2011年05月27日 (金) 掲載
かつてSugar Soul名義で大ヒットを連発しながら、2001年以降は活動休止状態が続いていたアイコSUN。伝説的なレゲエ/ダブ・バンド、MUTE BEATでの活動を経て、UAやSugar Soulのプロデューサーとして華々しい活動を展開してきたASAMOTO(朝本浩文)。日本のドラムンベース・シーンを代表するMCとして活躍するCARDZ。この3人によるニューバンド、KAMは、ドラムンベース~ジャングルに軸足を置いたカッティングエッジなサウンドスタイルでジワジワと人気を集めつつある。今回リリースされる『SPIRITUAL』『MATERIAL』という2枚のミニアルバムで、そんな彼らの全貌がついに明らかに。リリースを前にした3人に話を訊いた。
まず、結成の経緯を教えていただけますか?
ASAMOTO:もともと僕とCARDZはドラムンベースのパーティーをちょこちょこやってたんですけど、沖縄とか大阪でやったときにアイコSUNに飛び入りしてもらったことがあって。そのときはフリースタイルっぽい感じでやってたので、もっとバンドっぽくがっちりやりたいなと思って、僕が2人に声をかけたんです。
沖縄や大阪でやったのはいつごろ?
アイコSUN:5、6年ぐらい前?
ASAMOTO:そうそう、結構前ですね。3、4回はやったかな。KAMとして活動を始めたのは2年半か3年ぐらい前ですね。
ASAMOTOさんは“この3人なら何かできるぞ”という手応えを感じたんですか?
ASAMOTO:そうですね。同じステージに立ってみて、化学反応を起こせそうな感じがしたんですよ。
アイコSUNはそれまで表立った活動を休止していたわけですが、ASAMOTOさんから声がかかって、どう思いました?
アイコSUN:“おもしろそう、やる、やる!”っていう感じ。だから、自分のなかでは自然だったんですよ。最初から商業ベースに乗っ取ったものだったらやらなかったと思うんですけど、まったくそういう始まりじゃなくて、本当に“バンドやろうぜ”っていう感じだったから。私は純粋にライブや音楽をやりたかったんで、KAMみたいなノリだったから“もう一回歌おう”と思えたんでしょうね。今までもいろんなお誘いがあったんですけど、とにかく……やる気にならなかった(笑)。でも、アサちん(ASAMOTO)のイベントに遊びに行ってたときから、“ドラムンベースのバンド、やってみたいよね”なんて話をしてたし、基本的には“楽しいことをやる”っていう、それだけのノリ。
CARDZさんはどうですか?
CARDZ:初めてこの3人でやったのが沖縄の火の玉ホールっていう場所だったんですけど、そのときが、かなりおもしろかったっていう記憶をずっと引きずってて(笑)。で、僕は普段ホストMCをメインでやってるんで、バンドのMCとしての活動はずっとやってみたかったんですよ。
その火の玉ホールでのパーティーはどんな感じだったんですか?
CARDZ:いやー、予定調和一切なし。
アイコSUN:荒くれなフリースタイルというかね。
ASAMOTO:不測の事態だらけ(笑)。泡盛パワーで盛り上がりました(笑)。
CARDZ:ま、今のKAMにも通じるところも多いと思います(笑)。
KAMというバンド名はカムイ(アイヌの霊的存在)から取られてるんですよね?
ASAMOTO:これはアイコSUNに“降りて”きたんですよ(笑)。
アイコSUN:ま、インスピレーションなんですけど……私はシャーマニズムに興味があって、スピリチュアルなものは昔から好きなんですよ。それで“KAM”っていう言葉がふと出てきて。
なるほど。あとですね、KAMのアルバムやライブからは、クラブシーンのみならず、もっと大きな意味で音楽シーン全体を変えようとする意識を強く感じるんですが、いかがでしょう?
ASAMOTO:そうですね、そういう意識は多いにあります。僕が新しい音楽に衝撃を受けるときって、大抵はその音楽家が特定のスタイルの枠を飛び越えた瞬間だったりするんですよ。例えば、ドラムンベースならロニ・サイズ。初めて彼のライブセットを観たとき、ドラムンベースだとは思わなかった。だから、KAMのライブを観たお客さんに、“ドラムンベースのライブを観た”というよりも“KAMのライブを観た”って思ってもらえると嬉しいんです。ドラムンベースというジャンルの音楽というよりも、新しい音楽を作りたい。
アイコSUN:だから、結果的には幅広いオーディエンスも見てるということですよね。“狙ってる”わけじゃなくて、“そうなるんだろうな”という風な。
それが結果的にドラムンベースの認知度を上げることにも繋がりますしね。
ASAMOTO:そうそう。作り手としてはどうしても(リスナーを)驚かせたい、いい意味で裏切りたいって気持ちがどこかにあって。もちろんドラムンベースは大好きなんで、大事な部分は外さないように気をつけてますけど、僕としてはネジが1本ぐらい飛んじゃってるぐらいのニュアンスでいきたいんです(笑)。そもそもの前提としてライブをやりたいと思って始めたバンドなので、クラブミュージックでもロックでもどちらでもよくて、とにかくライブバンドとしても影響力を持つバンドにしたかった。クラブだけじゃなく、ロックフェスでも通用するような。
ライブはドラムに松井泉くん(元bonobos)、ベースにHisayoさん(tokyo pinsalocks)という2人のプレイヤーを加えた編成でやってらっしゃいますね。
ASAMOTO:人間の生のグルーヴを表現したかったんで、編成にはこだわってますね。いろんな機材の力も借りながら……松井くんは一番大変そうな顔をしてますが(笑)、楽しそうにやってくれてるんで良かったです。
オーディエンスのリアクションはいかがですか?
ASAMOTO:最初は目を丸くしてるお客さんもいましたけど(笑)、3、4曲やっていくうちに馴染んできてくれて。続けていくうちにこのグルーヴがもっと伝わっていくんじゃないか、という手応えは感じてます。
アイコSUN:お客さんの反応を見ていて“あ、引いてる”と思うこともあるんですけど、30分とか40分やっていくなかでちゃんと引き込めているという手応えは毎回あります。それが例え少数でも、ライブを続けていくなかで段々増えてきているので、やってて楽しいんですよ。
アイコSUNにとっては久々の大舞台となる野外フェスも経験してきたわけですが。
アイコSUN:やっぱりね、知名度が全然ないから前とはまったく違うし、本当に新人の気持ちでやってますよ。“私のことなんて誰も知らない”って。だから自分も新鮮だし、以前よりも真摯に歌えてます。ひとりひとりと向き合いながら歌ってるような感覚がありますね。前よりも歌うことを楽しめてますよ。
で、今回『SPIRITUAL』『MATERIAL』という2枚のミニアルバムが出るわけですが、このリリース形態はちょっと特殊ですよね。
ASAMOTO:スタッフとは“斬新なことをやりたいね”と話してて。この僕ですら最近は配信で曲を買うことも多くなってるんですけど、アルバムを出すのであれば普通の形態じゃなくて、アルバムを2枚に分けて、それぞれのメッセージをはっきりと打ち出すのがいいんじゃないかと思ったんですね。2枚を分けて出すと決まったときはまだリリックも全部できてなかったんですけど、音の部分でカラーを分けられるんじゃないかと。暖かみのある楽器の質感を活かしたグルーヴと、もっとサイバー寄りのグルーヴに分けた感じですね。
タイトルはどなたが?
ASAMOTO:アイコだっけ、CARDZだっけ?
アイコSUN:(案を)出したのは私だけど、みんなでいろんな言葉を出してて、そこから選んだんですよ。対峙する言葉をみんなで出し合ってたんですね。それで『SPIRITUAL』『MATERIAL』というのがいいんじゃないかと。
リリックに関して気を使った部分はありますか?
CARDZ:僕は特に意識せず、音に合わせて(リリックを)乗せるだけですね。音の風味を損なわないようには気をつけてますけど。
アイコSUN:私はあんまり重いメッセージ性は込めないようにしました。どちらかというとサラッと聴けつつ、体感できるようなものにしたかった。メッセージ的にはシンプルですよ、“踊れ”とか“上がれ”とか、そういうもの。ただ、私にとっては“踊れ”というメッセージもシャーマニックでスピリチュアルなものだし、リリックで説明しても仕方ないと思ってたので。
曲はどんなプロセスで作っていくことが多いんですか?
ASAMOTO:通常は2人にトラックの骨格を聴いてもらって、そのあとにウチに集まって話し合っていく感じですね。
CARDZ:一回、何が見えるか(アイコSUNと)とことん話し合うんですよ。“何を書こう?”という話をするんじゃなくて、そのトラックにお互いが持ったイメージを持ち寄るんです。そこで何が見えるか。例えばビルでも何でもいいんですけど、それをとっかかりに着地点を探していく感じですね。いずれにせよ、どの曲もキャッチボールはちゃんとやったうえで書いてます。
アイコSUN:そういう作り方をすることで自分のなかのイメージが膨らんでいくわけだし、本当に3人の科学反応が起きてる感じがしますね。
ASAMOTO:そこがおもしろいんですよ。
アイコSUN:アサちんは本当に最後の最後までトラックをイジってるし(笑)。
ASAMOTO:ゴールがなかなか見えないのが楽しいんですよ(笑)。逆におもしろいものをできてるという実感もあります。最初からゴールが見えたうえで作り始めるよりも、想定もしてなかったゴールに辿り着くのが楽しいんですね。そう、これがバンドなんですよ(笑)。
音楽を取り巻く現在の状況については、どう思われますか?
ASAMOTO:大変な状況ではあるけど、音楽で救われる人はたくさんいると思うし、僕らはメッセージを発する義務もあると思うんですよ。ただ、いい面を挙げるのであれば、バブリーな時代のいやらしさはなくなってきているので、音楽の本質自体がそのまま価値に繋がる時代にはなってるかもしれないですよね。大変なぶん、モチベーションが高まってる部分はあります。
アイコSUN:今は音楽のことだけを考えられる状況じゃないですよね。そのなかで自分が何をするべきか毎日考えてて。でも、やっぱり私たちがやるべきなのは音楽なので、アサちんが言ったようにモチベーションが高まってるし、音楽に対する意志が確固たるものになってます。今まで以上に率直に音楽をやっていこうと思ってるし、そこに心がこもっていれば、きっとどこかで誰かの糧になってくれるはずだと信じているので。だから、私たちは私たちの音楽を純粋にやっていくだけですね。音楽を取り巻く状況に関しては……ずっとクソったれだと思ってるので、最初から何も考えてないです(笑)。
今後のKAMの活動については、どうお考えですか?
ASAMOTO:自分たちが言いたいことはいっぱいあるし、それをウソ偽りなく表現していきたいですね。
CARDZ:とりあえず熱さだけは忘れずに、曲やライブに反映していきたいです。
アイコSUN:3.11以降はみんないろんな感情をため込んで生きてると思うんですよ。怒りとか哀しみとか絶望とか、ネガティブな感情を。私自身にもそういう感情は当然ありますけど、歌い手としてはそういう感情を音楽によって昇華しないといけないと思う。だから、KAMとしてもいろんな感情を抱えて生きてる人たちの気持ちを代弁できるような、一緒に歌って・踊ることで昇華できるような、そして本当に前を向いてゆけるような音楽をやっていきたいです。
『SPIRITUAL』
1800円(税込み)
2011年6月1日発売
『MATERIAL』
1800円(税込み)
2011年6月1日発売
KAM LIVE - SPIRITUAL & MATERIAL -
2011年6月3日(金)東京都 代官山UNIT
チケット発売中
詳しい情報はこちら
POWER OF JAPAN
2011年6月26日(日)大阪府 心斎橋CLUB DROP
チケット発売中
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