食と観光の風評被害

食と観光の風評被害

柴田玲、松嶋啓介、佐浦弘一

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日本から来るものは汚染されているんじゃないかと思っているようです。

柴田:では、パネラーの皆さんにもそれぞれのお立場で感じられていることについてお話頂ければと思います。

松嶋:佐浦さんとは、昨年から酒サムライのメンバーに入れさせていただいて、日本酒を世界に広め、日本酒のブランド化や海外への販促、日本酒が愛されることによって、日本酒を造る生産者を訪れたいというお客さんを増やしていくために、一緒に活動させて頂いていますが、震災後は、自分の店でも日本酒が売れなくなりました。実際には、どのぐらいの影響があるのか、教えていただけますか?

佐浦:日本酒の場合は、国内の風評被害というのは、ほとんどないと思うんですね。ただ私の福島の友人の蔵元に聞くと、当初は、なんでこういうものを出荷しているんだっていう電話が会社にかかって来たことはあったようですけれども、それはごく一部であって、今は、むしろ被災地の応援ということで、皆さんに日本酒を飲んで応援しようという機運が高まっていて、非常にありがたい状況です。しかし、海外については放射能、やはり原発の問題で、国によって違いますが、多かれ少なかれ輸入規制となっています。若干、野菜とか、魚とか生鮮食品、あと加工食品と違うケースもあると思いますが、日本酒の一番の輸出先で、大きい市場であるアメリカの場合は、輸入品のサンプル検査がありまして、宮城県の酒の場合は、若干、通関等に時間がかかったりということはあるかもしれないのですけれども、基本的には問題なくいっています。ただ、二番目の大きな輸出市場の台湾ですが、一部の県のものに関しては禁輸状態になっていますし、宮城県の場合も向こうで、放射能の検査をすることになっています。まだ量は少ないですが、ヨーロッパの市場では、日本酒に対する関心も高まっていまして、伸びていますが、1都11県に関しては3月11日以降に瓶詰製品化したものについて、放射能の適合検査の分析表と、それの政府の適合の証明書の発行がないと輸入できないという状況になっています。しかし、今は、政府の方で分析証明書を作るという体制が、しっかりと整っていなくて、できていない状態なんですね。ですから、EUに関しては、基本的には輸出できない状況になっています。現地の様子を聞くとアメリカなんかでは、そんなに放射能に関しては、感じていないようです。ヨーロッパでは、ちょっと敏感になっているようですね。

松嶋:ヨーロッパでは、お父さんがチェルノブイリの時に影響を受けたという若い世代の友達が私の周りにもたくさんいます。特にニースでは、ニースの山のところに放射能がいっぱい出たということがあって。それまでは、ずっと隠されていたようですが、その放射能の影響なのか、ガン患者が多く出ているっていることが、5年くらい前に表に出まして、その記憶が皆さんの中にあるのが大きいようです。フランスは多分、原発大国なんですよね。日本と一緒で。テレビの報道では、実際には、ほとんど日本の現状を報道していないように見えますし、逆に今の日本の原発の情報を流し続けるとフランスでも同じようなデモが起きたり、いろんなことを引き起こすと思うので、報道規制がかかっているのかなって思ったりもします。人の記憶の中には、昔のそういった事故なんかが、しっかり残っているので、その記憶から、風評被害につながっていることが、たくさんあるんじゃないかなと思います。

佐浦:ドイツの当社の商品の輸入元の人の話ですと、やはり情報が少ないので皆さん疑心暗鬼になっていて、全て日本から来るものは汚染されているんじゃないかと思っているようですね。3月11日以前にできたもの、加工されたものに関しては、3月11日以前に加工したという証明書、今も国税局でお酒の場合は発行するのですが、それがあればいいんですけれども、当初は少しそういう反応があったようです。ただ、日本酒の場合は日本食ほど広く流通していないですし、ある意味、知識層の愛飲者が多いということで状態は落ち着いているようではありますが、やはり情報の少なさから、疑心暗鬼になっているという状況のようです。

松嶋:これからもっともっと大変なんじゃないかって、僕は思うんです。今、出荷されようとしているお酒は、昨年の恵みですよね。今年、育った商品が出荷されるとき、僕はもっと大変になるんじゃないのかなって思っているんですが、そこは、何か対応策がすでにあるのか、多分、津波の影響で田んぼが塩をいっぱい含んでいるから、普通にコメを収穫することすら大変な状況になっていると思うんですが、放射能に対しての対応であったりとか、風評被害への対策とかはもう考えておられますか?

佐浦:実情は、まだそこまではいっていないというところですね。ただ、やはり同業者の中で意識にあるのは、今年できたお米で作ったお酒がどのような印象をもたれるかということです。お米自体もそうですし、酒米もそうなんですが、それなりの安全証明の実績を積み重ねていくしかないと思っています。原料米が基準に適合していますよというデータを出して、その上で作ったお酒ですよ、ということを地道に伝えて行く以外にないのかなと思います。現実のところは、まだ目の前のところで手一杯で、具体的な対応については、行えていないのが現状です。

松嶋:日本酒の組合の方から対策の委員会か何か分かりませんけど、世界に対する証明書を発行するための活動をする予定があったりだとか。フランスだったら、AOCみたいな原産地コントロールみたいな委員会が厳しく見張っていて、対海外に対するワインは、ボトルのエチケットの色で対海外用のボトルなのかそうじゃないボトルなのか分けていたりするんですけど。そういったことをやられたりして、他の国の人たちに分かりやすく安全性を発信するとか考えたりとかされていますか?

佐浦:今は輸入規制をどうクリアするかということに意識がいっています。輸入国は、政府の証明を出せということなんですね。だからまず、それへの対応の体制を整える。放射性物質を検出し、分析する装置が絶対的に不足しているということを理由に、現時点では、基本的には民間の検査会社が出したものでは、政府のお酒の行政を扱っている部門では、証明書を発行できない状態なんですね。いろんな基準の設定の問題があるようです。業界でアルコール飲料等の研究分析などを行っている機関が、分析装置を手配しているのですが、こちらもまだ時間がかかるということです。そういう状況ですので、その先の産地証明とか、またそれとは別にもっと分かりやすい、例えば、ラベルを見てその地域だとか、味わいだとか、そういうものが分かるような仕組みが必要なんじゃないかという声は、今までもありましたけれども、まだ具体的に体制を整えようというところまではいってないんです。

佐浦弘一、高島宏平、進藤昭洋


流通してしまった後で、実は汚れていましたとやったので、不安感が高まった。

松嶋:なるほど。さて、流通面。オイシックスさんなんですが、ここ最近、海外に対しての営業を頑張っておられて、香港のほうに行かれたり、上海の方に行かれたり。実際に、香港の方では、日本の美味しい野菜を届けるという活動に、ここ数カ月は、力を入れてやられていましたが、そこに対して何か影響というのはありますでしょうか?

高島:はい、同じような形で香港も厳しくて、実質的には輸出禁止という規制がほぼ敷かれているので、香港に日本の野菜を送っていたんですが、それは、今、一端、止まっているという状況です。上海はこれからって感じですね。見ていると香港の人の方が、より敏感って感じがあって、それは何かというと、香港のニュースでは、福島原発が映っている時間や回数が多いんですよね。上海では、日本のことをあまり気にしていないので、マイナスのニュースが少なく、そんなことはないんですが、香港は結構、ネガティヴなニュースが多いんで、もう少し時間がかかるんじゃないかな、と思っています。

松嶋:昨日もオイシックスさんと千葉の方に行かせて頂いて、いろいろと見てきたんですが、関東近郊の商品を海外に卸しているのなら、それらに対する敏感さが出るのは当たり前だと思うんですが、ほとんど何の影響のなかった県のものもあると思うんですよね。そういう地域の商品に対しても規制が、ということであれば、そこはどうしても僕は打ち崩していきたいなって思いますし、本州ではない、九州、四国の商品などにも輸出などの規制があるっていうのは少し残念です。そのあたりを流通の観点から、政府に対する訴えかけや、あるいは、香港の業者さんに対する訴えかけをオイシックスさんの方で何かやられているとか、実際やっていく、ということがあれば教えて頂きたいんですが。

高島:そうですね。当社の場合は震災1週間後から自社のセンターの中で放射能の検査のできる環境を作ってですね、野菜、果物、乳製品、卵に関しては毎日全アイテムを検査して、通過したものだけを売る、お届けする、ということをしています。通過しなかったものはそっと廃棄するという感じで。発表するとまた風評被害が起きちゃいますからね。いろんなものに政府が制限をかけましたが、実際には、当社の方が先に異常値を検出しているんです。政府が、制限をかけるというようなやり方で、風評被害が大きくなったのは、政府は事後検査。つまり、流通してしまった後で、実は汚れていましたとやったので、不安感が高まったんです。僕らは流通する前に全品検査して出していきます、というやり方をやっています。これ自体は、比較的お客さま方からの反応も良くて、茨城、福島を応援したいという気持ちはあるんだけれども、不安だから応援できないというお客さんが多かったんですが、検査がされているんであればいいよ、という風になりました。このやり方を政府でやろうとしたら結構重たい機械、重たいというよりは、高価な機械ですよね。一台2000万円くらいする機械を入れてやろうとしています。もう少し簡単なものをですね、より多くの所に設置したらいいんじゃないかって思いますので、様々な政府の機関、農水省、経産省、それから民主党とか、この前は、管首相と話す機会があったので、管さんにもそういう提案をしました。同様に、香港の政府に対しても、ジェトロを通じて働きかけています。香港の民間企業と一緒に、僕らがやっているスタイルを香港の民間でも一緒にやりましょうと。日本でやっている対応策と、香港でやっていることが同じになれば、安心感が高まるかなと思っています。

日本と、例えば、香港のように、同じアジアだからアジア圏に行くのを止めようみたいなキャンセルが大量発生している

松嶋:次は、観光の方でお伺いしたいんですが、一気に観光客、減ったと思うんですね。フランスに住んでいる友達が、柔道の大会で日本に行く予定にしていたけれども、’ちょっとさすがに今は無理だ'と言ってました。東京に旅行を予定していた方と、九州に予定していた方とでは、状況が違うと思いますが、ひどい話、お店で僕が聞いたのは、香港に行く予定のお客さんが地震の影響で行くのを止めたという、ですね。同じアジアだからまた地震があったら危ないと、そんなことまで言う人がいるんだって聞いた時には驚きました。香港は大丈夫だと思うよっていう話をしたんですが、旅行会社が行かないでくださいって言ってきたって言ってました。柔道の大会で来る予定にしていた方は、フランスの外務省に連絡をしたら外務省が、日本に旅行をするのはやめてください、と言われたようで、政府の方から言われたので仕方ない、日本に今は行けないから止めています、と言ってました。もっといろいろな被害があると思うんですが、実際、どれくらいの被害がでていて、それをどれくらい把握されているのか、お聞きできますか?

進藤:仰る通りですね。風評被害に基づくキャンセルなどが大量に発生しまして、日本と、例えば、香港のように、同じアジアだからアジア圏に行くのを止めようみたいなキャンセルが大量に発生しています。福島で原発があのような事態になって、ちょっと離れると大丈夫だというところを説明してもなかなか理解して頂けないということですので、徹底的に情報発信して正確な情報を伝えるようにはしております。3月11日以降、1か月前くらいの発表ですが、東日本エリアでは、宿泊においては約38万人のキャンセルが出たという話もあります。これはトータルで38万人ということではなくてですね、福島ですと60万人くらいいっているのではないかという話もありますし、残念ながら、正確なところはよく分からないというのが現状です。

松嶋:なるほど。観光庁の方から、これまでも日本に観光に来てくださいっていうキャンペーンをされていると思います。関東エリアに関しての情報は比較的簡単に海外でも情報を得られると思いますが、今回、地方が、今まで以上に苦しい状況に追い込まれている中で、観光庁が、地方に対してPRに関して指導をするなどといった対応策は、何か考えられているんでしょうか?

進藤:地方には地方運輸局という組織がありまして、そこがそのエリアの観光関係を一点に情報発信しています。観光庁としては4月12日に風評被害防止のための協力をお願いしますということで、正確な情報を伝えるよう、文章を出しました。その後、4月22日になりますが『がんばろう!日本』というキャンペーンをはりまして、自粛するのは止めましょうと、安全な地域に関しては積極的に旅行にいって頂くようにお声がけしています。当然のことながら地方で頑張っている観光業界の方もたくさんいらっしゃいますので、そういった方々のお話を聞くために地方意見交換会ということをやっております。様々な現場の声を聞いてそれらを政策に反映させるといったことを今、取り組んでいます。

松嶋:日本の観光で世界的に有名なところといったら京都です。その京都の観光客が、ずいぶん減っていると聞いています。京都のように、今回の放射能の問題がほとんどない地域であるにも関わらず、飛行機が成田に飛ぶ東京経由では行きたくないという方も実際出ているようです。もしかしたら、名古屋に飛行機が飛ぶ、それだったら京都に行きたいという方がいるかもしれません。観光庁から航空会社にそういった対策について、声をかけたりとかはあるんでしょうか?僕も地震後に日本とフランスを4往復くらいしたんですが、2度ほど北京経由で行かなければいけなくなりました。海外の航空会社のフライトアテンダントが日本には行きたくないとボイコットが起きて、北京経由で日本に行かなきゃいけなくなったんです。

進藤:震災直後は各国現状が分からないわけですから、日本に行くなというのは当然の話だったと思います。一方で局面はどんどんどん変わって来ています。日本政府観光局は、海外に対して情報をどんどん発信するセクションとして機能していますが、そこを通じて、在日外国公官ですとか、公的国連機関ですとか、様々に働きかけをした結果、日本に行くなという規制も徐々に緩和されてきました。たとえば原発から80km以上離れていれば大丈夫だよとか、各国によって対応は違いますけれども、日本に行くなという話はなくって来ています。そういう意味ではかなり改善されてきていますし、エアラインの運行情報も適切に流しておりますので、そういった意味では、まさに正確な情報発信を徹底的にやることで実践されているのではないかと思います。

松嶋:数値的には実際どうなんでしょうか?本当に戻ってこられてますか?

進藤:観光客でも海外からということになりますと、例年に比べると大幅減であることは否めないのですが、GW前から海外メディア招聘事業を展開しています。海外のツーリズム、旅行業者などを呼んで、日本の安全な、たとえば北海道だったら全然問題ないですよというツアーを展開しまして、日本は戻っていただいて安全だということを、エリアによっては全く問題ないんだということを伝えようとしています。しかし、完全に安全であるということはもちろん言えないんですが。ツアーもこの1週間でどんどん入ってきていまして、具体的な数字トータルということははっきり申し上げられないのですが、ショッピングの20人のツアーですとか、100人くらいのツアーもどんどん海外から入ってきているということを聞いております。

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テキスト タイムアウト東京編集部
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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