松嶋×本田直之 サムライ対談 後編

松嶋×本田直之 サムライ対談 後編

松嶋×本田直之 サムライ対談 前編はこちら


司会:では次の話題、世界で巧みにPR、マーケティングを行っている地域などに関してお願いします。

松嶋:ワインで有名なボルドー地方に仮装をするボルドーマラソンがあります。これだけ色々なマラソン大会がある中で、ボルドーマラソンの位置づけはハッキリしているんですよ。給水所を設置しているシャトーがワインを提供くれるんです。そのため給水所には必ずワインが置いてあるんです。各シャトーごとに、こういうマラソン大会があって面白いんだよということを自分たちが海外にワインの営業に行く際にはちゃんと宣伝していますね。

司会:本田さんはいかがですか?既に成功しているところを真似しようという例はありますか?

本田:ひとつはメディア、つまりサンペレグリノのTop50だとか、ミシュランみたいなものですね。あまりにもお店の数が多いと選べないから、人間って基準が欲しいと思うんですよね。例えば、日本だけではなくてアジア全体のTop50のレストランを表彰したり、セレクトすることによってアジアだけではなく世界中からも注目されます。それに自国だけ儲けようとするとうまくいかないことが多いので、こういった横串的なメディアがあると世界からもっとアクセスが増えると思います。
海外の人々は日本の情報や文化をすごく知りたがっていて、今日本は注目されていると思うんです。今ではハワイにも英語版の日本文化についての情報誌といったフリーペーパーが結構あるんですよ。食文化から冠婚葬祭などのことまで掲載されています。日本を知りたい、アジアを知りたいと思っている人たちにアプローチできるグローバルな情報があまりにも少ないから、どこに行っていいのか分からないっていう状態になっていると思うんですよね。

司会:もしTop50とかレストランを選ぶのならば範囲は、日本を含めアジアに広げてみるということですよね。

本田:まずは、日本全部ですね。やっぱり東京だけで選んでいても面白くないと思うんですよ。分かりやすけれど、ユニークなものではなくなってしまうから。

松嶋:一応ミシュランっていうのが出ましたけれど、最初は東京だけでしたよね。その後に京都と大阪へと広がって、東京の方は横浜、鎌倉まで範囲を広げて、それから関西の方のガイドが神戸方面まで入れたという話。日本じゃないんですよね。あれはちょっと残念なモデルですが、日本は食の質が高いということを知ってもらえるきっかけになったと思います。地方のレストランであっても素晴らしいところは星を獲得して評価されている。そこにはクルマを運転して電車で行かなくちゃいけない。それで食を中心に始まる観光ビジネスというのがもっと広がると思います。地元のレストランだけでなく、地元の食材を使っている生産者、またその生産組合、地元の観光団体、地元の観光局など、そういったところが一体となって、自分たちの地元の魅力的なレストランについての情報を発信していく。そのおかげで皆さん潤っていけるようなサイクル作りをできればいいと思っています。先ほど挙げたスポーツをはじめとし、レストランなど、PRの中心になるべきものが必要ですよね。

司会:既に成功しているところを上手く参考にしようというテーマからすると、上手く行っているところを見てみると世界的なキーワードが浮かび上がってきたりしますか?成功のポイントなどはありますか?

松嶋:フランスのガイドブックを開いてみると三ツ星レストランは地方に多いんですよ。地方にある三ツ星レストランのシェフは若い時にフランス各地を転々として、パリなどで働いて、技術や色々なシェフの考えを学んで自分の地元に帰ってくるんです。地元に帰ってきた時にまず何をするかというと、彼らはまず地元の伝統料理を作ってみるんですよね。あとはそういった料理を分解してみて、味を現代化してみるんです。その料理が”ハマれ”ば、レストランっていうのはどんどん評価を得て一番最初に作った一品が地元のシンボルになるんです。フランスで色々な修業をしてきたシェフのおかげで商品に価値が生まれてくるんですよ。価値が生まれてくると、お皿(料理)を食べに来る人たちも増えます。生産者は自分たちの商品の価値が上がると、その商品の開発をするんですよね。たとえば、地元の食材に価値を加えてくれたシェフの名前が商品パッケージとして、どんどん海外に販売できるような繋がりが生まれますよね。そして、その商品を食べて美味しかったら、本場のシェフの料理を味わいに行きたいなという人が世界各国からそのレストランに集まってきます。フランスの場合、それは地方に多いんですよね。地方の人達というのはそういった生産者の人達と密になりやすい関係があると思うんです。

僕も東京で構えていて、フランスで学んだノウハウを東京でも実践しようと取り組んでいますが、スピード感がないですよね。レストランと生産者との連携をやりづらい環境かなっていうのはやっぱりあります。それ以外で新商品についての話となると、既成のものなんですよね。まったく新しいものを作る取り組みと、その商品を一緒に販売していく、営業していくという流れが日本にはまだないように思いますね。フランスでは各地で成功事例としてありますが、日本で見たことがないですね」

司会:本田さんが感じるキーワードはありますか?

本田:どんなに素晴らしいものも、自分のところだけでは広がらないと思うんですよ。横串やあるテーマ、アワードを作ることで周囲も巻き込んで盛り上げていくというのが必要だと思いますね。自分ところだけというのもわかりますが、そういった考えだと長期的なビジネスにならないと思うんですよね。ビジネスで一番大事なのは長期継続。街をあげて、行政やメディアを巻き込んで、関わっている人達が潤う仕組みを考えることが必要なのかなと思います。

司会:そのひとつの例としてトライアスロンみたいなお話があったわけですけれども…それ以外でも何か、最近よく見る例というか上手くいっているものって何かありますか?

本田:今回、小笠原が新たに選ばれましたが、世界遺産ですね。一般的には知られていない石見銀山なども、世界遺産ということでユネスコが発表すると、世界中の人々がそこに注目するわけです。メディアやアワードを介して、もともとある資産をより活性化できるという例ですね。

司会:世界遺産に選ばれてよかったと傍観するだけではなく、それを活かさないといけないのですね。

本田:そうですね。よりグローバルに知ってもらうという努力をすることは必要だとは思います。ただ、日本って人口1億人以上なので、物事は国内だけで成り立つんですよね。でも、人口が1億人切ってくると、外資も導入していかないと需要が成り立たない。松嶋さんによるとフランスは約8000万人らしいので、やっぱり外から人を連れてこないと、やっていけないわけです。日本も人口が減少傾向だということはわかっているわけだから、外にもっと目を向けていく必要があると思いますね。


司会:日本は自国の良さを活かしきれていないという思いがみなさんあると思うんですけれども、実際外から見てみるとどうですか?

松嶋:先日も機会があって博多祇園山笠に行ってきました。福岡の色々な山笠が飾ってあるんですよね。地元に居た時にはわからなかったのですが、海外に住んでいて、たまに日本に帰ってくるとカッコイイなって思えるんです。地元の祭りをダサいとか古いよねって思うことは自分のローカルな視点であって海外からの目線では決してないんですよね。同様に考えると、海外の人達が、日本人の気付きにくい日本の素晴らしさを見出すことってたくさんあると思うんですよ。例えば、伝統工芸って海外に出て行った人からすれば日本の貴重な財産なんです。海外の人たちは日本の文化が大好きなんですよね。僕らより詳しいし、宮本武蔵のスピリットに感動したから日本に行ってみたいとか、何かがきっかけで日本を好きになった人って、たくさんいるんですよね。僕たちがないがしろにしがちな伝統こそがビジネスにつながるんじゃないかなと思いますね。既にある観光資源にどう光の当てるのか、その光のあて方を海外の人達に伝わるようにやっていけば、日本はもう少し観光立国の考えを見出していけるんじゃないかなと思いますね。

司会:本田さんが感じる、まだ私達が気付いていない観光資源になるもの、日本の魅力とはどういう風に感じますか?

本田:食、マンガや建築、色々なものがあると思うんですよ。僕は17年前、アメリカのビジネススクールに入学したとき、それまで日本のことをあまり考えていなかったけれど、より深く考えるようになったんです。授業で日本のことをよく分かっていない感じで言う人がいて、それに同調する人もいるんですよね。あぁやっぱり日本ってよくないよねって。逆に僕はいやそんなことないって言って妙に愛国心が芽生えてきて。外に出ることで見えてくることってたくさんあると思いますね。

柴田:具体的には、何をよく褒められますか?

本田:たとえば電車、ダイヤが正確。その正確さが外国人にとってはあり得ないとね(笑)。

司会:それを観光資源にするということはどうなんでしょう(笑)。

本田:たとえば、実際に電車に乗って体験してみるとかね。あとは、日本人は親切だと褒められますね。

松嶋:僕はニースの友達に、あなたがニースに住んでいる意味が分かりませんって言われるんですよ。日本は親切で良い国なのに、なぜこんなに性格の悪い人間の多いフランスに住んだんだ?と(笑)。僕は、フランスの文化レベルが僕にとっては経験したいことだからそれのためだけにいるって答えてます(笑)。

司会:このシリーズを開催していく中で、やっぱり日本の観光資源のひとつが”人”だったりするんですよね。それを上手くPRする術は何かありますか?

松嶋:人をPRするとなると自分自身のセルフプロモーションといったものが必要となりますよね。フランス人はそういったセルプロモーションが上手なんです。シェフは演じますね。僕としても会社のシェフとして演じる場面、料理人のシェフとして演じなくてはいけない場面があります。シェフという職業は、様々な人に対して演出家でないといけないところがあって、どういうイメージを持ってもらえるかということを考えながら、工夫しながら演じていかないと名刺交換もしていただけないんです。料理が美味しかったからと言うだけではなくて、それ以外に何か自分自身を演出することに関してシェフ達は取り組んでいますね。それってどういうことかというとやっぱり話すことなんですよ。キッチンから出て行って会話をしないと。挨拶だけでもイタリア語でとか…挨拶に関しては4ヶ国語は対応できますね。”おはよう”、”こんにちは”、”さようなら”、”こんばんは”と”また来てくださいね”くらいは喋れるようにしています。食事を通して何語を話すのかわかったら、なるべくその言葉で声を掛けますね。それは、この人優しい人なんだ、親切な人なんだということを伝える手段でもあるんで…。

司会:演出と言ってもそんなに大げさな事ではないんですね。

松嶋:些細なことでいいから、そういう言葉を覚えてみることから始めてみればいいと思いますね。僕の地元・福岡の話だと韓国と台湾人が来るのに、お店とかレストランの人達が挨拶レベルでも、外国語で話せていないようなんです。

また、人とのコミュニケーションを体験できると言った場合、日本ではあんまりサロンという文化が少ない気がしますね。あそこに行けば外国人の人と出会えるって場所もなかなか日本にはないし、例えば「外国人たちとワインを楽しむ会」とか「日本酒を楽しむ会」であったり、そういったサロンがなかなかないですよね。そういったサロンを観光庁が設けてみたり、海外に進出している企業が各営業所の人たちを日本に強引に呼んででも日本で飲み会しましょうでもいいと思うんですよね。またはオフィスビルの1階にそういった場所があってもいいと思いますしね。やっぱり人とのつながりが人の価値だと思いますし、人脈を作っておけば、そういう人脈からお金が出てくるんですよね。でも脈がなかったらどう考えてもお金は作れない。その脈を築くためにどういった会を開くとか、その脈を持続させるためのケアをどうやっていくかなど…そんな話をするのも重要だと思うんですよね。そういった点ではマラソン大会なんかは脈を作る点で言うと、ものすごく重要なものだと思いますね。市がそういったきっかけ作るのは大事だなと思いますよ。まずはそういった意味合いがあることを主催者側が意識しないといけませんよね。先ほども話に上がりましたが、横串のある大会では、ひとつの大会に出ただけで、様々な国から大会のメールがいっぱい届きます。なんでこんなに沢山届くんだろうって思っちゃうんですが、でも実際にメールが来たら参加してみたくなるんですよね。そういうところで大会主催者側の意識だったり、したたかさが出ますよね。

国際経済会議やダボス会議なども同じだと思いますよ。スイス人が先読みして色々と行っています。BRICsの人達だけ集めて開催した経済会議もダボスがまとめてるんですよね。あとヤングリーダーズ会議なども本当に人脈づくりの場ですよね。スポーツの大会と同じくらい意義のあるもので、体験して、その体験しただけの手土産というところまで主催者側が考えているんですよね。

司会:本田さんどうですか?最初は自己演出というお話から、松嶋さんのお話は始まったんですけれども…。

本田:スポーツや食って何の利害関係もないので、脈を作るにはそういったものをベースにするのは最適だと思うんですよね。例えば、僕らで言うとトライアスロンのチームや会社も作って、日本とハワイでトライアスロンの大会を主催しています。大会を通して、個人の肩書など関係ない中で人との繋がりができます。スポーツという共通言語があるので、国境も超えますね。食もそうですよね。食やワインもそうですね、共通言語になり得る。そこで繋がることによってそこから何かが生まれることもあるかもしれないしそういった繋がりってビジネスありきの繋がりよりも強いと思うんですよね。ビジネスシーンで、この人に誰か紹介してもらおうとか、この人から仕事もらおうというところから始まっている繋がりって長続きしないし、国境も超えない。また別の共通言語、観光資源言語でもいいと思いますし、スポーツでもいいと思いますね。

司会:スポーツと料理というのはそういう意味では本当に利害関係なく、年齢も性別も関係なく付き合えるものですね。

松嶋:先ほども話に上がった来日したタイ人シェフですが、使用言語はタイ語かなと思って、一応調べたんですけど、やっぱり国際的なホテルで色々な経験されている方なので英語、フランス語も少しドイツ語、オランダ語も話せるんですよね。だから全く問題なく会話ができましたね。でも一緒に共通の物事に取り組んでいけば会話っていらないんですよね。心だけで理解しあえるんですよね。この人がどういう性格でどういう料理を作っているかって、たぶんスポーツに関しても同じですよね。どういう息使いをしていて、どういう腕の振り方していて、だいたいどういう人かって分かりますよね。

司会:理解しあえる共通項があると、知らず知らずのうちに性格が自然と伝わってくるものですよね。

松嶋:そういう時に思うのは、”美味い”はたぶん世界共通だということ。美味いものをお互い作っていること、それだけでお互い認め合えるし、それにまつわるPRや付加価値も生まれる。僕が作る料理の中には当然のことながらテーマがあります。それがニースであったり、今回はスパキュイジーヌとのコラボだったんで、ピュアさを皿の中に閉じ込めたり…。先日会った彼は、仏教において食のタブーを料理の中で演出していたり、また、タイという色々な国と国境を接していることや気候などの地域性を料理の中で表現していました。それらのロジックがさらに絡み合って作られている料理が出てくるんですよね。それらは、”美味い”という感覚で共有できるから言葉はいらないですね。なんとなく食べて、地図を見たりして、wikipedia見てどんな国か調べた上で、その料理を見返してみると、なるほどね、そういったものが料理を介して表現されているんだ…という気付きはありますね。

先日、マークパンサーさんがテーマがタイと、日本ということで特別に音楽を用意してDJと音楽を設けてくれたんです。そして彼も「啓介、音楽は言葉がいらないんだよね」って。音楽は音符さえ読めれば、音さえ分かれば通じ合えるから、音楽やってるとどこでもいけんだよっていう話をしていました。彼は自分が調べてきたタイの音楽と、フランスの音楽と日本の音楽をコラボしながらディナーを演出してくれたんです。何かひとつ共通するものによって世界とのネットワークは生まれてくるんだろうと思います。体動かすのが好きならばそれがスポーツでもいいし、食べることが好きであったら食でもワインでもいいし、僕にとっては好きなことを通して世界と通じることができるって本当に素敵だなって思いますね。

※掲載されている情報は公開当時のものです。

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