インタビュー:エイドリアン・シャーウッド

リー・ペリーとの作業で学んだのは、自分が魔法を使っていると思え、ということ

インタビュー:エイドリアン・シャーウッド

1960年代、マルチトラックレコーダーなどの録音技術が進化する過程で、ジャマイカで発明された「ダブ」。その技術、概念が世界中に伝播したのは、1970年代末から80年代初頭にかけてのイギリスにおけるニューウェーブ、ポストパンクのムーブメントによる影響が大きい。そして、パンクの直線的な衝動から逸脱し、ダブミックスを用いた狂気的かつ立体的な音にシフトしていく歴史的現場の中心にいたのが、エンジニアのエイドリアン・シャーウッドである。彼は2013年から、ブリストルの若きトラックメイカーPinchとのコラボレーションユニットで活動しているが、親子ほどの年の差の2人が生み出す先鋭的なサウンドは、時代が一周し、エイドリアン自らが蒔いた種子が大きく花開いたことを示している。そして今、10代にキャリアをスタートさせ、ON-U SOUNDを創設し、様々なジャンルを飲み込みながら30年以上に渡って第一線を走り続けてきた巨星は、そのキャリアの萌芽期を振り返ろうとしている。2015年3月にリリースされた初期作品のアーカイブ集『Sherwood At The Controls - Volume 1: 1979-1984』、そしてそれにともなう来日公演『ADRIAN SHERWOOD "AT THE CONTROLS" X 3』では、同作と呼応する「'79〜'89 Classic DJ Set」を披露するのだ。今回のインタビューでは、色褪せるどころか時とともに輝きを増し続ける彼の作品群について、いまや伝説になりつつある当時の音楽仲間たちについて、そして朝に摂取するアーモンドミルクについて、丁寧に、誠実に答えてくれた。

ー来日公演をとても楽しみにしています。近年はソロやSHERWOOD & PINCHとして頻繁に来日されていますね。

日本は本当に大好きで、31年前から何度も来日している。だから変化もたくさん見て来たんだ。俺の1番古い友だちの古田さんって人がいるんだけど(笑)、彼は昔アンティークのビジネスをやっていて、ロンドンに住んだりもしていたんだが、景気が悪くなって今ではタクシーの運転手をしている。それは一例だけど、俺はミュージシャン……じゃないか、ミュージックマンだけど、音楽関係以外の友人もたくさんいるし、音楽以外の日本のことも見てきたんだ。

ー日本に来た際に必ず訪れるようなお気に入りの場所はありますか?

やっぱり東京は好きだね。東京は俺にとって自分の家のような場所。場所は色々あるけど……やっぱり東京全体だな。第二の故郷なんだ。

ー今回リリースされた『Sherwood At The Controls - Volume 1: 1979-1984』では、あなたのキャリアの初期作品、主にレゲエアーティストやその影響下にあるポストパンクのバンドの楽曲が並んでいますね。この時代の作品は、日本でもいまだに、むしろ最近ではより人気が高まっています。当時のあなたには、自分の手がけた作品がこれほどに普遍性のある、長く愛される仕事になるという実感はありましたか?

愛されるまではわからないけど、俺は常にタイムレスな音楽を作ることは心がけているんだ。だから答えはイエスと言えると思う。その時その時の流行なんかは気にしない。時代を超えて聴くことができる音楽を作ることは意識しているね。それは自分にとってすごく大切なことなんだ。他の誰のサウンドにも聴こえない、自分自身のサウンドを作ろうとベストを尽くしてる。自分が誇りに思えるサウンドをね。だからこそ、多くの人たちがその作品がエイドリアン・シャーウッドの作品だと認識できるんだ。その姿勢は今も昔も変わらない。だからこそ、35年経ったサウンドが今でもユニークに聴こえるのさ。


ー若き日のあなたにとって、ひとつ大きい経験だったPrince Far I(70年代に「VOICE OF THUNDER」の愛称で親しまれたジャマイカのレゲエシンガー)との楽曲も収録されていますね。

彼と出会ったのは俺がまだ駆け出しの頃で、Far Iは心から尊敬できる、本当にアンダーグラウンドで深い男だった。彼は、俺のクリエイティビティのドアを開けてくれた人物なんだ。俺が25歳の時に殺されてしまったけど、今でも彼から学んだことは自分の作業に大きく影響している。ミックスをいかにミニマルにするかとか、スローダウンとか、あと、彼のユニークなタイミングとか。彼から受けた影響は永遠だよ。彼の声からは、いまだにインスパイアされるね。


ー『Sherwood At The Controls - Volume 1: 1979-1984』に収録されている楽曲で特に思い出深いトラックはありますか?

そうだな……多分、『Learning to Cope With Cowardice』だと思う。

ーそれは何故?

ほかのトラックはミックスだけだけど、このトラックはマーク・スチュアート(The Pop Group)との共同プロデュースだから。このトラックは、色々なことがまとめられたトラックだと思う。本当に良いトラックだしね。もちろんどのトラックにも強い思い出はあるけど、選ぶとすればこのトラック。それにこのトラックは、今聴いても抜群にユニークに聴こえるしね。

ー今回の作品集に収録されている楽曲で、今の自分なら全くアプローチをするだろう、という楽曲はありますか?

全部だよ(笑)ははは!(笑)まあ、笑って聴き流すだけだけど(笑)

ーあなたも関わっているというThe Slitsの映画『HERE TO BE HEARD: The Story of The Slits』(日本での公開は未定)がもうすぐ公開されると思います。The Slitsとの思い出をひとつ教えて頂けないでしょうか。

The Slitsとの思い出は沢山ある。俺の最初のギグの時、アリ(Ari Up)が観客の中で狂人のように踊っていたのを覚えてるよ。俺は彼女がバンドにいたのも知らず、クレイジーなファンのひとりだと思っていた。で、初めて彼女たちライブを見たときは本当に驚いたね。まるで何かが崩壊していくかのようだったから。一緒にツアーもしたり、彼女たちとの思い出は本当に良い記憶ばかりだよ。

ーその中でも特にクレイジーな思い出は?

インタビューに書いても大丈夫な内容のものを探さないと……(笑)やっぱりアリだな。彼女は夜中の2時にひとりでジャマイカのサウンドシステムに行って、観客のど真ん中で男みたいに踊りまくっていた。彼女は俺が知る中でも1番怖いもの知らずだったんだ。Tessaともいまだに友だちなんだよ。先週も話したばかり。


ーでは、今回の来日公演についてお聞きします。今回は、ライブも含む3つの異なるコンセプトのプログラムを組んでいますね。DJセットは「'79〜'89 Classic DJ Set「と「All New SelectionーLive Multi-Tracks Set」で分けた形で披露するということですが。

ちょうど昔の作品を集めたアルバムがリリースされるから、その時代からの作品だけでDJをしたら面白いと思ったし、それとは対照的になコンテンポラリーのセットをやるのも面白いと思ったからさ。ずっと同じものをプレイするより、ちょっと違うことをやるほうがもっと面白くなると思ったんだ。

ーNisennenmondaiとの共演も非常に楽しみです。彼女らや、最近ルーツレゲエを取り上げた新作を発表したDRY&HEAVYなど、日本にも少なからず根付いているダブの文化に関してはどのような印象をお持ちですか?

彼女らのミックスをするのが楽しみなんだ。日本に限らず、今は世界中でダブの文化が浸透してきていると思う。皆パソコンを持っているし、それを使ってデジタルで音楽を作ってる。今は誰もがリバーブやディレイを含め何でも使ってるだろ?現代は全ての種類の音楽でダブのそういった要素が使われていると思う。以前はそれがジャマイカのダブの独特のプロダクションだったわけだけど、今ではどの音楽でもディレイやリバーブがエフェクトとして使われているからね。

ー仕事をする上であなたが心がけていることは何ですか?食生活とか、音楽に関係のないことでも構いません。

勢いを止めないことだな。仕事場にいても、自分が働いているとは思ってない。リー・ペリーと作業をしていて学んだのは、「スタジオで作業をしている時は、自分が魔法を使っていると思え」ということ。何か特別なことをやっていると信じることだね。だから作業をしている時はその雰囲気をマジカルにするよう心がけているし、あと、自分の旧友と作業することはもちろん、若いエンジニア、プロデューサー、ミュージシャンたちとも繋がりを持つことも大切だと思う。彼らはポジティヴでクリエイティヴな流れを作り出してくれるから。疲れきってしまってはダメなんだ。

ーちなみに、そのエネルギーを保つための食生活とは?

朝はミューズリーを食べる。

ー牛乳で?

いや、アーモンドミルクで。ポイントは「アーモンド」ミルク。しかも全部オーガニックのやつね。あとは、ベジタリアンを心がけてる。魚は好きだから、肉を食べないベジタリアン。たまにチキンは食べるけど、なるだけ食べないようにしてるんだ。健康的な食生活は意識してる。イギリスには、日本みたいにあまり良い食べ物がないからね。

ー魚料理が多いんですか?

魚料理も作るよ。でもサーモンはあまり食べない。サーモンは機械技術でつくられたものが多いから、身体に良くないんだ。ほかの魚を食べるようにしてる。俺は海のすぐ隣に住んでいるから、新鮮な魚が手に入るのがいいんだ。

ーありがとうございました。ライブを楽しみにしています。

こちらこそ、本当にありがとう。ぜひ遊びにきて、俺に声をかけてくれよ!


『ADRIAN SHERWOOD "AT THE CONTROLS" X 3』の詳細はこちら


インタビュー 三木邦洋
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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