2011年11月25日 (金) 掲載
エレクトーンやターンテーブルを駆使した壮絶なライブを世界各国で繰り広げているTUCKER。近年の彼をインスパイアしているのはアジア各国のクリエイターたちとの交流だ。なかでも過去4回訪問した韓国は、彼にとっても特別な地。6年ぶりのニュー・アルバム『TUCKER PLAYS 19 POST CARDS』はその韓国や上海、香港を訪れた際の記憶と記録を元にしたアジアン・フレイバー漂う一枚となった。今回は新作の話のみならず、韓国のアンダーグラウンド・シーンの体験記もたっぷり聞かせてもらうことにした。ディープかつレアな情報盛りだくさんのロング・インタビューをどうぞ。
─ 新作『TUCKER PLAYS 19 POST CARDS』は前作『ELECTOO WIZARD』から6年ぶりのアルバムですよね。これだけの期間が空いたのはどういう理由からだったんでしょうか。
TUCKER:前のアルバムを出してからはCMとかのお仕事をする機会が多くて、そういうクライアント仕事もそれはそれで楽しくやってたんですね。そういう状況が長く続いてたんですけど、その頃に韓国の人たちとネット上で交流が始まって。韓国の人たちと交流することで久しぶりにワクワクするような感覚もあったし、おもしろいことがひとつ見つかるとCM仕事に気持ちが向かなくなっちゃった。なかでもマガジン・キング(註)っていうアーティストとの交流が今回のアルバムのモチベーションにも繋がってるんですよ。マガジン・キングの音楽はUKやUSのものを参考にしているというよりも、別のベクトルから発生してる感じがして僕にはインパクトがあったんです。彼は推理小説マニアなんですけど、推理小説をモチーフにインストのヒップホップ・アルバムを作ったりしてて。自分で楽器も作ってるし、僕と音楽の趣味も似てるし、親近感を持ったんでしょうね。それがアメリカやイギリスではなく、韓国だったというのが自分としてはおもしろかった。実際に韓国に行ってみると日本とそんなに変わらないじゃないですか。クラブに行ってもUSメインストリームのラップがかかってるし。ま、近い国ということでシンパシーを感じた部分もあったと思います。
*註:マガジン・キング/自作楽器やテープレコーダーを使ってファニーでユニークな音楽世界を作り上げるアーティスト。日本のレーベル、Power Shovel Aucioからアルバム『Reasoning Album』のリリースもあり。 マガジン・キングMyspace:www.myspace.com/magazineking
─ どうやってマガジン・キングとの交流は始まったんですか?
TUCKER:彼のアルバムがおもしろかったんで、Myspace経由でコンタクトを取ってみたんですよ。それが4年ぐらい前かな。そうしたら彼も僕のDVDを持っていたみたいで、そこから交流が始まった。その後、一緒に作った曲が日本のコンピに入ったりして、そうこうするうちに韓国に呼んでもらったり、逆に日本に呼んだり。そのなかでマガジン・キングを通して、韓国のいろんなアーティストを紹介してもらったんですよ。
─ マガジン・キングと出会う前、韓国に対してはどういうイメージを持っていたんですか?
TUCKER:ほとんど興味がなかったんですよ。イ・パクサ(註)は知ってましたけど、日本のフィルターを通して見てた感じですよね。日本だとポンチャックっておもしろおかしく評価されてましたけど、実際に現場に行って、どう機能しているか見れたことによってだいぶ意識が変わりました。ポンチャックってバスとかトラックの運転手が眠らないための音楽でもあるんで、発祥した土地で聴くと分かることもあるんです。マガジン・キングはドキュメンタリー・フィルムを撮るぐらいポンチャックに詳しくて、カシオトーンを弾くプレイヤーの情報とかも知ってたんですよ。そういう情報はネットにも載ってませんからね。
*註:イ・パクサ/中高年やタクシー/バスの運転手に人気のローファイ・ダンス・ミュージック、ポンチャックの帝王。90年代半ばには電気グルーヴとの競演も果たした。TUCKERのポンチャック・ディスコ体験談は後述。
─ 上海を訪れたのは2009年?
TUCKER:そうですね。上海ではガスランプ・キラーやキッド・コアラがやったこともあるシェルターっていうクラブでやったんですけど、中国のなかでも上海は独特だと思います。外資系の企業もたくさん入ってきてるし、クラブにも中国人ではなく現地在中の外国人がメインで来てる。だから、あんまり中国に来たっていう感覚はなかったな。ただ、オフの日に現地のDJが上海を案内してくれたんですけど、彼との話は興味深かったです。中国だとYoutubeが観れなかったり、いろんな事情があるので。
─ 香港は?
TUCKER:香港はライブではなく、一回遊びに行ってみたくて今年の頭に行きました。香港も微妙な時期で、イギリスやアメリカの文化を残しつつカオスができててビックリしました。渋谷を越すカオス(笑)。アジアからは音だけじゃなく、グラフィック的にも刺激を受けましたね。ありえないぐらい大きい看板とかネオンとか。今回のアルバムの内ジャケに使った写真は香港で撮ったものですね。
─ アジアのカオス感はヨーロッパやアメリカにはないものですよね。
TUCKER:そうですよね。香港に関しては〈こんなに近いところにおもしろい場所があったのか〉っていう驚きもありましたね。外国の人もたくさん住んでるし、アート系のギャラリーやカフェもあって、住めそうな感じがした。
─ そして、その旅からインスパイアされて制作されたのが新作『TUCKER PLAYS 19 POST CARDS』というわけですね。今回は琴や胡弓の音色も入ってますよね。
TUCKER:ああいう音を使うこと自体、僕にとって初めてだったんですよ。それまでアジアン・テイストのものに特別魅力を感じたこともなかったし。韓国ではストリートで伝統楽器を演奏してるおじいさんがいたりして、そういう演奏を常に録音してたんですけど、そういうものからヒントを得たり。あと、Youtubeにはアップされていたそういう映像からインスパイアされたものもありますね。
─ 琴や胡弓は自分で弾いてるんですか?
TUCKER:琴は自分で弾いてるものもありますけど、ストリート・ミュージシャンの演奏からサンプリングしたものもあります。一音を取り出してそれを鍵盤状に並べて演奏するのが通常のサンプラーの使い方なんですけど、そういうことを今までやってなかったんで今回試してみました。その方法だとキーボードの音色に縛られないし、地球上にはない音色で演奏できるんです。僕自身、フレーズ・サンプリングに対して興味がなくなっていて、プリセットの音色で作られたトラックの上にラップが乗ってるようなもののほうがおもしろくなってきてるんですね。
─ 今回は前作以上にシンプルになってますよね。そのぶん普通にいい曲、普通にいいメロディーが詰まっている印象を受けました。
TUCKER:曲にいろんな要素を足していくのは簡単な作業なんですよ。ポンチャック含め、シンプルな構成のものばかり聴いていたのが影響してるんじゃないかな。CDでもLPでもリリースされていないカセット音源ばかりをアップしてるサイトがあって、そこにはキチンとレコーディングされたものにはないプライベートな空気があったんです。自分のなかだけで完結してるからこそのプライベートな空気というか。そういうものばかり聴いてたし、自分のアルバムもそうしたかったんですね。〈誰々がやってる〉っていう名前が前面に出たものじゃなくて、誰がやってるか分かんないような音源に魅力を感じたんでしょうね。
─ なるほど。
TUCKER:あと、クライアント仕事をずっとやってた時期、〈自分は何を作りたいんだろう?〉なんて思うこともあって。だったら今回のアルバムでは自分がクライアントになってみるのはどうだろう?と。自分のなかの別のキャラクターから発注を受けて、僕が作る。例えば(と袋から数枚のLPを取り出す)……向こうのレコード屋さんで〈これ、どんな音楽なんだろう?〉とアナログを買うわけですけど、買ってきてから自分で自分に〈このレコードに音を付けろ〉と発注するわけ(笑)。またはつい買ってしまったつまらないレコードにどうやって歩み寄るか。例えば、毎日かけてみるとか(笑)。そうすると段々好きになっていくんですよ(笑)。
─ ほとんど苦行ですね(笑)。
TUCKER:そうそう(笑)。あとは写真集ですね。香港の九龍城の写真集を借りてきて、そのイメージを膨らませたり。今回はそういうことをやりながら曲を作りました。
─ じゃあ、クライアント仕事で培ったものを自分の制作に変換したわけですね。
TUCKER:そうです、そうです。クライアント仕事をやりすぎて、自分の制作にモチベーションが持てなかった時期があったんですけど、だったら〈別の仕事を頼まれた〉っていう設定にしようと思って(笑)。
─ なるほど。で、韓国の話に戻りたいんですけど、TUCKERさんはポンチャックがかかるディスコにも行ったんですよね?
TUCKER:そうですね。ディスコというよりナイトクラブなのかな? といっても朝の11時とかからあのテンションでやってるんですけど(笑)。基本的に若者はポンチャックにまったく興味を持ってないんですよ。ポンチャックは懐メロの要素が強いんですけど、そこにダンスビート、それも4つ打ちとかじゃなくて、欧米から入ってきたものとは違うベクトルのダンスビートが入ってる。中高年が踊るためのビートですね。
─ でも、結構BPMは速いですよね?
TUCKER:速いですね。速いのに〈ドンドンドン〉ってビートじゃなくて〈ズッツタッタズッツダタッタ〉みたいな感じ(笑)。僕らが行ったナイトクラブにしても聴いたことのない音楽の現場にいるっていう感覚があって、おもしろかったですね。そういうところに若者は入っちゃいけないんですよ。僕らもいろんな交渉をしてやっと入れた。僕はオルガン・メーカーのエンジニアということにして(笑)。
─ 若者が入っちゃいけないのはどうしてなんですか?
TUCKER:それは僕も疑問だったんですけど、速いビートに懐メロが乗って、それに合わせてオバさんがクルクル回ってるわけで、冷やかしに来る若者がいるそうなんですね。僕みたいに目を輝かせながら来るヤツなんていないんです(笑)。あと、中高年にとってのアバンチュールの場でもあるみたい。若い子にとっての合コンというか。だから、若者が茶々を入れてくれるな、と。僕にしてみると、そういう拒絶される空間って本当に久々で、その敷居の高さが高校生のころに行きたかったOi!パンクのライブみたいな感じがしました(笑)。エレベーターを降りた瞬間、聴こえてくるビートに胸がときめくような感覚も久々に感じましたね。
─ マガジン・キングもポンチャックの世界には簡単に入れないわけですか。
TUCKER:彼が住んでいる地区にポンチャックを演奏している人たちがいっぱいいる地域があるんですよ。一種の下町なのかな。ポンチャックのプレイヤーのなかにも〈あいつの伴奏はヤバイ〉っていう人がいるわけですけど、マガジン・キングはそういう人たちを取材してるんですね。そういう情報はネットにもないし、もちろん情報誌もない。全部口コミ。どうやって情報を調べるかというと、カシオトーン奏者のおじさんたちが集まる楽器屋があるんですよ。そこに行ってバンマスの電話番号を入手するところから始まる。そうやって話を聞いていかないと、ライブにすら全然行き着けないんですよ。
─ ワクワクする話ですね。
TUCKER:そうなんですよ。さっきも話したようにマガジン・キングは推理小説マニアなんですれど、お父さんが刑事なんですね。なにせマガジン・キングはシャーロック・ホームズのタトゥーまで入れてますから(笑)。彼と手帳片手に〈バンマスの電話番号、入手しました!〉とか朝からやってました(笑)。〈今やネットで入手できない情報はない〉なんて言われますけど、ネットで入手できない情報の宝庫なんです(笑)。
─ おもしろいですね。マガジン・キングとはMyspace経由でサクッと繋がったのに(笑)。
TUCKER:そういえばそうですね(笑)。
─ ソウルで初めてライブをやったのが2009年ですよね?
TUCKER:そうです。NIKE絡みのイベントと、マガジン・キングが仕切ってくれたイベントっていう二カ所でやりました。どっちも結構大きい会場で、NIKEのほうはソウルスケープ(註)とも一緒で。彼は昔の韓国の音源でミックス出したりもしてますけど、そのイベントはヒップホップのDJが多くて、そんなにドメスティックな感じじゃなかったかな。
*註:ソウルスケープ/ソウルのクラブ・シーンを牽引するDJ/プロデューサー。自身を中心とするDJクルー、360サウンズで活動する一方、60~70年代の韓国産サイケ歌謡に新たな焦点をあてたミックスCDシリーズ〈Sound Of Seoul〉が国外でも話題に。 ソウルスケープMyspace:www.myspace.com/djsoulscape
─ 向こうではソウルスケープってどういう存在なんですか?
TUCKER:ソウルスケープは向こうの有名なアーティストにトラック提供もしてるし、周辺のDJもかなりお洒落ですよね。アンダーグラウンドな存在ではないと思う。マガジン・キングが話していたのは、日本にはメジャーとマイナーの中間のアーティストがたくさんいるけど、韓国はやってる人もお客さんも少ないので、その中間がいないっていうこと。アンダーグラウンドだと支えてる人たちが少ないけど、メジャーになるとそれが一気に増えるみたいですね。帰国後に調べてみたら、向こうに行ったときに見れなかったシーンもたくさんあることが分かったんです。ハードコアとかパンク、あとはノイズ。そのあたりにもおもしろい人がいっぱいいますね。バムソム・パイレーツ(註)っていうちょっとナパーム・デス的なところもあるハードコア・バンドだとか、ヨーロッパで話題になったブラック・メタル・バンドもいて。コアなシーンはボーダレスなんでしょうね。
*註:バムソム・パイレーツ/ポリティカルかつユーモラスなスタイルを持つグラインドコア・バンド。日本各地でライブを行った経験も。バムソム・パイレーツMyspace:www.myspace.com/bamseom
─ そういったバンドのメンバーはいくつぐらいの世代なんですか?
TUCKER:みんな若いですね。
─ そう考えると、シン・ジュンヒュン(註)の時代とは世代の断絶があるわけですよね。
*註:シン・ジュンヒュン/60年代からキム・ジュンミら韓国産サイケのプロデュースを手掛けてきた〈韓国ロックの父〉。近年、欧米や日本でも大きな注目を集めている。
TUCKER:ソウルスケープはそこを繋げようとしてますね。あとは音楽の土壌が日本とは違うと思うんですよ。海外の音楽をおおっぴらに流してよくなったのが結構最近だったり、北朝鮮と地続きになってるっていう感覚がみんなのなかにあったり。みんなハングリーなんですよ。2、3か国語ぐらい喋れる人がたくさんいるし、コミュニケーション能力も日本人より優れてると思う。外に出ていく際に必要な能力をみんな磨いてるんですね。日本だと留学する人が減ってるぐらいだけど、韓国はみんな燃えてるんです。日本の高度成長期ってああいう雰囲気があったんだと思う。韓国の人たちに触れたことで、そういう刺激ももらいましたね。
─ プサンにも行かれてましたよね?
TUCKER:行きました。ソウルもそうですけど、向こうの人は〈(ソウルにしてもプサンにしても)シーンはないです〉って言うんです。おもしろい人がポツポツいるぐらいで、その限れた人同士でコミュニケーションを取ってる感じなんですね。ネットでBombino Recordsというお店をやってるマブールさんにプサンを案内してもらったんですけど、彼に教えてもらったボルパルガンっていうアーティストはポンチャックにエレクトロを混ぜたようなことをやってて、すごくおもしろいんですよ。マブールさんにはプサンの山奥にポツンと立っているアナログ専門店に連れていってもらって、見たことない韓国の古いレコードをいろいろ買いました。プサンもカオスですね。
─ 最後に今後の予定を教えてください。
TUCKER:アルバムを作ったことで新しい曲が増えたので、ライブでこれらの曲をどうやって表現するかこれから考えていきたいですね。
動画リンク
TUCKER PLAYS 19 POST CARDS:TRAILER
TUCKER PLAYS 19 POST CARDS:TRAILER PART2
TUCKER OFFICIAL WEBSITE:tuckerweb.jp/
TUCKER OFFICIAL BLOG:tuckerofficialblog.blogspot.com/
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