元宝塚男役トップスター、水夏希

新しいエンターテインメントの形『スミレ刑事の花咲く事件簿』

元宝塚男役トップスター、水夏希

女性だけのカンパニーとして世界的に知られる宝塚歌劇団。その男役トップスターを務めた水夏希が、退団してから初めて主演をつとめる舞台の内容が先日発表された。『スミレ刑事の花咲く事件簿』というタイトルのコミカルなタッチのミステリーになるが、これが普通の舞台ではない。舞台に加え、原作である書籍、CSドラマ、DVDと連動してゆき、複数のメディアがタッグを組む一大プロジェクトで、その全体を“SUMIRE LABO”として展開する。元宝塚男役トップスターの個性を活用するエンターテインメントの新しいビジネススキームとしても注目を集めている。

海外では、“女性版の歌舞伎”のような、日本独自のカルチャーとして知られる宝塚だが、その花形である男役トップスターは、女性の理想形としての“男性”を追及するだけに、退団してからの活動にある種の難しさがつきまとうことが多い。当然ながら、宝塚の外では“男性役”は実際の“男性”がつとめるため、男役スターは“女優”としてのまったく新しいキャリアをスタートさせなくてはいけないからだ。“女性”を演じるにあたって無意識のうちに出てしまう“男っぽさ”に悩まされる元宝塚男役は多い。だが、真矢みき、天海祐希など、宝塚で培った個性と演技力をうまく外の社会でも活かし、独自の存在感に磨きをかける形で、日本のエンターテインメント界で最も人気のある女優となった元男役スターも少なからず存在する。

水夏希は1993年に宝塚新人公演で主役に抜擢されて以降、宝塚男役スターの王道をひた走り、ハスキーな声で歌い上げる歌唱力、華麗なダンス、人間味あふれる演技力で抜群の人気を誇った男役トップスターであった。『スミレ刑事の花咲く事件簿』において水が演じる“ヒロイン”、伊原すみれは女性である。だが、そのキャラクター設定は、長身でスタイル抜群、仕草もかっこよく、同僚女性の憧れの的となっており、ストーリーにも宝塚の要素が散りばめられている。つまり、水夏希という元男役トップスターの個性と、宝塚の魅力を存分に活かすコンテンツとなっているのだ。“宝塚”という日本独自のエンターテインメントが持つ強みを、フジテレビのCSコンテンツ、DVD、講談社より出版される書籍、そしてフジテレビジョン、関西テレビ放送、講談社、ブルーミング・グループの各社が協力して手がけ、“SUMIRE LABO”は4つの異なるメディアを活用して退団後のトップスターが活躍できる新しい場を提示する。

その制作発表記者会見において、“男役”である必要が無くなってからの生活について聞かれた水夏希は「宝塚にいた時は、買い物に行くと男物フロアも回ったりしていたんですが、やめてから、買い物に行ってメンズフロアで“この服いいなぁ”って思ったりしても、“あ!もう見なくていいんだ!”と気づくということがありました(笑)」と語り、会場に集ったファンを沸かせた。そして水は、初めて“女役”を演じることについてどのように考えているか、次のように語った。

「本当に女性ばっかりの世界の宝塚に17年近くいたので、男性とお仕事をすること自体が初めて。今までとまったく違うのですが、でもここで可愛い女子になってしまってはあまり意味がないので、男役であったことが活かせるような、切れ味のいい、カッコいい女性刑事をお見せしたいなと思っています。女性として生きることは本来は当たり前なのですが、それが違う方向に向いているのが当たり前だったので、難しいのです。役にアプローチするやり方というのは、人間として、自分以外の人物の過去の記憶をインプットするということだと思うので、そういう点では特に構えることなくやりたいと思っています。その上で自分がどういう風になっていくかは、本当に未知の世界です。でも練習などで“ちょっと女っぽいですかね?”と思って周りに聞いてみると“全然男っぽいですよ!”と言われて、あらら、ということになったり、感覚が自分ではわからないんですよね(笑)。その辺りは皆さんと一緒にディスカッションしながら、男っぽすぎたら指摘していただきながらやっていきたいなと思います。女性として勝負することにおいては、ずっと女性を研究されてきた女優さんにはかなわないので、いい意味での両性具有的な、マニッシュな、自分らしい感性を活かしつつ、男性からも刺激を受けて頑張りたいです。宝塚を知らない人にも、宝塚に興味を持っていただける機会になればと思っています」

宝塚歌劇団が誇ったトップスター、水夏希は“未知の世界”へと新しい一歩を踏み出した。彼女の歩みによって、宝塚が提示してきた“女性から見てカッコいい女性”像が新たなファン層を獲得することへの期待が高まる。

“SUMIRE LABO”第一弾として『スミレ刑事の花咲く事件簿』シリーズ第一巻が、2010年12月20日に出版された。ドラマはフジテレビONE TWO NEXTで2011年3月に放送を予定している。DVDドラマは2011年5月より順次リリースの運びだ。そして、宝塚ファンのみならず、舞台ファン待望のステージは、2011年5月2日(月)から7日(土)に新国立劇場で上演される。元宝塚トップスターによる新しい舞台の楽しみを提供してくれるだろう。


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テキスト 七尾藍佳
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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