ピンク・マルティーニ インタビュー前編

バンドリーダーが語る、由紀さおりと歌謡曲の魅力

ピンク・マルティーニ インタビュー前編

2011年10月にリリースされたアルバム『1969』で由紀さおりとコラボレーションして以来、日本国内でその存在が一気に知られたアメリカのジャズバンド、ピンク・マルティーニ。時代と国境を越えて愛されるオールドスクールな名曲を巧みにアレンジし、総勢12名から成る大所帯のバンドが見せるパワフルで音楽性豊かなステージは、本国アメリカに限らず、ヨーロッパ、中央アジアなど世界中のファンを魅了している。 今週末から渋谷ヒカリエ内のシアターオーブで開催されるJAZZ WEEK TOKYO 2013で、2晩にわたって再び由紀さおりと競演するピンク・マルティーニのステージに注目が集まっている。

明日の公演を目前に、ピアニストであり、バンドリーダーのトーマス・ローダーデール(写真中央)にタイムアウト東京がインタビューを試みた。トーマスは、音楽活動以外にも様々な政治活動や市民運動、ゲイの権利擁護といったアクションに積極的に関わっていることでも知られる知性派だ。ここでは前編として、JAZZ WEEK TOKYO 2013でのステージに対する意気込みとバンドの音楽について取り上げ、後編ではトーマスの考える“ダイバーシティ(多様性)”について取り上げる。

ー今回が4度目の来日と伺いました。JAZZ WEEK TOKYOではどんなステージになりそうですか?

ジャズウィークというフェスティバルでパフォーマンスできることをすごく楽しみにしています。正直なところ、由紀さんとのアルバムを出すまでは、僕たちのバンドは日本ではほとんど知られてなかったと思うんです。前回の公演では「1969」に収録した曲を中心に、由紀さんをサポートするかたちで演奏しましたが、今回はこれまでにリリースしている6枚のアルバムと、これからリリースするニューアルバム用にレコーディングした曲を織り交ぜたラインナップになっています。日本の曲ももちろん演奏しますよ! 美輪明宏さんの「黒蜥蜴」から「ズンドコ節」までね(笑)。

ーズンドコ節とはまた渋いところを突いてきますね(笑)。

たくさんのアーティストがカバーしている古い曲ですが、たぶん皆さんが思い浮かべるのはドリフが1969年にカバーしたバージョンか、あるいは演歌調のバージョンかもしれません。ですが、僕たちのアレンジは様々な世代の人から気に入ってもらえるのではないかと思います。会心の出来といってもいいくらいです。この曲、僕すごく好きなんですよ。曲が生まれた第二次大戦中という時代背景や、これから戦地へ赴くけれど可愛いあの子といっしょにいられたら……という、ビタースイートでメランコリックな歌詞にとても惹かれます。実はこの曲も由紀さんにカバーしてほしかったのですが、残念ながら適わなくて。でも、由紀さんってドリフの皆さんと過去に共演しているんですよ(笑)。

ー今回の公演でもゲストに由紀さおりさんを迎えるとのことですが、彼女の魅力とは?

僕と由紀さんとの最初の出会いは、「夜明けのスキャット」です。10年以上も前に中古レコード屋で見つけたんですが、まるで恋に落ちたかのごとく、その夏ずっと聞き続けてましたね。曲全体の雰囲気、たゆたうような美しさ、哀愁を帯びているのに希望のようなものを感じさせる曲調、アレンジ、そして由紀さんの声、全てが素晴らしかった。由紀さんは、僕たちがカバーした「タ・ヤ・タン」を聞いてくれて、聞いたこともないようなアメリカのバンドが自分のB面の曲をカバーしているということを嬉しい驚きとして捉えてくれました。そんな縁で、1969年という年にまつわる曲を集めたアルバムをコラボレーションしたわけなんですが、このアルバムをリリースして以来、由紀さんとはすごく素敵な冒険をしているように感じます。来月のパリ公演や、7月のハリウッドボウルでのコンサートにも出演してもらうんですよ。今や彼女は日本のトップチャートで最高齢の歌手であるだけでなく、坂本九の「スキヤキ」以来、日本人として初めてアメリカのビルボードチャートを賑わしています。とにかく、あんなにチャーミングで表現力のある人はいないと思います。

ーこの先の方向性や、コラボレーションを考えているアーティストについて教えて下さい。

そうですね、僕たちは1stアルバムで美輪明宏さんの「黒蜥蜴」をカバーしているのですが、いつかいっしょに美輪さんとステージに立ちたいですね。これはもう、僕の中でいちばん大きな夢です! 今回のジャズウィークに是非足を運んでいただけたらと考えていたのですが、現在リハーサル中でお忙しいようで残念ながら実現できなかったのですが……。由紀さんと同じように、美輪さんともコラボレーションして何曲か一緒にレコーディングできたら、もうそれは本当に夢のようです。そしてアメリカでいっしょにステージに立つことができたら最高ですね! 僕の野望の一つです(笑)。他にも黛ジュンさんや、相良直美さんなど、日本にはコラボしてみたい歌手の方がたくさんいます。特に少し上の世代の方を中心にね。僕自身まったく現在の音楽シーンには興味がないので、だって味気ないじゃないですか、今のポップのほとんどって。僕としては、歌謡曲のほうが音楽性や芸術性に富んでいると思うし、色々な意味で厚みがあるし、心に残る何かが曲の中にあるように感じます。

ー現在企画中の新しいプロジェクトなどありますか?

直近で控えているプロジェクトとしては、3月末に大規模なシングアロング(大勢で集って歌うこと)を計画しています。オレゴンのポートランドで開催するのですが、街の中心にある広場で誰でも無料で参加できるイベントなんです。すごく楽しみですね。というのも、現在アメリカが抱えている様々な問題の中で僕自身がいちばん関心を寄せているのが教育問題なのですが、その中でも特にアートや音楽教育に関する予算が削減されていることに憤りを感じています。何かを作り出すという、人間の心を高揚させ、希望を生み出す行為が現在のアメリカのカルチャー全体において軽んじられている。だから上っ面だけのくだらないポップミュージックばかりが量産されてしまい、心を打つような深みのある作品が出てこない。これはアメリカに限らず、グローバルな社会問題の一つとして憂うべきことだと思うんです。こうした現状を少しずつでも改善していきたい、そのための一つのアクションとしてのシングアロングなんです。

ー日本ではあまりピアノを囲んでのシングアロングは一般的ではないのですが、どんな曲をやるんですか?

でも、日本にはスナックがあるじゃないですか(笑)。僕すごく好きですよ、カラオケスナック。いろんなお客さんが混じってみんなで歌ってるのがいいですよね。あれは立派なシングアロングですよ。ある意味、日本のほうが文化としてシングアロングが生活に根付いてるんじゃないでしょうか。実は以前、由紀さんともカラオケに行ったことがあるくらいです(笑)。しかもコンサートを終えた後に! ともあれ、今回のポートランドのプロジェクトでは、「I Will Survive」から「サウンド・オブ・ミュージック」、「峠の我が家」まで、いわゆる”アメリカのフォーク”というような曲をたくさんやるつもりです。このプロジェクトは、さっき話したように教育問題に対するアクションでもあり、ポートランドの街という一つの公共空間をより良いものにするためのアクションでもあるんです。

ー最後に日本のファンに向けてメッセージをお願いします。

また東京に戻ってくることができて、僕もメンバーも本当に嬉しく思っています。そして、ピンク・マルティーニとして今回のジャズウィークというフェスティバルに参加できることが何よりも光栄です。今回のステージはズンドコ節からコンゴ・ラインまで、ありとあらゆるレパートリーを盛り込んだ豪勢なものになります。皆さんに再びお会いできるのを本当に楽しみにしています!

・JAZZ WEEK TOKYO『Pink Martini
日時:2013年3月23日、24日
会場:東急シアターオーブ
ピンク・マルティーニ公式サイト

山田友理子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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