2015年04月23日 (木) 掲載
サイバー戦争を司る神々は近ごろ忙しくて手が離せないらしい。大量に流れてくる、ハリウッドのゴシップやくだらないニュースの流れをできるだけ追いやろうとしているからだ。 今作は、マイケル・マン監督の得意分野とは言えないのだが、まさにタイムリーとも言える主題に踏み込んで、私たちに「安全ではないんだ」ということを伝えようとしている。オープニングシーンは、コンピューターのケーブルに沿って進んで行くショットや、チカチカ光るマイクロチップの間を通り抜けて行くありがちなショットから始まる。正直、使い古されて退屈な表現だと思わないでもない。しかし、その後に登場するのは、原子炉の冷却ファンが動かなくなる場面なのだ。結果として発生する「中国版チェルノブイリ」には、ある種の悪役が必要だ。猫を撫でながら大惨事を眺めてニヤニヤする、ボンド映画に登場するような悪役だ。
マン監督は、幸いなことに自分バージョンの『007 スカイフォール』を作り出そうとしていることに気づいていない。その代わりに、得意なプログラミングに関する専門用語を多用し、教科書かと思うような解説を繰り広げ、何か大人びた印象を与えられる。そして、悪事には「リモートアクセスツール」が使われたことが明らかとなり、場面はアメリカのとある刑務所へと転換する。そこには服役中のプログラマー、ニコラス・ハザウェイ(演じているのはクリス・ヘムズワース。スーパーハッカーというよりは、普通の市民に見える) がおり、監房の中で生気の失せた日々を送っていた。当局はこのニコラスに、あるプログラムを解明してもらいたいため一時的に釈放をする。ところで、このスーパーハッカーが、時おりシャツを脱いで『Marvel』ファンを元気づけるために大胸筋を見せつけるかもしれないが、それはそれで良い。
この映画をふざけていると呼びたいなら止めはしないが、それでは本質を捉えているとは言えない。これは、子ども向け映画をハイグレード化させたもので、必死にキーボードを打ち、場違いに思える恋愛をし(相手は『ラスト、コーション』のタン・ウェイ)、激しい銃撃戦を繰り広げる(アジアの市場を走り抜けながら白人同士が撃ち合うという、植民地主義を彷彿させる)など、盛りだくさんの内容となっている。マンは映画『ヒート』や『インサイダー』でアル・パチーノが見せたような狂気じみた演技からの恩恵を受けることはできなかったが、今作では、不発に終わった2009年の『パブリック・エネミーズ』で犯した失敗を脱して、以前の立ち位置に戻ってきたと言える。
多くの監督とは違い、マイケル・マンのスタイルはサイドディッシュではなく、メインディッシュなのだ。きらめく都市の夜景や高速を滑らかに走って行く車を、この『マイアミ・バイス』の監督のように撮影できる人はいない。今回、マンはデジタルビデオへと撮影手法を変えたわけだが、相変わらず素晴らしい結果を生み出している。シンセサイザーが軽やかに鳴り、携帯電話が振動し、ある種の雰囲気を持った映画がここに蘇った。
2015年5月8日(金)TOHOシネマズ みゆき座ほか全国ロードショー
監督・製作:マイケル・マン 脚本:モーガン・デイヴィス・フォール 製作:トーマス・タル(『ダークナイト』3部作、ジョン・ジャシュニ『GODZILLA ゴジラ』 ) 出演:クリス・ヘムズワース、ワン・リーホン、タン・ウェイ、ヴィオラ・デイヴィス 配給:東宝東和 (C)Universal Pictures
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