2011年06月15日 (水) 掲載
ナガシマトモコとのユニット、orange pekoeでは豊かなオーガニックポップスを作ってきたギタリスト/ソングライター、藤本一馬。工藤精(ベース)、岡部洋一(パーカッション)という名手2人も参加した彼の初ソロアルバム『SUN DANCE』は、ブラジルやアルゼンチン、ハワイのムードも感じさせる透明感溢れる逸品だ。アコースティックギターのみで紡がれるサウンドは、歌の一切入っていないインストゥルメンタル作品でありながらも、さまざまな風景を雄弁に物語っている。ギターオタクの顔も時たま覗く藤本のインタビューをお届けしよう。
ソロ活動を開始したのは2010年からなんですよね。
藤本一馬:そうですね。でも、5年ぐらい前かな、orange pekoeの『Grace』(2005年)というアルバムを作ったころ、ベーシストの杉本智和さんとデュオで何回かライブをやってたんです。インストゥルメンタルの曲をやりたくなって、ギターとベースの2人で演奏してみようと。ソロ活動という意味では、それが最初の一歩ですね。
じゃあ、以前から“インストゥルメンタルの曲を作りたい”という思いがあったわけですね。
藤本一馬:orange pekoeのアルバムでもインストゥルメンタルの要素のある曲は入れてたんですけど、ソロ・ギタリストという意識はそれほど強くなかったんですよ。ただ、インストはやってみたいと常に思ってて、そういう思いが『Grace』の後に強まってきたんですね。ギタリストとしての自我のようなものが。
orange pekoeとはベクトルの違うものという意識があったわけですか。
藤本一馬:orange pekoeの場合はあくまでも中心に歌があって、それに対してのギターという役割なんですけど、ソロの場合はギターが主体となってメロディーを奏でるわけで、やっぱり全然違いますよね。orange pekoeだと、ギターは全体の一部っていう感覚なんですよ。もし必要なければ弾かなくてもいいぐらいで。
昨年あらためてソロ活動をスタートさせたのは、何かきっかけがあったんですか?
藤本一馬:タイミングが合えばソロでも活動してみたいとずっと思ってて、それで(orange pekoeの2009年作)『CRYSTALISMO』の制作が終わったときに“このタイミングしかない”と。なんやかんやで今までタイミングを見い出せずにいたんですけど、制作が一段落したこともあって。
ソロの音楽的なイメージが具体的にあったんですか?
藤本一馬:そのときはかなりはっきりとありました。杉本さんとやってた時に作った曲も溜まってたし、どういう風に演奏したいかっていうイメージも固まってたので。『CRYSTALISMO』の制作とツアーで岡部(洋一/パーカッション)さんとご一緒させていただいたんですけど、そのときソロのイメージも話してましたし、『CRYSTALISMO』にはベースの工藤精くんにも参加してもらってたので、その延長上にソロ活動があった感じですね。
岡部さんと工藤さんのプレイヤーとしての魅力とは?
藤本一馬:岡部さんは本当に凄いです。普段から“師匠”って呼んでますから(笑)。岡部さんのサウンドというものがあるので、今回はそれをそのまま僕の世界のなかで展開してほしかった。だから、一緒にやれて嬉しかったですね。工藤くんは感覚が自由なんですよ。サウンドを膨らませる力があって、それでいて強いグルーブ感がある。この2人にはすごく触発させられるんです。
“2人とやったことによって曲が膨らんだ”とも言えそうですね。
藤本一馬:そうですね。この2人だったからこそこういうアレンジになった、という曲もあると思いますし。
あと、ギターの音色が素晴らしいですよね。レコーディングに何か秘訣があったんですか?
藤本一馬:ありがとうございます。今回は広兼(輝彦)さんというエンジニアさんにお願いしたんですけど、彼によるところも大きいと思います。それと、今回はラリビーというメーカーのスティールギターを使ったんですよ。今は大量生産のギターメーカーになっちゃったんですけど、70年代はラリビーさんがご自分で作っていて、今回その時代のものを手に入れられた。ヴィンテージのラリビーは音がすごくブライトで、粒立ちがすごくいいんですよ。どこかの民族楽器のように響く瞬間もあって……感覚的な部分なんですけどね。あと、ガットギターは福岡さんというビルダーの方に作ってもらったものを使いました。ギターの音がいいとしたら、そういう方々のご協力のおかげですね。
ソロだからこそ使えるテクニックも?
藤本一馬:そもそもこんなにギターを前面に押し出したことがなかったですからね。今までは“ギターの音量はこれぐらいでいいかな?”っていうところもあったんで(笑)。今回のレコーディングではできるだけレンジの広い音にしたいと思ってました。
今回はすべて一発録りなんですよね。
藤本一馬:そうですね。オーバーダビングもせず、お互いの顔を見ながらレコーディングしました。3人だけの演奏で成立していたので、あえて音を足す必要もないんじゃないかと思って。一発録りじゃないと、こういう雰囲気は出なかったんじゃないかと思いますね。
タイトル曲“SUN DANCE”はトータルで25分もありますが、これも一発録りなんですか?
藤本一馬:はい、これも一発録りです(笑)。演奏自体は6テイクぐらい録ったんですよ。1日1、2“SUN DANCE”ぐらいしか録れない(笑)。でも、何回やっても同じぐらいの長さになるんですよ。曲がこれぐらいの長さを必要としてたんじゃないですかね。
この“SUN DANCE”っていうのはネイティブアメリカンの儀式のことですよね。
藤本一馬:そうですね。一時期、ネイティブアメリカンの本はめちゃくちゃ読んでたんですよ。北山耕平さんが翻訳されている『インディアン魂』という本があって、そこでサンダンスのことを知って。ネイティブアメリカンの人たちに学ぶことは多いし、これからどう生きていくか、考えさせられるところがあったんですね。そういうものにインスパイアされてこの曲を書いたんです。
ネイティブアメリカンの考えのどういう部分に惹かれるんですか?
藤本一馬:サンダンスって人間の肉体を捧げる儀式でもあるんで、結構壮絶なことが行われるんですよ。儀式を通して自然と一体化していくんですね。そういう儀式って僕らの日常にはないものですけど、自然との繋がりは大切なんじゃないかと思ってて。神様や自然と繋がる生活というか、そこに戻っていく必要があるんじゃないかと思うんです。今回のアルバムに入ってる“山の神様”という曲は、それを日本のネイティブに置き換えてイメージしてみた曲なんです。北山耕平さんが“ネイティヴ・ジャパニーズ”っていう言葉を使われているんですけど、そういう意識を曲にしてみたかったんですね。
今回は“海への祈り”っていう曲があったり、“祈り”というテーマがあるようにも聴こえたんですが。
藤本一馬:明確なテーマがあったわけじゃないけど、確かにそういう曲が多くなった気がしますね。ただ、タイトルも含め、全部震災前に作ったものなんですよ。僕自身、今の生活のありかたで疑問に思うことも多いし、同時に自然に対する想いもあって、以前から感じてたそういうものが表現されているのかもしれませんね。
言葉にならない想いだからこそ、ギターで表現したくなる?
藤本一馬:僕の場合、言葉や文章による詩的表現みたいなものが全然できないので、モヤッと沸いてくる感情や光景を音楽で表現したいという思いがあるんですよね。ちなみに“海への祈り”は葉山に越してすぐ作った曲なんです。引っ越してからサーフィンも始めたんですけど、“なんで海ってこんなに凄いんやろか?”って思うことが多くて。あと、以前ハワイに行ったことがあるんですけど、その光景が忘れられなくて。ポリネシアンの写真集とか見てると胸がキュンとしてくるんです(笑)。その昔から海とともに生活をしてきたポリネシアの人々へ思いを馳せながら、その胸キュンな気持ちを詰め込んだのが“海の祈り”っていう曲なんですよ。
葉山で書いた曲も多いんですか?
藤本一馬:“山の神様”も“SUN DANCE”もそうですね。特にスティールギターを使った曲は葉山で書いたものが多いです。
葉山の環境が曲作りに与えた影響もありそうですね。
藤本一馬:振り返ってみるとそういうところもありそうですね。葉山に越しても何も変わらないと思ってたんですけど、結果的にそういう曲ができてるから。
今後のソロ活動についてはどう考えてますか?
藤本一馬:ここに漏れた曲もあるんで、それは次のアルバムに入れたいと思ってます。ライブでは今回入れてない曲もやってるんで、その意味ではもう次のアルバムに取りかかってるという言い方もできるかもしれませんね。
藤本一馬『SUN DANCE』
06月17日 東京・表参道 SPIRAL RECORDS (インストアライブ)
06月19日 鎌倉・浄土宗大本山 光明寺 (イベント "FOR座REST trip" 出演)
06月19日 東京・渋谷 bar music (ソロギター・ライブ)
07月03日 逗子・CINEMA AMIGO (イベント "SUN DANCE" 出演)
08月14日 剔q・cafe vivement dimanche
08月28日 横浜・Motion Blue yokohama (イベント "afrontier" 出演)
10月10日 東京・めぐろパーシモンホール
藤本一馬オフィシャルサイト:www.kazumafujimoto.com/
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