司会:松嶋さんの場合は、現場で求められる“最低限”のもが、単語だったわけですね?

松嶋:そうですね。僕の場合それだけ覚えて行けば何とかなる、と思ってました。僕は福岡出身ですけど、普通に街を歩いていて外国人に出会うことは殆どなかったんですね。それでもたまに出会った外国人に声をかけられるんですよ「ハロー」って。そうしたら「やべ、全部英語だぞ。これは無理だ」と思って無視しちゃうんです(笑)。ただそういうときに「こんにちは」って日本語で声をかけられると「なんか困ってるのかな?」と思って助けたくなるな、と思った経験がありました。それで、あいさつはかならず現地の言葉でしよう。その国の言葉で話しかけよう、と心がけています。最初の印象が良ければ、向こうは耳を傾けてくれますからね。あとは自分の世界へ持っていって、地図をいきなり見せて「ここへはどうやっていくんだ?」とか聞けばいいわけです。調理場でもいつもポケットに辞書を入れていて、同じようにやってました。

白石:僕の場合は、まず笑顔でしょうね。そうすると教えてくれるし。ヨットレースでも、だんだんと僕がどれくらいの単語を知ってるか、周りがわかってくるから、「コウジロー、こういうことだよな」と、僕のわかるような英単語を使って話しかけてくれる。ホントだいたい そんな感じですね。

松嶋:それで、よくチーフとして務まりますね(笑)。

司会:下手にもがかないって感じですね。

松嶋:潔い、って感じですかね

白石:(笑)。ま、わからない時は「わからない」って言うしね。

松嶋:それが一番重要なんです。「わからない」って言えることが。「わからない」って、辞書を出して「どういう意味?今言った単語聞き取れなかったから教えて」と聞く。まず「書いてくれ」と、その言葉を書いてもらって、辞書を広げてその言葉を探して、教えてもらう。コツはちゃんと頭を下げることですね、教えてくれと。

白石:向こうも喜ぶよね、聞くと。それでこちらも「なるほどね」とメモを取る。今度は僕がかわりに日本語を教えてあげたりして。どうしてもやっぱり恥をかくんですよ。知らなかったり失敗したり。

司会:お二人には失敗談とかありますか?

松嶋:失敗談だらけですよ。

白石:語学に関しては、もう何が失敗かも分からないくらいだから(笑)。でも恥を知ればいいんですよね。そうすれば、やがて恥をかかないようになるんですよ。恥を知らないと、ずっと話さないとかになっちゃうから、もう積極的に「ごめんなさい、わからない」って教わればいい。それで、向こうがこっちに悪い印象は持たないしね。

司会:「わからない」「教えてください」に救われたことはありますか?

松嶋:いまだにそうですよ。いまだにわからないから、人と話をしたいと思ってる。「教えてください」というのはよく言います。アタマを下げるのはタダですからね。ただ、何も勉強して来ないで「教えてください」と言っても「出直してこい」ってことになりますけど。

白石:僕の場合、ヨットレースの大会ではアジア人はひとりだから、インタビューでは、まず片言の言葉でも聞いてくれようとするんだよね。西洋の文化と違う何かを僕が話すことを楽しみにしてくれてる。別に流暢な英語じゃなくて、片言でも全然かまわない。別に流暢に英語を話す日本人を見に来る訳じゃないんですよ。僕は別に自分自身を飾ろうとはしてないし、思ったことを素直に言ってるだけなんです。


3.相手側との信頼関係の構築

松嶋:人にはすべて長所と短所があります。自分自身はもちろん、スタッフの一人一人にもありますから。だから、できるだけその長所を引き出してポストを決めて、うまく使ってあげる。そして成功体験があって、彼らの笑顔をみて、それを分かち合う。シェフとして大事なところです。そういった考えは、料理にも通じますね。

食材にもひとつひとつ長所と短所があって、それぞれの長所と長所をうまく組み合わせてあげると予想していなかったハーモニーが生まれる。日本の場合は、調理法を聞くと、どちらかというと短所を埋めていく作業が多いように思います。短所の部分に手当をして平均化していくというか。それがフランスと日本の間での違いだと思います。同じようなことが日本人の性質の中にもあって、僕はどちらかというと、ひとつひとつに対面したとき、相手の悪いところは 残したまま、それ以上に長所を伸ばすようにしています。食材でも人でも。長所が良ければ短所は見えないんです。短所を消すくらい長所を伸ばせばいいんですよ。

白石:僕の場合、世界中を船で周ってるでしょ。そうすると地球の距離感が分かるんです。動力は風だけですから、暑かったり寒かったり、風が強かったり安定したり、全部ダイレクトに感じる。そして、港に入っていくわけです。

先ほど、日本の話が出ましたが、日本人がいかに特殊かって言うと、2000年間ずっとお米を作ってきたんですよね。僕の先祖は富山なんですけど、ある日、伯父さんに「康次郎、米は一人で出来ないんだぞ」と言われたんです。これが日本人なんですね。一人だったら米を作るのは無理なんです。みんなと協力しないかぎり絶対成り立たない。仲間から外されてしまうのが一番怖いんです、だって食えなくなっちゃうんだから。フランスというところは日本に比べてほぼ倍の土地があって、人口は二分の一。その中で農地に出来る土地は95%といわれるけど、日本は25%であとは山。そうなるとフランスは種をまいて7割収穫出来ればいいんだけど、日本はほぼ100%で作物を作らなければいけない。だからああいう精密な製品ができるんです。僕は地球を見てきて、いろんな国の文化の違いを実感出来るんですね。

司会:船で海を航海して行くとそれぞれの場所への距離感や文化の違いを肌で感じられるということですね。

松嶋:一皿の例を出しましたけど、普段は自然との対話です。山に登って今の旬が何か、市場や海に行って自然を感じたりとか。海の温度がいま何度でどういう魚が揚がってくるんだろうとか。なるべく自然を感じながら旬のものを最大限に引き出して、どういうものを作るかしか考えてないんです、基本は。

これが信頼関係にどう繋がっていくかと言えば、相手をどう知ろうとするか。相手も局面によって、人間性が変わってくるので、相手の置かれている環境をどうやって知るかが大事だと思います。それがホスピタリティ。おもてなしにつながっていく。フランス人が自分の家に来るというときに、その人の出身地のワインを用意しておくと大変喜ぶと思うんですよね。そういう風に相手を知ることが一番最初の信頼関係のきっかけになるので、これから海外に出かけて 仕事をするときにはまず、相手の国の言葉であいさつをするとか相手が喜ぶようなお土産をもっていくとか。そういうことを積み重ねていくことが大事だと思います。

司会:松嶋さんから最後に今日のまとめといいますか、白石さんに伝えたいこと、お聞きしたいことがあったらお願いします。

松嶋:康次郎さんが、こうやって皆さんの前で「僕は英語をしゃべれません」とはっきり言うことが、僕はすごいことだなと思います。自分の駄目なところを一番最初にスパッと言ったのはすごいなと思いますね。

白石:(苦笑)まぁ、嬉しいことじゃないけどね。

松嶋:その代わりに他のことはきちんとやるから助けてくれよ、とちゃんとSOSを出していますよね。そういう人だと 潔いな、一緒に何かやってみようかなという気持ちになると思うんですよ。キャプテンが最初から「俺は何でも出来る」というところだと、ちょっと自信のない人は「ついていけばいいや」と思いますよね。でもキャプテンが「俺はこれはやれるけど、あれはやれないからお願い」って言われたら、ちょっと能力のある人たちは「一緒にやったら何か体験出来るのかな?」と感じるはず。そういう気にさせてくれるのが康次郎さんなのかな、と思いました。ちゃんとそうやって自分を説明出来るのは、今の日本に欠けていることなのかな、とも。

白石:今の若者に足りないなと思うのは。いま情報化社会でしょ、いろんなことを知ってしまうんですよね。だけど、いくら水泳を勉強したって、教室でクロールの泳ぎ方がわかったって、飛び込まなきゃ泳げないんだぞ、と。 これはあくまでもファーストステップとしてですが。そのあとは松嶋さんのようにちゃんと勉強してやらなきゃいけないですよ。でも、まずは飛び込むこと。そこから、コミュニケーションをとって、一所懸命勉強して。いつまでも話さなくていいんだなんて言ってたらバカにされるからね。ひとつひとつ言葉を覚えて、 方言を覚えていくのが、今おすすめできることかな。今の学生さんや若い人にね。

松嶋:そうそう。やっぱり飛び込むというのが、まず一番で、それからすぐに動いていくということですね。

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テキスト タイムアウト東京編集部
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