ナイトクラブに於けるサブテキスト

宇川直宏(DOMMUNE/京都造形芸術大学教授)が語る風営法問題

ナイトクラブに於けるサブテキスト


次に、日本のクラブカルチャーの黎明期から現在までを見つめてきた彼に、歴史的にはアウトサイダーたちの居場所という側面も持つダンスカルチャーとは本来、社会でどういった機能を果たすものなのか、目指すべき環境とナイトクラブの価値について訊いた。



ダンスフロアが果たしてきた役割

「まず、歴史を紐解くならば、ナイトクラブは有益な異文化交流の場になっていることが明らかになります。
例えば、現代美術家とミュージシャン、もしくは映像作家や俳優、建築家やファッションデザイナー、それぞれ文化圏は全く異なりますが、それら様々なクラスタが音楽とダンスを媒介に交流を果たした現場がクラブでした。
現在であれば、インターネット上で、SNSがその機能を"輪郭だけ"果たしていると僕は捉えています。なぜなら、そこにはダンスがない。身体性が伴っていない。

例えばキース・ヘリングとラリー・レヴァンは80年代にNYのキングストリートにあったパラダイズガラージで出会い、キースが描いたガラージでのラリーのバースデーカードの肖像画は殿堂入りしていますし、ラリー・レヴァン参加のユニット、NYC PEECH BOYSのカバーもキースヘリングです。


60年代だとグリニッジ・ヴィレッジのカフェビザールでのヴェルヴェット・アンダーグラウンドの演奏を体験したアンディ・ウォーホルが、彼らにプロデュースを申し入れて、ファクトリーの常連で、フェリーニの「甘い生活」にも出演していた女優のニコを引き合わせて、あの伝説のバナナジャケ「ヴェルヴェット・アンダーグラウンド&ニコ」が生み出されてますよね。しかも、ジャン=ミシェル・バスキアはDJでした。

こんなのは、ほんの一例で、例えば、世界的に著名な日本の建築家である磯崎新氏は、NYの伝説のクラブ、パラディアムを建築しています。これは、自身がデザインされた大阪万博の「お祭り広場」の進化形で、ダンス/音楽/映像/テクノロジー、つまり現在のメディアアート的コンテクストの先駆的展開でした。
そして、90年代以降、ビデオ・プロジェクターがクラブに常設されてからは、もっとも先端的な音と映像の実験場にもなっている。
日本に於いても、芝浦ゴールドは、当時日大芸術学部の教授だった武邑光裕教授や、当時マガジンハウスの編集部に在籍されていた都築響一さんがプロデュースに関わり、 デビューして間もない時代の、村上隆さんのアートワーク、田中秀幸さんのビデオアートなど、蒼々たるメンツによって立ち上げられたプロジェクトでした。
また、恵比寿ミルクには、若き日の会田誠さんが壁画を担当し、僕自身もビデオアーティストとしてプロジェクトに参加させて頂きました。


フロアはメディア・アート/パフォーマンス・アートの築地みたいなもの

音響的に言えば、勿論、最先端のサウンドシステム・ショーケース、さらにはデータファイルに纏わるデスクトップ・テクノロジーの舞台となっていますし、現在は、その双璧を成すモジュラー・シンセ・ニューウェーヴの音響実験の現場としても機能している。
また、過去にはモンキーダンスやゴーゴーの時代から、ハッスルやバンプ、そして、ブレイクダンスやヴォーギングを経て、現在ならば、JUKE/FOOTWORKなど、新たなダンススタイル創造の現場でもあります。

つまり、新鮮なアートフォームはどの時代もナイトクラブで蠢いているのです。古くは60年代のニューヨークのエレクトリックサーカスや、日本では赤坂MUGENでの、ゼラチンライトやOHPを用いたサイケデリックパフォーマンスの時代から、フロアはいつも、メディア・アート/パフォーマンス・アートの築地みたいなものでした(笑)。

例えば、ドイツ/ベルリンの人たちはそこをよく理解しているので、フロアと美術館の関係が密接なものになっているわけです。ベルリンの「クラブ・トランスメディアーレ」はクラブカルチャーから発信するアートフェスです! 質問に、アウトサイダーとありますが、アウトサイダーだけではなく、マイノリティ全般を分け隔てなく受け入れて来たのがクラブカルチャーです!つまりマジョリティから逸脱し、主流文化に影響を与え続けた、サブカルチャー発祥の地はナイトクラブだと言っても過言ではないのです。

敢えて2度言いますが、ナイトクラブとは、メディア・アート/パフォーマンス・アートの築地のような空間です。 マーケット(市場)もサロン(談話室)も完備されている!そう考えるとDJ/そしてアーティストは情報の荒波と闘う漁師であり、そして世界中のアーティストが地球上のあらゆる魚港で水揚げされた魚を、独自の様々な料理法で目の前で、調理する!!!!!!!
現場に集うオーディエンスはその料理(DJ MIX)を囲んで、新たな異文化交流を果たす!!!!!!!
フロアは、あらゆるオーディエンスに現代アートフォームの「いま」と「ここ」を提供する港なのです!!!!!!!!!!!
つまり、今世紀において鎖国はナンセンスです!!!!!!!!!!!!!!!」


※掲載されている情報は公開当時のものです。

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