2011年10月03日 (月) 掲載
料理修行のため、21歳で単身渡仏、世界の舞台で挑戦を続けてきた松嶋啓介。10年の時を経て、ニースでオープンしたレストラン『KEISUKE MATSUSHIMA』と原宿の『レストラン アイ』で、それぞれミシュランの一つ星を獲得。その行動力もさることながら、結果も残してきた松嶋は、「外に出たことにより気づかされた日本の素晴らしさ、そして逆に外に出たからこそ知ることのできた日本の問題がたくさんある」と語る。そんな彼をホストに迎えた全6回シリーズのトークイベント『世界目線で考える』の3回が、タイムアウトカフェ&ダイナーにて開催された。ゲストは、本田直之。「海外に通じるPR・マーティング力」をテーマに掲げて展開されたトークショーの様子を公開。
司会:今回のテーマはどういった思いで、選ばれたのでしょうか?
松嶋:海外から見ていると、日本のどの企業も営業をうまく行えていないと前々から感じていました。外務省や経産省、日本領事館などに足を運んだ時も、自国の文化を海外に魅力的に発信出来ていないと。本日は本田さんと一緒に、海外での効果的な方法について伝えたいと思います。本田さんは日本とアメリカに対してハワイがどのようにPRを行っているのか、僕自身はヨーロッパからの視点で話せればいいと思います。
司会:今日は松嶋さんがトレードマークの真っ赤なシャツで、本田さんは…。
本田:ビーサンです(笑)。
司会:ハワイスタイルでお越しいただきました(笑)。本田さんはハワイと東京半々で生活というご紹介させていただきましたが、具体的にはどのような感じでしょうか?
本田:日本では約4ヶ月程過ごします。日本の蒸し暑い夏が得意ではないので、その間はハワイで過ごしますね。年の前半は基本ハワイです。今はアカデミーディバンというワインスクールで授業を教えているので、授業のために毎月1週間くらい帰国します。
司会:では、松嶋さんの生活サイクルは?
松嶋:昨年までは2週間ずつ日本とフランスの往復でしたが、1年間その生活をしていたら疲れましたね。 今は毎月3週間はフランスで1週間は日本に滞在というサイクルです。フランス国内でも1ヶ所に留まらず移動していますね。イタリア行ったりスペイン行ったりフラフラしています。
司会:どうやって時間のやりくりをされているのですか?
松嶋:まず、時差ボケ解消のために走ります。体のリズムを作るために毎朝決まった時間に決まった距離を週2~3 回走りますね。ランニング中は色々なことを考えます。頭の中で整理するための、実は一番大切な時間なんですよ。走りながら考え事をして、そのアイデアを後でノートに書き込みます。海や自然を見ながら走ると、季節の移り変わりなどに敏感になってきて、観察力などが自然と身についてくるのを感じます。仕事でも観察力ってすごく重要だと思う、そういった意味でも走ろうと心がけていますね。
司会:様々な効力があるのですね。
松嶋:ニースだとだいたい同じコースを走ります。日本では、福岡や名古屋、大阪などの地方都市に行く時は現地のマラソンコースをとりあえず走ってみます。車やタクシーの窓越しに見えるもの、またウォーキングとランニングでは街の見え方は全然違うので、違った雰囲気などを感じて楽しんでいます。 自分の足や体を使って感じる”人のマーケティング”の一環だと思いながら走ります。あと世界中どこでも現地を必ず走って、自分の足で距離感を覚えることも行っていますね。
司会:常にランニングシューズをお持ちなのですか?
松嶋:もちろん持っていますよ。体調整えるために、あとはマーケティング力を養うために。
司会:本田さんは今のお話聞いていかがですか?
本田:僕も同じですね。海外へ行くときはシューズを必ず持参します。時々、自転車も。あとはときどき水着なども持っていきますね。大会で海外に行くということも多く、移動が多いのでメリハリをつけて時間をコントロールしなければなりません。僕の場合は朝早く起きてトレーニングして走ったり、自転車乗ったり泳いだりして1日の流れをコントロールします。実は僕、すごく怠け者なんですよ。だからそういった流れを意識的に作らないとダラダラしちゃう(笑)。ある意味、自分自身を動かすために運動を取り入れているという部分もありますね。あとは、松嶋さんと同じようにまさに考えるときに走りますね。
松嶋さんの話にもあったように考えるために脳を鍛えるには、運動しかないという本を読んだことありますか?『スマーク』という本ですが、マラソンのようなそれほど高くない負荷で30分、1時間運動することで脳に行く血液が増えるので、アイディアが浮かびやすくなったり、クリエイティヴィティが増したりするという内容。数人で走ってからミーティングをすると、意外と良いアイディアが出てくるんですよ。朝の時間に合わせて、他の人たちと走りながら考えることもできるし、体にもいいしということで一石二鳥なんですよ!
司会:でもこんなにお忙しい方々が、ランニングの時間を取り入れてらっしゃるということはやっぱりそれなりの効力と、効果があるんでしょうね。
本田:東京で走る時は逆に1人では走らないですね。誰か誘って、「どう最近会社は?」なんて言いながら走ります。色々な人の話を聞きながら、世の中の会社はこうなんだって参考にしながら走ります。正にミーティングジョギングですね。
司会:さて、今回の本題「海外でも通じるPR・マーケティング力」ということで、サブテーマを2つ設けさせていただきました。1つは「体験型観光資源開発がアツい!」これはマラソンですとか、スポーツの位置づけについてがメインとなります。2つめのサブテーマが「世界で上手くマーケティングをしているところを参考にしよう、成功者をマネしよう」です。まず体験型観光資源開発がアツいというテーマから。
松嶋:ニース住んで9年目なのですが、3年前に市長が変わったんですね。その市長はスポーツ選手として名を馳せていてバイク競技にも出場している方。市長のクリスが就任してから、海岸沿いの道路がとても綺麗になったんですよね。その道路の整備をしただけで、年1回開催だったトライアスロンの回数が増えたんですよね。トップが変わるとこんなに変わるんだなってことを改めて実感しましたね。 マラソンに関しても、今まではセミマラソンのみでしたが、マラソン大会ができました。そういったスポーツ大会が増えてくると僕ら飲食業が潤ってくるんですよね。ヨーロッパだと飲食業も観光業の中に含まれますからね。
司会:それはやはりスポーツが重要な観光資源だということですか?
松嶋:そうですね。市長自身がスポーツは重要な観光資源だと理解しているので積極的に取り組んでいますね。また観光課の人たちがニースにおけるスポーツの国際大会に関してのPRを世界で積極的にやっていますし、その他の地域も観光資源である自然や景観が素晴らしい所はそういった大会を積極的に開催していますね。そのおかげで海外から多くの人が集まっていますね。また、フランスには食があるので、観光も楽しんで、スポーツもして健康になって皆帰るという印象があります。そういうPRのやり方がフランスにハマっているのだと思いますね。
司会:もともとその土地の潜在能力があったけれども、それを活かすのがスポーツ大会だということでしょうか?
松嶋:そうですね、スポーツ大会がフランスの魅力を上手く活かしてきたと思います。おそらく1998年にフランスで開催されたW杯は、今までのW杯史上の中でも成功した大会だと思います。そういった体験を生かして国民が取り組んだので、スポーツに対する可能性があるということを国民全体が実感したんだと思います。また、PRのやり方も上手かったと思いますね。PRに関して言えば、民も官も熱心です。ホテルの場合だと、ニースのホテルがグループを作ってマラソン大会など、スポーツイベントへの予算を捻出し合ったりしています。地元のスポーツチームと連携したり、スポンサーを見つけてきたり、スポーツメーカーと組んだり…。また、ニース市がテントの貸出等も行ったりしていて、本当に民・官一体となって大会に協力してPRを行っていくんです。また、当然ですが市長自身も走るんですよ。元スポーツ選手ってだけあって、毎朝日曜日に海岸を走るんです。自分も走りますという姿勢が市民を引っ張っていくのかなと感じていますし、市長本人も海外で営業しているから、その後を皆がついていくという雰囲気と環境作りが出来上がっているなと思いますね。
司会:本田さんはいかがですか?
本田:時代が変わってきて、現在では海外を旅行することは驚きじゃなくなってきましたよね。観光地をまわるだけだと物足りなく感じるのです。ハワイに関して言えば、以前に比べて現在は50万人程減少して日本人観光客は150万人程度。バリやプーケット、もしくはヨーロッパ行こうとか他に選択肢が出てきたということもあるし、観光だけではなく+αの体験型のもしくは経験できるようなものが求められてきたように感じます。ハワイもスポーツ大会、ホノルルマラソンをはじめとして、トライアスロン大会だとかアイアンマンとかね、そういった大会に参加することでよりその土地を楽しむということが必要になってきますよね。大々的な大会だけではなくて、水泳大会も毎週のようにあるし、20kmの短いランの大会など、自転車の大会もあります。実は探してみるとハワイには気軽に参加できるスポーツ大会がたくさんあるんです。自国の大会ではなくて、海外のそういった大会に参加するということは新しい体験ですよね。また、現地の人とのコミュニケーションもあったりして刺激になりますよね。スポーツを通して会話をするのでそれほど高レベルな語学力が必要ではなくて、言語というよりも、「疲れたよね」とか、「面白かったよね」といった他愛もない会話でコミュニケーションがとれて、また新たな自分の一面が見れたりすると思いますね。
こういった体験型・経験型の観光がこれから海外に向けてPRしていくことになるのかなと思うと同時に、地元だけの大会にしてしまうのではなく、もっとオープンにしていったらいいのではないかなと思いますね。
松嶋:経験型といえば、料理教室をやってほしいと市からお願いされることですね。英語が話せないからといったら、市が通訳をつけると言ってくれるんです。二ツ星三ツ星のレストランはもちろん、一部の一ツ星レストランもだいたい料理教室を開いています。料理教室をするためのスペースもそれぞれ持っているんですよ。国内外から参加者が集まるので、実は需要があるんですよね。残念ながら、日本ではまだこういった動きはないようですが…。
司会:星の数が世界一多い国なのに残念ですね…。
松嶋:料理教室と言えば、この間レンズ豆などで有名なオーベルニュ地方に行ってきました。伺ってみたら料理教室のための調理場があるんですよ。しかもレッスンが終わった後に、生徒達が食事できるサロンも完備。メニューも地元の特産品を使った料理ばかりで、料理教室を通して地元の食材を知ってもらい、更にレストランでレンズ豆の加工品や地元の食材も販売していましたね。
司会:それは日本でも開催できると思いますか?
松嶋:十分できると思います。レストランが食材やお土産をプロデュースしているところもあります。でもそのお土産を料理教室で一緒に作るという発想はまだないでしょうね。
司会:一緒に体験というのがキーワードですね。
松嶋:そういった点では、一緒に作って味わって感動するという感覚は、ただ観光するだけで味わう感動とは随分異なってくるのではないかなと思いますね。また、それを土産話として伝えた時に自分自身も思い出しますし、その商品をたまたまデパートなどで見かけたら、間違いなく買っちゃいますよね。
司会:面白いですね。特にフランスは食ですけれども、ハワイはその体験型のもっとも顕著なものがスポーツになるのでしょうか?
本田:そうですね。やっぱりスポーツ全般、勿論サーフィンとかゴルフとかもありますし、もちろん食も魅力のひとつです。最近はファーマーズマーケットなども盛んですね。「KCC」というダイヤモンドヘッド下方に、ファーマーズマーケットが流行っていてワイキキとかカハラとか、至る所で週末に開催されています。現地の人や、ローカルフードを物色しながら、その人達とコミュニケーションとりながら、味わうのは楽しいですよ。
司会:以前はロコモコやハワイアンスイーツで十分楽しめたけれども、もっとローカルなものを楽しみたいという要求が増しているっていうことですよね。
本田:今、ものすごい流行っていますね。ファーマーズマーケットにも観光客の人がたくさんいるんですよ。
司会:ファーマーズマーケットで野菜を買ってコンドミニアムで自炊…といった体験をしてらっしゃる方もいそうですね。また、スポーツに関してですが旅先のハワイでサーフィンやランニングをしている人は多かったと思うのですが、あえて大会にすることのメリットはありますか?
本田:たとえば、アイアンマン。この大会は世界25ヶ国で開催されています。ひとつの国だけでPRすると大変ですが、この場合はグローバルな横串のネットワークを使って宣伝できるんですよ。アイアンマンは3,800m泳いで、自転車で180km、その後にフルマラソンを走るというトータルすると12時間くらいかかる大会なんです。僕は、去年も今年もオーストラリアの大会に出て、来年はオーストリアで出場します。横繋がりのネットワークのおかげで、どのエリアのアイアンマンにでようか?という選択肢が増えましたね。
食に関しても同様で、サンペレグリノが世界のトップ50レストランを選んでいます。こうやって特定のエリアだけでなく、ジャンルによって横串的な紹介の仕方もアリだと思いますね。そうすることで特定への関心だけではなく50のレストランに皆が興味を持ってくれて、広範囲にわたってPRができますよね。その横串を作ってみるというのはいいと思いますね。
司会:このように地方には様々な魅力的なコンテンツがありますが、人々から長く愛されるためのアイディア、今日のテーマでもあるPRなど、ただ開催するだけではなく、+αのセンスを感じる例を教えて頂けますか?
松嶋:オバマ大統領の選挙後に始まった大会で、Yes, we "Cannes", the marathon is "Nice"というスローガンを掲げているニース・カンヌ マラソンがあります。大会名がフランス語ではなく英語なので、国際大会というニュアンスが分かりやすく表現されているのがいいですね。英語圏の人も、ああいうジョークを見ると行きたくなるのかなって思います(笑)。
司会:最初から、外国からも人を呼ぶつもりかどうかで大会の作り方も変わってきますよね。たとえば、英語で告知をするのかどうかとか…。
松嶋:ニースは確かウェブサイトがあるんですけど、最初から3ヶ国語か4ヶ国語対応ですね。そもそもヨーロッパの避暑地として有名でインターナショナルな場所なので地元の人達が3ヶ国語話せて当たり前といったレベル。観光庁が開催しているホテルスクールにほぼ無料で学生として通うこともできますし、語学力をそういったところで身につけられる環境も整っています。また、エールフランスではマラソン大会のエントリー番号を予約時に伝えると国内の移動だけではなくて、海外移動も含めて飛行機代が安くなるといったサービスもあるんです。そういった連携がしっかりしていますね。そのサービスも確か4ヶ国語くらいは対応していますよ。
司会:人を海外から呼んで、自国を観光してもらおうという姿勢が見られますよね。そういった連携は、ただスポーツを楽しんでくださいというだけではないですね。
松嶋:一度大会に出ると、自然とまた違う大会にも出たいと思うんですよね。マラソン大会の運営会社のサイトを見ると別の大会のリンクもあるし、航空会社のサイトでも海外のマラソン大会をチェックできる仕組みがあるんですよ。同時に登録しておけば希望のマラソン大会のリマインドメールが届くようになっているんです。
司会:システムもそうですが、気楽に参加できるところがいいですよね。3ヶ月前から要予約などの縛りがある日本の大会などに比べてハワイなんて前日に問い合わせても当日来てくださいというのもあるので、旅行中に現地で思い立って大会に参加できるのが魅力ですよね。
本田:人気の大会や競技として出場する大会は事前予約があるのはしょうがないと思いますが、やっぱり基本は楽しもうという精神が大切ですよね。だからハワイではある意味でアバウトだし、当日参加可能といったような雰囲気はいいと思いますね。
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