ブラジル映画界の新星に聞く

エズミール・フィーリョ『名前のない少年、脚のない少女』が来春公開

ブラジル映画界の新星に聞く

短編映画の監督として輝かしいキャリアを持つブラジル人映画監督、エズミール・フィーリョが初めて挑んだ長編作品『名前のない少年、脚のない少女』が、2011年春、劇場公開される。この作品は、カンヌ国際映画祭をはじめ、世界各地の映画祭で数々の賞を受賞した。主人公は、南ブラジルの小さな町に母親と2人で暮らし、学校にも家庭にも自分の居場所を見つけられず、日夜インターネットにのめり込んでいく16歳の少年。10代の少年少女が持つ特有の不安や哀しみ、そして反抗心や孤独が描かれている。インターネットで映画と現実がリンクする、新しい試みも行われたこの作品。2010年10月にはブラジル映画祭で先行上映され、エズミール・フィーリョ監督が来日。初めて訪れた日本の印象、映画について、そしてブラジルのオススメお出かけスポットなど、さまざまな話を聞いた。

初めての日本はどうですか?

エズミール:非常に歓迎されている印象です。人々の温かさに包まれている感じがあり、東京が気に入っています。来る前は、東京には人がいっぱいいて、混沌としていて、イルミネーションがすごくて、電気製品があふれているイメージでした。確かにその通りでしたが、今回、それ以外の部分を知ることができたのが良かったです。下北沢とか、高円寺に行って、今まで持っていたイメージと違う部分を見たし、日光にも行って自然を満喫しました。もっともっと日本にいたいという気持ちです。

『名前のない少年、脚のない少女』は、ティーンを題材にした映画ですが、日本のティーンと、ブラジルのティーンを比べて、違った点は感じられましたか?

エズミール:ティーンエイジャーは、躍動感があって、強いものを持っていて、これから始まる新しいことにわくわくしている感があるのは、全世界的に共通していると思います。問題にぶちあたると、苦しみ過ぎたり、泣いたら本当に大泣きしたり、笑ったら何がおかしいのかわからなくなるくらい笑ったりして、人生のいろんなことを実験しているような世代だなと。サンパウロと東京のティーンエイジャーを見ても、そんなに大きな違いはないと思います。

映画監督になろうと思ったのが15歳のティーンの時。フェリーニ監督の映画を観て、映画の可能性に“はっ”としたと聞きました。

エズミール:15歳の時に観た映画のエンディングが、観客に考えさせるような終わり方をしていたのが、とても印象的でした。それで、そんな映画を作りたいと思って、映画学校に入り、色々な短編映画を撮って、自分の見方をためしていました。ストーリーはすでに語りつくされていると思いますが、そのストーリーをどう見るか、というのが大切になってきていると思うんです。

私の映画は非常に感覚的なもので、音と映像を通して、心情を表していきます。映画のストーリー自体に、隠されたものがあって、それが最後にわかるものでもない。今これを表したい、伝えたいというものがあって、映画にして表すのが私の映画の世界で、映画は私が世界と会話をするためのひとつの表現方法になっています。

YouTubeにアップした監督の短編作品『Tapa na Pantera (Slap the Panther)』が1000万回以上再生されて話題になりましたが、これからも短編映画をアップしていく予定はありますか?それとも、これからは長編作品のみになるのでしょうか?

エズミール:短編も自分の人生の一部だと思っていますし、短いストーリーも好きなので、これからも続けていくと思います。1本の作品の中にも、小さい物語と長い物語があるのと同じように、長編だから入り組んで書かれているということではなく、短編でも長編よりさらに深く心情を表すこともできる。今は、たまたま長編映画に挑戦していますが、短編も好きなので、これからもさまざまな作品をアップしていこうと思っています。

インターネットは一度アップしてしまうと、何が起こるかわからない世界、この『Tapa na Pantera (Slap the Panther)』はブラジルで大ヒットしたんですが、携帯のバイブレーションをテーマに撮った『ビブラコ』という作品は、アメリカで300万アクセスがありました。『ビブラコ』はブラジルではあまりヒットしなかったので、本当にインターネットは何が起こるかわからない世界だと思います。

今回の作品でも、インターネットが特徴的に使われていて、映画の中のキャストが実在し、映画を観た後でもインターネット上でその人物が更新し続ける写真や映像を見ることができますよね。

エズミール:まずはインターネットで色々調べて、400人と会い、その中から40人に絞って、ワークショップをしたんですね。私の中では、それぞれのキャラクターに対する自分のイメージがあって、そのイメージに合っているのはどの子か、ということで選んだんですが、誰がどんな生活をしているのかは目を見ればわかった。だから、役者として参加してくれた子たちの“そのままの生活”を借りた、という感じなんです。彼らが、実際にそこで暮らす姿を借りてきて、映画の中で使った。だから、彼らのミスで撮り直しをしたことは一度もありませんでした。カメラなどの問題で撮りなおしたことはありましたが、彼らは“強いもの”をもっていたので、映画への出演経験がない人を使っても困難はありませんでした。

映画に出てくるジングル・ジャングルという女の子は実在するんですが、彼女がYouTubeに映像をアップしたり、Flickerに写真をアップしているのを見て、バーチャルな世界に生きている彼女の世界観を映画に反映させたいと思った、それが制作の第一歩になりました。彼女の写真は今も更新され続けていて、私の映画を観終わった後も、さらに物語の続きにアクセスできると思います。

インターネットは、広がる一方、狭まっていく世界だと思うのですが、監督自身がこれからどう、映画とネットをリンクさせていくのか、お聞かせください。

エズミール:私も、インターネットは、世界が広まると同時に狭まっていると思います。今回の私の映画でもそれがメッセージとして含まれていますが、今の子供たちは、生まれながらにしてインターネットがあって、インターネットの世界で成長していく状況下にある。時に、バーチャルとリアルな世界が、一緒になってしまっていて、バーチャルな世界で友達を作っても幻想でしかないので、実際はひとりであることに気づき、結局は孤独を感じてしまう。

映画の最後の方に、お母さんと主人公の男の子が抱き合って踊り合うシーンがあるんですが、バーチャルな世界だけではなく、人と人がふれあうことが大切だというメッセージを込めています。インターネットは世界への扉になるかもしれないけれど、一方で危険な部分もあって、映画を通して、気をつけてなければいけないことを伝えています。インターネットの世界は、終わりに近づいているわけではなく、今、始まったばかりなので、どんどん進んでいく時代。でもバーチャルな世界が広がっても、フィジカルな、ふれあいのある世界が大事だと伝えたい。

それでは最後に、私たちがリアルな旅に出かけた時のために、サンパウロのオススメお出かけスポットを教えてください。

エズミール:夜の散策でオススメなのが、アウグスト・ストリートです。KEBAKELというケバブ屋さんがあって、とても美味しいですよ。それから、金曜日はAstronete、土曜日はALOCAというクラブが最高に盛り上がっています。それから、リベルダージという、サンパウロ市中心地に隣接する、世界最大の日本人街も昼間に散策するととても面白いですよ。日本から行っても、新しい発見があると思います。


テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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