インタビュー:Para One

フランスダンス・ミュージックシーンの多才なクリエイターが語る

インタビュー:Para One

先日のソニックマニアのアクトも大盛況に終わった、Para OneことJean-Baptiste de Laubier。6月にリリースされたセカンドアルバム、『Passion』からのリードシングル、'Lean on Me'は「50年後のラジオでかかっているだろう曲」を想像し、長年のコラボレーターで親友でもあるTeki Latexと共に完成させたもの。そのミュージックビデオはキャスティングから撮影まで、全編東京で行われた。

アップテンポでポップなサウンドの『Passion』とはうらはらに、とてももの静かで、YMOと坂本龍一の大ファンだという日本びいきの彼に、過去に手がけた浜崎あゆみのリミックスから、最近友人達と設立したレーベル、Marbleについての近況まで、タイムアウト編集部は話を聞いた。


― ソニックマニアはいかがでしたか?

Jean-Baptiste de Laubier:ライブショーっていう、僕の新しいスタイルを試すいい機会だったと思う。大きいイベントだったけどきちんとオーガナイズされてた。オーディエンスの中にはMarbleのTシャツを着てる人もいて嬉しかったよ。本当に僕のライブを観たくてきてくれてたんだね。

― オーディエンスの反応はどうでした?フランスでは違う盛り上がり方なのでしょうか。

Jean-Baptiste de Laubier:みんなすごく楽しそうだったよ。曲が盛り上がるところとか特に。日本のオーディエンスの方がもっと熱狂的な感じがするかな。フランス、特にパリではみんな、ちゃんと自分が納得するまで盛り上がらないんだよ。だからライブが盛り上がるまで時間がかかるんだ。

― 今回のアルバム、『Passion』をリリースするまで6年という長い年月がかかりましたね。

Jean-Baptiste de Laubier:ファーストアルバムをリリースしてから、すぐに長いことツアーに出たのでスタジオにこもる時間がなかったんだ。リミックスしたりもしてたけど、それくらいだったね。その当時、フレンチミュージックが爆発的に人気が出て、だからこそ世界中をツアーして、僕ら自身のシーンを作り上げなければいけないと感じた。友達のレーベル、Institubesの為にも、それが僕の役目だと思った。あとは、サイドプロジェクトが数多くあったり。映画の音楽とか、クラシックのミュージシャンとか、他のアーティストとのコラボレーションとか。だから、この6年の間にアルバム3枚位リリースした気分だよ。Para Oneとしてのプロジェクトではなかったけど、同じような作業量だったと思う。2011年にリリースしたSan SeracとのSlice & Sodaのプロジェクトも当初はPara Oneとしてリリースの予定だったんだけど、実際、僕だけのサウンドではなかったし、もっと自分の新しいサウンドを追求しなければいけないと思って、スタジオ環境を整えることにした。それにも時間がかかってしまったんだ。

― インストゥルメンタルの曲がほとんどだったファーストアルバム、『Epiphanie』と比べると、今作、『Passion』はボーカルが多く入ったりと、よりメロディアスになってますね。ファーストアルバムとは全く違うスタイルにしたいと思ってのことなのでしょうか。

Jean-Baptiste de Laubier:このアルバムを作るとき、『Epiphanie』については考えたくなかったんだ。言い方が変かもしれないけど、『Passion』を2枚目のファーストアルバムにしたかった。6年っていう歳月が経ってるからそもそも無理な話なんだけど、『Epiphanie』の“続編”には全くしたくなかったし、続編を作るって話自体おかしいと思ったからね。でも、『Passion』の作り始めはインストゥルメンタルだったんだよ。インストゥルメンタルのトラックを作って、そこにメロディーやボーカルをどんどん重ねていったから、結果的にポップな感じに仕上がった。最初はそうなるなんて思ってなかったから、自分でも驚いたけどね。無理矢理な感じじゃなくて、自然な流れでそうなったから良かったよ。今回、歌ってくれているのも友達だし、みんなスタジオに集まってごく自然な形で、何のプレッシャーもなく、気軽にジャムって曲を作り始めた。僕の作ったメロディーが軽やかでハッピーでね、みんなそれに影響されて歌を乗せてくれたから、前作よりもあたたかいサウンドに仕上がったんだ。

― 今回のアルバムの歌詞ですが、全てご自分で書かれたものなのですか?

Jean-Baptiste de Laubier:いや、ボーカル参加してくれた友達が歌詞を書いてるときに言葉を選んだり、行き詰まってる時の手助けはしたけど、大半は彼ら自身によるものだよ。

― そうだったんですね!ラブソングが多いので、実体験を元に書かれているのかと思ってました。

Jean-Baptiste de Laubier:書いてくれたのが僕を良く知る友達だから僕に関することではあるんだ。例えばJAWはすごく繊細で、人の気持ちが読み取れるから彼が歌詞を書く時はその書く対象の人に影響される。だから今回も僕の発するヴァイブを汲み取って書いてくれたんだと思う。

― 'Every Little Thing'の中で、「初めてのデートで愛してるなんて言ってしまう孤独な男にはなりたくない」というくだりがおもしろいなと思ったのですが、実体験ではないんですね(笑)。

Jean-Baptiste de Laubier:(笑)でもTeki('Every Little Thing'の歌詞を担当)は僕のことよーく知ってるからね!

― アルバムを通して、母国語のフランス語ではなく英詩にされたのはなぜですか。

Jean-Baptiste de Laubier:誰に対しても分かりやすいものにしたかったから。今までフランス語しか話さない、フランス語でしか歌わない・ラップしないアーティストたちと一緒にやってきた。でも、ここ6年くらいで僕らがある程度の成功をおさめてるのは、主に海外、特にアメリカやイギリスっていう英語圏の国でなんだ。だから、そういう土地のオーディエンスの心をつかむためにも英詩にする必要性があると思った。フランスっていう国に閉じこもるんじゃなくてね。もちろんフランスにもファンベースはあるんだけど、そこにとどまらず世界を広げていきたいと思ってる。

今回ボーカルを提供してくれた友達は全員バイリンガルで、特にTeki Latexなんかはバイリンガルの教育を受けているから、別に強いられて英語で歌った訳じゃないんだ。フランスの若者が流暢な英語を話し出したのは最近のことだよ。そもそもフランス人って英語が下手だし、英語は話さないっていうので有名じゃない?でも、多分easyJet(イギリスの格安航空会社)のおかげでフランス人にとって海外旅行が手軽になったっていうこともあって、英語を話す機会がどんどん増えてきたんだと思う。

― 'Lean on Me'のビデオ、秀逸ですね。世界中の数ある都市から、東京で撮ろうと思われたのはなぜですか?

Jean-Baptiste de Laubier:僕にとって東京と映画は切り離せない関係なんだ。僕が映像を撮り始めたのは、東京でも何度も映画を撮ったことのある、フランス人の映画監督クリス・マルケルに影響を受けたから。彼が東京で撮った、『サン・ソレイユ』を17歳の頃に観てからというものの、東京に行って映画を撮りたいってずっと思ってたから、今回それがようやく叶ったよ。フランス人のある映画監督がインタビューで、「フランスで映画を撮るのはもう面白くない。面白くしたいけど、なかなか難しい。アメリカで撮るのは面白い。でも東京で撮るのはもっともっと面白い」って言ってた。視覚的な面をとっても、僕たちの目に真新しい・珍しいっていうだけじゃなく、とにかく惹き付ける何かがあるんだ。あと、演技も。表情や感情の表現が、無理に表に出そうとしなくても自然に出てくるのがいい。フランスでは感情を思いっきり表現する演劇出身の俳優が多いんだけど、あからさますぎてつまらない。今回の'Lean on Me'のビデオでは日本人のシャイで控えめな部分をさりげなく表現したかった。それが実現出来たのも、撮影監督のステファンがそういう繊細な瞬間や細かい仕草を逃さず撮ってくれたおかげだよ。



― キャストのオーディションには立ち会われたんですか?

Jean-Baptiste de Laubier:そうだね、日本にいる友達やレーベル、PLUS VAGUE! のA&Rのアランに手伝ってもらったよ。オーディションもギリギリの告知だったんだけど、いいキャストに巡り会えて本当にラッキーだった。アランも色んなタイプの人たちを集めてくれて助かったよ。プロの俳優とネットでオーディションの告知をみて来てくれた演技の経験のない人たちと両方いたんだけど、プロは見た目が完璧で「きれいすぎる」から撮りたいと思わなかった。観る人にとって説得力のある作品にしたかったから。

― ストーリーはどのようにして出来たのですか?

Jean-Baptiste de Laubier:まず、若い子達が花見を楽しんでるっていう画が浮かんだんだ。桜の時期に撮るっていうのはもともと頭に描いてたから。2年前、花見シーズンのとき日本にいたから、どこに行けばいいかも分かってた。男の子と女の子の間に恋が芽生えて…っていう漠然としたアイデアはあったから、あとはステファンと一緒に撮りながらストーリーを構築して、エディットしていった。撮りたい場所も自分の中で決まってたし、実際にキャストをそのロケ地に入れることで何をさせたらいいかアイデアが次々と湧いてきたんだ。ロケ地に関しては、今まで日本に来て気に入った場所を記録していて、その中から決めたよ。

― 日本には何度も来られていますが、そもそもどのようにして日本のポップカルチャーやミュージックカルチャーを知るようになったのですか?

Jean-Baptiste de Laubier:うん、確かに日本のことは良く知ってるつもりだけど、ポップカルチャーに関しては深い知識がある訳じゃないよ。フランス人の中にはものすごく精通してる人もいるけどね、僕はその雰囲気だけでいいんだ。他のことでも何かに精通するってことはなくてさ、映画に関してもフィルムスクール在学中、クラシックと言われてる作品を全部観た訳でもない。3本好きな映画があって、それをちゃんと理解してればいいと思ってた。日本のポップカルチャーに関しては…僕が子供の頃からフランスではテレビで日本のアニメを放映するようになって、世界中でブームになったけど、フランスでは特に僕の世代に人気が出たんだ。大友克洋なんかは僕らにとっても分かりやすかったからフランスでヒットしたんだと思う。ティーンの頃はかなり入れこんでたよ。

― 日本のポップカルチャーと言えば…どのような経緯で2008年に浜崎あゆみの'Greatful Days'のリミックスを手がけることになったのですか?

Jean-Baptiste de Laubier:(笑)avexが彼女の楽曲のリミックスを頼みたい人のリストを作ってたみたいで。そのリストは僕も見せてもらったんだけど、ダフト・パンクを筆頭にあらゆる人が載ってるんじゃないかって位長かったよ。多分、僕のダフト・パンクの曲のリミックスを気に入ってくれて連絡してきたんじゃないかな。日本でも結構知られてたみたいだから。それで、「ああいう感じに仕上げて欲しいんだけど、どう?」って言われたから、「いいよ!」って。ああやってサンプルをスライスしたりするの久しぶりだったし、日本人の声をリミックスするのが好きだから楽しいプロジェクトだったよ。

― 今後、コラボレーションしてみたい日本のアーティストはいますか?

Jean-Baptiste de Laubier:そうだね…絶対に無理だとは思うけど、YMOと坂本龍一の大ファンだから一緒にやってみたいな。彼らは僕にとっての音楽界のヒーローなんだ。本当に好きだし、アーティストとして心から尊敬してる。日本人のアーティストに関しては、友達のKIRIがオススメを送ってくれるからチェックしてるよ。名前は覚えてないんだけど…10年前に日本に来た時に一緒にツアーをまわったラッパー達はかっこよかった。すごく技術的なスクラッチを見せてもらったりして。その当時はよくDJ Krushを聴いてたな。

― 最近始められたレーベル、Marbleについて聞かせて下さい。

Jean-Baptiste de Laubier:Institubesがダメになりつつあるのが見えてたから、新しいレーベルを始めなきゃって思ってた。経済的にも厳しかったし、レーベルにアーティストがい過ぎたっていうことも原因だった。そのせいで時間もうまく管理出来なくなってて。僕たちにとって苦痛でしかなくなってきてたから、これはもうダメだな、と。だから、スタジオも引っ越して、そこにSURKINBOMBOが加わった。ツアーもしょっちゅう一緒にまわるし、スタジオでも共に時間を過ごして、すごく気が合ってぶつかることもないって思ったし、3人ともスタイルこそ違うけど、音楽に対するアプローチの仕方とか考え方も同じだから、じゃあ自分たちでレーベル始めようっていう話になったんだ。実際にヴァイナルをリリースしたりってことをせずに、もっと手早く、気軽にやっていこうと。雑誌みたいに、毎月何か出したいと思ったら出せばいいし、パーティー開いたり、フォトシューティングしたり、とにかく以前のようなストレスを抱えることなく単純に楽しくやることによって、スタジオ内の僕たちのポジティブなエネルギーを反映させたかった。イライラしたり、「自分はアーティストなんだ」と気負うんじゃなくて、朝みんなでコーヒーを飲んで、お互いの音を聴かせ合って、っていう感じでもっと友達と毎日を楽しく過したいなって思ってる。

― クリエイティブ集団って感じですね。

Jean-Baptiste de Laubier:まさに。最近は、CLUB CHEVALが加わって、よりいい感じになってる。CLUB CHEVAL名義じゃなくて、SAM TIBA、CANBLASTER、 MYDのソロとしてリリースもしたよ。近いうちにPANTEROS666のソロも出す予定。お互いにぴったりだと思った。だからMarbleはレーベルっていうより、グループだね。InstitubesからDas Glowも来てくれて、また一緒に音楽を作れるのが嬉しいって言ってくれた。

― では最後に今後の予定を教えて下さい。ツアーでまた日本に来られる予定は?

Jean-Baptiste de Laubier:戻ってきたいよ!僕の一存では決められないけど、2013年早々にまた来れればいいなって思ってる。今年は日本に既に3回来てるから、このペースを崩さないでおきたい。4ヶ月ごとに戻って来れればいいなあ。今円高だし、フライトも高いけど、また早く戻ってきたいね!


8月25日(土)、23時00分よりblock.fm"MIX BLOCK"内にて、1時間のPara Oneスペシャル東京MIXが放送される。


インタビュー さいとうしょうこ
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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