インタビュー:コウサカワタル

「どの土地も拠り所にできなかったということは、どこでも故郷って言い切れる」

インタビュー:コウサカワタル

沖縄の三線やインドのサロードなど多種多様な弦楽器を使い、個性あふれる音楽世界を描くコウサカワタル。この8月には新作『Stringed Unchained』をリリースし、10月8日(金)から12日(火)までは南青山のギャラリースペース、PLSMISで『ELECTRO FOLK LOUNGE』と題した楽器展示会も開催するなど、ユニークな活動を展開する彼に直撃インタビュー。ヨーロッパでも積極的にライブを行うなど、インターナショナルな舞台でも活躍する彼ならではのインタビューとなった。

ご出身はどちらなんですか。

コウサカワタル:生まれたのが北海道で、5歳のときに沖縄に移ったんですよ。でも、まだ子供だったから、言葉が違ったり暑かったりする沖縄となかなか合わなくて(笑)。それで中学・高校は埼玉の学校に行って、寮生活をしてました。台湾に行ったこともあるし、19歳のころはシンガポールにも住んでました。

じゃあ、いろいろ行き来して。

コウサカワタル:そうですね。ウチの母方の先祖は百何十年前に福建省から台湾に移った台湾人なんですよ。沖縄には中国から移ってきた人も多いので、どこかで繋がってるのかもしれないですね。

初めて手にした楽器はなんだったんですか。

コウサカワタル:自分の意志を持って弾き出したのは中学に入ってからですね。みんな持っていたので、最初からギター。当時はバンドブームだったのもあって、僕もブルーハーツやストリートスライダーズが大好きだったんです。で、そこから少し掘り下げていくとブルース・ロックにブツかって。日本のロックとかアメリカやイギリスのブルース、中学時代にはそのへんにハマってました。僕が行ってた学校は自由な校風だったので、教室に2、3本ずつギターがあるような感じ。みんながギターを持ってたんで、誰かが弾き出すと自然にセッションみたいなものが始まるんですよ。しかも寮生活だったんで、部屋にみんなで集まってはテレコに録音したり。だから、ある意味では今やってることと同じなんですよね。

いろんな場所を転々としたきたことが、コウサカさんご自身のアイデンティティに与えた影響もありそうですね。

コウサカワタル:僕はどこかの場所を自分の拠り所にしたことがないんですね。混血だし、生まれた北海道にしたって先祖から代々住んでた場所でもないし。お父さんは日本人で、お母さんは日本人と台湾人の混血だけど、僕とも違うわけですよね。そう考えると、自分をカテゴライズしようとすると、僕は僕しかいないわけです。“結局人間いっしょじゃん!”と思えるようになってからは楽になったけど、それまでの拠り所がなかった時期は音楽だけが僕の拠り所だったんです。

三線をはじめて手にしたのは?

コウサカワタル:15歳ぐらいのときなんですけど、その当時、ブルースからレゲエも聴くようになって。レゲエにいくと、同じアイランドミュージックとして沖縄音楽にも興味が出てきたんです。僕はある種否定的に沖縄から飛び出しちゃったんですけど、ジャズを演奏してもハネ方がエイサーになっちゃうことに気づいたんですよ(笑)。それが分かったとき、“自分のなかに沖縄がある”っていうことに気づいて、どこかで落とし前をつけなくちゃいけないと思うようになったんですね。ただ逃げてても駄目だろうと。それで、夏休みのときに沖縄の実家に帰ったとき、ウチのお母さんが三線をプレゼントしてくれたんです。また、その三線がすごく美しかった。通常売られている三線のように黒く塗られたものではなくて、木のまんま。でも、3年ぐらい弾いてたら手油ですごいツヤが出てきて。母親としては近所のオッチャンが作ってたものをたまたま買ってきただけなんだけど、すごくいいものだったんですよ。今回PLISMINSで展示する楽器も全部その職人さんに作ってもらったものです。だから、その方とは20年ぐらいの付き合いになるんですよ。

その三線で弦楽器を弾く楽しさを知った?

コウサカワタル:本当の意味で“弦楽器、ヤベエ!”と思ったのはもうちょっと後ですね。弾き始めのころはどう弾いたらいいのかも分からないし、神髄的な楽しさにまではまだ辿り着かないんですよ。本当の楽しさを知ったのは、自分のチューニングを見つけて、ギター自体の鳴りの良さを発見したとき。ちょっとチューニングを変えるだけで、弦楽器って全然鳴りが違うんです。要するに、楽器の特性と自分のやりたい表現が合致したとき、初めてギターの楽しさに出会えるんですね。で、それが分かると他の楽器でも応用したくなる。例えば、ベトナムの一弦琴にしても、その楽器じゃないとできない表現がある。そのあたりが分かってくると楽しいんですよね。

なるほどね。ちなみに沖縄に戻ったのはいつなんですか。

コウサカワタル:今から13年ぐらい前ですね。子供ができて、新しい家族で暮らすときにどこにしようかと考えたとき、やっぱり沖縄がいいなと思うようになって。

音楽活動をするうえでも沖縄がベスト?

コウサカワタル:それはいつも自分のなかで天秤にかけてることなんですけど、いつもヨーロッパには惹かれてるんですよ。ヨーロッパ内を移動するのも楽だし、日本よりも物価が安い国もある。ただ、僕には沖縄で挑戦したいことがあるんです。沖縄ってすごくいろんな問題を抱えてますよね。例えば沖縄には電車すら通ってないんですけど、国道の両側がフェンスだったりするんですよね。そんな場所に電車なんて通せるわけないじゃないですか。それは差別以外の何ものでもないと思う。僕は混血なので、子供の頃にいろんなことも言われたし、そのこともあって差別がすごくイヤなんです。なので、僕が生きている間にいろんなものがクリアになったらいいと思う。例えば沖縄の米軍基地が返還されて、その跡地で交通インフラが整って……シンガポールが一大の首相で大きく変わったように、“アーティストだったら沖縄に住まなきゃ”っていうぐらいのことになってほしいし、もしもそこで何か貢献なんてできたら、そんなに楽しいことないと思うんですよ。沖縄は台湾やマニラも近いですしね。

2002年にはプライベートレーベルであるオキナワ・サウンド・トラックスを立ち上げて、勢力的にアルバムをリリースしていきますね。

コウサカワタル:そのちょっと前にさっき話したような弦楽器の特性にようやく気づいて、自分のやりたい表現と合致するようになったんです。それで人にそのアイデアを問うてみようと思って、とにかく(作品を)出そうと。他の人がどう評価してくれるか分からなかったんですけど、(DJの)MOODMANさんと同じパーティーに出たときにCDを渡したら気に入ってくれて、(新宿のレコードショップ)LOS APSON?の山辺(圭司)さんに紹介してくれて。須永辰雄さんもそうですけど、当時、DJの方々が気に入ってくれたのが大きかったですね。

8月にはニュー・アルバム『Stringed Unchained』がリリースされました。

コウサカワタル:“Stringed”っていうのは弦が張ってある緊張状態のことで、“Unchained”は開放された状態のことなんですね。“Stringed”されることで自分が開放されるような感覚。“Stringed”されてるからこそ僕は自由でいれるし、弦楽器自体が僕の拠り所でもあるので。それと、弦楽器ってどの時代のどの宗教の人が弾いても、同じように弦を押さえれば同じコードが鳴らせるんですよ。人間って何?って自分に問いかけていくとき、僕はどんな人間が触れても同じものになることをひとつ知ってる。弦楽器は僕にそういうヒントも与えてくれたんです。

このアルバムではさまざまな国の楽器が使われてますが、アジアを繋げていくような意識も感じます。

コウサカワタル:うん、意図的にやってるところはありますね。僕がどの土地も拠り所にできなかったということは、逆に言えばどこでも故郷って言い切れるということでもある思うんですよ。このアルバムのなかではアジアの楽器もいろいろ使ってるけど、インドのサロードっていう楽器で近代ヨーロッパの雰囲気を出したりしてます。4曲目の“雀らは山原の森に”という曲では、ベトナムの口で鳴らす楽器を使ってて、それはベトナムの少数民族が使ってるものなんですね。彼らはオーストロネシアンっていう民族にカテゴライズされる人たちで、そこには台湾の現住民やフィリピン、マレーシア、ハワイの一部、それとマダガスカルの人たちも含まれるんです。で、彼らに共通する楽器が口琴なんですよ。そういう意味でも、このアルバムに入ってるのは人類の自然な交流とか融合を表現したものでもあるんです。次のアルバムではフィリピンにも行こうと思ってるし、オーストロネシアンの交流をもう少し意識して作れればとも思ってます。

ひとつの楽器から民族の流れやルーツが見えるのはおもしろいですね。

コウサカワタル:そうですね。海洋民族であるオーストロネシアンの楽器は、カヌーに乗るときにポケットに入れていけるようなものが多いんですよ。それこそ濡れても大丈夫なように。サロードや三線を持ってカヌーでフィリピンに行けって言われても僕はイヤですね(笑)。この前、沖縄の無人島に行くときも口琴を持っていったんですけど、さすがに三線は濡れたら困るから持っていきませんでした(笑)。

それと、さまざまな国籍のミュージシャンも参加してますね。これまで交流のある方が多いんですか。

コウサカワタル:そうですね。(タブラ奏者の)U-zhaanとも一緒にライブをやったことがあるし、ギターのポール(・マウ)さんは沖縄に何年も前から住んでるフランス人。トリオダリは今年の3月にイタリアツアーをやったときに一緒になって。このアルバムにも彼らのスタジオで録った曲が入ってます。そういえばね、ロンドンのアイリッシュパブに行ったときのことなんですけど、ウィリーっていう不良の親父がセッションナイトをやってたんですよ。そこにサロードを持っていったんですけど、最初ウィリーが微妙に警戒心を持ってて(笑)。僕がサロードを弾き始めたらウィリーもギターをカブせてきたんですけど、全然合わせてくれない。つまり、楽器で喧嘩を仕掛けてきたんです。仕方ないからオレから合わせていったら、今度はウィリーがえらい喜んでくれて(笑)。向こうはサロードなんて見たことないから警戒してたみたいなんですけど、僕はブリティッシュロックも聴いてきたからサロードでそういう風にも弾けるし、音楽はどこかに共通するところがあるから、そうやって通じ合えることもあるんです。

このアルバムもそういうコミュニケーションの結果というわけですね。

コウサカワタル:そうですね。音楽は早いですよ、友達になるのが。すぐ友達になれますから。


コウサカワタル『Stringed Unchained』
2100円(税込み)[amazon.co.jpで購入]
Stringed Unchained - コウサカワタル

コウサカワタル公式サイト:www.watarukousaka.com/

テキスト 大石始
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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