The Hot Seat : 徳岡邦夫インタビュー

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The Hot Seat : 徳岡邦夫インタビュー

イラストレーション: Haruna Nitadori

『京都吉兆』総料理長の徳岡邦夫は2010年5月2日、シンガポールのリゾート・ワールド・セントーサにあるクロックフォードタワーの中に、海外初出店となる店舗『kunio tokuoka』をオープンさせた。徳岡は、『吉兆』の創業者である故・湯木貞一の孫にあたる。1995年に『京都吉兆』の総料理長に就任し、吉兆の伝統を守りながら、日本の若手料理人を積極的に育成している。

海外での活動も幅広く、“うま味”をテーマにしたイベントをロンドンやカリフォルニアで開催しているほか、2005年には世界各国から著名なシェフが集い、最新の調理技術を発表する場『マドリッド・フュージョン』に参加。また、2008年には洞爺湖サミットで首相主催の晩さん会の料理を担当し、2009年に発売された『ミシュランガイド 京都・大阪』では、『京都吉兆嵐山本店』が三ツ星を獲得した。2010年5月26日には、原宿にある『レストランアイ』で、ニースで5年連続ミシュラン一ツ星獲得している松嶋啓介とのコラボレーションディナーが開催され、和とフレンチの融合を披露した。さまざまな分野に取り組む徳岡だが、そのエネルギーの源はどこにあるのか、話を聞いた。

シンガポールの『kunio tokuoka』はどのようなお店なのですか

徳岡:商標とノウハウの提供をしているのですが、自分の名前を店舗名にしている分、決定権のほとんどは私にある。お店に関わるスタッフは、全員『吉兆』で1年間修業してもらい、僕がOKを出した人だけです。内装は土壁を左官職人の挟土秀平さん、和紙デザイナーの堀木えり子さんにオブジェを作ってもらい、コケを盆栽作家の小林健二さんにお願いしました。コケは普通、下から生えるものだけど、壁からぽこぽこ、もこっと、丸い形のコケを生やしています。シャンデリアは、漆。黒と朱で月型をたくさん作って、立体的にしたものを作りました。

すべて素材は日本のものですが、斬新ですね

徳岡:この間テレビで、ハップル宇宙望遠鏡の特集をしていて、銀河がどう作られたのかっていうのをやっていたの。銀河って、地球がある銀河以外にもほかにたくさんあって、それぞれ膨張していえるからそれぞれ動き回って、ぶつかることもあるんだって。2つの古い銀河がぶつかって、中から新しい部分がはじけ出てきて、またまた新しい銀河を構成する。それを見ていたら、M&Aとかに似ているなぁ、と思ってね。今の状況に合わせて、会社と会社がくっついて、新しい時代に適応したものになっていく。人間もそう。2人の人間から子供が生まれるけど、まったく同じ人間が生まれるわけじゃない。半分、半分をくっつけて、1になると思われるけど、実はそうではなくて、どっちかが主導権を持って、食っちゃうというか、どっちかの色に染まってしまう感じ。オバマさんが、チェンジって、言ってたけど、チェンジが目標なんじゃなくて、その後、適応することが大事なんですよね。
だから、シンガポールのお店のインテリアも、突拍子のないものではなくて、実用的なもの。歴史や積み重ねてきた経験が新しいものと融合して、斬新だけど、どこかで見たことがある懐かしさも感じられることが大事だと思っています。

料理をすることから、全体のプロデュースへと世界を広げ、今のように、たくさんのジャンルの方々とフレキシブルにコラボレーションを展開していくきっかけは何かあったのですか

徳岡:吉兆がつぶれかけたからですよ(笑)。創業者は湯木貞一という人で、彼が白というものは、例えそれが黒であっても、白なんです。バブルの頃まではそれで良かったけど、崩壊後は全然ダメだった。吉兆や湯木貞一のブランド、もしくは信用、今まで通用していた技術やサービスがすべて通用しなくなった。みんな、吉兆の中にいる人はそれでも信じていたけど、僕は“はみだし野郎”というか、ちょっと違った。もともと吉兆を継ぐ気もなかったし、若い頃は本気でバンドでドラムをやっていて、本気でミュージシャンを目指していたこともあった。だから、料理の分野と全然かけ離れたところに友達がたくさんいて、そういう人たちと話していると、自分は本当にダメだなって思うことがたくさんありました。

具体的に何をしたのですか

徳岡:料亭って、バブルがはじけるまではベールに包まれているというか、何をするところか、いくらするのかわからない場所だった。悪い政治家とか、雲の上の人たちが集まっているような。だけど、予算を下げず、普通の方に記念日などで使ってもらえる場所にした。それから、ウェブサイトを作った。当時はまだ僕も中堅で、店の先輩たちは一体何をやっているのか見当もつかないから、調理場に行ってもっと汗を流せとか、庭掃除をしろ、なんて言われたけど、お客様に伝わらなければ来ていただけないわけだから。お客様に来て欲しい、という気持ちだけでは、ダメなんです。気持ちを行動に変えないと。店はつぶれかけて、もう崖から落ちて指が1本か2本ひっかかっているだけ。だから、つべこべ言っている暇はない。とにかく、立て直すために何をするかを考える。何かをやって結果を出す。人に相談するから知り合いもどんどん増える。いろんなことするたびにぶつかることもあるけれど、その中でまたどんどん広がっていく。それが僕のアグレッシブさになっていると思う。でも、結局、吉兆に戻るといじめられて、悲しくなってお酒を浴びたこともありました(笑)。

今、お店のスタッフにはどのような教育をしているのですか

徳岡:お店が大変だった時、僕たちは何のためにしんどい思いをしているのか、ってみんなで話し合いました。1人5万円払って来ていただいているのだから、美味しいのは当たり前。じゃあ、何のためなのか。徹底的に、ノイローゼになるくらい話し合って、いろいろ試して、最終的に、店のテーマは『感動』になりました。涙が出るほどの感動を味わっていただくために、吉兆は存在する、と。そのためスタッフには、笑顔で、ゆっくり話しなさい、と言っています。そうすると、お客様との間にも、スタッフの間にも、きちんとしたコミュニケーションが生まれるのです。あのね、僕のライバルはディズニーランドなんですよ(笑)!

そこまで突き詰めていくと、料理とか、エンターテインメントとかいうことより、人、ですね

徳岡:人です。人は人に感動するのですよ。一生懸命さとか、ひたむきさとか。どの国の人もみんな一緒。感じる美味しさも、ある程度の幅でみんな一緒です。若干、香辛料の好みの差とかはあるけれど、それはそれで融合させていけば良いと思います。やっぱり、人は人の役に立ちたい。一個人としてもそうです。環境の中で必要とされる人になりたい。それは、自分がそれを認めるのではなく、一緒にいる環境の人たちから自分の存在を認めて、求めてもらえるようになりたい。恋愛もたぶんそうだと思います。相手も認め、自分を認めてもらえること。ギブ&テイクが成り立っていると、いろんなことが継続するけど、そのバランスが悪くなると破綻する。それは、会社も個人も、自然環境なんかも、すべて、宇宙の摂理でそうなのだと思います。

最後に、徳岡さんがおすすめする京都のチープイートはありますか

徳岡:焼き鳥はどう?『侘家古暦堂』とかね。あと、イタリアンだったら『Vineria t.v.b』。それから、甘味だったら『ぎおん徳屋』だね。

あと、最後にもうひとつだけ。先ほど、若い頃はドラムをやっていた、と言われていましたが、どうしてドラムを選んだのですか

徳岡:バンドは女の子にもてたいから始めたんだけど、初めて集まったグループで、おのずとギターが上手いやつはギター、その次に上手いやつがベースと決まっていった。で、何もできないやつがドラムなんですよ(笑)。

今日はありがとうございました。

テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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