インタビュー:いとうせいこう

街として動く。『したコメ』は、そんな映画祭なんです。

インタビュー:いとうせいこう

©2011「したまちコメディ映画祭in 台東」実行委員会

2012年で5回目を迎える『したまちコメディ映画祭 in 台東』、通称『したコメ』。“映画×したまち×笑い”をテーマに掲げたこの映画祭は、上野と浅草2エリアの会場で、さまざまなコメディ映画を4日間にわたって上映する、街をあげてのイベントだ。総合プロデュースを手がけるいとうせいこうが、下町とコメディ、映画祭のあり方、プロデューサーとしての意気込みについてタイムアウト東京に語ってくれた。


―今ではかなり広く認知されてきた『したまちコメディ映画祭』ですが、いま一度映画祭の概要について教えてください。

いとう:僕自身が台東区在住であることがそもそものきっかけではあるんですが、区の方からフィルムコミッションの立ち上げを打診されたのがスタート地点だったんです。以前チーフプロデューサーとして『東京ファンタスティック映画祭』に僕が関わっていたことと、劇作家の井上ひさしさんに「浅草だったら、喜劇でやればいいじゃない」と助言をいただいたのが決定打になりましたね。そうか、コメディ映画祭ならいいな、と。で、下町の人はせっかちというか(笑)、行動が早いんですよね。それで、とんとんとスタートしたという感じなんです。

―下町ならではの映画祭という、独自のカラーがありますよね。

いとう:下町の人って、伝統も大事にするんだけど、あたらしもの好きっていう人が多いんです。とくに上野と浅草は、東京の下町のなかでもハイカラなものと古いものが混在する、昔からの歓楽街ですしね。映画祭を受け入れてくれる素地が、街そのものにあったんだと思います。

―今回、ジャパン・プレミアとして招聘している作品についてお聞かせください。

いとう:まずは『レミントンとオカマゾンビの呪い』ですね。フィリピンの平和な田舎町を舞台にしたコメディゾンビ映画で、“ゲイになる呪い”をかけられた少年が主人公なんですが、まぁとにかく面白い。そして最後にはちょっとホロっとくる。性差別者を笑いとばしつつ、人間の尊厳をきっちり扱っている名作です。 もう一本は、インド映画の『ボス その男シヴァージ』で、皆さんもうお馴染みのラジニーカント主演の作品です。今回は、現地さながらの“マサラスタイル(※1)”を導入するのが見所のひとつですね。40人ほどインドの方をご招待しているので、手拍子やクラッカーを鳴らすタイミングなんかを先導してくれるんじゃないかなぁと(笑)。歌ってよし、踊ってよし、騒いでよし。3時間濃厚なインド流エンタテインメントが楽しめると思います。

※1 上映中に手拍子やクラッカーを鳴らしたり、歌のシーンがかかったら踊ったりと、映画と観客がいっしょに盛り上がるインド映画ならではのスタイル。

―鑑賞するスタイルというか、映画を楽しむスタイルそのものも、今と昔でだいぶ変わってきましたよね。

いとう:それはありますね。昔って、映画の途中で好き勝手に出入りしたり、煙草を吸いながら見たりする人っていたじゃないですか。なんていうか劇場内の雰囲気そのものが、いい意味で雑然としていたというか。日がな一日劇場に居座っているおじさんがいたりしてね。したコメでは、映画そのものと一緒に、そうした“ゆるさ”を味わってもらえたらうれしいですね。

―先ほどマサラシステム導入の話がありましたが、『したコメ』にはそうしたプラスαの仕掛けがいろいろとありますよね。

いとう:そうそう。今回の前夜祭オールナイトの『東映まんがまつりVS東宝チャンピオンまつり』なんかも仕掛けがありますよ。1970年の作品を5本上映するんですが、上映当時に劇場に来た子供たちに配っていた“紙帽子”を大人サイズに作り直して、来場者にプレゼントしてかぶってもらう、なんてのもやりますからね(笑)。小さいけれど、中身の濃い企画がぎゅっと集まってるところも『したコメ』の特徴だと思ってます。

―『したコメ』は、観客と映画との距離が近い映画祭だなと感じます。そのあたり、プロデューサーとして意識しているポイントなどありますか?

いとう:ありますねぇ。そもそも『夕張国際ファンタスティック映画祭』のような、観客・監督・俳優の三者の距離が近くて、敷居の低い映画祭を都市部でやりたいと考えていたこともあって、距離の近さは大切にしてますね。『したまちコメディ大賞』というコンペ部門を設けているんですが、作品を出品している監督と審査員(本年度は、根岸吉太郎、小倉久寛、リリー・フランキー、いとうせいこうの4氏)が上映場所近くの店で酒盛りしつつ、直に話し合うのが慣例みたくなっていて、そこに作品を見たお客さんがふらっと混ざるなんていうこともあったり。いろんな映画の話しをしながら映画にまつわる“場”を作り出すような感じなんです。いいじゃないですか、そういう感じって。

―映画祭のボランティアを募っているのも特徴的だと思います。

いとう:したコメサポーター制度っていうのをやってるんですよ。行政と事務局だけで回す映画祭ではなく、草の根的な、参加型の映画祭でありたくて。このサポーター制度がだいぶ浸透してきて、今や彼らなしでは映画祭が成立しないくらい。何がすごいって、サポーターが映画祭そのものを楽しみながら、自分で考えて自主的に動いているのがすごい。毎年、上野の不忍池水上音楽堂で開催するクロージングイベントのライブがあるんですが、ここのエントランスで虫さされ防止用に、来場者の皆さんに虫除けスプレーをふりかける、なんていうこともあったり(笑)。今や『したコメ』の風物詩ですね。他にも、映画祭期間中に商店街の軒下とか小学校の体育館で映画の上映会を企画していたりね。みんながそれぞれ考えて、仕事と思わずに自然に動いているんですよ。

―街と映画祭が一体になっている感じが年々強くなってきているんじゃないでしょうか。

いとう:いや、本当にありがたい限りですよ。だって毎年ね、8月の終わりくらいになると、よく行く蕎麦屋のおばちゃんが「そろそろですね」なんて声かけてきてくれたりしてね。お勘定払うと「ごくろうさま」なんて言われたりもして。そんなプロデューサーって、なかなかいないんじゃないですかね(笑)。うれしいですねえ。『したコメ』がもっと浸透して、ゆくゆくは上野も浅草も、一年中街のどこかでコメディに関する何かが起きているような街になったらいいですね。そんな風に考えています。


インタビュー 東谷彰子
テキスト 山田友理子
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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