ジャド・フェアに急接近

ジャパンツアーに先駆け、DIYアーティストのジャド・フェアと対談

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ジャド・フェアに急接近

Jad Fair with his dog, Sandy Carson

30年以上もの音楽活動を続けてきたジャド・フェアだが、彼のミニマルミュージックは10代の頃の若々しさをそのまま封じ込め続けてきたかのようだ。ジャドは1977年に伝説のローファイ・パンク・バンド『ハーフ・ジャパニーズ』の片割れとして音楽の世界に身を投じる。『ハーフ・ジャパニーズ』はジャドと兄のデビット・フェアの兄弟バンドで、リビングで誕生した。そこからジャドは人がうらやむようなインディーズバンドとのコラボレーションを果たす。その面子は、ティーンエイジ・ファンクラブに始まり、ヨ・ラ・テンゴやサーストン・ムーア等など。そして、ニルヴァーナの1993年イン・ウテロツアーのオープニングアーティストとしても演奏している。

ジャドは『Half Japanese: The Band That Would Be King』というドキュメンタリー映画の中で「自分が唯一知っているコードは、ギターとアンプをつなげるコードだけだ」と認めている。この作品は半分スパイナル・タップ、半分ホームビデオといったパロディー映画。1970年代のDIYパンクブームの再来に支えられ、当時のジャドは楽器経験が少なかったが、これがハードルというよりかえってインスピレーションを駆り立てるきっかけとなった。そして、彼の強い好奇心と気さくでキッチュな魅力は人を惹きつけた。「楽器を弾いたことがないと音楽を演奏することが難しいって人は言うけど、バンドを組んだその日から僕はドラムもギターもボーカルもできた。手にする楽器はどれも初めてでもうまくひけたよ」とジャドは言う。

余計なものを省くジャドの音楽スタイル、そして彼の内気さと渋い声が、永遠なる思春期へのマニア的な賛歌を構成している要素である。そんな彼の音楽には、彼の“好物”である“女とモンスター”がよく登場する。1982年にリリースされた『ハーフ・ジャパニーズ』に収録されている『ゾンビーズ・オブ・モラ・タオ(Zombies of Mora-Tau)』、デビット・フェアとコラボレーションをした『26・モンスター・ソングス・フォー・チルドレン(26 Monster Songs for Children)』、そして1998年にヨ・ラ・テンゴとコラボレーションをした『ストレンジ・バット・トルー(Strange But True)』など、彼の楽曲のタイトルは一風変わっている。そのため、彼自身に“ストレンジ(変)”だけれども“トルー(本当)”の話はないか聞いてみた。

最近のインタビューで彼は「一度UFOを見たよ」と話してくれた。「それは夜だった。弟と一緒に空に浮かぶ巨大な光を見た。その物体は、ものすごく明るくゆっくりと木に覆われた地帯に降りていった。警察に電話してこの光る物体について報告したんだ。電話口でこんな話をして頭がおかしいと思われるかと思ったら、同じような報告を受けていたらしい。なんだったのか全く検討つかないけどね」と彼は加えた。さらに、彼の好物のひとつである“女”についても聞いてみた。1987年にリリースされた『ミュージック・トゥ・ストリップ・バイ(Music to Strip By)』に収録されている『セックス・アット・ユア・ペアレンツ・ハウス(Sex at Your Parent’s House)』や1988年にリリースされた『チャームド・ライフ(Charmed Life)』に収録されている『1,000,000,000,000・キシズ(1,000,000,000,000 Kisses)』などの楽曲はどうやら自分の体験をもとにして作られたようである。

ジャドの思春期の悶々とした感情を歌った冗談交じりの楽曲や調子はずれのギター演奏スタイルは、個人的そして本能的な必要性から生み出されたものであると同時にパンクブームの象徴でもある。ジャドのDIY的努力としては、『ハーフ・ジャパニーズ』のマスタリングテープを作成し、ロックマガジンに広告を出したりした。この手作りなプロモーション活動は、『ハーフ・ジャパニーズ』に収録されている多くの楽曲のジャケットやソロアルバムのジャケットのデザインをする動機となった。彼のデザインはユニークな切り絵アートである。切り絵である理由をジャドはこう説明している。「ツアーの移動中に何かをしたかった。バンの中は揺れるしあまり本を読むのは好きじゃない。最初は絵を描いてみたけど、バンの中では揺れが激しくて手元がぐらついたから切り絵になった」。

ジャドの芸術活動はマーサ・コルバーンとのコラボレーションを生んだ。マーサはアーティスト・映画監督であり、2人は笑える気持ち悪さに魅力を感じ意気投合。ジャドは彼女の短編映画『スパーダーズ・イン・ラブ:アン・アラクノガスミック・ミュージカル』(原題:Spiders in Love: An Arachnogasmic Musical <2000年>)と『エビル・ドラキュラ』(原題:Evil Dracula <1997年>)に効果音と音楽を加えた。

多岐にわたる活動を続けながらも、ジャドはインデーズ的な感覚と不思議なほど幼稚な畏怖の念を持ち続けた。それは彼の作詞に現れている。彼は大好きなディズニーランドを題材にした曲を書いている。「僕は本当にディズニーランドが大好き」とコメントしている。ただ、一度しかいったことはないらしい。

ジャドは人々の“日常”のための作曲にも挑戦している。自身のウェブサイトに寄せられたオーダーに沿った曲を手軽な値段で作っている。ジャドによると、ほとんどのオーダーは誕生日やベビーシャワー(安産を祝うパーティー)のための曲だという。ただ、プロポーズのための作曲という非常に苦労したオーダーもあった。「プレッシャーを感じたよ。いい曲を作らなきゃ、彼女がプロポーズを断ってしまうのではないかって思った」と彼は振り返る。

ジャドの音楽は今でもミニマルである。変わったのは、レコーディングをする場所が親のリビングではなく、テキサス州オースティンのはずれにある納屋に変わったくらいだ。彼はそこに妻と一緒に暮らしている。今後の音楽活動のスケジュールは、3月に開催される音楽と映画のコンベンション『サウス・バイ・サウスウェスト(South by Southwest )』にて、ソロアルバム『ヒズ・ネーム・イットサルフ・イズ・ミュージック(His Name Itself Is Music:ファイア・レコードよりリリース)』のプロモーションをする予定である。今回も『ヒズ・ネーム・イットサルフ・イズ・ミュージック<彼の名前が音楽>』というユーモアを感じるタイトルとなっている。そして5月には『ハーフ・ジャパニーズ』のヨーロッパツアーを予定している。彼の芸術活動のスケジュールは、これまでの作品をフランスで展示、最近発売した本のプロモーションも予定している。『ハーフ・ジャパニーズ』の馬鹿げたパフォーマンスを題材にしたアニメも展示作品に含まれており、もちろん「モンスターもたくさんあるよ」とジャドは保証してくれた。我々の期待は裏切られることはなさそうだ。

ジャド・フェアは、2011年3月5日(土)と6日(日)に渋谷のO-Nestにてテニスコーツとパフォーマンスをする。ジャドの個展『セレブレート・ザ・セレブレーション(Celebrate The Celebration)』は2011年3月4日(金)から4月10日(日)まで、Hiromart Gallery Tokyoにて開かれる。3月4日の19時からのオープニングレセプションは、ジャド・フェアも出席する予定だ。


ジャド・フェア『セレブレート・ザ・セレブレーション(Celebrate The Celebration)』


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By Meghan Killeen
翻訳 タイムアウト東京編集部
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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