2014年11月06日 (木) 掲載
『DOMMUNE University of the Arts -Tokyo Arts Circulation-』のギャラリー内、中央の部屋には、DOMMUNE開局以来5年間に渡って宇川が日夜、撮影/配信/記録したDJ1000人分のアーカイブを、現代音楽の巨匠ジョン・ケージの指揮のもと同時再生させる宇川の最新インスタレーション『DJ JOHN CAGE & THE 1000 WORLD WIDE DJS』が展開されていた。 そして会期終了間際、突如その部屋の中にキャッシュディスペンサーが登場。ジョン・ケージ像と向かい合う形で鎮座していた。
宇川「僕は20歳のときに、自己啓発セミナーで完全に頭が開いちゃった友人から"人の為になることに使ってくれ"と言って渡された100万円を資本金にマムンダッドプロダクションズというレーベルを立ち上げたのですが、実は運用資金はプロミスからの借り入れでした。クラウドファンディングどころかインターネットも一般化されていなかった当時、無名で信用のない若者に融資してくれるところなんて、皆無だった。しかも最初のリリースはBOREDOMSのEYEさんの原点である"ハナタラシ"ですよ(笑)。怒濤のハーシュノイズです。危険極まりないリリースですよね。なので、多大なる恩恵を被っていたわけですが、今回のプロジェクトで偶然、スポンサーに名乗り出てくれたのがプロミスさんだったんです。20年の時を超えて、四十路となった現在も再度お世話になったわけで、感慨深いものがあります」 『DJ JOHN CAGE & THE 1000 WORLD WIDE DJS』には、宇川のキャリアのスタートのきっかけと、ライフワークであるDOMMUNEの軌跡が同居しているということになる。 当初からキャッシュディスペンサー設置の構想はあったものの、準備が難航したため不在の状態であったが、終了間際になりようやく到着した。 消費者金融会社のプロミスをコラボレーションパートナーに迎えた今回のインスタレーションそのもののコンセプトに大きく関わるという、この無骨な機械の登場が意味するところとは。 宇川「あの部屋の中では1000人のDJが同時に常に1000曲をプレイすることで、轟音のようなノイズが鳴り響いているのですが、1時間のうち4分33秒間だけ無音状態になる。そこでは、かのジョン・ケージ先生の『4分33秒』が、氏の彫刻によりライヴ演奏されているわけです。その演奏中は、展示空間が紺色とオレンジのプロミスカラーに明滅し、フリッカーは加速し続けます。これはつまり、轟音と静寂の関係が反転した瞬間に立ち会える変転装置なのですが、当初は、その4分33秒間だけキャッシュディスペンサーからお金を引き出せるというコンセプトを打ち出していました。結果、ホワイトキューブ内のその場での小口融資となると(笑)、大変な審査が必要となる関係で、そこまでは到達しませんでしたが、無理を叶えて下さる形で、400kgもあるディスペンサーが会期中になんとか導入されました(笑)。
とにかく僕としては、企業からスポンサードを頂いているという以前に、企業とコラボレートしているという意識があるわけです。それは『FREEDOMMUNE<0>』のレクサスやZIMAもそうでしたが、つまり、その企業の持つコンテクストやテクノロジーを全面的にいかし、僕らのスキルをそこに融合させて、ひとつの共作を作るという志でやっているのです。これは、今世紀的なポップアートの発露だと考えています。普通だったら申し訳程度に、隅に小さくロゴを入れるとか、それぐらいで止まってしまうでしょ。僕はそういうことはやりたくなかったわけです。 貸金業法の改正で消費者金融は、コマーシャルを打てなくなった。あの空間では同時に1000曲の原音が常に鳴り響いていますが、すべてがオーバーラップミックスされ、著作が立ち上がらないまでにノイズに塗れた記号と化しています。消費者金融も、グレーゾーン金利問題などで、社会的にはノイズとして機能している節もある。社会悪ではないにも関わらず、宣伝が制約される程、虐げられているシステム。日本人の10人に1人に当たる約1300万人が利用しているにも関わらずですよ(笑)。たばこやお酒に似ています。 このインスタレーションは、そのシステムをノイズとして表現し、そしてノイズから立ち上がった4分33秒の静寂の間だけ、要するに楽章を通して休止するタセット(長い休符)の間だけ、オーディエンスの唯一の能動的行為として、お金を借りることが可能になる、というコンセプトを掲げているのです。そう、ノイズを味方につけた上でしか、成立しない環境もあるということを問題定義したかったわけです。例えば僕のようにね。 そして、ケージの教えもそこにあります。結果をあるがままに受け入れ、環境に響く音に能動的に耳を傾けることが音楽の発見に繋がるのです。 僕は、ほかのインタビューでも語っていますが、二宮金次郎という人物もこの概念には深く関係しています。彼は世界初の信用組合"五常講"という概念を提唱し、人をみて低金利で融資し続けた。そして二宮金次郎ファンドを立ち上げ、村単位の出資に拡大し、行政改革を行った。信用を担保にお金を貸し続けたことで、クリエイティブな世の中を統治した。つまり僕は、二宮金次郎の銅像をジョン・ケージの彫刻に変換したわけです。薪を背負って本を読む代わりに、ケージ先生は、ヴァイナルを無音でプレイしているわけです」 無響室に入ったことで無音の不可能性を悟ったジョン・ケージが、『4分33秒』という作品で大衆に目を向けさせたのは、身体や環境音への意識、自らを取り囲むすべての音だ。 ジョン・ケージの像と向き合う形で配されたキャッシュディスペンサーは、現代社会では排除されてしまう「ノイズ」が持つ美しさを愛でる、宇川自身の歴史から立ち上った表現だったのだ。 ※『DOMMUNE LIVE PREMIUM KANDA INDUSTRIAL!!!!!!!』でのギネス挑戦のその後と、ビデオでのレポートはこちら
日本のTV史をインターネットの側から独自解析する100の番組シリーズを開始。 「1953年の放送開始から、NHKと民放の併存体制で歩んできた我が国の61年間の日本TV史を、ライブストリーミングチャンネルDOMMUNEが、プロミスの提供により、インターネットの側から愛と希望とポジティヴな批評を込めて、独自解析する100の番組シリーズを、2014年11月より始動致しました! 高度経済成長時代、冷蔵庫、洗濯機と共に、3種の神器としてお茶の間の一員となったTVは、一体、今、どこに向かおうとしているのか?ニュース、スポーツ、ドキュメンタリーから、TVドラマ、TVアニメ、そしてヴァラエティに至るまで、特有のプロジェクトと極めて多岐にわたるバリエーションを誇ってきたTVの未来は、どこにあるのか? インターネット登場以降、デバイスの進化を伴い、ソーシャルメディアの夜も明けた現在、街頭時代より伝統化した"番組を映し出すだけの魔法の箱"から、TVは、今世紀的視聴形態の変容を遂げるのか…?DOMMUNEは世界の側にTVの未来を映し出します!! DOMMUNEとは2010年3月の開局以来、同時視聴者数約1万人/回、トータル視聴者数4500万人を超えるトーク&DJライブを全世界に発信し続けるインターネット放送局です。"TVのようでTVではなく、TVじゃないのにTVのような"このインターネットストリーミング局が、著名タレントから大御所歌手、アイドルから凄腕司会者、更には、プロデューサー、放送作家、そして音響技師から美術監督、スーツアクターまでをゲストに招き、その歴史と変遷に蠢く人間たちの物語を軸に、DOMMUNEにしか映し出せない角度から、TVの未来をドラマティックに掘り起こせたらと構想しています!なお、この番組はアーカイヴされ、12月、24時間×7日間の再放送ウィークを予定!歴史的展開をみせるDOMMUNE新次元のスタートをぜひ、ご覧下さい!」 宇川直宏(DOMMUNE)
<次回予告> 『DOMMUNE「THE 100 JAPANESE TV CREATORS」Presented by PROMISE』 2014年11月12日(水)19時00分〜21時00分 『THE 100 JAPANESE TV CREATORS/第4夜』 「今野勉の解体的テレビ表現論」 "ドキュメンタリーのドラマ、ドラマのドキュメンタリー" 出演:今野勉 聞き手:松井茂 2014年11月12日(水)21時00分〜23時00分 『THE 100 JAPANESE TV CREATORS/第5夜』 「倉本美津留の実験ヴァラエティー」 "『EXテレビ』から『ダウンタウンのごっつええ感じ』『伊東家の食卓』『シャキーン!』まで" エクスペリメンタル放送作家=倉本美津留的実験ヴァラエティーの全て! 出演:倉本美津留 聞き手:宇川直宏
Copyright © 2014 Time Out Tokyo
コメント