KARA
2010年09月17日 (金) 掲載
いま、日本でアイドルをめざす女の子に“憧れの対象”を聞くと、AKB48のメンバーである大島優子、前田敦子、篠田麻里子などに混ざり、韓国のアイドルグループである少女時代のジェシカやユリ、KARAのハラやスンヨンなどの名前が挙がるという。男子グループでは、BIGBANG、Super Junior、FTIsland、SHINEeeなど、東方神起以降の世代が続々と台頭し、軒並みオリコンベスト10内に作品を送り込むほどの支持を得ている。東方神起やBoA、Rain(ピ)などの前例はありながらも、大挙して日本上陸を果たし、その多くがビッグセールスを挙げているという現象は、さしたるムーブメントのなかったJ-POPシーンにとっては久方ぶりの“祭り”といってもいい。ここではあっという間に日本の日常に溶け込んでいった、そんな“韓ドル”ブームの底流にあるものを探りたい。
まずは、少女時代を“ネタ”にネット上で吹き荒れている“反日”、そして“整形”という話題について。
ネットを中心に「反日ではないのか」との声が上がり、論争が巻き起こったが、当の本人達は歴史から断絶された世代でもあり、“反日感情”というほどのものが実際にそこに存在しているかについては、疑問も残る。“反日”という疑惑は、ネット上で巻き起こる論争の“ガソリン”程度のもの、と判断するのが正しいのかも知れない。少女時代を歓迎している若い世代で構成されるマジョリティにとっては、そのような非難はリアリティを持って響くことはないに違いない。
そして、メンバーの“整形”疑惑について。これに関しては“コギャル”や“ヴィジュアル系”などを例にとって考えればわかりやすい。現実に適応(対応)するため、自らの身体をメイクなどで大幅に作り替える(チューニング)する文化は、1980~90年代黎明期を経て、いまやごく当たり前の感覚として若年世代に浸透している。そうした感覚の延長として捉えれば、少なくとも一昔前に“整形”という言葉に付随していた重みは、カジュアルなものに変質していると言わざるをえない。そんなコモンセンスを背景にすると、“整形している”といった批判ははなはだナンセンスであり、実際のところ「まぁ、そうだよね」くらいの距離の取り方が普通だろう。
そんなことよりも、現在の韓ドルブームに絡めて考えるべきは、韓国にとっての“日本市場”の意味合いと、その大きさだ。韓国では米国を追うような形でデジタル配信音源を中心とした音楽市場が形成されており、フィジカル(CD)リリースでいえば、20万枚売れればミリオンクラス相当のヒットになるという。その点、徐々にデジタル配信へ傾きつつも、フィジカルリリースがまだ強く残っている日本では、作品が当たれば北から南まで全国の支持を得ることができ、一定の枚数が売れる、というわけだ。その利益は、彼、彼女らが韓国一国に留まることを考えれば、莫大なレベルといえる(もちろん少女時代、KARAなどは中国、台湾、香港へ進出済みである)。
韓国における文化的な輸出の大幅な規制緩和をきっかけに、なぜこのタイミングで韓ドル達が日本へと上陸してきたのかについては、ここでひとつの答えは出る。韓国同様、フィジカルリリースが下火になることが予想される今後の日本を顧みれば、全面配信へ移行してしまうその前に、早めに上陸しておきたいというわけだ。日本はいわば最後の未開の楽園といえる(もちろん韓ドルブームについてはさらに多角的な考察が必要だ)。
そういった捉え方をしてみると、最後の貴重な絞り汁を他へと持って行かれてしまうかのような、何か情けない気持ちも湧いてくるのだが、廃れゆくパッケージマーケットの中にあってもCDを買い続けているもののひとり(iTunesのヘビーユーザーであることも告白しておかなくてはならないが)として、少女時代やKARAなどの作品を心から楽しんでいることは確かなのである。それが時代と逆行するというなら、それはそれでいい。韓ドルブームは誰にとっての"大収穫祭"となるのか、縮小を続ける音楽マーケットの片隅で生きるものとして見届けて行きたい。
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