総括’09 日本の音楽シーン

キース・カフーンの見た日本の音楽事情

Read this in English
総括’09 日本の音楽シーン

2009年の音楽業界はそれなりの盛り上がりを見せたが、決して素晴らしい年と言えるほどのものではなかった。インターネットや携帯による著作権侵害で音楽産業全体は低迷の一途をたどっている。国内では、レンタルCDの存在もそれを加速させる一つの要因となっている。CDの売上が大幅に下落を続けているが、インターネット上での音楽ダウンロードの売上はその穴を埋めるほどの利益を上げておらず、業界低迷に歯止めがかからない状態だ。アーティストやイベントについての情報を掲載している音楽系ウェブサイトは増え、多くのユーザーも存在する。しかし、ユーザーがウェブサイトや、ウェブサイトで紹介されているアーティストへ十分な利益をもたらすほどのビジネスモデルは確立されていない。レーベルやアーティストは、今までの価値観を捨てて新たなアプローチで産業を盛り上げることが求められている。一方で、今年は、新しいアーティストの登場や既存のグループが解散するなどの出来事以外に、2010年に向けて大きな可能性を生み出した1年となった。

言うまでもなく、2009年最も音楽業界を震撼させたニュースは、奇怪で悲劇的な死を遂げたマイケル・ジャクソンのニュースだろう。彼の死後、彼の音楽の売上は大幅に上昇。その結果マイケル・ジャクソンは、40年にも渡り確固たるセールスを築いてきたビートルズに並び、2009年最も売れたアーティストとなった。ツアーの面では、U2、マドンナ、ブルース・スプリングスティーン、AC/DCがトップの興行収益を上げた。しかし、ここでも音楽業界の問題を垣間見ることができる。リスクの高い新人アーティストをサポートする動きが減少し、スーパースターの代わりとなる新世代アーティストが誕生しなくなっているのだ。

日本の音楽業界は、テレビ番組や広告に頻繁に出演するアイドルに頼るビジネスモデルとなっている。彼らの熱愛やその他私生活に関するニュースは、二人三脚でビジネスをしているメディアが忠実に報道をする。その関係の中での事務所の立場は強く、ジャニーズ事務所に至っては日本一と言えるだろう。今年は、草彅剛の公園全裸事件や元『男闘呼組』の成田昭次による大麻事件などがありながらも、大晦日の紅白歌合戦には史上初のジャニーズ4グループの出演が決まっている。

その他の国内のニュースとしては東方神起やBig Bangなどの韓国のアイドルグループの活躍があげられる。

日本の音楽に対する海外からの興味は上昇している。しかし、その多くはビジュアル系バンドに留まる。Dir en grey、Girugamesh、Gazette、MUCC、Versailles は海外ツアーでも多くのファンを動員する。しかし一方で、彼らのCDやデジタル音源の売上は伸びていない。日本国内では、青山テルマ、Superfly、Greeeen、コブクロ、絢香が確固たる地位を築き上げた1年となった。椎名林檎と木村カエラにおいては、批判的な意見がありつつも人気を誇っている。相対性理論、大橋トリオ、coma-chiなどの新しいバンドの活躍も見られた。Capsuleやユニークなダンスが売りのPerfumeのプロデューサーとして中田ヤスタカがその名を世間に知らしめた。そして最後に、m-floとDJ Deckstream のコラボは大きな成功を生んだ。

海外ではジャンルごとの売上に大きな差が出始めていて、主だった音楽ファンに好意的に受け入れられるアーティストが減ってきている。アメリカでは、トップチャートの上位をカントリーとヒップホップのアーティストが占めているが、これらのアーティストは日本では殆ど知られていない。ビジネスの観点からすれば、2009年に最も成功したのはセクシーなダンスで知られるレディー・ガガと、48歳の“さえないおばさん”スーザン・ボイルだ。レディー・ガガはそのファッションスタイルと挑戦的なビデオでファンを虜にし、スーザン・ボイルは『Britain’s got talent(イギリスの才能発掘番組)』を通じてその名を世界に知らしめた。その結果、二人には熱狂的なファンが生まれた。アメリカの『American Idol』やイギリスの『X Factor』なども才能発掘番組として有名だが、優勝した後にテレビの露出が続かないため、大抵の場合は視聴者から忘れられてしまう。

2009年に休業したアーティストの中にはレッド・ホット・チリペッパーズがあげられる。この休業の後、ジョン・フルシアンテはグループの脱退を表明した。オアシスは主要メンバーであるギャラガー兄弟の仲違いが表面化した。ここ3年以上新曲を出していないのにも関わらず、エイミー・ワインハウスは、相変わらずゴシップ雑誌のメインを飾っている。ウィーザーのリヴァース・クオモは酷いバス事故に遭い、その結果グループはツアーをキャンセル。2009年6月に始まったU2の360°ツアーは、2010年の10月分まで完売。しかし未だに日本でのツアー日程は決まっていない。

音楽産業の中でも廃れない形はある。ライブである。日本ではフジロックフェスティバルとサマーソニックがその代表例だ。どちらを取っても世界的に認められている音楽ライブで、国内、国外問わず、毎年多くの著名アーティストが参加をする。2010年の夏までにはまだ少し時間があるにも関わらず、音楽ファンは来年訪れるアーティストが誰になるかの予想を始めている。クリエイティブマンはサマーソニック以外にもパンクスプリング、R&Bメインのスプリンググルーブ、ジャムバンド、サーフミュージック メインのグリーンルーム、ヘビーメタルのラウドパークなどといったイベントを実施している。

日本のビジュアル系バンドとマリリン・マンソンやネガティブなどの海外のビジュアル系が出演した音楽祭、V-Rockが実現した年ともなった。それに加え、イギリス屈指のインディーズレーベル、ワープの創立20周年を記念すべく、ダンスイベントのエレクトラグライドが復活を遂げた。ビヨンセのファンでなかったとしても、ライブとしては、彼女がサマーソニックで行ったライブが今年一番だったと言えるだろう。斬新な演出、完璧なバンドとダンサーに加え、ビヨンセの魅力が溢れるステージだった。

海外アーティストで来年注目のトップ5:

Girls

UkやUSで大きな話題となっている、サンフランシスコ出身のクリストファー・オーウェンスとJR ホワイトからなる2人組。ビーチ・ボーイズ的なポップスをベースに、サイケデリック・ロック、シューゲイザー、ハードコアを織り交ぜたノスタルジックな世界観が魅力。1月14日(木)原宿アストロホールにて公演決定。

‘Album’ release date: Sep 22, 2009, True Panther Sounds
MySpace: www.myspace.com/girls

Pains of Being Pure at Heart

シングル『Everything with you』が即完売した、ブルックリンの4人組インディ・シューゲイザー・バンド。My Bloody Valentineの『Paint a rainbow』をフェイバリットと公言するとおり、バンドの音は限りなくMy Bloody Valentineに近い。しかし、世界感はずっと明るくポップ寄り。2月14日に新代田のLive House Feverでの公演あり。自分の目で確かめに行こう。

‘The Pains of Being Pure at Heart’ release date: Feb 03, 2009, Yoshimoto R and C
Official site: www.thepainsofbeingpureatheart.com/
Live House Fever: www.fever-popo.com/schedule/2010/02/0618.html
※試聴は再生ボタンをクリック

Qemists

COLDCUTが主催するイギリスの名門レーベル『Ninja Tune』からデビューした3人組。サマーソニック09で、衝撃を受けた人も多いはずだ。生バンドのヘビーさと精密なプログラミングから生み出される強烈なロック&ダンスサウンドは、“踊れ”というより、“暴れろ”というバンドからのメッセージに違いない。

‘Join The Q’ release date: Jan 21, 2009, BEAT RECORDS/NINJA TUNE
Official site: www.ninjatune.net/ninja/artist.php?id=129

Flying Lotus

カリフォルニアをベースにするプロデューサー&ビートメーカー。ベースはHipHopと聞くが、魔術師とも思える巧みなサンプリングとシンセ使いで、ジャンルを限定せず、宇宙を感じさせる美しいサウンドを生み続けている。11月に行われた『electraglide presents WARP20』で気さくな人柄を披露し、新しいファンを獲得した。

‘Los Angeles’ release date: Jun 10, 2008, Warp

Official site: www.flying-lotus.com/destroy/

Vampire Weekend

2006年に結成後、海外でのライブは売り切れ続出、日本でも人気を獲得しているニューヨークのポップ・ロック・バンド。アフリカン、ポップ、パンクと様々なジャンルを行き来きしながらも、一貫して漂う抜け感がたまらない。待望のニューアルバム『CONTRA』は1月12日US発売。2010年も引き続き目が離せないバンドである。

‘Contra’ release date: Jan 12, 2010, Hostess Entertainment Unlimited
Official site: www.vampireweekend.com/

日本で来年注目のアーティスト:

World's End Girlfriend

World's End Girlfriendとは、前田勝彦の音楽上のペルソナである。彼が作る音楽は主に、クラッシック、ジャズ、エレクトロニックの要素を組み合わせ、ホラー映画音楽的なスパイスを加えた、インストゥルメンタル・ミュージック。また、彼は国際的に音楽リリースとツアーを行い、映画音楽の制作者としても賞賛されている。最近手がけたものは、カンヌ国際映画祭で好評を博した是枝裕和監督の『空気人形』であり、この映画は今後10カ国以上で配給される。ニューアルバムは2010年春に完成予定。
12月31日まで、音楽配信サイト『OTOTOY』にて、最近制作したアルバム『Xmas Song EP』のフリー・ダウンロードが行われている。
ototoy.jp/feature/index.php/20091203

‘Air Doll O.S.T’ release date: Sep 25, 2009, Human Highway Records
Official site: www.worlds-end-girlfriend.org/
※試聴は再生ボタンをクリック

DadaD

Gラブがギターでバッキングするアニー・レノックス……、それがDadaDである。カルトバンド、KoboseのShigeがギターを、ファンキーかつエレガントなマルチリンガル、Kateがボーカル(エル・オンラインでブログを執筆中)を担当する、東京ベースのデゥオ。2010年中頃にセカンド・アルバムが完成予定である。

‘Welcome to sha la la la la’ release date: Dec 10, 2008, JULY RECORDS/UAE
MySpace: www.myspace.com/xxxdadadxxx
※試聴は再生ボタンをクリック

Molice

目指すのは、映画『ブレードランナー』の街でライブをしているバンドと言う、ニューウェーブ・ロックンロールバンド。活動開始は2007年。自主ライブを精力的に行いながらデモ制作を続けたのち、サマーソニック07に出演。2008年には初のフルアルバム『Doctor Ray』をリリースするなど、順調にキャリアを積んでいるバンドである。アメリカやフランスを始めとするラジオでのオンエアや取材依頼も多く、国外での活動も期待されている。12月28日から30日までロンドンでライブを行う。

‘DOCTOR RAY’ release date: Dec 10, 2008, VELOUR VOICE
Official site: www.themolice.com/
※試聴は再生ボタンをクリック

Lazy Guns Brisky

2006年、高校の同級生が集まって結成されたガールズ・ロックバンド。インディ・バンドらしい元気なパフォーマンスと、ざらつき感が魅力的なバンドである。2008年4月にデビューアルバム『quixotic(キホーティック)』を制作、同年12月には浅井健一をプロデューサーに迎えたミニアルバム『“Catching!”』でメジャーデビューを果たした。今年7月には同じく浅井プロデュースで『26times』をリリースし、その中の1曲『Navy Star』はテレビ東京系『ゴッドタン』のエンディングテーマとして使用されている。

‘26times’ release date: Jul 8, 2009, Flyingstar records
Official site: lazygunsbrisky.com/

Nattcu

東京出身の“ナッチュ”は、日本的なポップスでありながら、海外での活動の場を急速に拡げているシンガー・ソングライターである。UKでツアーを行い、マンチェスターの『In The City Festival』やテキサス州オースティンの『South by Southwest』に出演。

パンキッシュでサイケデリックな、まさに外国人がイメージする“Harajuku girl”のイメージのせいもあってか、その活動は『NME』や『The Guardian』といった主要メディアに取り上げられた。日本語と英語両方で歌う彼女には、国内外を柔軟に行き来する活動を期待したい。

‘Sketchbook’ release year: 2004,
Official site: www.natccu.com/

注目すべき日本人といっても過言ではないアーティスト:

Beckii Cruel

日本のアニメソングにあわせて踊った動画が「可愛いにもほどがある」とネットで大ブレイク。イギリスはマン島出身の14歳の少女は、国境を越え、一躍、日本の人気ネットアイドルとなった。ロッテ『Fit's』のキャンペーン・シーズン2に登場、12月にはデビューDVD『This is Beckii Cruel!』をリリース。クルーエル・エンジェルスをフィーチャーした1st マキシシングル『翼をください』が2010年2月に発売予定されている。

『Fit's』のキャンペーン・シーズン2 lotte-fits.jp/dance/beckii_cruel.html

This is Beckii Cruel!「翼をください」 www.tkma.co.jp/tjc/j_pop/beckii/

キース・カフーン プロフィール
1984年より、日本で音楽ビジネスに携わる。タワーレコードで18年間CEOを、またiTunesジャパンでディレクターを務めたほか、アメリカ、ヨーロッパ、日本の音楽レーベルのコンサルタントとしても活躍。2003年に、東京をベースにする音楽出版およびコンサルティング会社、Hotwireを設立し、代表に就任した。

Band info written and translated by TOT

テキスト、翻訳 TOT
※掲載されている情報は公開当時のものです。

この記事へのつぶやき

コメント

Copyright © 2014 Time Out Tokyo