松嶋×白石康次郎 サムライ対談 前編

日仏一つ星シェフ松嶋啓介が、日本の観光を世界目線で考えるシリーズ第2弾

松嶋×白石康次郎 サムライ対談 前編

料理修行のため、21歳で単身フランスに飛び出し、世界の舞台で挑戦を続けてきた松嶋啓介。10年の時を経て、ニースでオープンしたレストラン『KEISUKE MATSUSHIMA』と原宿の『レストラン アイ』で、それぞれミシュランの一つ星を獲得。行動し、そして結果も残してきた松嶋は、「外に出て気づいた日本の素晴らしさもあるし、逆に外に出て気づいた日本の問題がたくさんある」と語る。そんな彼をホストに迎えた全6回シリーズのトークイベント『世界目線で考える』の第2回が、タイムアウトカフェ&ダイナーにて開催された。ゲストは、海洋冒険家の白石康次郎。「片言の語学力でも必要なのは伝えようとすること」をテーマに掲げて展開されたトークショーの様子を公開する。


司会:まずは本日のテーマ「片言の語学力でも必要なのは伝えようとすること」において、なぜ白石さんをお呼びしたのか。それを御用意いただいた映像を見ながらご本人に紹介して頂きたいと思います。

白石:今日のテーマに“カタコト”とありましたが、僕は“カタ”ぐらいなんですよ。もし僕がべら べらにフランス語とか英語とかスペイン語とかをしゃべれれば、全世界の海岸線でOKなんです。大体90%ぐらいは、OK。大航海時代の名残りなんだけどね。でも、僕は本当に、言語能力がないんですよ。松嶋君はペラペラだもん(笑)。

司会:そもそも言語習得に、向き不向きってあるんでしょうか?

白石:ありますよ、声を大にして言いますけど、大いにあります。言語能力と言うのは女性の方が得意なんです。料理もそうなんですけど、”女性”が入っていないと、アーティストにはなれない。

松嶋:女性っぽい、と言うことですか?

白石:女性の繊細さは言語能力にはよくて、僕みたいな野蛮人は、空間認識能力が高いんですよ。だから、地図読みとかは、まず迷うことはないし。体内コンパスのおかげで方角に関しても全くコンパスを必要としない。だけど、そっちに振れちゃったから、言語能力を忘れてきちゃったんですよね(笑)。でもどうです?シェフって繊細さが必要ですよね?

松嶋:繊細さはもちろん必要です。

白石:アーティストだからね。多少女性っぽくないと…。だから、言語能力も発達してるはずですよ。僕はもう完全に苦手です。

松:その割には日本語ではものすごくしゃべるじゃないですか(笑)。

白石:そうそう。だから外国の人に「お前はおしゃべりなのに、これだけ言葉で苦労するんだったら、一所懸命に英語を習った方がいいんじゃないの?」って言われたことがあります。いいこと言うなぁ、と思って(笑)。でも僕のヨットの師匠が、日本人なんですが、彼もこんな感じだった。僕が鞄持ちとして師匠のところに行ったときに、彼の外国人の友達全員が「何だっけなぁ」って日本語を知ってたの(笑)。師匠は、英語を覚えんじゃなくて、彼らに日本語を覚えさせたんです。大した師匠でしたよ。自分が英語を覚える前に回りに日本語を覚えさせる、という。いいか悪いかは別としてね(笑)。

司会:それも今日のキーワードになるようなお話ですね。本日は、4つのサブテーマを設けさせて頂きました。以下、4つとさせていただきます。

1.世界で通用するコミュニケーション術とは
2.最低限のコミュニケーション能力、資質とは
3.相手側との信頼関係の構築
4.日本ブランドによる戦略的な観光振興、観光資源開発について


1.世界で通用するコミュニケーションの術とは

松嶋:白石さんが外国語を話せない中で、チームに指示をしていく、相手に気持ちを伝えていく時のコツってありますか?もちろん単語はいくつか頭に入っているんでしょうけど、言葉をつないでいくということは出来ないんですよね?

白石:僕の場合どうするかっていうと、行動で示すしかないんですよね。ジェスチャーでわかりますからね、相手を良く見て。それと洞察力ですよね。相手がどんなことで困ってるんだろうという洞察力。バッと僕が行動に移せば喜んでくれるし。特に策を労してどうのこうのということは考えたことはないですね。

松嶋:でも、言葉じゃないと伝えられないことってあると思うんですよね。感情もそうだし、怒ってることを伝えたり。または、そういうのを物に当たって表現したり(苦笑)とか。白石さんは、後者ですか?

白石:僕はあまり怒ったことはないですね。一度も無いかもしれない。激しい喧嘩もしたこと無いし。だけど周りが結構やるんですよ。うちのクルーは、イギリス人とフランス人を雇っていて。何てったって彼らは100年も戦争をやっていたからね、昔(笑)。僕はなだめる方かな。

僕は、言葉でのやり取りは出来ないんだけど、ただ相手が喜んでるのか、怒ってるのか、疑問に思ってるのか、はわかりますから。それは言葉じゃないですね、ハートですから。そういうのは、子供の頃からいかに人と接してきたかによるんじゃないですかね。

松嶋:エゴイストっぽいリーダーについてはどうですか?どちらかというとシェフという人たちはそういうエゴイストなイメージがついたりするんですが……。

白石:料理人はそういう世界なんですか?

松嶋:僕は白石さんと一緒のタイプですね。うちのスタッフ同士が喧嘩をしてるから「まぁ待て」と間に入る。フランス人シェフのところはシェフがガミガミ怒るんで、軍隊みたいなもんです。フランスのレストランで働いていた時は、従うしか無いと思ってました。自分自身がシェフになったときは「さぁ、行くぞ!」という意味ではもちろんやりましたけど、どちらかというと、スタッフと調子を合わせる仕事ですかね。

司会:お二人の話をお聞きしていると、相手に対しての洞察力、まず、周りを見る。次にご自身の居場所を見つける。怒る人は既にいるから自分はなだめる側に回るとか、自分の立ち位置をいち早くキャッチして、その役に徹するということに、お二人ともすごく長けているように思います。

白石:加えて、僕らは職人だから、“技”を見せられるんだよね。

松嶋:それもここぞ、というときに。

白石:言葉だけだとなかなか難しいんだけど、行動で示すことが出来ればみんな、「流石だな」と一目置いてくれることになるんですね。それがないとつらい。

松嶋:だけど、その技術を獲得するまでには言葉も必要だと思うんです。もちろん単語は話せますよね?

白石:うーん、単語ねぇ。難しいな(苦笑)。

松嶋:船に乗るって覚悟を決めた時点で、言語の壁を超越してるって意識があるんじゃないですか(笑)。

白石:そういう松嶋君だってフランス行ったときは全然しゃべれなかったんでしょ?

松嶋:僕は単語だけはやってました。フランス語の料理用語は日本にいるときに全部勉強して……。

白石:偉いね。それが正しいやり方ですよ、みなさん!(笑)

松嶋:日本の調理場に入ってると、だいたい使うのは単語程度なんですよ。一瞬一瞬の反射神経で仕事が進んでいくので、この業界では単語を覚えていけば大丈夫じゃないかと思ったわけです。

司会:このことは次のテーマにも関係してきますね。続けて次のテーマに入っていきたいと思います。

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テキスト タイムアウト東京編集部
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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