面白さの連鎖、オオルタイチ

大阪をベースに活躍する音楽家、オオルタイチ ロングインタビュー

面白さの連鎖、オオルタイチ

破天荒かつポップなサウンドを打ち出し、ヨーロッパやアメリカでも高い評価を得ているオオルタイチ。2010年は自身が参加するウリチパン郡の活動休止を宣言した彼が、久々のニューアルバム『Cosmic Coco, Singing for a Billion Imu's Hearty Pi』をリリース。意外な音楽的ルーツから彼のアーティスティックな感性が炸裂した新作まで、約1時間に渡って話を訊いた。

現在のお住まいは大阪なんですよね?

オオルタイチ:そうです、大阪です。月1回ぐらいは東京に来てますが。

東京という町にはどんな印象を持ってます?

オオルタイチ:東京には何かを実現しようとしている人たちも多いし、エネルギーに溢れてるような気がします。大阪とは違うところもありますよね。

違うところとは?

オオルタイチ:なんやろ……大阪では音楽だけじゃお金にならないところもあるし、純粋に楽しむことに重点を置いてやってると思います。東京の場合は新しいことにも社会性が重要だと思うので、いい意味での緊張感もあるんですよね。

そういう大阪だからこそ、おもしろいものが生まれてくる?

オオルタイチ:そうですね。誰かがおもしろいことをやってたら、また別のおもしろいことをやろうとする人が出てくる。大阪はそういうところがあるかもしれませんね。

ところで、タイチさんが最初にハマった音楽はなんだったんですか。

オオルタイチ:小6ぐらいの時に長渕剛とかを聴きだしたんですけど、CDを意識的に買うようになったのは中学に入ってから。ユニコーンとか筋肉少女帯みたいな、当時のバンド系ですね。

そのころからバンドはやってたんですか。

オオルタイチ:いや、個人的にギターを弾いてたぐらいで、バンドはやってないです。高校のときにいろいろ突っ込んでCDを聴いたり、ライブに行くようになって、ハードロックとかメタル、オルタナを聴くようになって。ソニック・ユースとかを聴いていたら、日本のアンダーグラウンドとの繋がりが見えてきて、そこからボアダムスとかを聴くようになりました。

じゃあ、「音楽をやりたい」と思うようになったきっかけは?

オオルタイチ:創作意欲を刺激したのはエイフェックス・ツインですね。それまではあれこれ聴きながら模索してたんですけど、エイフェックス・ツインとドアーズを聴いたときに感じるものがあって。

でも、エイフェックス・ツインとドアーズじゃ全然タイプが違いますよね?

オオルタイチ:そうですよね(笑)。それまでは自分にフィットする音楽を探してたんですけど……具体的に何が共通していたのか、自分じゃ分からないですね。

音楽活動をはじめたのは1999年ぐらいからですよね。そのころはどんな感じでやってたんですか。

オオルタイチ:当時はテープのMTRぐらいしか機材を持ってなくて、コンパクト・エフェクターとかガラクタに近い楽器とかを使って多重録音してました。だから、打ち込みも全然やってなくて。打ち込みはダンスホール・レゲエを聴き始めてからやるようになりました。

そこがおもしろいですよね。エイフェックス・ツインからダンスホール・レゲエにいっちゃうっていうのが。

オオルタイチ:ダンスホール・レゲエがとにかく衝撃的だったんですよ。エイフェックスを聴いたあと、まだ手垢がついてない音楽を探してたんでしょうね。で、バングラ系のブームが一回あったじゃないですか?アパッチ・インディアンとか。当時は完全にブームも終わってたんで、レンタルCD屋にCDが大量に余ってて(笑)、試しに聴いてみたらすごくおもしろかったんですね。そこからシャインヘッドみたいなダンスホール・レゲエを聴くようになりました。そうしたら、ダンスホールのヘンな部分とノレる部分に一気に惹かれちゃって。ダンスホールのビートってとにかく強烈だし、普通の四つ打ちとは全然違うんですよね。踊らせるだけじゃなくて、もっと深いところを沸き上がらせてくれるようなところがある。サウンドクラッシュ(註:クルー同士がそれぞれの持ち楽曲で勝負するバトルの一種)とかすごいじゃないですか(笑)。もうノイズの世界というか。

確かに。MCがガーッと叫んでたりして、はじめて聴くと何が何だかわかんないですよね。

オオルタイチ:そうそう。エネルギーがハンパじゃないなと思って、そういうところにもハマりました。大阪でも南港っていう場所でサウンドシステム出してる人たちがいるんで、僕もたまに観に行っていました。

ちなみに、活動をはじめたころはどういう人たちと一緒にやっていたんですか。

オオルタイチ:今もときどき一緒になるんですけど、OVE-NAXXとかシャブシャブみたいな同世代とは当時からよく一緒にやっていましたね。

彼らとの共有意識みたいなものはあるんですか。

オオルタイチ:僕は大阪でも遊びにいかないほうなので分からないところもあるんですけど、おもしろいことをやろうっていう意識はみんな持ってますよね。どれだけおもしろいことをできるか。

で、先日リリースされたニューアルバム『Cosmic Coco, Singing for a Billion Imu's Hearty Pi』なんですけど、最初に言っちゃうと……めちゃくちゃ良かったです(笑)。

オオルタイチ:ありがとうございます(笑)。

リリース前、10年にはウリチパン郡の活動休止もありましたよね。

オオルタイチ:ただ、このアルバムも活動休止する前から作り始めてたし、僕自身、別のものとして作ってたんで。もちろんウリチパン郡をやってた影響がどこかで入ってるとは思いますけど。

じゃあ、アルバムの制作はいつごろからはじめたんですか。

オオルタイチ:このなかの2曲目(“Futurelina”)が一番古い曲なんですけど、確か2年ぐらい前からは作り始めてたと思います。そのころにニューヨークでライブをやる話がきて、それだったらって新しい曲を作りはじめて。それと、同じころにトクマル(シューゴ)くんのリミックスをやったんですけど、そのときにいい感触があったんですよ。ちょうど自分のなかのビート感が変わりつつあった時期で、タイトなビートが自分の好みになってたんです。

ダンスミュージック的な方向に気持ちが開いていった?

オオルタイチ:そうです、そうです。何か具体的なきっかけがあったわけじゃなかったんですけど、そういう表現が自分のなかからポロッと出てきたことがおもしろくて。ダンスミュージック的なものは以前から聴いてましたけど、自分が作ることになるとは思わなかった。

アルバム全体のカラーに関しては、何か具体的なイメージがあったんですか。

オオルタイチ:リズムだけじゃなくて、音の質感もキラキラしたものにしたくて。チリチリしてるというか、歪んでる感じ。それも前は意識したことのない感覚だったんですけど、今回は意識的に歪ませてます。

それも無意識のうちにそうなってた?

オオルタイチ:そうですね。

最近のライブも変わってきていますよね。よりダンスミュージック方向に突き進んでいるというか。

オオルタイチ:ライブが先かアルバムが先か分からないところもあるんですけど、ヨーロッパで連日ライブをやっているとテンションの振れ幅も大きくなってきて、そういう感覚を音に反映させているところがあるかもしれませんね。

ここ数年は海外でのライブも増えてきていますけど、その影響も大きそうですね。

オオルタイチ:うん、結構大きいですね。会場やイベントによって雰囲気は全然違うんですけど、アメリカはおもしろかった。お客さんはヨーロッパでもノッてくれるんですけど、アメリカのシーンはおもしろくて。なかでもロスで電子音楽をやっている人たちは、自分とも感覚が近い気がしました。

今回のアルバムでリミックスをやっているデイデラスとか?

オオルタイチ:そうですね。アメリカのほうが近い視線でやっている気がするんですよ。

デイデラスの他に、今回のアルバムにはゲストもいろいろ入っていますよね。リミックスを手掛けているEYEさんとか。

オオルタイチ:リミックスの候補は何人かいたんですけど、EYEさんとは大阪の雑誌で対談する機会があって、そのときに改めておもしろい人だなと思って。その流れで頼んだ感じですね。どんな上がりになるか想像つかなかったんですけど、さすがにおもしろい出来で。

ボーカルではOLAibiさん(OOIOOほか)も参加しています。

オオルタイチ:OLAibiさんの音楽はもともと好きだったのと、どこかで一緒にできないかと思っていたんですね。なにより声が印象的だったんで、1曲歌ってもらおうと。

それと、タブラでU-zhaanも参加していて。

オオルタイチ:この曲を作っている段階からタブラの音を入れたくて。そうしたらU-zhaanしかいないだろうと。別件で電話があったんで、いいタイミングだと思ってお願いしちゃいました(笑)。

それと、今回のジャケットは通常版と初回版2種類があるんですよね?初回版のほうは48ページの写真を使っているそうですけど……。

オオルタイチ:あ、見てもらったほうが早いかもしれませんね。……これが初回版なんですけど。

おお、凄いことになっていますね!

オオルタイチ:たけむら千夏さんっていう写真家に撮ってもらったんですけど、ほぼ写真集ですよね。もともとたけむらさんの写真が好きで、アルバムのときに何か撮ってほしかったんですよ。

(インナーを見ながら)このお婆さんはタイチさんのリアルお婆さん?

オオルタイチ:そうです、そうです(笑)。ワッと出たイメージをたけむらさんと話ながら膨らませたり、音を聴いてもらって膨らませてもらったり。広がりはいろんな方向にあったほうがいいと思って。

こういう時代だから、パッケージにするのであればこういう遊びがあったほうがいいですよね。

オオルタイチ:そう、逆にやりたくなりますよね。自分でもよく分からないままに音楽をやっているところがあるので、いろんな側面から光を当ててみたくなりますね。

……それにしても、この初回版はすごいな(笑)。

オオルタイチ:すごく大変な作業でしたが、それでもやりたくなっちゃうんですよね。


通常版


初回版


『Cosmic Coco, Singing for a Billion Imu's Hearty Pi』
通常盤2500円(税込み)
限定盤2500円(税込み)

※数量限定。店頭・物販・Oorutaichiオフィシャルサイト(www.okimirecords.com/)のみで取り扱い。

アルバムリリース記念ツアー「Oorutaichi, Singing for a Japanese Pi Tour」
日程:2月26日(土)
時間:18時00分オープン、19時00分スタート
会場:西麻布 SuperDeluxe
出演:with キセル, 康本雅子, DJ Shinco (スチャダラパー)
料金:前売り 2800円、当日 3300円
ウェブ:www.super-deluxe.com/2011/2/26/oorutaichi/

テキスト 大石始
※掲載されている情報は公開当時のものです。

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