The Hot Seat:サラベス・レヴィーン インタビュー

「朝ごはんというのは、一日をスタートするために絶対必要な燃料なのよ」

The Hot Seat:サラベス・レヴィーン インタビュー

イラストレーション:Haruna Nitadori

ニューヨークの朝食の女王が、初のアジア進出を果たしたのは2012年11月のこと。11店舗目となるサラベスを新宿にオープンして以来、朝食の女王の作り出す美味なる皿に相見えようと、開店から半年が経過した今でも整理券を配布するほどの盛況ぶりだ。自身の70歳の誕生日を目前に来日した女王に、朝食について、そしてニューヨーク中からベストな朝食を食べられる店として賞賛されるに至った経緯を聞いた。

朝食の女王が、普段どんな朝ごはんを食べているのかずっと気になっていたのですが、どんな朝を過ごしていますか?

朝ごはんは私にとって不可欠なもの。朝起きたばかりって、寝ている間には何も口にしていないから、まっさらでクリーンな状態でしょう。朝ごはんの前に歯を磨きたくないくらいよ。とは言え、毎日自分の店で朝ごはんを食べるから、ちゃんと歯を磨いてから家を出てるけれど(笑)。そして、朝はまず何をおいてもコーヒーね。歯を磨く前よ(笑)。淹れたてのコーヒーと、お気に入りのミルクフォーマーで泡立てた温かいミルクをエスプレッソに注いだカプチーノ、2杯飲むの。

それから店に向かうというわけですね。

そう、平日は毎朝店で食べているわ。でも、朝は甘いものは食べないわね。朝ごはんはsavory(塩気のある食事)って決めているの。おいしいフェタチーズ、それも塩気がきつすぎないやつね、それとゴートチーズ。これを私のレシピで焼いた美味しいサワードゥブレッドのトーストと一緒に食べるわ。それか、ゆで卵を2つという日もあるけれど、これは半分に切って、黄身は食べずに白身だけ。それから、スライスしたバナナを少し載せたオートミールにミルクをかけたもの。日によっては、フルーツをボウルにたっぷりという時もあるわ。これが私の毎日の朝ごはん。

朝ごはん抜きなんていうことはありえないのでしょうか。

絶対にないわ! 朝ごはんは本当に大切よ。今のアメリカでは子供達の食習慣が大きな関心事になっているんだけど、朝ごはん抜きで学校へ行く子供達が多いのよ。何も食べずに登校すると、脳に必要なエネルギーが供給されていないから、集中力が低下してしまう。朝ごはんというのは、一日をスタートするために絶対必要な燃料なのよ。

70歳の誕生日を迎えられたということですが、すごく精力的に活躍されていますよね。健康面など、何か意識していることはありますか?

70歳だなんてイヤねぇ(笑)。まだたくさんやることがあるのに! あと50年は必要なくらいよ。そのためには、やはり体力作りが重要だと思っているの。私は一日中慌ただしく動き回っているから、エクササイズしているようなものかもしれないけれど、やっぱりきちんとした体力作りはしないとね。でもジムに通うのは嫌いだし、自転車に乗るのも嫌いだし。だって、何かにぶつかって壊しちゃったらイヤでしょう?(笑) でも最近ハタヨガをはじめたわ。最初は体が固くて辛かったけれど、2週間くらい経ったら、まるで新しい自分になったように体の中から感じたの。それ以来毎朝続けてるのよ。

東京店をオープンしてからは、今まで以上に忙しい毎日かと思うのですが、東京進出はあなたのアイディアだったんですか?

私の主人のビルがいなかったら、東京店は実現しなかったわ。でもね、(この話が出た)当初は衝突しっぱなしだったのよ。東京は遠すぎるわけではないけれど、私はやりたくなかったの。何度もぶつかって喧嘩して、もう諦めたかしらと思っていたら、いきなり私の目の前に契約書が置かれたのよ。やりたくないってあれほど言ったのに!(笑)でも、ビルもしぶとくてね(笑)。私は腹を立てて契約書に手を触れずにいたんだけど、1週間経ってもまだ契約書はテーブルに置かれたまま。しょうがないから目を通して、いくつか変更点なんかを書き込んでビルに渡したの。そうしたら今度は新しい契約書をどこに置いたと思う? キッチンのテーブルの上よ! 私が毎朝楽しみにしているコーヒーメーカーの前に! ビルったら、私に朝のコーヒーすら飲ませないつもり!? ってもうカチンときたのよね(笑)。それでもういいわと根負けしてサインをしたというわけ。

じゃあ、ビルはあなたのことを分かりすぎているほど分かっているということなんですね(笑)。

本当にそうよ。でも、今は東京店をオープンして本当によかったと思っているの。あんなにゴネていたのにね(笑)。こんな美しい国で、すばらしいスタッフと仕事ができて本当に嬉しいわ。来るたびにアメリカに戻るのが寂しくなるくらいよ。特にレストランの衛生管理、クレンリネスに対する人々の意識の高さには目を見張るものがあるわ。ありとあらゆるものがきちんとしている。アメリカとは大違いよ。

オープンにあたって、苦労した点などありますか?

一番大変だったのは、粉の違い。こちらの中力粉はアメリカのものとは違っていて、粉の性質が異なるの。日本の中力粉はデンプン質が多いのか、生地づくりに必要な水分量が違ったのには少し苦労したかもしれない。ビスケットなんかは私が普段焼いているものと焼き上がりの見た目が若干異なるものもあったのよ。でもね、面白いことに味はすごくいいの。私のレシピブックに載っているビスケットよりも、いわゆるアメリカ南部の典型的なビスケットに近い仕上がりになっていたのよ。このビスケットにはバターミルクが不可欠なんだけど、日本にはないでしょう? それもアメリカとは異なる環境で苦労したけれど、でもね、実はそれに近いものが簡単にできるのよ。

えっ、バターミルクって自分で作れるんですか!?

簡単よ。ミルク1リットルに、レモンの絞り汁を小さじ3杯分加えてよくシェイクするの。それを1時間程度やすませておくと、脂肪分が分離してもろもろした状態になるのよ。酸味も少し加わるしね。結局のところ、東京では製パン用の小麦粉と製菓用の小麦粉をブレンドして、この特製バターミルクを使ってビスケットを焼いているんだけど、さっきも言ったように、見た目はちょっと違っていたり、ほんの少し食感が軽めではあるんだけど、本当に美味しいの。風味のいい仕上がりなのよ。

現在は、NYの朝食の女王として名を馳せているわけですが、子供の頃からパン屋さんとか、お菓子屋さんになりたいという夢をお持ちだったんですか?

それが、全然そんな風に思ったことはなかったの。もちろん食べることは大好きだったけれど、それも特にパンとバターが大好きな子供だったけれど(笑)。まさかベイカーになるとは夢にも思わなかったわ。大学では社会学を専攻していたけれど、歯列矯正の歯科医になりたいと思っていたの。実際に7年間は歯医者に勤めていたこともあるし。

でも、全く違う方向へ進んだわけですよね。ベイカーとしての道を歩むことになったきっかけは?

最初の主人と別れて、ビルに出会ったことね。37歳の時よ。私の家族に伝わるレシピだった、オレンジとアプリコットのマーマレードを、ビルが施工したベーカリーで販売したことがきっかけなの。そして気がついた時には、もう私は「サラベス」という存在になっていたのよ。まるで、寝ている間に啓示を受けて、「汝はマーマレードを作るべし。汝はベイカーたるべし」って神に言われたかのように、ある意味そのくらい唐突に起こった変化というか。でも、今では本当にこの仕事を愛しているわ。自分の作った料理や焼き菓子を食べて、お客さんが幸せそうに笑っているのを見るのが本当にうれしい。私のエッグベネディクトを喜んで食べてくれる人たちを見るのは最高よ! こんなに素敵な仕事ってないわ。私はたくさんの幸せをお客さんからもらっているの。だから、今は私が皆さんから得たものを少しでもお返ししたい。そう思って、レシピブックを出版したのよ。門外不出のレシピにするんじゃなくてね。世界中の人に私のマフィンを作ってもらいたいし、仮にDEAN&DELUCAが私のレシピに倣ったマフィンを店頭で売ってたって別にいいじゃない? 私は皆さんとおいしい幸せをシェアしたいと思っているだけなのよ。

サラベスの詳細はこちら

オープン時のインタビューはこちら

山田友理子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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