カンヌ2011のパルムDは誰に?

第64回カンヌ国際映画祭コンペティション部門の20作品を紹介

カンヌ2011のパルムDは誰に?

2011年5月11日から22日まで開催される、第64回カンヌ国際映画祭の最優秀賞であるパルム・ドール賞を争うコンペティション作品19本が発表された。ディレクターのティエリー・フレモーは発表後も開催までに数本の作品が追加される可能性もあると語った。(後日、1作品が追加され全20作品となった)

同時に発表されたのは、特別上映や、カンヌで2番目のコンペといえる『ある視点』部門での上映スケジュール。『ある視点』部門では、ガス・ヴァン・サント監督の『永遠の僕たち』、ブルノ・デュモン監督の『Hors Satan』や、ホン・サンス監督の『The Day He Arrives~北村方向』といった新作も上映される。コンペティション以外では、『パイレーツ・オブ・カリビアン/生命の泉』や、ジョディ・フォスターの『The Beaver』などの話題作も上映される。

だが最も関心が高いのは、どの作品がパルム・ドールを受賞するかだ。5月22日の授賞式の目玉となる作品を一挙紹介する。

ペドロ・アルモドバル 『The Skin I Live In』(英題)

カンヌ常連でもあるスペインの映画監督アルモドバルと、アントニオ・バンデラスが再びタッグを組んだ作品。脚本は、娘をレイプした犯人を探す美容整形外科医が主人公の小説をベースに作られた。アルモドバル作品が、母国スペインでの公開より先にカンヌで発表されるのはこれが初めて。この巨匠が最後にカンヌのレッドカーペットを歩いたのは、2009年の『抱擁のかけら』(ペネロペ・クルス主演)以来だ。

ベルトラン・ボネロ『L’Apollonide』(原題)

『ポルノグラフ』 (2001年) や、『Tiresia』 (2003年) といった作品を手掛けた若いフランス人監督の新作。20世紀のパリの娼婦館を舞台にしたこの作品には、当然だがヨーロッパの女優たちが多数出演する。彼女たちの“人生、ライバル、恐怖、喜び、痛み”を題材としており、マシュー・アマルリックのひょうきんなキャバレー・ロードムービー『On Tour』に対抗する作品になるかもしれない。ヌードシーンはこちらの方が多いだろうが。

アラン・カヴァリエ『Pater』(英題)

イギリスでは1962年のドラマ『Le Combat dans l’Île’』や1986年の『Thérese』で知られているフランス映画における重鎮。新作についての情報は限られているが、ヴィンセント・リンドンが主演で、カンヌのディレクター、ティエリー・フレモーによれば“奇怪”で“独創性に富んでいる”作品だ。カヴァリエ作品は広範囲に世界各地で上映されることが少ないため、国際的なカンヌでの紹介はフランス国民にとっても誇りとなるだろう。

ヨセフ・シダー『Footnote』(英題)

カンヌの記者会見で、ディレクターのティエリー・フレモーが今年のカンヌは今までのように重苦しい作品ばかりではないと言わんばかりに、この作品を「コメディ」と称した。シダーは42歳のイスラエル出身の映画監督で、 1990年後半のイスラエル兵の人生を描いた『Beaufort』(2007年)が有名だ。

ヌリ・ビルゲ・ジェイラン『Once Upon a Time in Anatolia』(英題)

51歳のトルコ人映画監督、ジェイランは『Three Monkeys』(2008年)と『Uzak』(2002年)でカンヌでの受賞経験がある。きらびやかな映像美と、詩的でゆがんだ物語が特徴。作品タイトルは、トルコを西洋化したとも受け取れる。パルム・ドールの有力作品のうちのひとつだ。

ジャン=ピエール & リュック・ダルデンヌ『The Kid with a Bike』(英題)

ケン・ローチ作品と同等の精神を持つ、ベルギー出身のダルデンヌ兄弟は、これまでに『Rosetta』 (1999年) と『The Child 』(2005年)で、パルム・ドールを2度受賞している。前作の『The Silence of Lorna』(2008)では最優秀脚本賞を受賞。この兄弟による温情深い、現実味にあふれた作品は、常にベルギーの貧困街を舞台にしている。新作ではベルギー人女優のセシル・ドゥ・フランスが主演をつとめており、家族と社会から見放された少年の話だ。

アキ・カウリスマキ『Le Havre』(原題)

フィンランド出身の無表情で型破りな映画監督、カウリスマキによる作品。前作『Lights In the Dusk』(2006年)以来、待望の新作となる。移民の子供を救おうとする靴磨きの男の物語で、フランスの港町ル・アーヴルが舞台。彼の作品の常連主演女優であるのカティ・オウティネンも登場する。フランスの風変わりな名俳優ジャン=ピエール・ダルッサン(監督も務める多才な人物だ)の登場も嬉しいニュースだ。

河瀬直美『朱花(はねづ)の月』

(C)「朱花の月」製作委員会

2007年、カンヌの審査員長、スティーヴン・フリアーズは、周囲の冷ややかな反応とは逆に、『殯(もがり)の森』に最高賞パルム・ドールに次ぐ、グランプリを与えた。ドキュメンタリーとフィクション作品の狭間を行く彼女が次に作った『玄牝-げんぴん-』は、田舎の助産院を舞台とした胸が張り裂けるような物語だった。今年の新作は、今までで最も野心的で、日本の社会、政治、芸術が飛躍的に進化したといわれる飛鳥時代(西暦500年代)をテーマにしている。北野武監督のヤクザ叙事詩的な作品『アウトレイジ』の低い評価に見られる通り、過去数年、日本映画はカンヌでは成功しているとは言い難い。

ジュリア・リー『Sleeping Beauty』(原題)

小説家から監督に転身したオーストラリア出身のリーによる、まったく予測がつかないデビュー作。グリム童話をセクシーに撮った作品だ。売春をする貧困学生、ルーシーを『Sucker Punch』に出演したエミリー・ブラウニングが演じる。彼女は全てを忘れるかのように自ら自分を貶めていく。脚本は2008年度、最も優れたハリウッドの未映画化脚本リスト入りをしていることから、期待ができる作品。

テレンス・マリック『The Tree of Life』(原題)

今年のパルム・ドールに最も近い作品だろう。待望されたマリックの、ミステリアスで、魅力的な映像美が1950年代を舞台にしたドラマとしてスクリーンに戻ってきた。 『Days of Heaven』は1979年の最優秀監督賞を受賞したが、以来、マリックは大賞から遠ざかっている。カンヌ審査員たちはパターンを逸脱することで知られているので、この待望の作品が期待通りに素晴らしくても、ハンディカムで撮ったような新人の作品に大賞をさらわれることも十分にあり得る。

マイウェン・ル・ベスコ『Polisse』

マイウェンの名前で称されることを好むと知られている女優がメガホンをとった3作品目。自身が危険のまっただ中にいる警察官と恋に落ちるジャーナリストを演じている。オーストラリアの無名監督、ジュリア・リーと、期待を集めるイギリスのリン・ラムジーと並び、今回のコンペティションに選ばれた4人の女性監督のうちの一人。

三池崇史『一命』

時代劇映画『十三人の刺客』で観客の度肝をぬいた三池監督の新作は、再び将軍時代が舞台だ。1962年の小林正樹監督作品『腹切』と同じ『異聞浪人記』を原作にした作品。息子に切腹を命じた武将への復讐心に燃える侍の物語。この3D作品では、叩き切られた手足や血しぶきがたくさん登場するのは明らかだ。

三池崇史へのインタビューはこちら

ラデュ・ミヘイレアニュ『The Source』(英題)/『La Source des Femmes』(原題)

前作の『The Concert』で観客を凍り付かせた、フランスで映画を製作するルーマニア出身の映画監督。新作の『The Source』では違う反響を期待したい。男たちが遠くの井戸から水を汲んでくるまではセックスをしないと交渉する女たちをとりまく、小さな村を舞台にした軽めなコメディドラマだ。リメイク作品ではないとされているが、2008年のトルコのコメディ映画『Absurdistan』を彷彿とさせる。

ナンニ・モレッティ『We Have a Pope』(英題)

2006年に『The Caiman』をカンヌで上映、『The Son’s Room』でパルム・ドールを受賞したイタリア人監督モレッティの新作。57歳になる監督は、マイケル・ピッコリ演じる法王の精神科医として作品にも登場する。なんという壮大さだろうか。崇高さからはほど遠い教皇制度へのアプローチと、物事の本質と崩壊する権力への優しくてスマートな洞察だ。

リン・ラムジー 『We Need to Talk About Kevin』(原題)

スコットランド出身の映画監督、ラムジーは『Ratcatcher’』(1999年) と『Morvern Callar』 (2002年)で評価を得たが、取りかかっていた『ラブリー・ボーン』のリメイク作をピーター・ジャクソンが映画化して以来、その後は表舞台から姿を消していた。だが、リオネル・シュライバーの小説をベースにした新作と共に戻ってきた。ティルダ・スゥイントンとジョン・C・ライリーが出演している。すでに下馬評は高く、これが輝かしいカムバックになることを願っている。

パオロ・ソレンティーノ『This Must Be the Place』(英題)

イタリア映画界でフェリーニを相手に善戦するぐらいにスタイリッシュなソレンティーノの新作は、今までよりもさらに卓越している。謎めいたイタリアの政治家ジュリオ・アンドレオッティを題材にした前作『イル・ディーヴォ』に続く今作は、ショーン・ペンが、父親を殺したナチを追うロックスター役を演じる。入手した作品画像のペンは、真っ黒な鬘をかぶり、黒いアイライナーをひいている。先週、すでに作品を観たイタリアの巨匠、バーナード・ベルトルッチは「大したもんだ」と評した。

マルクス・シュラインツァー『Michael』(原題)

キャスティング・ディレクターであり俳優を務めたこともある、オーストラリア出身のシュラインツァーは、完全なる謎めいた男だ。彼自身についてや、デビューとなる今作の情報はネット上にもあまり載っていない。知り得たことは、彼が、シリン・ネシャット監督の 『Women Without Men』やジェシカ・ハウスナー監督の『Lourdes』、ミハエル・ハネケ監督の『白いリボン』でキャスティング・ディレクターを務めていたということぐらいだ。 今回のコンペティションで最も謎に包まれた男だが、パルム・ドール本命かもしれない。たまに起こることだ。2007年のクリスチャン・ムンギウ監督『4ヶ月、3週と2日』を覚えているだろう?

ラース・フォン・トリアー『Melancholia』(原題)

デンマーク出身のアジテーターであり、破天荒な物語の作り手であるにフォン・トリアーとって、新作発表にふさわしい場所はカンヌ以外にはないだろう。彼の作品がカンヌで発表されるたび、世界中のメディアが殺到する。映画祭は彼の悪ふざけを毎回真剣に受け入れるのだ。2009年の『アンチクライスト』は苦悩をテーマにしたダーク・ファンタジーだったが、今年の作品は世界終焉が舞台の家族ドラマだ。予告編を観た限りでは『セレブレーション』と『ディープ・インパクト』のような作品だ。キルスティン・ダンスト、キーファー・サザーランド、シャルロット・ランプリングが出演している。

ニコラス・ウィンディング・レフン『Drive』(原題)

カンヌでこういった作品を目にかけることは少ない。デンマーク出身のトラブルメーカー、ウィンディング・レフン監督の新作は、『Bronson』と『Valhalla Rising』に続く作品だ。ライアン・ゴズリングが、スタントマンから犯罪者に転身し、強盗に失敗して逃亡する男を演じる。キャリー・マリガン、ロン・パールマン、テレビ番組のスター、ブライアン・クランストンやクリスティーナ・ヘンドリクスも出演している。よくある銃撃戦映画かと思わせるが、期待はできるだろう。

ミシェル・アザナヴィシウス『THE ARTIST』

『OSS 117』にも出演しているジャン・デュジャルダンが今作では1927年の無声映画のスター俳優を演じている。判っている範囲でいうと、どうやらこの作品は、無声映画でモノクロ作品のようだ。アザナヴィシウスは、様々な映画のジャンルに着目し、表現の幅を広げているようだ。興味深いことに、この作品にはジョン・グッドマンも出演している。ということはコメディ映画『ラルフ一世はアメリカン』のスターが、カンヌで最優秀男優賞を獲得する可能性があるということだ。

By タイムアウトロンドン・フィルム・チーム
翻訳 佐藤環
翻訳 東野台風
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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