松嶋×白石康次郎 サムライ対談 特別編

対談終了後の来場者とのQ&Aを収録

松嶋×白石康次郎 サムライ対談 特別編

ミシュラン一つ星シェフの松嶋啓介をホストに迎えた全6回シリーズのトークイベント『世界目線で考える』の第2回が行われた。ゲストは、海洋冒険家の白石康次郎。その様子は既にお伝えしたが(前編はこちら後編はこちら)、今回はトーク終了後に行われた質疑応答を公開する。

Q:これまで、食については「安全」「安心」というのが日本の“売り”でしたが、震災後、海外で日本の情報が少ない中(4月8日)、これからどうやって信頼回復をしていけば良いのでしょうか?

松嶋:それはそんなに難しいことじゃないと思います。フランスでもよく鳥インフルエンザとか口蹄疫とか出てるんです。フランスでは、食の見本市というのが毎年あるんですが、そこに大統領が出向いて、例えば、鳥インフルエンザであれば、それが発生した土地の鳥を食べてみせるんです。世界中に「何も問題ない!」とトップがアピールするわけです。いわば、トップ営業ですよね。最も注目を浴びる場所で、その国の責任者が、半分パフォーマンスは入っていますけど、出ていってそういうメッセージを発する。これから食の安全性について、取り組んでいかなければならないですが、ちゃんと検査して問題ないという商品は、自らがそこへ出向いて食べること。そうして「何も問題ないよ」とアピールすれば良いんです。もちろん国もやるべきですが、「国が、国が」というばかりではなくて、これからは自分で飛び込んで行って、自分で営業していくのが一番良いと思います。

白石:おのずと解消されていきますね。なぜかというと、かつてイギリスでは“狂牛病”というのがあったでしょ?どこの場所で起こったか皆さん知ってます?覚えていないでしょ?僕が献血に行ったときに「狂牛病の発生していた時期にイギリスにいた人は献血できません」と言われたんですよ。これはイギリスに対する風評被害ですよね。アメリカにいる友人から「康次郎、日本に住めなくなったらこっちへ来なさい」ってメールが来ている(苦笑)。そういう反応もそれは仕方がない。でも真実であればおのずと解消されるんですね。信頼というのは、“自ずと”信頼されるんです。だから原発のデータが改善していけば、自ずと信頼は回復されていくと思います。ごまかしてなければですが。簡単な話だと思います。でも今は無理です。それも認識しなければいけない。



Q:さきほど「飛び込む」というお話を伺いましたが、自分も今、自分のいる環境に辛いな、しんどいなと思うことがあるんです。お二人はそういう局面に出会ったことはありますか?またそんな時にはどのように状況を打開されて来られたでしょうか?

松嶋:僕は料理をやめようと思った時がありますよ。「僕、フランス料理向いてないな」と思いました。上司から怒られて怒られてね。でもなんで怒られてるのか分からないし、確かに仕事は遅い。僕は日本であんまり修行をしないで行ったんで「おまえみたいな日本人は初めてだ。仕事もできないのによくしゃべる」と言われてました。そんな状況だったので、周りの日本人から「おまえはホント仕事は遅いし、おしゃべりだし、よく来たな」って、よく怒られてました。やっぱり自分は日本人だから、フランス料理には向いてないのかな、この仕事を辞めたら日本料理屋に行こうかな、と思いましたね。そんなとき一緒に働いていた人に「やっぱり僕は、フランス料理に向いてないと思います」って話をしたんです。そうしたら彼が「もしかしたら向いてないかもしれないけど、辞めるな。続けていれば、きっと何か得るものがあるから、続けなさい」と言ってくれた。やはり、“友”でしたね。これまで生きて来た中で、相談できる人はいると思う。悩みを分かち合うこと。人に相談すること。すごく大事だと思います。自分自身だけで解決しようと思うからネガティヴな方にネガティヴな方に入って「もう駄目だ」と、ドロップアウトしてしまうんだと思います。とにかく、一人で解決しようとしないことですよね。あとは筋肉痛と一緒で、時が来ればその痛みは消えていきます。

白石:飛び込むと苦しいでしょ、つらいしね。でも、それは正常な反応です。僕も苦しいに決まってるわけですよ。僕の場合、失敗すると死んじゃうこともあるからね。実際、大勢の仲間が亡くなっているし、苦しいし、つらいし、泣きたくなるし。人からいろいろ言われるし、予期せぬ出来事もある。だけど、なぜやるのかというと、それは“好きだから”なんですよね。楽をしようと思ってやってるんじゃないんです。人から評価されたいから、世界一周を始めたんじゃなくて、僕は子供の頃に海を見て「世界を一周したいな」と思ったんでやってるんです。実は、僕は、申し訳ないんだけど、ヨットには向いてないんですね。僕の弱点は“船酔いがはげしい”ことなんです。

(場内爆笑)

白石:「おまえ致命的だ」って言われたことあるんですから(笑)。僕はレースがスタートしてから必ず最初の3日間は、吐き続けるんですよ。船酔いで。レース中は、僕は、1時間ぐらいしか寝ないんです。24時間動いていますから。シングルハンドだと交代要員もいないんで。船酔いって、寝れば治るけど、そんな訳で寝ないから、24時間ずっと酔ってるんです。吐いては食べて、吐いては食べて。だからもう何か牛みたいになっちゃって(笑)。苦しいからって、薬飲むとぼーっとしちゃうしね。最初の頃は、本当に何とかしようと思いました。でも、何やってもダメ。薬も吐いちゃうし。それでとうとう最後にこう思った。「どうせ船酔いするんであれば、船酔いして何か面白いことないかって」。それで、何が一番吐きやすいかを探究したの。

松嶋:(笑)

白石:おそばとか駄目なんだよ、のどに引っかかっちゃうから(笑)。ありとあらゆるものを吐いたなかで、結局、一番良かったのが“オレンジジュース”。これはホントの話。皆さんやってくださいね(笑)。「苦しいな、もう吐くな」と思ったら、オレンジジュースをぐっと飲む。そうすると、飲んだ時にもおいしいんだけど、吐いたときに胃液のすっぱさとオレンジジュースがマッチしてこれがまた、すごく美味しいんですよ!

(場内爆笑)

白石:で、これをなんと言うかというと「受け入れる」と言うんです。

(場内爆笑)

白石:「受け入れる」ことで、何ができるかと言うと、主導権が握れます。抵抗すると必ずまた違う抵抗があるから、いつまでたってもダメなんですね。昔の武道と一緒。今の話のように船酔いヤダヤダ、じゃなくて飛び込んでみるんですね、じゃ何を吐いたらいいかな、と。ちょっと話を戻すと。飛び込むとつらいというのは、正常な反応ですからご安心ください。そんなこんなで、僕も苦しいんですから(笑)。

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テキスト タイムアウト東京編集部
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