日本が誇る“ユーモア”、落語

語りの芸術、“落語”で日本の夏を楽しむ

日本が誇る“ユーモア”、落語

8月は半蔵門にある国立演芸場で楽しむ落語が熱い。落語とは、江戸時代に起源を持つ日本の大衆芸能。おもしろおかしい話の終わりに、“落ち”や“さげ”と言われる結末があるので、これを音読みして“らくご”となった。名称が一般化したのは日本が近代化された明治から昭和にかけてのことなので、歌舞伎や能のように古い時代の言葉ではなく、現代人が使う日本語で語られる。また、落語家自身が常に工夫しているので、ある程度の日本語ができれば、理解はできるようになっている。

落語の醍醐味はいろいろあるが、そのひとつは、なんといっても江戸時代にタイムトリップしたような気持ちにさせられるところだ。ネタは、だいたいが江戸から明治にかけての日本の庶民の生活のなかにある。一人の落語家が、座布団に座りながら、何人もの役をこなし、話を展開してゆく。そこには、高度な“語り”の技術がある。歌舞伎のように、若手が著名な落語家のところに弟子入りして、師匠の身の回りの世話などからはじめ、話芸を教わってゆく。人前に立てるまでには、厳しい修行を積まなければならない。そうやって鍛え上げられ、伝えられてゆく“語り”の技術は、ひとつの芸術といえる。

日本人は、茶道や華道のように、他の文化では“生活”とみなされている物事を、数百年をかけ芸術の域にまで高めてきた。茶道や華道は、言葉はいらないため、国境を越え世界中の人に知られ、そして学ばれている。だが落語は日本語を極めてゆく芸なので、海外でふれられる機会は少ない。そのためか、欧米では日本に“ユーモア”を愛する文化があることは、あまり知られていない。だが、落語という“笑い”に専念する芸能があることから明らかなように、とても“ユーモア”を愛する文化なのだ。落語は楽しいものだ。だが、客を笑わせ、楽しませるための落語の技術をささえるのは、他の日本の伝統芸能にも通じる、ストイックなまでの研鑽と鍛錬だ。

国立演芸場では、常に何らかの落語の催しがある。8月は、上旬の8月1日(日)から10日(火)にかけての番組を上席、中旬の11日(水)から20日(金)を中席とし、それぞれに趣が異なる。落語の間には、和傘の上でボールなどをくるくる回す伝統的な“曲芸”や、三味線を弾き、唄いながらギャグを飛ばす“俗曲”、そしてマジシャンなども登場し、決して飽きることはない。少し疲れたら、いったん席をたって、お茶をしに行くのもよい。伝統芸能ではあるものの、気楽にさまざまな“笑い”を楽しむことができる。

上席には、生活に困った浪人(いわばフリーランスの侍)などが通りで武士の物語を語って聞かせることで“投げ銭”を取ったことから始まった、落語とはまた別の話芸である“講談”が組み込まれている。最後に出演する目玉の落語家を“トリ”というが、上席のトリはさりげない語り口が魅力の春風亭一朝だ。ネタは「小言幸兵衛(こごとこおべえ)」で、犬にまで“小言”を言って回る口うるさい親父が主人公の話。

中席は、テレビの落語番組でも司会をつとめ、国民的人気を誇る桂歌丸がトリだ。毎年8月には恒例となった怪談を披露する。落語にはいろいろな種類の話があるが、“ホラー”ものもあるのだ。明治時代に活躍し、当時実際にあった事件などを題材に新作落語を数多く創り出した天才、三遊亭円朝の怪談ものに、桂歌丸は毎年取り組んでいる。怖い話を聞くと背筋が「ぞくっ」とするので、日本人は怖い話を聞いて涼を取ることを好む。桂歌丸の怪談は本当に怖い。猛暑が続いているが、喋りだけでクーラーいらずの涼しい時間を体験できる。

チケットの値段は、前売りが1800円と、映画を観るのと変わらない手ごろなもので、3時間もの間さまざまな“笑い”を楽しめるので、とても“お得感”がある。ぜひ気軽に足を運んでもらいたい。

8月上席
日程:2010年8月10日(火)まで
時間:13時00分開演
出演:春風亭一朝、宝井琴柳、内海桂子ほか

8月中席
日程:2010年8月11日(水)から20日(金)
時間:13時開演、13日(金)は13時と18時の2回公演
出演:桂歌丸、雷門助六、東京ボーイズほか

場所:国立演芸場(地図などの詳細はこちら
入場料:一般2000円(前売り1800円)、学生1400円、全指定席
チケット:国立劇場チケットセンター(10時00分から17時00分)
0570-07-9900
03-3230-3000
ticket.ntj.jac.go.jp/
国立劇場各窓口でも販売中

テキスト 七尾藍佳
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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