The Hot Seat:パラダイス山元インタビュー

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The Hot Seat:パラダイス山元インタビュー

イラストレーション: Haruna Nitadori

クリスマスが近づいている。グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロースとして、アジア地域としては初めて認められたパラダイス山元。1998年に試験に合格してから13年経ったが、公認サンタクロースとしての活動とは、どのようなものなのか。清く正しく楽しいクリスマスを過ごすために、パラダイス山元に話を聞いた。

パラダイスさんは、ご友人に薦められて、グリーンランド国際サンタクロース協会の公認サンタクロースになられたそうですね。

パラダイス:薦められたというより、正直、だまされていますね(笑)。他薦という言い方もあるんですが、やはり、自分の意図していたことと違う運命に導かれてしまった感じはします。昔から私は、焼き肉とか、しゃぶしゃぶとか、高級な食べ放題に弱いので、「ちょっと山元さん、今日おもしろい人としゃぶしゃぶ行かない?」と誘われたところで、私の人生がこんなに変わってしまって良かったのか、という気持ちですね(笑)。

どういうことですか(笑)?

パラダイス:当時はまだ、日本にも、アジアにも公認サンタクロースがいなかったんです。変な話ですが、フィンランドにサンタが住んでいて、フィンランドから毎年サンタがやって来ると思っているのは、世界中、日本だけで、毎年フィンランドからインチキなサンタクロースが来ては、日本をめちゃくちゃにしていたんですよ。世界の認識では、サンタクロースはグリーンランドにいて、フィンランドは、トナカイが住んでいるところなんですよね。フィンランドのサンタクロースの悪口を言いたいわけではないのですが、そういうわけで、グリーンランド国際サンタクロース協会の方に、日本からも公認サンタクロースを出しましょう、と誘われたんです。実は僕が声をかけられる前にオーディションがあって、候補はほぼ決まっていました。だけど、もし、サンタクロース試験に合格した場合は、その年は渡航費を援助しますが、来年からは自腹で、毎年夏にあるサンタクロース会議に出席してくださいということで、皆、辞退しちゃったらしいんですよ。それで、急遽もうひとり決めなきゃいけない、ということで、たまたま私のところに話があったんですね。

驚いたのが、衣装も、協会から支給されるわけではなく、自分で用意するのがしきたりだと言われたこと。東京衣裳に電話しても、「夏場はないね」なんて言われてしまって、うちの奥さんが作ってくれました。それから、試験に行く前に、協会からFAXが届いたんですけど、その内容にまたびっくり。家からサンタクロースのコスチュームを着て出かけ、飛行機内もそのままの格好で、タラップを降りる時は、「ホッホー」と言いながら、右手に日本の国旗を持って、左手に袋を持って来なさい、と書いてあるんですよ。7月に、成田からサンタクロースの格好ってありえないだろう、と思ったんですが、言われた通りにしました。それで、旗を振って飛行機のタラップを降りたら、すごいたくさんメディアが集まっていて。1998年当時に、日本では何の情報も流れなかったんですが、日本から初めてサンタクロース試験を受けに来たと、BBCなど、そうそうたるメディアが揃っていました。メモ帳に、サンタクロースって書け、って注文されて、カタカナで書くと、そうじゃない!みたいなことを言うんですけど、良くわからなくて、結局漢字で、「散多苦労師……」みたいなことを適当に書いたら、翌朝のニュースでその場面ばかり使われてしまって。子どもたちも、サイン書けってメモ帳を持って待ってたりするんですよ。ひぇー、でしたね。こんなに人気者になっちゃって、これで試験に受からなかったらどうするんだよ、と思ってちょっと頑張ったら、受かっちゃったんですよ(笑)。

サンタクロースになるための勉強はしたんですか?

パラダイス:一夜漬けですよ。公認サンタクロースになるための試験を受けるなんて、出発前に、成田空港で初めて聞きました。しかも、協会の人に、「ま、観光気分で楽しんで来てください!」なんて軽く言われて。実際に受けた試験は、口頭の面接と、「ホッホッホー」の発声練習と、煙突に上って走ってプレゼント置いてクッキー食べて帰って来るとか。見世物というか、だけど、地元の子どもたちにしてみたら、色んな国からサンタ候補が来て試験を受けるというのは、毎年楽しみにしている行事なんですね。観ている子どもたち全員に日本の旗がいきわたっていて、「ヤッパン!ヤッパン!(日本!日本!)」って、ものすごい応援してくれました。

すごい体験ですね。

パラダイス:そうですね。公認サンタクロースになったことも不思議な話ですけど、その後もまた大変でした。公認サンタクロースは、世界に120人強の組織なんですけど、皆、私に辛くあたるんですよ。髪がちょろっと出てても、「髪の毛出てるぞー!!」とか、「その笑顔はなんだー!!」って。1998年当時、私は35歳で、最年少のサンタクロースで、反論する余地がなかったですけどね。だけど、私は今年で48歳になるんですが、ヒエラルキーが上にいかないんですよ。13年間の間に、6人新しいサンタが決まっているんですが、皆、60歳とか、70歳とか、私より年上。今でもずっと下っ端サンタクロースのままです。

それじゃあ、35歳でパラダイスさんがサンタクロースになられたのは、大抜擢だったんですね。

パラダイス:オモロイ、扱いやすい日本人で、しごきがいのある対象だったんでしょうね。本当に、散々嫌な目にも合いました。毎年7月に開催される世界サンタクロース会議に出席するために、もう、成田に行く直前、ここで辞めれば、全てがラクになるんだな、なんて思ったりもしました。妻にも、「そんなに嫌だったら行かなきゃいいじゃん」なんて言ってもらっていたんですが、飛行機代払っちゃってるし、勿体ないから行きました。

サンタクロースって、聖人のようなイメージがありますけど、結構、辛いんですね。

パラダイス:自分が聖人とはかけ離れていた存在であるということもあるんですが、サンタクロースの役割を、自分でも理解していなかったんでしょうね。2年、3年やっていくうちに、施設とか、病院とか、子どもたちのところに行くようになりました。ずっと病院にいないといけない子どもたちとか、親も親戚もいない子どもたちとか、僕が行くと本当に喜んでくれて、サンタクロースでいる必要性とか、自分が何をするべきかがどんどんわかってきてから、辞めるに辞められなくなったこともありますね。公認サンタクロースの活動って、どこからお金が出ているわけでもなく、どちらかというと、出銭の方が多くて犠牲があって成り立っているから、辞めちゃうと、今までやって来たことも“無”になってしまう。

本当に、日本って、世界にお金をばらまいているけど、まだまだ日本国内にも、全然ケアされていない現場ってたくさんあります。たくさんの部分で、とても遅れていると思います。子ども手当を出したからといって、子どもがすくすく育つわけでもない。僕は、政治家になりたいわけでもないし、これから先も、サンタとしての身分で、できるだけ、多くの子どもたちと接触していきたいと思っています。

それからね、ずっと厳しかった長老サンタたちも、ここ2、3年はすごく温かいんですよ。デンマーク行っても、スウェーデンに行っても、空港に迎えに来てくれて、ずっと家に泊めさせてくれるんですよ。それに、今年の夏の会議で、「パラダイスは今年もおもしろかったし、日本での活動を頑張った」って、サンタたち全員立ちあがって、拍手をしてくれて、もう、嬉しくて、涙が出てきました。今、事務所のツリーのトップに飾ってある、ジョージ・ジェンセンの星飾りも、その時にもらいました。だから、信頼関係を築くのに10年かかるんだな、って思ったら、これを経験しないで3年で辞めていたら勿体なかったんだなと思いますね。自分の損得でサンタになるのではなく、一過性じゃなく長いことちゃんとやれるかを、ずっと見られていたんだと思います。

パラダイスさんは、サンタクロース以外にも、ミュージシャンとしてフジロックに出たり、盆栽も続けていらっしゃいますよね。

パラダイス:「サンタだけやってろよ」という人もいますよ。ツイッターとかでも、色々毒づいてるから、一夜にして、フォロアーが200人くらい消える時があるんです。だけど、それはそれで嬉しいというか、人から、「なんでオマエがこんなことやってるんだ」と言われると、燃えちゃうんです。ついついパワーが注入された気になるんですよ。盆栽なんかも、人形を乗せただけで、すごい批判の対象になりました。盆栽界から命を狙われているとまでは言いませんが、マン盆栽を始めて20年くらい経った今でも、「なんでこんなことをやってくれたんだ」って言われてますし、「盆栽が泣いてるー!!」ってギャラリーで大声を出されたこともあります。だけど、タモリ倶楽部でタモリさんが評価してくれたりして、盆栽は皆さんに浸透しましたよね。ロンドンでも2回盆栽展をやって、本当に、超満員でした。正直、笑っちゃうくらい、食い入るように見て行ってくれるんですよ。より東洋的なもの、もっというと、日本的なものを求めているのを感じましたね。やはり、サンタでも盆栽でも、音楽でも、日本人として生まれたからには、日本人としてしか発想できないものをやっていきたいと思っています。

日本のサンタクロースとして、特徴を出したいと思っているんですか?

パラダイス:逆に、日本人だかなんだかわかんなくなるという仕掛けは必要かもしれないですね。やはり、日本人のクリスマスとか、サンタクロースの扱いって、世界で一番変わっていると思うんです。イルミネーションはそんなに変わらなくても、クリスマスが何のためにあるのか理解している人が少ないし、サンタクロースからのプレゼントもしかり、です。今まで散々、DSだ、プレステだって、高価な物をもらっていたのに、サンタが親だとわかった瞬間に、「今までオレをだましてたな!」って言うのって、おかしいと思うんです。本来は、良い子には、サンタクロースがプレゼントを置きに来てくれるけど、悪い子にはブラックサンタクロースがお仕置きをしに来たり、バッグにつめて連れて行ってしまったりする。教育の一環なんです。まず、お母さんと一緒に、サンタさんに来てもらうためのジンジャークッキーを焼いて、それが家庭の味の伝承になる。おもちゃが散らかっていたら、サンタさんが転んでしまうかもしれないから、綺麗に片づけようということで、年末に部屋を片づける。そして、お父さんが一番偉いことを示すために、ツリーのてっぺんに星を飾る役目がある。でも、日本では色んなことを簡略化してしまっている。大人になっても、親子の関係でプレゼントを贈り合うのは、良いですよね。やはり、北欧の文化が成熟していると思うのは、サンタの存在が親だとわかっても、今年はあれが欲しいなとか、これが欲しいなとか、そういうサービスの会話を親子でするんですよね。そういうことも、日本にも浸透すれば良いと思いますね。

テキスト 東谷彰子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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